下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
反省はしています。
初めはなんてことない、ただのヒトだと思っていた。
海辺の公園で出会って、それきりのハズだったトレーナーとボクの関係。
ボクはレースで勝つことが大好きで、カイチョーが大好きで、みんなの声援を浴びることが大好きだった。
選抜レースを余裕で1着に終わらせて、いつも通りみんなの歓声を独り占めにしていたら突然かけられた声。
「すっげぇレースだったぞ!」
公園のヒト。よくよく見たらトレーナーだった。
「是非担当させてくれ!」
他にもたくさんのトレーナーさん達に誘われていたけれど、ハッキリ言ってボクは誰でもいいやと思っていた。
カイチョーに言われて渋々テストした時も、その思いは変わらなかった。
だからカイチョーとトレーナーが何を話しているのかも、ボクは知らなかった。
カイチョーと初めて勝負したレース。
憧れのウマ娘が勝ったっていうのに声援を受けるカイチョーの姿を見てたらなんだか胸の奥がイガイガして、よく分からなくなっちゃって、がむしゃらになって夜まで走り続けた。
「…それ以上無理をするな」
それでもイガイガが取れなくて、そこでまたトレーナーに話しかけられてボクはイライラして突き放そうとしてしまった。
それでもボクを止めようとしてくれたトレーナー。
ずっと押さえつけてたよくわからないナニカでむちゃくちゃになってしまいそうで、ボクは泣いてしまった。
泣き続けるボクをトレーナーはなだめつづけてくれた。まだ専属でもないのに、会って間もないボクをトレーナーは励ましてくれた。
胸の奥のナニカの正体を知るためにカイチョーのレースを見に行った時も、初めて負けたくないって思ってカイチョーにセンセンフコクしに行った時もトレーナーは着いてきてくれた。
このヒトしかいないって思って、カイチョーに勝つためにボクの専属トレーナーになってもらった。
それからトレーナーはボクの為に毎日頑張ってくれた。
疲れているハズなのに調子を崩してしまったボクと遊びに行ってくれたり、ケガをしてこれから先走れるか分からなくなって悩んでいるボクに一晩中寄り添ってくれたり、寝る時間も潰してボクの練習メニューを考え続けてくれたり…。
結局走るのはボクなんだからトレーナーはどうだっていいと思っていたけれど、トレーナーはそんなボクの何倍も努力していたんだ。
ボクの為だけに。ボクだけを見てくれていた。
レースで1着を取って喜んでいるボクに、トレーナーは笑ってくれた。
その笑顔が嬉しくて嬉しくて、いつからかトレーナーの笑っている姿を見る為に、喜ばせる為に走るようになっていた。
みんなから貰う応援もカイチョーに褒めてもらえたことも嬉しくて仕方ないのに、トレーナーに喜んでもらうことがボクの生き甲斐になった。
夏合宿の日、祭りに夢中になってしまったボクに振り回されてトレーナーは倒れてしまった。
その時にようやくボクはトレーナーが自分の体を犠牲にしてまで支えてくれた事を知った。
ボクは自分を責めた。ボクのせいでトレーナーはボロボロになったんだ。ボクのせいでトレーナーは──
それでもトレーナーは止まらなかった。
どうして?どうしてそんなにボクを走らせてくれるの?
何度も休ませようとしても、ボクに付きっきりでトレーニングをしてくれるトレーナー。
レースで勝つボクに向けられたあの笑顔。
ああ、そうか。
キミはボクを走らせることが好きだったんだ。
キミはボクの勝つところが好きだったんだ。
キミはボクのトレーナーでいることが大好きだったんだ。
ボクがキミにしてあげられるコトは、ボクが走ることだったんだ。
キミがボクの為に生きてくれている。
だからボクはキミの為に走る。
ボクは勝った。何度も。何度も。
トレーナーの笑顔が見たくて、何度も走った。
ボクの大好きなトレーナー。
でもキミはなんでボクの走る姿が好きなんだろう。
ある日。
ふとバランスを崩して倒れそうになったボクを
トレーナーは抱きかかえた。
トレーナーの鼓動は今にも爆発しそうな程激しくて、強くて、真っ赤に染まった顔が見えた。
──ぁはっ。
トレーナーは、トレーナーはボクが─
ボクがスキだったんだ。
知ってたよ。キミがボクをやけにじっと見つめていたことも。ボクが触るとすごく嬉しそうにすることも。
それがなんでか分からなかったけど。
───嬉しい。嬉しいよ。
たとえどんな理由でも、トレーナーはボクだけをスキでいてくれたんだ。体をズタボロにしても。
いいよ。すごくいい。──壊れてしまいそうだ。
それからはボクの為の練習メニューをこなして、レースで1着を取って、トレーナーに甘える。
そんな幸せすぎる時間が過ぎていった。
とうとう迎えたカイチョーとの決戦の日。
ボクはずっと言えなかったありがとうを打ち明けた。
レースが終盤に差し掛かってもカイチョーは強くて、中々追い越すことが出来なかった。
─やっぱりカイチョーは強いなぁ。悔しいけど負けちゃうのかなぁ。
どんなに必死に走っても埋まらない差。
諦めかけたボクの耳に、風に乗って声が届いた。
トレーナーだ。ボクの大好きな大好きなトレーナーの声。
ボクの事を見てくれている。ボクの為に張り裂けそうな声で叫んでいる。
本当に、本当に─────
「大好きだよ」
零れ出る呟き。
どうしようもないくらいに口元は歪んで、
視界が広がって体は軽くなって足は今にも飛べそうなくらいだ。
そして掴み取った帝王の称号。
カイチョーに勝ってみんなの歓声に包まれてもうおかしくなりそうなくらいに嬉しかったけれど、
トレーナーだけはハッキリと見えた。
URAファイナルズを制して、ボクは遊園地に連れていってもらった。
ありのままの感謝を伝えると、トレーナーは泣き出してしまった。
何もかも満たされていく。
その涙も笑顔も思いも、全部ボクだけのもの。
これから先もずっとキミはボクを見てくれるんだ。
大好きな大好きなトレーナー。
キミの絶対は、ボクだ。
URAファイナルズの後、優勝したということで祝賀会が行われた。
どんちゃん騒ぎも片付けも終わった室内の中で、俺は1人佇んでいた。
「それにしても…」
今までよく浅ましい欲望の為だけにここまでやってこれたものだ。
「うまぴょいしたい、か」
くだらない。そんな理由でトレーナーになるなど、あってはならない事だ。
だからこそ俺はもう自分を、トウカイテイオーの信じた自分に背を向けないことにした。
これからは───「トレーナー」
「テイ、オー」
いつの間にか部屋の中にいたトウカイテイオー。
落ち、着け。大丈夫だ。聞かれていない筈だ。
─それでももし彼女が今までの俺の心情を知ったら?
彼女はどう思うだろうか?
いや。大丈夫だ。大丈夫だ。そんな大声で出していた独り言ではない。
そんな愚かしい思考に気を取られて、いつの間にかすぐ傍に迫っていた彼女にも気づけないでいた。
「トレーナー」
鼻先が触れ合いそうな程近くまでトウカイテイオーとの距離が縮まる。
「いいよ」
トウカイテイオーはそう囁いた。
嘯くように笑うように帝王は囁いた。
彼女が何を思ったのかは知らない。
今の俺は彼女に対する劣情なんていうものは持ち合わせていない。
彼女の声も、咄嗟に抱きとめた体の感触も、俺の情欲を再び呼び覚ますことは決してない。
それでも、俺はもう決めている。
俺は彼女の為に自分の全てを捧げると。
彼女がそれを求めるというのであれば、いくらでも応えよう。彼女が恋を望むのならば何度だって愛してみせよう。
だから俺は動かなかった。動くことは無かった。
しかし抱きとめた両腕と視線を離すことはなく。
さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った部屋の中。
唯一感じた2人の心臓の音だけが、酷く心地よかった。
執拗に病ませるのはルールで禁止スよね。
失礼だな。純愛だよ。
すみませんでした。
感想欄にあった話を見たすぎてぶち込ませて頂きました。
許可とアイデアをくれた感想欄の方、
アンケートに答えてくださった方々、
本当にありがとうございました。