下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
めっっっさ曇ります
結構救いのない話になっちゃったんで蛇足付け足してます それでもハッピーエンドにはなりません。
展開の都合上設定は生姜焼きになりました
俺にはありとあらゆるものが足りていなかった。それを数えだしたらキリがないくらいには。
だから俺は いらなかったんだ。
変わる変われないの問題ではなく、俺は初めから誰からも必要とされていい人間じゃなかったんだ。
トウカイテイオーのトレーナーになって数ヶ月が経過した。
日を追う毎にテイオーの強さを思い知らされる。
性格も才能も俺とはまるでモノが違う。もちろんテイオーの方が遥かに上だ。
彼女の純粋さにあてられて自分がどれだけ無能な下郎なのかをこれでもかというほど思い知らされる。
正直吐きそうだ。
だとしても、だからこそ変わらなければならない。
自分を守る為にも。
彼女の担当になって半年と半月。
やっぱり俺って頭がおかしいんじゃないか。
人生初の担当ウマ娘とはいえ私生活までかなぐり捨ててトウカイテイオー関係のことに専念するなぞ……それ自体はおかしくはない。
俺よりウマ娘に真摯に関わっているトレーナーなんて掃いて捨てるほどにいる。それこそ、いつ休んでるのか分からないぐらいに常日頃働いているヒトも──決して多くはないが──見てきた。
何も難しいことじゃなかった。
テイオーがレースで勝つのも、元気そうにしているのも。それを見られたらなんでもよかったんだ。
それでも突発的に考えてしまう。
彼女がズタズタに終わっていく様を夢想してしまう。
喉元を掻きむしりたくなる。
矛盾してるんだよ。
テイオーが笑ってる顔が好きで、走ってる姿が好きで、そんなテイオーが好きなのに、彼女が泣いてる顔が、心が崩れてしまう姿が、見たいわけでもないのに、考えたくないのに、彼女を見ていると思ってしまう。思ってしまう自分が嫌だから変わりたいのに、変わろうとして必死になっているのに、俺の中のトウカイテイオーは いつだって俺の大嫌いな表情で、彼女といると息が詰まってしまって、いつの日か俺が本当に彼女の心を殺してしまうんじゃないかという恐怖に怯えている。
ああそうだ俺は
流石に中等部の少女と恋仲になりたいだなんて冗談でも思わないが、そんなもの関係なしにテイオーを好きになってしまっている。
俺はどうなったっていいんだ。
だからどうか、どうか俺に彼女から何も奪わせないでほしい。
トレーナーと契約して1年。
あのヒトはあくまで ただのトレーナーってだけで、ボクを………………好き、だとか、意識はしてないと考えようとはしてるけど…ボク自身はあのヒトがそこまで好きってわけじゃないけど……
ボクを帝王にさせようと頑張ってるあのヒトを見るとなんだか変な気分になって、ボクも頑張らなくちゃって急かされるように足が速くなる。
変な気分は一時のもので離れたらすぐに薄れて霞んでしまうけど消えはしなかった。
トレーナーと契約して1年と少し。
隠そうとしてたけどわかってしまった。
あのヒトの体はボロボロになっている。
声には張りがなくて、どこで付いたのか想像もつかない傷痕に、血走った目。
どうしてそんなになってまでボクを走らせようとしてくれるのか本気で理解できない。
少しでも負担を和らげられるように頑張らなきゃと ふとした瞬間にトレーナーの為に走ろうとしている自分に気づく。
消えないひびも重なって よくわからない。
トレーナーと契約して1年と…どれくらい経ったっけ。
一時は走れなくなってしまって色々なコトを考えるようになった。
落ち着いてゆっくり考え事をできる時間が増えてわかってしまった。
トレーナーがボクの為に心と体をすり減らしているのを見ると────嬉しくなってしまうんだ。
まるでトレーナーがボクだけのモノになったような気持ちになって、つい
逆にあのヒトには元気でいてほしいとも もっと自分を大事にしてほしいとも思ってる。
全く正反対の衝動だけど、2つとも共通してる部分は「ボクはトレーナーが好き」というところだった。
あのヒトをめちゃくちゃにしたい。
あのヒトの全部が欲しい。
トレーナーとウマ娘の境界線がある限りそれは絶対に叶いはしないから、せめてもう片方の思いだけは満たしたかった。
満たしたかった。
彼女の担当になって…2年…2年半…?
テイオーといると死にたくなってくる。
今も変わらず、それどころか前よりも彼女を想うようになっている。
本当に
テイオーが怪我をした時はあまりにも辛すぎて折れそうになった。
だというのに彼女の近くにいると頭の中ではどうしようもない悲劇が展開されていく。
何故大事に思う誰かを素直に愛せないんだろう。
テイオーといると上手く息が出来なくなってしまう。
こんな俺にできるのは彼女を殺さない為に彼女との時間を減らすことだけだった。
トレーナーと契約して──。
なるべく心配や疲労をかけさせないようにと、トレーナーに頼りすぎないように迷惑をかけないようにトレーニングやレースに集中するようになった。
いきなり1人でなんでもやろうとして上手くいくわけがない。
下手に空回りしてトレーナーに余計な負担をかけさせてしまった。
それでもあのヒトは怒らない。
何を考えてボクに優しくしてくれているのか理解できない。
心なしかボクと関わろうとしてこなくなった気がする。
またひび割れが広がっている。
あのヒトが何が好きなのか知ろうとしなくなった。
ボク以外の何かを好きになっているコトに嫉妬してしまうから。
あのヒトが好きになっていくにつれて、あのヒトを知ろうとしなくなった。
それでも
トレーナーはボクが走っていると喜んでくれるから、頑張ろうと思えたのに。
走っていられたのに。
なんでボクの脚は また動かなくなってしまったんだろう。
ふざけるな。
彼女が何をしたというんだ?
テイオーは、ただ純粋に走っていただけだ。
俺のような男が付いたせいで彼女の選手生命が絶たれるなんて認めてなるものか。
トレーナーと契約して3年。
あっという間だった。
トレーナーの為に何かしようとしても満たされるのは裏側の自分だけだった。
今度こそ、これからはあのヒトの為に頑張るんだ、なんて。
結局、カイチョーを超えて帝王になってもボクは「これからも」なんて甘ったるい幻想に浸っているだけの子供だった。
「俺…地方に行こうと思うんだ」
彼女の担当になって3年。
綱を渡る思いで突っ走ってきた3年間だった。
何度立てなくなりそうになったか数え切れない。
これもひとえにテイオーがいてくれたおかげに過ぎない。
けど、限界だ。
俺は特別でもヒトより優れた何かがあるわけでもないから、自分を削ることでしか生きていけなかった。
中央に来られる器じゃなかった。
ましてやトウカイテイオーのような所謂「特別」と簡単に関わっていい人間じゃなかった。
もうこれ以上テイオーと いたくなかった。
自分が灰屑になるだけなら何も思わない。
俺のせいで彼女が駄目になってしまうのが耐えられない。
杞憂だろうとなんだろうと俺の中で何百回と繰り返された最悪の結末は彼女のトレーナーでいる以上終わらない。
それを耐えるのが限界なんだ。
今だって離れたくない。
これからだってテイオーのトレーナーでいたい。
それでも彼女といる限り俺は変われないんだ。
だから地方で1からやり直そうと決心した。
地方が楽だとか、地方に来るウマ娘の担当は俺みたいなやつでもいいとか、そんな考えは絶対に決して欠片もいっぺんたりとも思っちゃいない。
他チームのサブトレーナーとして働く道もある。
だけど中央にはテイオーがいる。
テイオーを壊したくないから、好きで仕方がないからこそ想うからこそ離れたくなってしまった。
トレーナーが
引き止めるのは…余計なものを背負わせてしまう。
離れたくない。
……でもボクがいない方がトレーナーは楽になれるんだ。
離れたくなかったけど、あのヒトが好きだったから去っていくのを止められなかった。
時々会いたくなってしまう。
その衝動を堪えるのは初めはキツイものだったが、確実に着実に良くなっていっているのが分かる。
仕事も楽とは言い難いが、やりごたえもあったしそこそこに上手くやれていた。
衝動的にテイオーの顔が見たくなってしまうのはなかなか無くなってくれないが、焦らずに
寂しい。
ぽっかり空いた孔は何をしても埋まるものではなくて、いくら走っても風が吹き抜けていく感覚がするだけだった。
電話をかけてしまった。
ボクといる時より元気そうだった。
「そっちは大丈夫か?なんかあったりしてないか?」
「なんにもないよ。全然平気だから」
自分でも驚く程に明るい声が出た。
心配させたくないと思うだけでスラスラと話す事ができた。
この1年でボクは嘘が得意になっていた。
地方に来てから2年。
せっかく中央のライセンスを持っているのだから いつか戻ってみてはどうか、と先輩に言われた。
元々自分を変えられるようになってから戻ろうとは考えていたが、あの日テイオーと電話をして性懲りも無くまた会いたくなってしまったから少なくともここを出るのは彼女に対する執着心が抜け切ってからにしようと思う。
今はここのウマ娘達のことだけを考えなければ。
トレーナーが離れてから2年。
会長も、マックイーンも、マヤノも、みんないるのに、ここにはトレーナーだけがいない。
渇いていることしかできなかった。
ボクがいない方がトレーナーは元気でいられているから。
心が静かに緩やかに締められている。
地方に来てから3年。
そろそろ中央に戻ろうと思う。
依然としてテイオーは好きだが、あの時のようなイカれた妄想は完全に消え失せた。
ライセンスを持っているとはいえ当然試験はあるので今はそれについての勉強に勤しんでいる。
他にも色んなウマ娘と関わりながらトレーナーとしての生き方を学ばせてもらえた。
仮に戻ることが出来たとしてもテイオーに接触はしない。
それが彼女の為だと信じて疑わなかった。
トレーナー。
会いたいよ。
歩道を歩きながら試験について思考を張り巡らせている。
色々と勝手がきくので寮ではなく最寄りのマンションをねぐらにしていた。
いつも通りのそのそ部屋に入った俺の背後から声がした。
「───」
振り返る事も出来ず、まずは意識が潰されていった。
痛みで目を覚ました。
暗い部屋の中でブツブツと何かを話す声が聞こえる。
絶え間なく伝わる痛みは右手から発せられていた。
「テイオー…?」
彼女がいた。
俺の右手を両手で包み込みギリギリと骨が軋む音が聞こえそうな程に力を加えている。
「おい…なに、を……つっ…!」
痛い。抵抗することも叶わずされるがままだった。
「ずっと…我慢してたんだけど…もう…ダメみたいで…トレーナーに…嫌われたくなくて…でも…耐えられなかったから……」
「ボクね…ずっとトレーナーが好きで…好きなのに…トレーナーは
落窪んだ目をしながら俺の言うことに耳を貸さず呟き続けている。
「ボク…ボクは…どうすればよかったの…」
呼びかけにも応えず手を握る力は増すばかり。
傷つけられることも罵声を浴びせられることも恨まれることも突き放されることも怖いとは思わなかった。
俺がそうしてしまうんじゃないかということが怖かったんだ。
この数年でちょっとは真人間になれたんじゃないかって自惚れてた。
いつか自分を受け入れられるようになれるんじゃないかって。
でも違った。
いたずらに彼女を壊していただけだった。
俺のやってきたこと、考えてきたこと、尽くが無駄に──それどころか裏目に出ていた。
どこから間違えたんだ?
あの時彼女から離れなければよかったのか?
違う。
辿るならもっと初めから。
俺なんて
生まれてこなきゃよかった。
何かが砕ける音がした。
「ぁ…あっ…ちが…」
違うんだ。ボクがしたかったのはこんな事じゃなくて、トレーナーを痛めつけたかったわけじゃなくて、
なにか言おうとしても頭が回らない。
「ト、…トレーナー、ボク、─────
砕けた手で引き寄せられる。
トレーナーの、あのヒトの生きてる音が聞こえる。
ボクがずっと欲しかった
声が出ない、出せない、出したくない。
痺れるような幸せに阻まれて何も考えられなくなっていく。
もうあのヒトの声さえ聞こえない。
俺、俺は、真っ当に誰かを支えられるようになりたくて、だから◻️は
「──くはっ」
意味も価値も無かった。
「ハハハハハハハ……クク……クハハハハ……」
明けない夜が歩いてくる。
トレーナーは帰ってきてくれた。
ボクをどう思っているか、どう思っていたかを毎日繰り返し教えられる。
苦虫を噛み潰したような顔をしながら言う理由も付け加えて。
ボクはあのヒトに笑ってほしかった。泣かないでほしかった。
お互い好きだと
ボクが欲しがってしまったから。
あのヒトが頑張って積み上げてきたものをボクがバラバラに崩してしまった。
もう引き返せないし引き返したくない。
ボクがあのヒトをダメにしてしまったから。
ボクだけがしたいようにするなんて不公平だ。
だから次は、あのヒトの方から求めてくれるまで。
中央に入り直すことはできた。
今となっては それに価値なんてない。
◻️のやることに価値なんてないんだ。
このまま2人で壊れてしまえばいいのだろうか。
そんなのを認めたくはない。
テイオーにはありふれた幸せに恵まれて生きてほしかった。
今の彼女で そうなれるだろうか。
今の状態で◻️が突き放そうとしたら──
考えたくもない。
交わせないまま降り積もった想いに囚われて、
優しい世界に嫌われて。
見えない明日の生き方を決めあぐねていた。
──────────────────────
蛇足
無意味なんだよな。全部。
子供っぽかったテイオーは、元気であどけない彼女は帰ってこないんだよな。
いっそ あの頃の俺に戻ってしまおうか。彼女以外どうでもよかった頃の俺に。
「テイオー」
「…」
バカバカしい。俺の人生はこんなにも滑稽なものなのか。
考えるのもかったるい。
「お前の好きなようにしてくれ。──そうしてほしい」
「…」
動いたかと思うと横に座ってきた。
俺はソファに背を預けて天井に目をやっていたから彼女がどんな顔をしていたか知らない。
そして、
「好きだよ」
囁いてきた。
「好きだよトレーナー」
溶かされるように甘いせせらぎが脳髄に滑り込んでくる。
「トレーナー」
治らない右手を元に戻ってしまわないように強く握り
書いてる間脳内たづなさんがとんでもないモノを見るような目で見てきたので内なる秋川理事長と一緒に低おでん水かっ喰らってもらってからハチマキタンブラー狩りしていただくことでミミズクの麓に広辞苑が滅菌套路しましたありがとうございました