下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
他と比べて特殊な話なので先に軽く説明してしまうと、「先に別のウマ娘のトレーナーになって改心させられた筈の主人公とトウカイテイオーが出逢ってしまいめちゃくちゃ平穏な日々を過ごしながら2人しておかしくなっていく話」です。
ほんの僅かに鬱エンドっぽくなってるのでそこだけお気をつけください。
酔っていた。
改心した自分でもウジ虫のような昔の自分にでもなく、
熟れて
トレーナー人生1番目に受け持ったあの子は、とても優しい真面目で芯の強いウマ娘だった。
中央に来られるだけの純粋な速さも備えていた。
本当に俺にはもったいなさすぎるぐらいに いい子だった。
その眩しさに絆されて やっと俺は…所謂「ちゃんとした」トレーナーになれた気がした。
後にトウカイテイオーと出逢ってもアレが掻き立てられることはなかった。それだけは最後まで一貫して変わらなかった。
俺が2番目に担当することになったウマ娘、トウカイテイオーは あの子とは性格も趣味もまるで違うが──テイオーも勿論「いい子」だった──間違いなく強かった。
彼女の言葉を借りて言うならば まさしく帝王と呼ぶに相応しいウマ娘だった。
包み隠さず暴露してしまうなら、恐らく俺がいなくてもトウカイテイオーは帝王になれていただろう。
彼女の前では俺なんて ちっぽけで不要な存在に過ぎない。だからこそ俺は彼女
ボクのトレーナーはなんとなく頼りなさげなヒトだったけど、基本的には普通にやるべきことをやっている。
カイチョー風に言うと順風満帆な毎日だった。
足の故障なんて1度も起こらなかった。
鏡に映る自分を見ると無性にその首に手をかけたくなる。
今に始まった話でもないのでいつも通り流して仕事に専念する。
テイオーの身には何も起こらなかった。
敗北も挫折も怪我も何も。
あくびが出そうなくらいに平和だった。
「うまいのか?それ」
「飲んでみたら?」
テイオーがいつも飲んでる はちみつドリンクを今回は俺の分まで追加で注文した。
濃いめだとかよく分からないので適当にした。
「……あっっっま」
こういうものが苦手というわけでもないが流石に甘ったるすぎる。
テイオーは俺の反応にクスクス笑っていた。
なんにも不安などなかったのに、彼女といると定めた筈の「自分」がブレる。
鏡を見ては衝動に突き動かされそうになって手の甲に骨の形が浮かぶ。
あの子といた間も自分が憎いと思っていたから、きっとそれと同じだ。
俺はまだちゃんとトレーナーでいられている筈だ。
トレーナーと いればいるほど知らない一面が見えてくる。
ボクが想像していたよりも担当ウマ娘を大切にしているんだなって ひしひしと伝わってくる。
……きっとボクも大事に思われている。
そう気づくと どうしてか初めて会った時みたいな距離感でいられなくなった。
別に好きとかどうとかじゃないけど今までのボクが恥ずかしくなって───、
うまく話せなくなって、トレーナーと距離をとるようになってしまった。
それでもトレー■ーはのほほんとしてた。
何事も無かったみたいにボクに話しかけてくる。
トレー■ーは…あのヒ■は…もしかしたら…
街中で偶然、以前受け持っていたウマ娘に出会った。
2人で話していると何故か辛くなってしまって、張り詰めた神経が瓦解したように涙で顔が汚れた。
あの子は驚きながらも前と同じように落ち着くまで一緒にいてくれた。
あの子は引退している。トレセン学園にはいない。
優しい子だった。1度も俺を責めたり声を荒らげたりはしなかった。
担当していた時はあまりにも自分が申し訳なくて────────
疎ましく思ったことなんてない。あの子には感謝している。今でも大事に思っている。
それでも俺を矯正したのは、その優しさ
偶然2人を見かけた。
トレー■ーと知り合いらしいウマ娘は何かを話していた。
あの子がトレー■ーが前に受け持っていたウマ娘…?
今の担当ウマ娘はボクなのに。
今見るべきなのは ほかの子じゃ──それこそ関わりのなくなった子じゃないのに。
2人が離れた後にトレー■ー…じゃなくて話していた子の方に近づいた。
1度も会ってもいないのにボクを知っていた。
気になって色々聞いてみてわかったことだけど、トレ■■ーは口を開けばボクの話しかしていなかったらしい。
泣いていたらしい。
『自分はもう あのヒトと一緒に走れないから、もしできたらでいいからなるべくあのヒトの隣にいてあげてほしい。きっとそれだけでも助けになれるから』
たしかそんな感じのことを言われた。
へぇ〜……
……■のヒ■はボクがいないとダメなんだ。ボクには涙なんて見せようとしなかったのに。
でも今はボクが大切に思われてる。今見ているのはボクだけなんだ。
まったくしょうがないなぁトレ■■ーは、ボクがいないと泣いちゃうなんて。
────だからテイオー様が一緒にいてあげるよ、トレ■■ー。
以前より本を読むようになった。
何かを拭いさろうとして ひたすら文字の海に漂った。
内容は理解しても面白いとは思わない。響いてくるものは無かった。
ただテイオーが
どちらかというと彼女が熱心に読み進めている姿の方が印象に残っている。
「なにそれ〜…」
「何って…本だよ本。……読んでみるか?」
トレ■■ーは やけに本を読むようになった。
どんなに集中しているように見えてもボクが声をかけるとすぐに反応する。
■のヒ■の読書の時間を邪魔する気はなかったけどそのかわり結構暇だった。
暇つぶしで借りた本に空いた時間や誰もいない時間にも目を走らせた。
「はい、これ」
「ん?そういや貸してたっけ」
「……ところでさ、これって結構大事な物だったりする?」
「?」
「あ〜──なんでもない。はい。返すよ」
「……………よかったらやろうか?もう内容も全部覚えたやつだし」
初めて■のヒ■から何かを貰った。
それからボクが■■ヒ■から何かを欲しがっても1度も断られなかった。……そんなに欲しいものがあったわけでもないけど。
ト■■■■はボクのワガママを拒もうとはしない。
花を飾った。適当に選んだ花を適当な入れ物に飾る。
こまめにアルコールを切り口に吹きかけたり栄養剤を買ってみたりもした。
健気に咲く花々を見ても表情は変わらなかった。
休みの日には自室で映画を見た。
人気作品から酷評されまくったZ級映画まで幅広く見てみた。
どれを見ても何を聞いても同じように感じる。
楽しそうに花の世話を手伝うテイオーの姿、感動的な映像に心を打たれて号泣するテイオーの姿を見た。
そういや当たり前のように俺の部屋に来るようになったな。
映画や本を見るようになった理由、花を飾るようになった理由は自分でも説明がつかない。
ただそうしていれば、多少自分がまともな人間でいられる気がしていた。所詮気休め程度にしかならないのに。
多分普通のヒトらしく振る舞いたかったんだろう。
そういえば俺は自分のことをあまり知らなかった。俺の好きなもの……なんて……あったか?
俺の事なんて俺が知ったことじゃない。
急にト■■■■は花を買うようになった。
部屋には空き瓶もあるのにわざわざ はちみーの空き容器に飾るなんて……花が好きなのか嫌いなのかよく分からない。
■色のアジサイの花言葉を知ってて買ったのかな……。
切り花にしても水質で色が変わるらしいけど いつの間にか空き容器ごと捨てられてあった時まで色は同じだった。
ボクもそこまで暇じゃないとは言っても休みの日は別だ。
そんな日は一緒に映画鑑賞するようになった。
■■ヒ■はどんなものを見ても無表情だった。
ものすごく悲しい話を見た後に派手なアクション物を見ようとしたりすることもあって、本当にちゃんと見てるの?って時々疑ってみても■■■■はボク以上に内容を完璧に覚えていた。
唯一表情が変わるのは、ボクが見ている時だけだった。
■■■■を通して色んなものが好きになった。
不安も無く走り続けて、たまに息を抜く。
■■■■といればいるほど■■■■を手に入れたような、知っていくような
最近好物を食べても前ほど美味いと思わなくなった気がする。
一応美味いとは思うのだが頭が喜ばないというか食ってる実感が持てないというか。
成人になっても心配なのか父と母が定期的に電話をかけてくるのだが……やけに気怠い。返事を考えるのがだるい。
俺はこんなんでも人並みに読書だのスポーツだのゲームだのは好きだった筈だ。
が、今となっては何故あんなものを好きだったのかとさえ思うようになった。
やがて
映画と本を見なくなった。枯れていく花をゴミ箱に押しやった。だって何も響かないのだから。
トウカイテイオー以外どうでもよくなってきている。
それは異常だ。そんなのは「トレーナー」じゃない。
■■■■は時折ボク以外の子を見ている。
ほかのトレーナーと話していたりもする。
……いくらボクがレースで負けないからってそれはよくないと思うよ■■■■■。
それとなく握った手に爪を立てた。
気づいていないように涼しい顔をしていた。
ちょっとは痛いはずなのに、突然されたことに驚きもせずにいつも通りの声色といつも通りの態度で、いつも通りボクをただ受け入れていた。
ボクの気持ちを汲み取ったのか、■■■■はボクといる間だけ笑うようになった。ボク以外の誰も見なくなった。
もしかして■■■■は最初からボクしか眼中に無かった?
自分すらもどうでもよくて、だからボクを拒もうとしなかった?
もしそうだったら、何をしたとしても、何を伝えても、受け入れてくれる?
俺は、あの子に「ちゃんとしたトレーナー」にならせてもらえた。
悲しいことにそれは不完全なものに過ぎなかった。
まともでいようとしても自壊を求める欲望がいついかなる時もはらわたで煮えたぎっている。
それはダメだと十二分に理解しているから今になって テイオーと普通の距離感を保とうとした。
彼女から好意に近い感情を寄せられていることは薄々勘づいていた。
「あの子に改心させてもらった自分」でいようと なけなしの抵抗をしてみた。無駄だった。
俺は生まれてきた時から今に至るまでの自分全てがこの世で1番嫌いだった。憎んですらいた。
俺は俺でいたくなかった。
そんな俺を普通の人間でいさせようと
その鎖ごと噛みつくようにトウカイテイオーは俺の欲望を完全に満たしていた。
自分に対して拒否反応が湧かなくなってきた。
テイオーが”俺”を
あの子と出逢って凝り固めた筈の人間性がグチャグチャにドロドロにされて果てしなく曖昧にされていく。
導き出した答えが消えて思考回路が侵されて自分が剥ぎ取られていった。
仮眠室。
起きていると頭の中が勝手に回りだして疲れてしまうので眠気もないのに横になっていた。
瞼を閉じてうつらうつらとしているとドアの開く音が聞こえた。
間近に気配を感じる。
喉元が温かくなる。
温もりが消えるまでの間は時間が止まったようだった。
息苦しくはならなかった。
■■■■は起きてるはずなのにボクを止めてこない。
普通に考えて力が入っていなくても苦しくて怖いはずなのに手を払いのけようとしない。
今はボクが■■■■■の未来を握っている。どうするかどうなるか全部決められる。
さすがにそんな趣味はないけど■■■■■は どんなボクでも受け入れてくれるんだってやっとわかった。
■■■■■は自分なんてどうだっていいんだ。
■■■■■は望まれる限りボクを見てくれる。ボクに
ボクがたとえ何度転んだとしても助けてくれる。■■■■だけがボクを帝王にしてくれる。
まだまだ。もっともっと■■■■を知る為に、好きでいてもらう為に。
これからも一緒にいようね、トレーナー。
あれから
しきりにせがまれて時々彼女をおぶるようになった。
体にかかる腕と足の力が日に日に強くなっているように感じるのは気の所為ではないだろう。
もうトウカイテイオーの為にしか生きたくない。
それはあの子に気づかせてもらった自分を否定することになってしまうじゃないか。
でも嫌なんだ。全部の自分が嫌だ。
今の自分すらも保っていたくないんだ。
トウカイテイオーだけが俺を
ウマ娘とはいえど ただの女の子に何を求めてるんだよ頭沸いてるのか。
なんで自分がまともだって思ってるんだ?
俺は陳腐な生き物だと思ってた。
それですらなかった。
誰にも必要ない誰も助けられない自己も希望も持てない人間未満の細胞の群れ。
彼女は1人でも歩ける。
しかし俺は彼女に好意を持たれていなければ生きてる実感が持てない。────たとえそれが狂気を孕んだ何かだったとしても。
最後の雫が視界を霞めて尽き果てた。
赴くままに、自由に存分に蹂躙されよう。
俺という人間の過去も未来も意思もあの子から貰った自分も忘れてしまえば─────
それはきっと最高に幸せで─────
アジサイの色と前のウマ娘さんが主人公に向けていた感情については特に決めていません。
ですがどうなったとしても前のウマ娘さんが不幸になるような展開には絶ッっっっ対になりません(鋼の意思)