下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
主人公視点がえげつなく長いです。
脳内タマモクロスが垂直落下式DDT仕掛けてくるぐらいには長いです。
中山の直線が恋しくなるぐらいに長いです。
公園の中で1人、服にひっつけたトレーナーバッジを指先で弄ぶ。
トレセン学園の試験に受かって割と結構な時間が経った今でも喜びで顔が緩みそうになる。
初めは軽い下心だった。
が、調べるうちにどんどんハマってしまったというか、レース場を駆ける彼女達の存在に惚れてしまったというか、とにかくウマ娘がバチバチに好きになった。
でまあそんな自分がトレーナーになりたいと思わないわけがなく、日々の努力を重ねてとうとう試験に合格したというわけだ。
しかしここで満足してはならない。
まだスカウトに成功してすらいないのだ。
「…よしっ」
まだまだこっからだ。
休憩もここらで終わりにしてもう1度スカウトしに戻ろうと立ち上がる。
「わわわっ、どいてどいてー!!」
ボサっと突っ立っている俺を悠々と飛び越えて木の上にある帽子を掴んだウマ娘。
軽く一言二言言葉を交わして──怪我はないかというような会話とも呼べないものだった──彼女は走り去って行った。
たったそれだけだというのにその姿がやけに目に焼き付いていた。
澄んだ目をしてるなと思った。
曇りを知らない、キラキラと光る希望に満ち溢れている目。
…何かあったらすぐに暗く澱んでしまいそうな。
外見から察するに中等部あたりだろうか。
それでいてあの身体能力。
彼女ならきっと強いウマ娘になれるんだろうが…まぁ俺が関わることはないんだろうなぁ…。
自分のトレーナーとしての実力はよく理解している。
受かったとはいえど学び途中の若輩者でしかない俺が彼女の担当になりえはしないだろうと噛み締めながら再びトレセン学園に向かった。
それから誰1人として引っ掛けることが出来ず、選抜レースの日がやってきてしまった。
公園で遭遇したウマ娘、トウカイテイオーの走りはやはり圧倒的だった。
多くのトレーナー達がレース後のトウカイテイオーに声をかけている。
このヒト達は気づいているのだろうか?
なんとなく…いや…新米野郎の勘なんてたかが知れてるだろうが…。
トウカイテイオーが素晴らしい素質を持っているのは確かだ。
だけど…なんなんだろうかこの違和感…。
──おーい…
走り終えた後の彼女の振る舞い方にとやかく言うつもりはない。
勝ちたい、歓声を浴びたいという欲望はウマ娘の誰もが持っている、むしろ大切な感情であって彼女の自信もそれに合わせて実力がしっかりついていっている。
──ねぇ…
しかし彼女はなんというか…何か足りてないというか…
いやしかし周りにいるトレーナーの誰もそれに気づいた様子でない…気の所為…?
気の所為にしてはやけに引っかかる…だが…
「ねえったら!」
「…っ、ぇ?」
視線が俺に集中している。
俺もトウカイテイオーのレースを見に来た1人だというのに、肝心の彼女に声をかけようともせず考え事をしているからだ。
歓声を浴びたがるトウカイテイオーには彼女に目もくれず思考の海に流れている俺が目に付いたのだろう。
ともかくその場で俺は彼女から良くも悪くも興味を持たれてしまった。
その後やってきたシンボリルドルフへの態度…?向き合い方…?どことなく心配になる。
俺もシンボリルドルフはかっこいいとも強いとも思うが、ウマ娘であるトウカイテイオーが自身より強い存在──最強であると認めてしまうのは…どうなんだろうか。
だが俺は彼女に関わるべきではないとも思う。
昔の俺だったら否が応でも彼女のトレーナーになろうとしていた。
そう思わざるを得ない程にトウカイテイオーは年相応に純粋で無邪気なウマ娘で、以前の俺はそんな少女とお近づきになりたいと思っている縊り殺してやりたい程に筋金入りのド畜生だった。
それが今も残っていないという確証が持てない。
だったら最初からウマ娘に関わるなという話だが、トウカイテイオーと出会うまで昔の自分のことはすっかり忘却の彼方へ追いやられてしまっていた。
そして今忘れかけていた 忘れたかった 忘れようとしていた過去の自分がトウカイテイオーとの邂逅で再び首をもたげてじっと俺をねめつけている。
今現在において春情を他のウマ娘にもトウカイテイオーにも全く覚えはしないのだが、もしかしたら、ひょっとしたら、無意識下に呼び起こされているのではないかという不安がいつまでも腹の底に沈澱していた。
忘れるんだ。他の子を探そう。
次の日もトレセン学園でスカウトしていたらトウカイテイオーにテストをするということで呼ばれてしまった。
断ればよかっただけなのに不安に負けた。
彼女はこのままでは自分の才能を生かしきれないまま青春を終えてしまうのではないかという懸念を感じてしまった。
それからシンボリルドルフに負け、あの公園で泣き、”皇帝”に宣戦布告するまでも、放っておけなかった。
「これからよろしくね!トレーナー!」
彼女の裏表無い言葉を拒めずに、俺はトウカイテイオーの担当となった。
覚悟はまだできていないというのに。
彼女を物語の主人公とするならば、俺はどこまでも脇役に過ぎないのだろう。
俺はテイオーのように特別でもなんでもないただの人間だ。
その穴は弛まぬ努力でしか埋めることができない。
毎日毎晩テイオーについて考えている。
やらなきゃならない事、知らなきゃいけないことは山ほどある。
自分の体を酷使することを不快とも不安とも思わない。
もう慣れっこだ。自分の肉体の限界も掴めてきている。
とは言えど疲労や負担は溜まるもので、体調が悪くなることもしばしばあった。
下手に倒れでもしたら繊細な時期の少女の精神に負荷をかけかねない。
だから今日も食欲が無いと悟られないよう1日3食しっかりと、込み上げる吐き気と共に飲み下す。
それは別に些細なことだ。
気持ち悪いほど上手くいった。
だからこそ不安になる。
レース前の彼女の笑顔が、余裕が、突然へし折られてしまうのではないかと、
俺の力不足で無敗の三冠ウマ娘になれず皇帝を超えることもできずに終わってしまうのではないかと不安で仕方がない。
その不安は昔の俺の浅ましい劣情の裏返しなのではないかとまた怖くなる。
限りなく希釈された筈のそれがいつか息を吹き返して彼女を滅茶苦茶に壊してしまうんじゃないか。
自分が分からない。自分の善性を信じられない。
そんなことはないと言いたくても昔の俺だったら間違いなくそうしていただろうという確信がある。
俺は本当にトレーナーとしてちゃんとしていられているのだろうか。
分からないまま自分が嫌いになる。
トレーナーになるにあたり年頃の少女との関わり方はある程度心得たつもりだ。
テイオーの精神状態にも気を配ってあまり関わりすぎないようにと心がけていたのだが、敗北の不安に駆られて必要以上に彼女のケアやサポートに力を入れるようになってしまった。
そうやって不安と恐怖と自己嫌悪に蝕まれていくうちにトレーナーとして得てはならない感情を得てしまった。
テイオーといる時だけは、テイオーの為に体をこき使っている時だけは自分が真っ当な人間になれた気がして自分の時間の殆どを彼女関係のことに費やすようになった。
次第にトレーナーとして以外の感情を向けるように─────執着するようになってしまった。
トレーナーは担当ウマ娘とは適度な距離感を保つようにしなければならない。
ウマ娘の為にも、トレーナー自身の為にも。
試験に出るまでもなく当たり前のことだ。
トウカイテイオーだけを考えて思って支えて関わっていきながらあってはならない好意を肥え太らせて自分を疑って怖くなって彼女に尽くしてその場限りを凌いだ気になっていく悪循環。
テイオーと関わって勝手に傷を負って癒されて立ち直ってまたテイオーに執着するようになってそんな自分が嫌いになって繰り返して繰り返した。
場面が飛ばし飛ばしになるところからそれが夢であることは明らかだが、残念なことに夢が夢であると気づける人間は少ない。
テイオーが負けた。
あの時のトレーニングがダメだったのか、それとももっと前から間違っていたのか。
場面が切り替わる。
あれ?
おかしい、テイオーはウマ娘だぞ?
ウマ娘が走れなくなるなんて、足が駄目になってしまうなんて間違ってるだろ。
だから今目の前で走れなくなってる彼女なんて嘘だ。
俺が五体満足でいられているのにテイオーが怪我をしてウマ娘でいられなくなるなんて、そんなの、そんなの
俺のせいだ俺が気づけなかったせいだ俺がトレーナーになったせいだ俺が─────
走れなくなった彼女が、テイオーが俺を見ている。
泣くわけでも笑うわけでもなく俺を見つめて口を開いて────────────
「ああああああああああっ!!!!!」
叫びながら飛び起きる。
汗で全身がズブ濡れになっていた。
数分程荒い息を繰り返してからカーテンを開く。
茫然自失とした俺をせせら笑うかのように空は黒く染まっていた。
目覚まし時計はまだ鳴らない。
ただの夢だと吐き捨てることもできず、嫌がるテイオーを無理矢理引っ張って定期検診以外の日にも病院に連れて行ったりトレーニング後もレース後も彼女の足を入念にケアしたりするようになった。
誰かがお前は間違っていると、いらない人間だと言ってくれたならよかった───のか?
今更テイオーと離れるなんて考えられない。
だから自分が怖いんだ。
幸か不幸か、結果を出し続けてきた俺に何か言ってくるヒトはいなかった。
テイオーに入れ込むようになってからは彼女は更に強くなった。
過保護気味になっていきながらも止められず、それが裏目に出ることもなく彼女は勝利を重ねていく。
再三再四分からされてきたことだがテイオーは強い。
自分から壁にぶち当たってそれを超えようとしてひたすら前向きに高みを目指している。
だけどテイオーはウマ娘だから、トレーナーがいないと走れない。
選ばれてしまったのは俺だ。
俺は弱い。
彼女のように苦い経験も己の糧とすることなんて出来ない。
トウカイテイオーのトレーナーという役割に寄りかかっていないと息を詰まらせてしまう。
テイオーの存在を杖にしてなんとか立ち上がっても息を吸って吐く度に自分を失っていくように思える。
頭蓋を這い回る好意と忘れたい感情の間で何度も何度も何度も何度ももんどりうってのたうち回った。
俺ってなんだったっけ。
テイオーを大事に思う、傷を負ってほしくない、彼女の傘になりたいと言う自分がいる。
しかしテイオーみたいな少女に対して醜悪な願望を抱く自分が
疲れた。
あと何を捧げればいいんだ。
あと何十回何百回何千回足掻いてもがいてうずまいていれば俺は解放されるんだ。
俺を苦しめているのは最初から俺1人だけだ。
勝手に1人でうだうだ傷ついて悲劇の主人公気取りをしてるだけだ。
自己を失いながらも俺を奮い立たせているのはなんだ。
周囲の期待、責任、思い。
それだけで生きていけるほど俺は強くない。
俺はテイオーを想っているんだ。
もうそれだけしかないんだ。自尊心をいつの間にか見失っていてもそれだけは消えなかった。消えてくれなかった。消えてほしくなかった。
けど疲れた。
自分でもここまでよくやったと思うよ。
眠らせてくれよ。疲れたんだよ。
疲れた。本当に。
ここで折れたら彼女はどうなるんだろうか。
悪夢にうなされて跳ね起きる。
相変わらず空の色は黒。
…とりあえずシャワーでも浴びよう。
ぼうっと水に打たれながら目の前の鏡に目をやると、消耗しきった様子の自分の顔が見えた。
思わず鏡を叩き割ろうとして拳を振り上げて───これで手に怪我でもしたらテイオーに心配をかけさせてしまう。
何も出来なかった。
部屋に戻って倒れるようにへたりこんだ。
俺は自分が嫌いだ。自分が分からない。
それでも彼女への想いだけは澱んで濁った頭の中でハッキリしていて────
学生時代にヒトを好きになったことがある。
しかし今俺の内を占めているのはそんなちゃちなものじゃない。
恋愛感情なんてテイオーには抱かない。
ただひたすらに相手を想う感情──これに名前を付けるとするならば何と言えばいいのか。
それだけだったらよかった。
自分が分からないのにテイオーが好きだ好きだと嘯く自分が大嫌いだ。
決められた時間通りに目覚まし時計が騒ぎ立てる。
思いきり掴んで力の限り床に叩きつけると けたたましい音を立てて転がった。
頭が痛い。
なんで俺は起き上がってるんだ。
なんで俺はこんなになってまで抗えているんだ。
──あの日一緒にしたセンセンフコク…
ボクら2人で、実現させようね!
絶対の、絶ーーー対にっ!約束っ!
約束したからだ。
俺は約束した。
忘れるわけがない。
覚悟があるとかないとかじゃない。
2人で皇帝を超える。
それがテイオーの本懐だったな。
…行かなきゃ。
テイオーが待ってる。
暇だなー…。
今日のトレーニングは終わったけどまだまだ動き足りない感じがするから自主練しちゃおっかなー…。
でも勝手に走るとトレーナーに注意されそうだし…。
──見るべきはほかの子か、ボクか。
その目でちゃんと確かめてよ。
トレーニング後にトレーナーはまたほかの子を見ていた。
選抜レースの時からそんな感じだったっけ。
ムカついたりは無いけどなんとなく物足りなく感じてしまう。
レースの後も褒めてはくれるんだけどカイチョーに褒められた時みたいな嬉しさはあんまり…。
カイチョーも見つからないし本当に暇だなー。
…トレーナーの所にでも行こう。
ドアの隙間からトレーナーの背中が見える。
せっかくだしこのヒトの驚いた顔でも見てみようかな。
いっつもトレーナーは泣かないし驚かないし大声を上げない。
いつも穏やかな表情でボクと接している。
いくらこのヒトだからって後ろから突然声をかけられたらビックリするに違いない。
見たことのない表情にワクワクしながらこっそり音を立てないように忍び込んで近づくと
「───────」
トレーナーはブツブツ何かを呟きながらボクのレースの映像をリプレイして一心不乱にノートに書き込んでいる。背後からでもわかるぐらいに鬼気迫る勢いで。
…やめておこう。
「───あれ?テイオー?」
「…あっ、ごめんね、えっと、邪魔だった?」
そっと立ち去ろうとしたのにトレーナーはボクに気づいた。
書き込んでる時は後ろからだったからどんな顔をしていたか見えなかったけど、振り返ったトレーナーはいつものように明るい表情をしていた。
怒られるかな。
ほんの少しビクビクしていたけどトレーナーはボクがいる間はパソコンにもノートにも手をつけないでなんでもないおしゃべりに付き合ってくれた。
「トレーナーって今日誕生日だったの!?」
「え…ああそう、そういやそうだったな。てかどっから仕入れたんだその情報…」
誕生日といえば主役になれる1年に1回きりの日なのに、今日トレーナーがやってたコトと言えばビデオ研究とかボクの練習メニューを考える為の勉強とかでお祝いらしいものは何一つない。
主役のハズの本人はキョトンとした顔で答えている。
なんだかじれったいなぁ。
「せっかくの誕生日なんだよ!?せ、せめてもっとこうなんかさぁ」
「うーん…………じゃ、ケーキでも買いに行くか……」
そう、それだよそれ!
ボクもちょうど甘いものが食べたかったんだよ!
…なんて正直に言うほどボクはコドモじゃないけどさ。
「ごちそうさまでした」
「まだ何個か残ってるけど…」
食べるスピードもゆっくりだったし、トレーナーは甘いもの苦手なのかな。
もしかして、ボクに気を遣って合わせようとしてくれただけ───
「後はお前が全部食べていいぞ」
「いいの!?」
「その分明日はめっちゃキツめのメニューにするから覚悟しとけー」
「ボクは無敵のテイオー様だよ?ちょっと頑張るだけで貰えるなら全然ヨユーだよ!」
「…おっしゃ今に見てろよマジで明日はひーこら言わせてやるからな」
ケーキと明日のトレーニングの期待で上書きされてトレーナーへの心配はどこかに行ってしまった。
いつもこんな感じだった気がする。
ボクが何か心配すると見透かしたかのようにトレーナーはそれを払おうとしてくる。
病院に連れてかれたり過剰なまでに足を気遣ってきたりする以外はボクを不安にさせたりストレスを感じさせないようにと奔走していた。
レース後に歓声を浴びて戻ったボクをぶっきらぼうに褒めながらトレーナーは笑う。ボクも笑った。
ボクがどこかに行っている時、カイチョーを見てる時、ボクが見ていない時、誰かといる時も、トレーナーはボクのトレーナーでいる。
カイチョーになかなか会えなくて愚痴をこぼしても、トレーニングに疲れて駄々をこねても、マックイーンに勝ちたいと燃えていた時も、どんなときも見放さずボクを支えてくれた。
ボクはその優しさに甘えた。
喜びも誰にも言えない負の感情もトレーナーに全部ぶつけた。
トレーナーはどんなボクも助けてくれるから。叱ってくれるから。見捨てないでくれるから。見送ってくれるから。見守ってくれるから。
だってトレーナーはボクのトレーナーなんだから。
様々な経験や時間を経て心身ともにテイオーは目まぐるしい成長を遂げた。
俺はどうなんだ。
自分を見失ってしまったから今自分がどこまでまともに近づけているか分からない。
その恐怖は最早必要ではない。
彼女はシンボリルドルフを超え、無敗の三冠ウマ娘となり、URAファイナルズも勝利に収め今日こうして遊園地を思いのままに楽しんでいる。
これで終わり。苦しむ必要も無い。
…俺はとっくに手遅れだ。
日が暮れ始める。
沈む夕日がトウカイテイオーの担当としての自分の終わりに見えた。
「そろそろ帰るか」
彼女との時間もこれで終わりなのかもしれない。
これでいいんだ。俺の意思は必要ない。
「…おんぶして」
「ん?」
「……おんぶして」
「……………………は」
トウカイテイオーをおぶさって帰り道を歩く。
俺よりも遥かに大きな存在を俺は背負っている。
ゆっくり歩みを進めつつふと思いにふける。
ヒトは誰だって黒い部分は多少なりともあるのかもしれない。
でも違う。俺の周りのヒトやウマ娘はみんな心が綺麗なんだ。
この世界で悪者がいるとするならばそれは俺だけなんだ。
テイオー、たづなさん、秋川理事長、桐生院さん、乙名史記者、学園にいるウマ娘…
なんで世界はこんな俺に優しいのだろうか。
視界がぼやける。
泣くな。
最後まで彼女に不安を感じさせるな。
足元を見ろ。つまづくな。
瞳は何も落とさない。
秋川理事長からいただいた扇子と桐生院さんから譲り受けたトレーナー白書。
そして胸に光るトレーナーバッジ。
いつの間にか俺を縛るものが増えていた。
今の俺は1人で立つことすら出来ないんだろう。
それでも俺はテイオーを背負っている。
託されてきた想いがある。
どうせこれからも俺はみっともなく何度も潰れてはまた立ち上がるんだろう。
優しさが俺を呪う限り。テイオーが俺を必要としてくれる限り。
そうは言っても温もりだけで俺は生きていけない。
俺は太陽の光で焦がされてしまうヒトモドキだ。幸福で傷ついてしまうんだ。
…テイオーがいないと。
約束を果たした今、俺はテイオーに必要とされているのだろうか。
恐らく彼女にいらないと言われた時が俺という人間の最期なのだろう。
「トレーナー…」
「なんだ?」
トレーナーは表立ってボクを褒めたりはしないけど、不意につまずきそうな時に肩を貸してくれる。
トレーナーといてもドキドキしたりときめいたりはしない。
心から安心するんだ。
1番近くで見守ってくれるヒトがいると思うと落ち着くんだ。
トレーナーがいてくれる限り、たぶんボクはこれからも変わらずに悩まずに走っていられる。
「あのね」
言わなきゃ。
今までありがとうって。
これからもよろしくって。
「……………………なんでもない」
もうちょっとだけ先にとっておこう。
今はこうしてトレーナーの背中に揺られていたいから。
いつになったら言えるのかわからないけど、このヒトはボクが言えるまで待ってくれる。きっと。
あともうちょっとだけ寄りかかっていても、トレーナーは許してくれるかな。
…あったかい。
「…」
無敗の三冠ウマ娘となったテイオーが、俺の背中で寝息を立て始めている。
起こさないように気を配り、歩調を緩める。
何を言おうとしていたのか分からないがどの道同じことだろう。
テイオーに必要とされなくなるのが先か、何か生き甲斐を見つけるのが先か。
間違っても後者はないだろう。
今の俺にはトウカイテイオーのトレーナーでいられること以外の存在理由が残っていない。
仮にそんなことがあるとするならば、担当でなくなった俺でも彼女が求めてくれる時だけだ。
荒唐無稽でありえない話だからこそ俺がこれから自分を拾うことはないと分かる。
緩やかに俺は終わっていく。
きっと俺は救えない。
萎びた心にも沁み透るものがあるのか、ふと上を見上げて思った。
うん。いいな。
曇りない空は、やっぱり綺麗だ。
書いてる最中内なるアグネスデジタルが「何やってんだこいつ」みたいな目で見てきた時はもうダメかもしんねぇと思いました。駄目でした。
俺を殺してくれ…もう…