下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
試してみるか?俺だって元厩務員だ。
活動報告でいただいた話を書かせていただきました。
注意点
書いてて殺意で発狂しそうになったぐらいにはトレーナーくんがサッパリしています。
テイオーはへにゃへにゃに曇り湿ります。
トレセン学園は人手不足だ。
そのため複数のウマ娘でチームを組んでトレーナーが指示を出す方式が採用されている。
こちとら受かったばかりの新参者もいいところだというのに、トウカイテイオー以外のウマ娘の面倒も見なければいけなくなった。
「慣れさせる」為か、しばらくはテイオーにマンツーマンで指導していられたのだがチームを組まざるを得なくなって俺は困惑した。
というか1人で全力全開手一杯だったのに他のウマ娘も担当出来るのかとドギマギしていたのだが、やはり人間慣れということか意外と上手くやれていた。
色んなウマ娘と共に練習することでトレーニングの質も高まりテイオーのストレスも緩和するなど、わりとチームを組むメリットがあるにはあった。
激務なことに変わりはないのだが。
それにテイオーとの時間が減ることになったとしても他ウマ娘と上手いことどうにかこうにかなれるのではないかと、それはもうみっともなく沸き立っていた。
撃沈した。
みんなしてめっちゃくちゃいい子なんだ。
そりゃあ一癖も二癖もある子も中にはいるが、根っこの部分はみんなメッタクソにいい子なんだ。
これがテイオー1人だけだってんなら良心の呵責にも耐えられたのかも分からんが、例えるなら誘蛾灯に引き寄せられる害虫みたいなイカレポンチ野郎の俺には
そんなことがあって俺は1人ウジウジ自己嫌悪に陥った。
無茶しまくったり呪詛を吐いたりとにかく自分を責めまくって、みんなにも心配かけて迷惑かけてようやく悟ることが出来た。
自嘲する自分に酔い飽きたとも言える。
そして俺は風凪の提灯のようなペラッペラの欲望を封殺し、ウマ娘の為に全身全霊を尽くすことを誓った。
しかしそれからというもの俺は自分自身に殺意を抱くようになってしまった。
正直に言ってしまうと今すぐにでも薄汚いこの命を叩き潰してやりたいものだが、俺にはチームを育てる責任がある。
最終的に 後悔するのも懺悔するのも地獄の剃刀林の中でしろと自分に言い聞かせることでなんとか堪えることができた。
楽しい。
夢ができて、夢に向かってトレーニングを重ねる。
そんな毎日が楽しい。
トレーナーが付きっきりで指導してくれていた時も、みんなと一緒に走る今も楽しいと思えている。
トレーナーが前みたいにボクだけを見るコトは無くなった。
一時期は やけに苦しそうだったけれど、今は元気にボク達を指導している。
特に大きな悩みも無かった。
毎日充実しているんだ。
…おかしいな。
どこかがモヤモヤしている。
何か足りないような、そんな感覚がする。
楽しいんだ。
間違いないハズなのに、ボクのどこかが欠けているような気がしている。
気のせいだよ。
いつもみたいにご飯を食べて、ゆっくり眠って、また走ればそんな気はしなくなるって。
トレーナーもいるんだから。
なんで今、頭の中にトレーナーが出てきたんだろう。
モヤモヤはいつまで経っても収まらなかった。
どれだけ走っても拭えないソレが次第にイヤになってきた。
1つだけわかったのは、あのヒトが他の誰かと話したり笑いあったりしているとモヤモヤが強くなるってコトだった。
どうしてあのヒトなんだろう。
でも
トレーナーもトレーナーだよ。
ボクのトレーナーなのに、ボクだけを見てくれるっていう約束なのに──────────あれ?
───何を考えているんだろう?
チームなんだから、ボク以外のウマ娘に付くのだって当たり前だしそもそも最初からそんなのわかりきっていたんだ。
でも霧は晴れてくれないままだ。
誰に相談すればいいんだろう。
こんなコトを誰かに言えるわけない。
ボクだって自分のトレーナーが同じチームのウマ娘と話しているのを見るとモヤモヤするなんて相談されたらわけがわからなくなってしまうと思う。
カイチョーにコレを打ち明けてしまったら、友達に打ち明けてしまったら、もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。
だから言い出せなかった。
トレーナーならこの曇り空みたいな悩みもどうにかしてくれるんじゃないかと思うけど、
トレーナーには1番言いたくなかった。
時間が流れても解決なんてしなかった。
我慢し続けていく内に耐えきれなくなって、ボク自身でももう自分がわからなくなってきてしまった。
トレーナーもみんなもボクを心配してくれているのに霧は深くなる一方だった。
トレーナーがボク以外のウマ娘を見ていると胸をキュッと締め付けられるような感覚がする。
──ボクだけを見てよ。ボクのトレーナーでしょ。
頭の中がゴチャゴチャする。
どんどん自分勝手に心が黒ずんでいく。
もしもあのヒトがボクをウマ娘としてではなくもっと別のナニカとして接してくれたのなら。
ワガママで甘い妄想に囚われてしまっている。
──だってあのヒトはボクをあんなに見ていたじゃないか。
ボクはあのヒトにどうして欲しいのか、ボクはあのヒトをどうしたいのか。
肝心なコトは何1つとしてわからない。
ただあのヒトしか考えられなかった。
ごめんなさい。
ボクだけが悪いウマ娘なんだ。
わかってるよ。
みんなは真面目に走っているのに、ボクは1人でずっと足踏みをしてるだけなんだって。
みんなあのヒトをただのトレーナーとしか見ていないのも知ってる。
本当にごめんなさい。
みんな大好きだけど、羨ましくてたまらない。
今のグズグズになってしまったボクとは違ってあのヒトと気楽に話せるのが労わってもらえるのが見てもらえているのが羨ましくて頭がおかしくなりそうなんだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。
あの時に戻りたい。
トレーナーがボクだけを心配して指導してボクだけに話して笑って苦しんで見て傷ついて考えてくれたあの時に戻りたいんだ。
チームのみんなは大好きだけど、それよりもトレーナーに見てほしいんだ。
おかしいよ。
いつからこんな酷いウマ娘になっちゃったんだろう。
あのヒトと1対1だった時は何も心配しなくてよかった。
今まであんなに誰かが熱心に付き添ってくれた思い出なんて無かったから、芽生えだした気持ちを感じとるコトすら出来なかったんだ。
わからなかったんだよ。今もわからない。
トレーナーが気づいてくれたらいいのに。
自分からは言い出せないのに気づいてほしいだなんて、やっぱりボクは酷いウマ娘だ。
トレーナーに呼び出された。
最近ずっとボクはおかしかったから、 相談に乗ろうとしてトレーナーはボクを呼び出したんだ。
今だけはこのヒトはボクだけを心配してくれている。
勝手に湧いてきた考えだ。
でもそれは間違いなくボクの思いなんだ。
このヒトはボクを真剣に心配しているのに、ボクは────
何度も堪えて溜めてきていた感情が爆発してしまった。
ボクの黒い心情を1つ残らずぶつけてしまった。
嫌われてしまう。
こんなボクをトレーナーが受け入れてくれるわけがないって思ってもう何も見えなかった。
「俺はさ──」
思えばそれはトレーナーが初めてボクだけに見せた弱みだったのかもしれない。
なんでもいい。
もう我慢しなくていいんだ。
ありったけの気持ちを受け止めてくれるんだ。
上手く言葉にできないけれど、仕事とか関係なしにあのヒトはボクだけを想ってくれるんだ。
だからもういいんだ。
トウカイテイオーが心配だった。
ここのところ彼女の笑顔を見ていない気がする。
チームの子も塞ぎ込んだ様子のテイオーを心配していた。
同じウマ娘にも話せない悩みなのだから俺のような男が介入していい問題じゃないと陰で様子を見ていたが、日に日に暗くなっていく彼女を見て急遽面と向かって話し合う事にした。
中等部の彼女にはヒトに言えない苦悩がたくさんあるんだと思う。
ひょっとしたらこれで更に悪化してしまうのかもしれない。
それでも俺はウマ娘とトウカイテイオーの力になりたかった。
「…」
テイオーは黙りこくっている。
だからといって無理やり聞き出そうとはしない。
彼女が話してくれるまで何時間でも待つつもりだった。
「…っ」
下を向いて息を荒らげ始めた。
過呼吸を起こしている。
急いでビニール袋を持ってこようとして──服の裾を掴まれて引き戻される。
「ボクをっ…、置いてかないでよ…っ」
激しさを増す呼吸の合間を縫って必死に言葉を紡いでいる。
彼女の小さな背中をさすりながら暗雲が立ち込めるような嫌な気配に襲われた。
確か前にもこんなことがあったような気がする。
初めて敗北を味わった彼女と話したあの海辺の公園。
くだらない欲望に染まっていたあの時とそっくりなんだ。
耳鳴りがする。喉がカラカラに乾いている。
呼吸が上手く出来ない。動悸がする。
どうか
彼女の告白を1字1句聞き逃しはしなかった。
つっかえながらもそれは止まらなかった。
多分、これから先の人生でもこれまでの人生でも今日ほど
担当ウマ娘のコンディションには気を遣っているつもりだ。
トウカイテイオーの精神状態が近頃不安定だったことは知っている。
その理由と元凶がいつまで経っても掴めなかったのは──────俺が俺を認めなかったからか。
彼女から好意を向けられる自分を認められなかったんだ。
ひたすらに己を憎むことしか出来なかった結果、俺が彼女を追い詰めていたんだ。
心の底から絶望した。
嬉しくないわけがない。
この世で1番大好きなウマ娘に思いを寄せられて心躍らないわけがない。
なるべくえこひいきしないよう心がけていたが俺はいつだってテイオーを気遣っていたし、元々彼女目当てでトレーナーをやってきていたんだ。
それは今も変わりない。
俺はベテランのトレーナーと比べるとガキもいいところだ。
しかし中等部の彼女に恋慕の情を抱ける程若くなければ今更そういう対象として見ることも出来ない。
それでも俺にとってはトウカイテイオーが何よりも大事なんだ。
そんな自分に反吐が出る。虫唾が走る。本っ当に気持ち悪い。今すぐにでもくたばってくれ。
こんなさもしいクズ以下の畜生に惹かれないでほしかった。
誰よりも大事に思うからこそ彼女の隣にいるのは俺でいてほしくない。
まっすぐで純粋で強かったテイオーは、心を軋ませ続けて彼女自身でも知らず知らずのうちに折れてしまっていたんだ。
それでも打ち明けられず1人耐え続けた結果こんなにも脆く不安定になってしまった。
俺しか見れなかった俺に、俺を見れない俺に変えられてしまった。
いくら心を入れ替えようとも罪に溺れている俺には彼女を堕とすような、そんな腐れた生き方しかできないのか。
くぐもった駆動音のようなものが聞こえる。
それが自分の喉から発せられていると理解するのにそこまで時間はかからなかった。
テイオーが潤んだ瞳で此方を見据えていることにも。
「俺はさ…」
漏れ出た言葉は溜息に似ていた。
「俺はいらない人間になりたかったんだよ。自分が死んでいいって思える理由が欲しかったんだ。俺は……お前が思っている以上にどうしようもない男だから。でも俺はもうトレーナーになっちまったから…だからせめてみんなの為にいくらでも頑張ろうって思っていたんだ。…お前をこんな風にしてしまうって分かってたら、トレーナーなんてすぐに辞めていたんだけどな」
自分がどれだけ悪辣で醜い人間かを洗いざらいぶちまけてしまおうかと思っていた。彼女に憎まれたかった。
強くまっすぐ生きていたテイオーとねじ曲がった生き方しかできない俺は不釣り合いにも程がある。
器が違う。
「あは、は…。そう、だよね。ボクは、もう、ダメなんだ…。やっぱり、こんなボクはイヤ…だよね」
くしゃくしゃに泣き腫らした光の無い目で力無く笑っているテイオー。
俺は何をやっているんだ?
犯した罪に浸って好意を向けられた自分すらも憎んで。
今になって全部打ち明けて、彼女がいつものように笑ってくれると本気で思っているのか?
いつまで自分の為に自分を責めてるんだよ。
その瞬間にようやく本当の意味で俺を殺せた気がした。
「テイオー」
「わかってたよ…トレーナーは、ボクを嫌いになるって、わかって──「テイオー」
視線を強引に噛み合せる。
気持ち悪い。この男を地獄に落としてやりたい。
そんな殺意は些細なものだ。
彼女の為に己を全うするのに比べれば、そんな自己嫌悪なんてゴミ屑のような小さなものだ。
「俺は…自分が嫌いだったんだ。でも、俺がトレーナーでいられたのはお前がいてくれたおかげなんだよ。だから俺にとってお前が何よりも大事で───俺は、お前が、トウカイテイオーが、初めて会った時から大好きだったんだ」
「え…?」
唾棄すべき最低最悪の嘘だ。
もしも俺が全て暴露したら彼女はどう思うだろうか。
悩んで困り果てて──きっと最終的には俺を受け入れてしまうだろう。
生まれて初めて誰かの為に嘘をついた。
「ほんとう…?」
「本当だ」
「ボクをきらいにならない…?」
「絶対に見捨てないし嫌いになんてならない。ずっとお前を好きでいる。絶対だ」
くたばれクソ野郎。吐き気がする。
彼女だけには、もう何があっても自分を否定させたくない。
ありとあらゆる負の感情を感じさせたくない。
それは俺の役目だ。日陰者になるのも苦しむのも俺だけでいい。
「ありがとうな。お前のおかげで
「でも…ボク…」
「テイオー。今まで本っ当によく頑張ってくれたな。ありがとう。もう、いいんだ。もう自分の為だけに走っていいんだ。俺の全部をお前のものにしていいから。お前だけのトレーナーでいるから」
俺は内側に蔓延っていた一切の怨嗟、一切の楽欲、一切の心業を鏖殺し、噛み砕き、抹消することを決意した。
トウカイテイオーだけのトレーナーになると言っても他のウマ娘もいる。
テイオーだけを見ることは不可能だ。
迷って悩んで、たった1つの答えを導き出した。
数年後の未来に退職届の提出を予約した。
それを彼女への想いの証明にしながら。
掴まれた裾はとっくにシワになっていた。
トウカイテイオーの内側には何の曇りも無かった。
数日前までの彼女が嘘のように、毎日同じチームの仲間と共にトレーニングに勤しみ笑いあっている。
しかし彼女等はトウカイテイオーが自分達のトレーナーにどれほど捻れた想いを寄せているのかを知らない。
鬱屈し曲がりくねったそれは好意などという生優しいものではなかった。
それは元通りになりはしない。
だからといってその想いが誰かを不幸にすることは断じてない。
少なくとも誰かがそれを知り得ることはなく、彼はその全てを受け入れ、当人は幸せなのだから。
必然的に彼の瞳の奥で揺らめいでいる激情も瞋恚の炎も知られることはない。
ほんの少しおかしいのかもしれないが、これもまた1つの指導者としての形なのかもしれない。
トレーナーとは皆すべからくウマ娘の為に在るべきなのだから。
トウカイテイオーは来るべき皇帝との決戦の日を、1着を勝ち取る喜びを、いつか訪れる卒業の日を待ち遠しにしながら今日も走る。
彼はウマ娘達を支えながら、寿ぎながら、助けながら、己の全てを否定しながら、偽りながら、呪いながら、左手の薬指に刻まれた消えない契りを噛み締めて
彩雲で飾られた空の下を走るトウカイテイオーを 今日も見ている。
認めるよ、トレーナー
俺はハッピーエンドしか書けないんだ
俺はオマエを否定したかった
オマエのうまぴょいなんて知らねぇよって
今は違う
ただハッピーエンドにして殺す
またうまぴょいしようとして生まれたらソイツも殺す
改心しても自己嫌悪しても何度でも殺す
もう意味も理由もいらない
この行いに意味が生まれるのは俺がエタって何百年も経った後なのかもしれない
きっと俺は大きな、何かの歯車の一つにすぎないんだと思う
錆び付くまでラブアンドピースで殺し続ける
それがこの話の、俺の役割なんだ
何話が1番よかったっスか…?
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