オーバーロード ~堕ちし聖女と黒き騎士~   作:赤猫project

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第21話

<八本指拠点/屋敷の庭>

 

白金の騎士が空から降ってきた。金と蒼の装飾が闇夜に煌めく美しい剣を地面に突き立て、地面に倒れ見そうになった私を片腕で支えながら悪魔たちへ顔を向けている。竜?のヘルムで顔が隠れているため、どのような顔なのか、どのような表情をしているのかは分からないが、明確な殺意を相手に向けているのは確実だ。

 

「あなた…は?」

「……お名前を伺ってもよいかしら?そこの騎士さん」

 

私と近くにいた私と、マリーが同時に尋ねる。そのマリーの表情には私達との闘いでは見れなかった焦りの感情が少なからずにじみ出ていた。マリー達を軽く見た後私の顔をみる。何故かこちらの方を見るヘルムを見た瞬間、どくりと何かが体の奥底からわき始めようとしている。これは、何かの感情……か?

そんな私の事を見た後、優しく体の体勢を直してくれた。そして、地面に突き刺さった剣を引き抜き、話し始めた。

 

「私か。私はアルトリア、アダマンタイト級冒険者だ」

「(アルトリア…あの新参のアダマンタイト級冒険者チームの一つ、<聖光>のリーダー……!)」

「なるほど、貴方があの噂の……」

 

「いやはや、そのような大物が来られようとは…」

 

ギギギギ……と折れた樹を片腕で持ち上げ適当な場所に放り投げながら起き上がってくる一つの影。まるで何事も無かったかの様に思い切り蹴られた左腕をふらつかせながら歩いてくるのはカリオストロ。くの字型に折れ曲がり、肘からは多量の血と共に骨がむき出している。

それほどの重症でありながら、カリオストロは汗一つ垂らさず笑顔を崩さない。おもむろに折れた腕を振り遠心力の勢いをつけると、勢いよく本来あるべき場所に腕の位置を戻した。

バキリ、グシャリと明らかに痛みを伴うだろう音を鳴らしながらも顔は変わらない。それどころか、肘からの流血が徐々にゆっくりになりついには一滴も垂れなくなった。どういう魔法か、服に付着した血痕も薄く消えていく。明らかに先ほどの儀式で化け物へと落ちた証拠だろう。だが、イビルアイはその治癒力が気になったわけではない。相手が一瞬負った()()()に、注目していた。

 

「(ガガーランがあれほど殴っても大きな傷を負わなかったという化け物を蹴りの一発で……!)」

 

そう、ガガーランも多少攻撃を加えていた時があった。大抵の技は躱されていたが、それでも1~3回ほどは確実にガガーランの大槌を振り下ろし、カリオストロに命中させていた。それでもほぼ無傷に近かかった。それが……。

 

「(これが、<聖光>のリーダー……!)」

「あら、生きてたの」

「おやおや、相変わらず私には冷たいですなぁ。ハッハッハ」

 

まだまだ余裕そうな表情は崩れそうにない。それどころか、絶対的な強者がもう一人この場にいる。空中に留まり、我々の方を見下ろす仮面の悪魔。絶対的な恐怖の塊がそこに居る。その悪魔はアルトリアの乱入を楽しんでいる様で、先ほどの一瞬の闘いを見ていたヤツは乾いた拍手と向けていた。

 

「面白い乱入者ですね、二人共、まだ時間はありますが…少し興が乗りました。次は私がお相手いたしましょう」

「それは」

「「かしこまりました」」

 

マリーとカリオストロは、悪魔の言葉に耳を貸し静かに後方へと下がっていく。先ほどまで見せていなかった敵意を露わにしながら、地上に降り立っていく。

だが、その間アルトリアは敵への警戒をしておらず、近くに倒れているティアを見ていた。皮膚から裂け、出てきた無数の茨が血に染まり、苦悶の表情を見せながら小さく痙攣している。既に息が絶えている。蘇生魔法を使えば、彼女は再び生を取り戻す。だが、今この場でそれができる魔法をイビルアイは使えない。

アルトリアの方も、対処する術は無いのかその場で優しくティアの頭を撫でているだけだ。力を持たない自分が憎い、私がすぐにアイツらを逃がせてやれたら、奴らを倒せるだけの力が有ったら……後悔の念に心が染まっていく。

 

「……。」

「おや、私より死んだ人間の方が気になりますか?…もしや、お知り合いで」

「いや、知らない顔だ」

「もしお邪魔でしたら、その死体は消しておきましょうか。これから少し楽しめそうなのです、余計な懸念材料は排除した方がおたがい楽しめますでしょう」

「…悪魔らしい考えだな」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

ティアの遺体を端に寄せ、苦痛に歪んだ瞳を白騎士は優しく塞いだ。悪魔とのやり取りでは声は大きな感情の変化は見られない。だが、先ほどまでとは違う覇気とも呼べる気が、彼女の周りを包んでいる様に見えた。戦士職ではないイビルアイでも、彼女の変化に気付いた。空気が一層重くなってきたのを肌身で感じる。

 

静かに立ち上がり、両者円を描くようにゆっくりと近づいていく。悪魔は瘴気を纏わせた鋭利な黒爪を伸ばしながら、白竜の騎士は白金と金色の柄が煌めく剣を抜きながら、一歩一歩と確実に近づいていく。だが、互いに攻撃に移る様子は見られない。殺気が渦巻くこの戦場の中で、彼らは対話をしているのだ。

 

「貴様は何だ」

「自己紹介が遅れました、私はヤルダバオト。とある方に使える悪魔です」

「(ヤルダバオト……か)そうか、何故この地に現れた?」

「(感情に身を任せることなく、話をもって情報を引き出そうとしている。それに比べて、私は……)」

「あの人間達に呼ばれたのですよ。悪魔を召喚するアイテムを使われまして、私共の願望と、彼女らの目的は大きく似ていた…その為こうして共に行動している、ということになってますね」

「人間……人間なぞ、()()()居ないように見えるが」

「フフッ……えぇ、彼女達は一部契約を達成しました。その褒美をやらなければ契約は成立しません」

 

話合いながらも、歩みを止める事はない。一歩ずつ歩きまわりながら、話を続ける…のかと思われた。突如素早い動きで両者が間合いを詰め、目にも止まらぬ速さで斬り合い始めた。

 

その勢いはすさまじく、互いの刃と爪がぶつかり合い、金属音を響かせる。剣と爪が交錯するたびに空気が裂ける。火花が散り、地面には深い傷跡が刻まれていく。アルトリアは片腕で剣を振るうだけで、重さと鋭さを兼ね備えた一撃を放ち、ヤルダバオトは長く伸びた爪を自在に操り鋭い斬撃を繰り出す。

 

互いに本気を出していないはずなのに、その一合ごとに石畳が悲鳴を上げ、周囲の空気は緊張の熱を孕んで揺らめいた。二つの影が円を描き、刹那ごとに間合いを詰め合う。やや離れた位置に立つイビルアイは、その場に立ち尽くすしかなかった。目に映るのはただ力と力のぶつかり合い、息を飲む覇気に圧し潰され、声を上げるどころか呼吸すら忘れるほどに。

 

「…これが、聖光――」

「素晴らしい!これほどの剣士がまだこの世に残っていられたとは」

「世事は不要だ。いい加減本気を出したらどうだ」

「それはお互い様、という奴でしょう」

「それはそうだろう、客がまだ…残っているのだからな!」

 

石畳の広場に再び激しい衝撃音が轟き、アルトリアとヤルダバオトの斬り合いが頂点へと達しようとした刹那、空気を裂くように別の気配が割り込んだ。マリーが影のように飛び込み、剣戟の隙間を狙って腕に纏った黒き茨の剣を突き出す。その一閃は毒を孕んだ蛇の如く鋭く、イビルアイから見ると直撃すれば致命を免れぬ一撃だと思った。

 

だが彼女は僅かに剣筋をずらし、ヤルダバオトの爪を大きく仰け反らせて弾き飛ばす。その反動をそのまま活かし、身を翻すと回転する脚で茨の剣を弾き払い、重ねるようにもう片方の脚を横っ腹に叩き込んだ。

 

「ガフッ……!」

「っ――」

 

鈍い衝撃が響き、マリーの身体は宙を舞い、背後の屋敷へと叩きつけられる。石壁は容易く砕け、大穴からは濛々と土煙が立ち上った。それでも彼女の気配は消えていない。土煙の奥でまだ立ち上がろうとする影が見え、その存在が決して脆弱ではないことを告げていた。同様に、斬撃を強引に受け流されたヤルダバオトも一歩退き、その身のギアをもう数段上げた。

二者の強さが損なわれたわけではない。むしろ今の一瞬の攻防で、アルトリアが両者を同時に捌く胆力と力量を持つことが、より鮮明に刻み込まれた。広場にはまだ血の匂いと覇気が渦巻き、イビルアイの呼吸を奪うような緊張が続いていた。

 

「痛ッ…たいわねぇ!」

「なるほど、まだまだ余裕がおありの様子、でしたら」

 

そういいヤルダバオトが背中に黒鉄の翼を生やし飛び上がる。一定の高さまで上がると、翼に纏っていた鋼鉄の様な硬度を創造させる鱗の如き羽根がまるで、触手の様にしなやかに小刻みにうねり始める。そして――

 

「悪魔の諸相<触腕の翼>」

 

詠唱と共に翼を振るう。触手の如き羽根はまるで射出されたかのように高速で飛んでくる。それも身体を回転させながら、無差別に四方八方へと。

 

「……っ!しまっ――」

 

イビルアイには障壁を作るタイプの魔法を使える程の魔力は残っておらず、たとえ他の魔法で応戦しようとも、魔法で構成された水晶など、あの羽根の前では意味をなさない事は明白だった。自身に残された術は、ただ身の屈め、命を落とさぬ幸運を祈る事だけ。

 

だが、イビルアイはまだ彼女の力を未だ過小評価していた事を悟る。瞬時に自身に向かって飛んでいく羽根を見切り、躱しながらイビルアイを抱きかかえ、彼女を庇ったのだ。

それだけではない、未だに降り注ぐ羽根の雨をアルトリアは剣を素早く振るい、迫ってきた羽根を全て叩き斬ったのだ。

 

「問題ないか」

 

あれだけの速度でイビルアイを助け、そのまま悪魔の攻撃を凌いだのにも関わらず、息一つ切れることなく平常の声色であった。

 

「ひゃ、ひゃい…!」

 

自身が助けられた事実と片手で姫様抱っこの様な体制で救われた事実で、声がうらがえりそうになる。恥ずかしさと動揺で感情の整理がつかないが、よく見ると兜に1つ触手が突き刺さり、うねっていた。おそらく、私を助ける際に回避が疎かになった際に受けた攻撃だろう。

 

「あぁ!か、兜に…大丈夫ですか!?」

「問題ない。それよりも、貴方の方が無事で安心しました」

 

ヤルダバオトの時とは違い、優しい声色で返してくれる。自身の中に流れている血が、肌が、頭が熱くなっていく。止まったハズの心臓がドクン、ドクンと素早く鼓動していく錯覚を感じる。

まるで仮面から火が出ているのかと思う程に熱を覚え、すぐにでもこの状況を何とかしたいと思ってしまう。

 

「お見事です。彼女を無傷で守り切るとは。このヤルダバオト、心より賞賛を送りたいと思っております。本当にお見事にございます」

「…本当に世辞が好きな様だな。ヤルダバオト」

「えぇ、時間は稼いだ時にはもう…終わってますので」

 

会話を交えるという一瞬の隙は、相手に魔法を使わせる余裕を作らせた。カリオストロがいつの間にか杖を地面に突き立て魔法を発動していた。二人の足元に大型の魔法陣が展開され光が漏れ出し、徐々に強くなっていく。

急ぎ離れようとしたが、魔法陣を囲う様に黒の茨が包み込み壁を創り出す。恨みを孕んだ黒い瞳孔をこちらに向けながら片手で魔法を放っているマリーの姿が目に入る。肉体的なダメージは既に治りかけている様だが、内面的に溜まっているダメージがかなりある様子、顔には先ほどまでの余裕そうな表情は見えない。

 

「この場で倒すのは難しいようですから、少し離れて見ていただきましょう。我々がこの地でなす事を」

「貴様ら、何をするつもりだ!」

「簡単な事よ、この地に地獄を再現するの」

「かつて我々が受けたこの国からの苦痛、それを地獄の再現をもって報復となす…」

「地獄の業火で包まれる光景を()()()から見ていてください」

「(空の上から……成程、この魔法は)」

「貴様ら、何を――」

 

問いただす時間は無かった。発光した魔法陣の輝きは限界点に達していた。もう魔法の発動を止められる術はない。

 

「では、またお会いしましょう……偉大なる騎士様」

「まて、まてぇぇぇぇぇえ‼」

 

<天上へ続く地獄からの道標(ロード・オブ=ヘブン/ヘル)

 

魔法が発動し極光が全てを包んだ。天井へ続くヤコブの梯子が暗夜に包まれた王国から空へ伸びていく。曇天の夜模様だった王国の雲は晴れていき、星々輝く夜空が浮かび上がった。その光景は王国に住む民達、暗躍する魔の者達、秩序を手に入れる為奔走する者……全員の目に留まった。

 

「あの光……あの方角は、ラキュース達の!」

「なんだ、ありゃあ……?」

「この魔法は、あのお方の――」

「いよいよ…始まるのですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永劫の地獄/ゲヘナ黄泉の塚/シュオルが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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