まんまる虹の森   作:NiOさん

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食いしん坊のヘビ

 遠くで血を吹き出しながら倒れるクマと、強引に首筋から叩き落とされたキツネをみて、ヘビはニヤリと笑いました。

 

 森の中にいた100匹の動物達は1匹消え、2匹消え。

 

 いつの間にか残っているのは、満身創痍なキツネと、死ぬことがほとんど確定しているコマドリにクマ。

 

 そしてほとんど無傷のヘビ、合計4匹のみとなっていました。

 

 ヘビは勝利をほぼ確信しながら、キツネの背後へと音もなく忍び寄り、右後ろ脚の付け根辺りに牙を突き立て毒を注入すると、すぐさまキツネの攻撃範囲外へ離れました。

 

(よし、致死量とはいかないまでも、運動能力を奪う程度には毒を注入出来たぜ)

 

 ヘビは笑みを浮かべますが。

 

 キツネはまるで噛まれたことに気づいてないように、ヘビから背を向けたままです。

 

 

(……? なんだコイツ?)

 

 

 ヘビはゆっくりとキツネの正面へと回り込みました。

 

 

「……~♪……」

 

「うん、うん。

 

 大丈夫ですからね、コマドリさん」

 

 キツネは、死にかけているコマドリを、優しく労わるように、舌で舐め続けていました。

 

 

「……~♪……」

 

「あははは。

 

 僕の心配は良いですから、もっと自分の心配をしてくださいよ、コマドリさん」

 

 キツネがヘビに気付いていないことなんて、あり得ないでしょう。

 

 けれども、どうやらキツネは。

 

 死に行くコマドリを(・・・・・・・・・)静かに見送るために(・・・・・・・・・)自分の体をヘビに(・・・・・・・・)差し出すという選択肢(・・・・・・・・・・)を取ったようでした。

 

(それなら、遠慮はいらねえな) 

 

 ヘビは再度キツネの背後に回り込み、左足の付け根に噛み付きました。

 

 キツネは相変わらず無抵抗でその牙を受け入れます。

 

 致死量の毒を十二分に打ち込んだと確信したヘビはキツネに背を向け、念のため少し離れたクマが死んでいることを確認しに行くことにしました。

 

「……ククク、クマの野郎、まんまとぶっ殺されやがったなぁ」

 

 クマの息の根が止まっていることを確認したヘビは、背後の気配に対して声をかけます。

 

「おっと、そっちのコマドリも、おっ()んだか?」

 

「……クマさんを唆したのは、やはり貴方だったんですね」

 

 ヘビが振り返るとそこには。

 

 背中に息絶えたコマドリを乗せる、キツネがいました。

 

「簡単だったぜ~。

 

 平和ボケしているクマの足首に噛み付いてやってよ。

 

 『毒を無効化するだけの栄養を摂らないと、数時間で死ぬ』なんて適当なこと言ったら、アイツアホで弱虫だから、速攻で信じてやんの」

 

「そうですか……おめでとうございます、『森のゲーム大会』はどうやら貴方の優勝で決まりですね。

 

 私ももう、貴方の毒のせいか、目の前が朦朧としてきました……少し、座らせて貰いますよ」

 

 勝ち誇るヘビを前に、キツネは静かに膝を折りました。

 

「……ああ……ところで……貴方は、分かりましたか……?

 

 ……例の……神様の、なぞなぞ……。

 

 私は、全然、解らなくて……。

 

 3匹のヘビ、云々……」

 

「ああ、『お皿の上の(・・・・・)3匹のヘビ(・・・・・)。 な~んだ(・・・・)?』だっけか?

 

 俺からしたら、簡単な問題だったぜ」

 

 ヘビは饒舌に語り始めます。

 

「ところでよぉ、『逆さ虹』もそうだけど。

 

 なんで『虹』に『虫偏』が付いているか知ってるか?

 

 虹って、別に、昆虫になんて見えないのによぉ。

 

 ……ま、実は、『虫偏』ってのは、昆虫とは、無関係なんだ。

 

 マムシやヘビを(・・・・・・)表しているんだとさ(・・・・・・・・・)

 

 そういわれてみりゃあ虹って、ヘビにも見えるからなぁ、ククク!」

 

「……それが……一体……」

 

「『お皿の上の(・・・・・)3匹のヘビ(・・・・・)

 

 ほら、漢字で書いてみろよ。

 

 『皿の上に(・・・・)3つの(・・・)(ヘビ)』を、よ」

 

 

 

 キツネは、回らなくなっている頭で必死に考え、気が付きました。

 

 

 

 

 

 

 それは……。

 

 

 

 

 

 『  ()  』

 

 

 

 

 意味は、『まじないに使う虫、若しくは人を害する呪いや毒薬』。

 

 

 

 

「そう、『蠱』、なのさ。

 

 この、『逆さ虹の森』に突っ込まれた100匹の動物たちの『椅子取りゲーム』みたいな『ゲーム大会』ってのは。

 

 

 

 

 要は(・・)、『蠱毒(・・)だった(・・・)ってわけだ(・・・・・)!」

 

 蠱毒(・・)

 

 それは、動物を使った呪術の一種。

 

 100種類の毒虫を同じ容器に入れて、放置しておくと。

 

 毒虫たちは互いに共食い(・・・)し、勝ち残ったものが『蠱毒』となって、呪術が完了する、というものです。

 

 

 ヘビは、嬉しそうに言葉を続けました。

 

 

「……蠱毒で生き残ったヤツの使い道ってのは、それこそ色々あるんだけどな。

 

 飼ったり、祭ったり、殺したり、食わせたり。

 

 そのうちのどれに俺がなるかまでは分からねぇが。

 

 まぁ、それでも、これだけ大掛かりな蠱毒だ。

 

 優勝者である俺を殺すような使い道は、多分しないと思うぜ。

 

 予想では、神様の使いになる、とか、森の守り神になる、とか、だと思ってるけどよ」

 

「ふ、ふ、フフフ……」

 

 キツネは既に座り続けることもできず、地面に横たわりながらも、何故か笑いながらヘビの言葉を聞いていました。

 

「……ん、なんだ?

 

 ついに頭にまで毒が回ってきたか?」

 

「ふ、フフフ……違いますよ……。

 

 わかったんです(・・・・・・・)蠱毒の勝者が(・・・・・・)どうなるかが(・・・・・・)()

 

「……は?」

 

 ヘビはキツネから距離を置いたまま、思わず声を上げました。

 

「ふ、フフフ。

 

 なあんだ(・・・・)勝者は(・・・)ああなるんですか(・・・・・・・・)

 

 キツネは、そう言って、少し笑った後。

 

 コマドリを抱きかかえるようにして(うずくま)り。

 

 そのまま動かなく、なりました。

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