下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
カレーの中のジャガイモみたいな仕上がりを目指した話です。
残酷な描写と曇る描写が(ry
トレーナーになりたいと、生気に満ち溢れていたガキの頃の俺は漠然とした夢を掲げていた。
親戚に連れられて行ったレース場の観客席から見かけたウマ娘の走る姿。
彼女達と関わりたいとなんとなく、しかし固い意思で俺はそれを目指した。
両親は応援してくれた。
息子が
喜んでいる2人を見て、どこかに棘が引っかかったような感覚がした。
俺は何かに取り憑かれたかのように勉強に励んだ。
ウマ娘のことを考えると高鳴り出す心臓を動力源にしてひたすらトレーナーになることだけを意識した。
自分が何故ここまで必死になれているのかと不思議に思う。
ただなりたい。
それだけを念頭に置いて休むことも遊ぶことも自分探しも投げ捨てた青春時代。
夢と騙るには汚れすぎていたんだと気づくのはまだまだ先の話だった。
晴れてトレーナーとなった俺は担当するウマ娘をスカウトしていた。
探し疲れて海辺の公園で休んでいると1人のウマ娘に出会った。
トウカイテイオー。
彼女を一目見て、
──なにがなんでもこの子のトレーナーになりたい。
そう思った。
彼女を選んだ理由については上手く説明出来ない。
他の子と比べてもかなり恵まれた身体能力を有していることは看破していたが、それだけでここまで興味が湧くだろうか。
将来有望なウマ娘は新米の未熟なトレーナーにはあまり付かせるべきではない。
悪い言い方をしてしまえば才能をドブに捨ててしまう恐れがあるからだ。
別に俺は誰でもいいと思っていた。
才能があろうが無かろうがどんな子だろうが全力で忠を尽くすつもりだったんだ。
自分は彼女に相応しくないと理解しながらも俺の体は勝手に口走っていた。
「俺ならお前を最強のウマ娘にしてやれる」
彼女は中等部の子供らしいウマ娘だった。
意地でも担当になりたかった俺は誘うような一言で子供っぽいテイオーが俺という人間に興味を持つように仕向けた。
トウカイテイオーの担当になりたいという願いは簡単に叶った。
…トレーナーって変わったヒトが多いのかな。
「最強のウマ娘」って言葉に惹かれてあのヒトに担当になってもらったけど、ちょっとおかしいというかなんというか…。
いつ休んでるんだろうと心配になるぐらい毎日動き回ってるのにトレーニングの時はボクに付きっきりなんだ。
…少し引きそうなぐらいに。
同じ部屋のマヤノに色々聞いてみて、やっぱりボクのトレーナーは他のヒトと比べて異常なのかなって…思う。
こんな感じで最初は不安だったけど、トレーナーは基本的にボクがどんなウマ娘でどこまで頑張れるかを知ろうとしてくれているってコトがわかってきて、ボクも徐々に実力を発揮できるようになってきたから…うん。
ちょっとおかしくても熱心なヒトなんだなーっていうのが伝わってきた。
でもボクは強いから、そんなに頑張りすぎなくてもいいんだけどな…。
「今日はもう終わりにしよう」
「え…?ボクまだまだやれるけど…」
カイチョーに勝つのは簡単じゃない。
ボクの憧れから目標になったカイチョーに勝つ為には普通のトレーニングじゃ足りない。
「今日の分の練習メニューは終わった。これ以上はオーバーワークになってしまうぞ」
「ボクが大丈夫って言うんだから大丈夫だよ!それにカイチョーならもっと…」
焦ってた。
勝ちたい思いだけが先走って無意識のうちに疲れていないフリをしていたんだ。
走ってないと落ち着かなかった。
トレーナーのコトも、完全には信用してなかったんだ。
「お前はシンボリルドルフじゃない。お前は、トウカイテイオーっていうただ1人だけのウマ娘なんだ。彼女になる必要なんてない」
「そんなこと言ったってこのままじゃ勝てないよ…!トレーナーだってカイチョーがどれだけ強いか知ってるでしょ────だからもっと練習しなきゃ…!」
「今のままでいればいい。この状態をキープして毎日トレーニングすれば勝てないレースなんてない」
まるでボクが必ず勝つと確信してるような口振りだった。
「…なんでそう言えるの」
「トウカイテイオーを信じているからだ。このウマ娘は『皇帝』すらも超えられる逸材だと思った。少なくとも俺はトウカイテイオーが1番速くて1番愛されるウマ娘になれると思ってる。…お前の気持ちは分からなくもないよ。それでもお前が俺を信じてくれるなら俺は絶対に勝たせてみせる。だから俺を信じてくれ。俺はお前のトレーナーなんだ」
ボクのトレーナーは何かの劇で聞くような、そんなセリフを大真面目に言ってくるヒトだった。
その言葉が本当だったんだっていうのはレース場でわかった。
トレーナーの指示に従ってる限りはどんなレースでも負けなかった。
「よし、今日はちょっくら羽を伸ばすか」
「へ?」
ボクがなんとなくやる気を出せていないのを察したのかトレーナーはいきなり一緒に出かけようと言ってきた。
あまりにも唐突だったからその時はわけがわからなかったけど、結果としてまたトレーニングに集中できるようになった。
今でも思い出すと笑ってしまいそうな程にトレーナーはビクビクしていた。
どこかに行くのに全く慣れていないのかいつもと全然違う様子でキョロキョロと辺りを見回すトレーナーが新鮮で
「自分から誘っといてアレだけどこんなのは初めてだな…」
「まさかとは思うけど…トレーナーって遊びに行ったコトなかったの?」
冗談半分で聞いた質問だったのにトレーナーは指先で頬をポリポリ掻きながら答えた。
「うーん…いっつもトレセン学園試験の為の勉強しかしてなかったからなぁ…。──でもまあ、たまにはこういうのもいいかもな。…その、ありがとなテイオー。お前のおかげだよ」
「ど、どういたしまして?」
確かにトレーナーはおかしなヒトだけど、ボクは嫌いじゃなかった。
前から足に違和感を感じていた。
痛みだした足に気づかないフリをして走っているボクに気づけないトレーナーじゃなかった。
「テイオー、お前「なんでもないから」
もし走れなくなってしまったら。
放っておいたら悪化するだけなんてわかってる。
消えない不安に付き纏われていた。
もしかしたら全部が気のせいで1晩経てば違和感も痛みも無くなるのかもしれないと、ありえるハズがない幻を言い訳にして不安と恐怖から逃げていた。
「なんでもないわけないだろう。まさか、お前足が「ほっといてよ!」
トレーナーからも逃げていた。
「テイオー」
トレーナーの顔は怖くなんてなかったのに、正面から視線をぶつけられて「無敵のテイオー様」でいられなくなってしまった。
ボクは弱い。
結局トレーナーがいないとボクはいつまでもカイチョーに勝とうと思えなくて、どんなトレーニングをすればいいのかもわからなくて、走れはしなかった。
1人でどうにだってできると自惚れてたボクをトレーナーは支えようとしていたんだって、その時はまだ気づかないフリをしていた。
それからのコトは思い出したくもない。
走れないボクを誰も見てくれなくなる。
本当に怖かった。
夢を絶たれる気がして当たり前のように貰っていた応援も歓声も注目も離れていってしまうと思ってウマ娘「トウカイテイオー」でいられなくなってしまいそうで気が気じゃなかった。
ボクがよすがにできたのはトレーナーだけだった。
錯乱状態になりかけてたボクを落ち着くまでなだめてくれたのに、行き場のない怒りをトレーナーで発散しようとしてしまった。
「ボクのコトなんて何もわかんないくせに!トレーナーだってどうせボクが走れなくなったらボクから離れていくんだ…!────ぁ」
吐き出してから自分が最低な言葉を投げかけていると気づく。
謝りたいのに自分のコトしか考えられなくてただトレーナーに黙って縋って泣くだけだった。
「大丈夫だ」
根拠の無いそれがやけに温かかった。
「俺が全部なんとかする。心配しなくていい。俺は、お前のトレーナーだから。ありがとう───っ?──いや、俺が、俺がお前をもう1度走れるようにしてみせる」
温かい言葉の中に紛れた「ありがとう」はやけに目立って聞こえていたけれど、気にする余裕なんてない。
ありがとうを言いたいのはボクの方だ。
トレーナーは またボクを助けてくれた。
誰よりもボクを見てくれたのはトレーナーだった。
痛みのカケラもない足で走れていたコトが、みんなに見てもらえていたコトが、トレーナーがいてくれたコトがありがたかった。
ボクがボクでいられるのは当たり前じゃない。
2度と繰り返したくない時間だったけど、そのおかげで大切なものに気づけた。
このヒトがボクのトレーナーでよかった。
走れるようになってからはトレーナーに話しかけたり一緒に過ごしたりする時間をなるべく多くできるようにしていた。
自分でも疑問に思いながら。
トレーナーには1番感謝してる。信用してる。信頼してる。
本当にそれだけ?
思えば不思議だった。
あのヒトはボク関係でたくさん大変な思いをしてきたハズなんだ。
なんでこんなに尽くしてくれるのか気になっていた。
1度聞いてみたコトがある。
どうしてボクのトレーナーになってくれたの、って。
小さな期待を含ませて。
「…正直に言っちまうと、俺もよく分からない。テイオーには才能があるのは分かってたけど…ああ、でもあの公園でお前を見た時に──どうしてだろうな…
担当になるなら絶対にこの子がいいって
───思った」
聞いたこっちが恥ずかしくなってしまった。
それってひょっとして、なんてドキドキしながらその日は眠ったけど…。
トレーナーは大人のヒトだし今のボクなんて子供扱いされてるだろうなーなんて少しだけ寂しく感じていた。
──これじゃあボクがあのヒトを意識してるみたいだ。
…でもちょっとだけ期待してもいいのかな。
そんなこんなで有マ記念がやってきた。
緊張する。
足が震えている。
でも、
トレーナーに負ける姿を見せたくない。
カイチョーに認めてもらいたい。
ファンのヒト達の期待を裏切りたくない。
ボクをこの場に立たせてくれたヒト達の為にも勝ちたい。
ボクの全てを出し切って走りきった。
憧れで目標で大好きなカイチョーは1着をとったボクに拍手を送ってくれた。
嬉しくて涙が出るなんて初めてだった。
控え室に戻ってずっと言いたかった感謝をトレーナーに伝えながら感極まって抱きついてしまった。
「───っ」
ひとしきりそうしてから離れようとすると────────離れなかった。
「あれ…?トレーナー…?」
怖かった。
思わず顔を見ると何を考えているのかわからない表情をして目だけがギラギラ光っているようだった。
「ト、トレーナー…」
しばらくそうしたままだった。
引き剥がそうとすれば簡単にできるハズなのに視線に射すくめられて動けない。
その日からトレーナーはおかしくなっていった。
見せたコトがなかったトレーナーの姿がだんだん露わになってビックリしたけど、あの日かけてくれた言葉が嘘だとは思えなくて
最後まで嫌いにはなれなかった。
紆余曲折あったがテイオーは見事シンボリルドルフに勝つことが出来た。
走る彼女に応援を送りながら何故か今になって感傷に浸っていた。
走れなくなるかもしれないと泣いていたテイオー。
よかったじゃないか。
彼女が再び声援を受けている。
よかったよかった。
今更何を不安に思う必要がある。
自分に対する疑問はガキの頃からあった。
答えなんて要らない。
俺はトレーナーになって、彼女はシンボリルドルフに勝って、彼女と触れ合うことも出来たじゃ──────今俺は何を考えた。
違和感は初めからあった。
必要以上にテイオーに入れ込んでいた。
普通に業務をこなしていればいいだけなのに俺は必死になってテイオーを勝たせようとした。
それ以外にもある。
不安定になって泣くテイオーを見て、俺は確かに辛かった。
が、俺は彼女になんて言った?
バカいうな。そんな筈はない。
俺を今まで突き動かしていたものがそんなモノである筈がない。
控え室。
彼女の体温を感じて知った。
俺はずっとこうしたかった。
トレーナーになる前から間違い続けてきた。
自分を知る時間も作らずこの十数年無意識のうちに積もらせてきた欲望。
呆れ返るような理由で俺は生きていたのか。
何故彼女なんだ?
一体どこに惹かれた?
良くも悪くも子供っぽかった純粋無垢な少女を
俺は汚そうとしていたのか。
どうやって寮に戻ったか覚えていない。
「────、う゛ぇ゛っ……」
空っぽの胃の中からは何も出てこない。
涙も鼻水も溢れさせながら両手を首にかけてする価値もない呼吸を繰り返した。
あのヒトがボクの担当になってから、ボクは心の底から満たされていたんだ。
ボクはレースやウイニングライブで注目を浴びるのが好きで、1着をとろうとしていた。
カイチョーに褒めてもらいたかった。
あのヒトのおかげでそれは叶った。
それどころかカイチョーに認めてもらえた。
満足だった。
後はもう欲しいものなんてなかったのに、あのヒトはボクをもっと満たしてくれた。
ボクは認めてもらいたいって思ってた。
走るのもカイチョーに褒めてほしいと思うのもそれが元々の理由だった。
ウマ娘として強くなればもっと見てもらえる。
けど、トレーナーは違う。
初めから他の子なんて眼中に無かった。
走るとか走れないとかじゃなくてボク以外のウマ娘は見なかった。
あのヒトが本当はボクを裏切ろうとしていたとは思えない。
だって今のトレーナーは泣いてるから。
自分でも戸惑ってたんだ。
ボクをスキな自分とボクを好きな自分に気づけなくて苦しんで泣いている。
トレーナーがかけてくれた言葉は嘘じゃなかった。
心が温かくなる。
誰かと遊ぶコトも知らない、孤独でボクだけを想ってくれる
それを認識した途端に曲線を形作る口元を直せない。
何度もボクを助けてくれたトレーナーはボクよりずっと弱かった。
あのヒトの家族も誰も知らないボクだけが知ってる内側。
あのヒトを世界で1番知ってて1番そばにいるのはボクだけなんだ。
嬉しい。
ウマ娘としてのボクがここで終わってしまうのは悲しい。
それでもボクにはトレーナーがいる。
トレーナーが『好き』だった。今は違う。
あのヒトは
でも1つだけ怖かったコトがあるとするなら、
あのヒトから「さよなら」だけは聞きたくなかった。
URAファイナルズを控えてトレーニングは大詰めに入る。
しかしテイオーに再び会った俺は耐えられなかった。
目的地もわからないまま駆け出した。
走ってないとバラバラに引き裂かれてしまいそうだった。
息を切らしても肺と心臓が痛んでも走り続けた。
俺はどこに行こうとしているんだろう。
完全に体力を使い果たして見覚えのないどこかで蹲った。
唾を喉に詰まらせて咳き込みながら両手で顔を覆うとべったりと掌が濡れた。
これは汗なのか涙なのかと何も考えないように何かを考えていると
「…」
トウカイテイオーが俺を見ていた。
「帰ろうか、トレーナー」
これだけしか言わなかった。
手首を弱い力で掴まれながら引っ張られるようにして学園のトレーナー室に戻る。
今ここには誰もいない。
俺と彼女の2人だけだ。
「やめろ」
一体どちらに言ったのかも分からない呟きを零してグラグラと沸き立った衝動に背中を押されウマ娘を─彼女を─テイオーを─押し倒した。
常識的に考えて強靭な身体能力を誇るウマ娘を成人男性1人がどうこうできる筈がないというのに、彼女の体は柔らかいソファにあっけなく沈みこんだ。
笑っている。
テイオーは俺の本質を知っていながら俺を拒もうとはしなかった。
俺が本当に欲しかったものは手を伸ばせば直ぐに届くところにある。
それ以上先には進めなかった。
体が震える。
弾かれるように身を離して蹲ってただ震えた。
頭を撫でられている。
撫でられながらこの人間は泣いていた。
次の日も俺は泣くことしか出来なかった。
たづなさんに嘘をついて寮の自室に戻ってしゃがみこんでしまった。
「…つらかったらもう頑張らなくてもいいよ。ボクがいるから」
視線を絡みつかされて引っかき傷が目立つ首元にこれ以上ない程優しく手を添えられる。
掌の温度を感じながら泥のように眠る。
できることならずっとこうしていたい。
このまま灰になって安らぎの中でどこまでも霞んでしまいたかった。
夜中に目が覚めると部屋には俺1人だけだった。
門限が来てしまったからだ。
意味もなく部屋の中を歩き回ったりして眠れない夜に呻いた。
時間を忘れようとして朧朧と光る電気スタンドの明かりを頼りに机の上に放り出されていたトウカイテイオーについて書き連ねていたノートを開く。
視界がボヤける。
こんな
しかしと言うべきか、だからこそと言うべきか、幼きあの日に見た
でも、それだけなのか?
彼女と関わって、俺が手に入れたのは色情と自己嫌悪だけだったのか?
走れなくなって泣いているテイオーを見て締め付けられた心を、憧れのウマ娘に勝って笑っているテイオーを見て綻んだ表情を忘れたのか?
俺は彼女を悲しませたくなんてなかった。
走るテイオーを見て高揚したのは劣情からなんかじゃない。
俺はテイオーのおかげでトレーナーになってよかったって、思えたんだろうが。
俺が望めばテイオーはきっと俺の為に堕ちてくれる。
でもそんなのは嫌だ。
テイオーの足を止めさせたくない。
今度は自分が後輩からの憧れを背負うようになったテイオーを1人の人間の為に終わらせたくない。
俺はあの日約束した。
「最強のウマ娘」にするって約束したんだ。
俺がどんなゴミクズだったとしても、この3年間を、共に駆け抜けてきた日々を捨てさりたくない。
たかだか十数年積もらせた欲望ごときにテイオーと培ってきた想いを負けさせたくなんてない。
俺はレース場を駆けるトウカイテイオーを見守っていたいんだ。
俺はトウカイテイオーのトレーナーでいたい。
何があろうと俺は彼女を支え続けたい。
あの日から俺がやるべきことは決まってたんだ。
どんなに俺が罪の泥濘にまみれていたとしても、走る彼女の隣で俺は歩き続けなければならない。
胸を張って言えはしない。誇れるような話でもない。
それでもこれが俺の選択なんだと、どうしようもなかったいつかの自分に言えるように、降り流れる涙がいつかの自分への手向けになるように、祈っていた。
次の日に俺はトレセン学園にもう1度向かった。
誰もいない部屋にテイオーを呼び出した。
「…」
無言で此方を見ている彼女に拒絶されるのが怖かった。
それでもこれだけは絶対に伝えなければならない。
「俺はここに来ていい人間じゃなかったんだ。自分がこんなヤツだったなんて知らなかった。──でも、お前にあんなことをしといて今更だけど、俺はお前に走ってほしい。お前には何も負担をかけずに走って、笑ってほしいんだ…──だからっ…俺は…っ、これからもお前の隣で歩いていたい…!こんな俺でいいなら…これからもお前のトレーナーでいさせてくれっ…!」
「───うんっ!」
緊張した様子で聞いていたテイオーに笑顔の花が咲いた。
みっともなく泣き崩れてしまった。
彼女は優しすぎた。綺麗すぎた。汚れた俺に絆されても尚。
浅葱色の願いと共に染み付いた感情にくるませた不格好な告白を、彼女は受け入れてくれた。
差し伸べられた手を取る。
もうこの手を傷つけたくはない。
形を失った心は、温もりの中で觧かれていた。
それからどうなったかなんて語るに及ばない。
彼女は──ウマ娘として、夢の舞台で煌めいでいる。