下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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バッドエンドフラグを一気に叩き割る話です

なのでテイオーが曇ります

蛇足が過去最大級にとち狂ってます

















下心バキバキトレーナーにトウカイテイオーが改心させられる話

「テイオー」

 

「なにー?」

 

「……俺、チームを受け持つことになった」

 

「へー────えっ!?」

 

トウカイテイオーのトレーナーになって早数ヶ月。なんと俺は一つのチームを持つことになった。……こちとらトレーナーなりたての新人だってのに。

 

『トレーナー一人にウマ娘一人だと取りこぼされる生徒が多すぎる』

 

とかなんとかで学園に勤務しているトレーナーはチームを組むことを強制、というわけではないがめちゃくちゃ押しに押されたのだ。

 

そうなる理由が分からないでもない。確かに中央は人手不足が顕著に現れている。ウマ娘に対してトレーナーが少なすぎるんだ。

 

中央のトレーナーは──少なくとも俺みたいな一般人の場合は──吐くぐらい机に齧り付いてようやくなれるぐらいの狭き門。むしろ人手不足だからこそ念入りに精査されているんだろう。

 

「────ってことはほかの子ともトレーニングとか並走とかできるってことだよね!?」

 

「……ああ」

 

「やったー!やっと誰かと走れるよー、もー」

 

こちらの気も知らないでテイオーは嬉しそうに笑っている。

 

これはあくまで強制ではない。担当を持たないウマ娘はそれとは別に教官の元で練習できる。分かってる。分かってはいるんだが……

 

あんなに頼まれたら、しかもテイオーからもお願いされちまったらこっちだって断るに断れない。────いや待て、これは捉え方によっては好機かもしれない。

 

今んとこ担当ウマ娘はテイオーただ一人だが、他ウマ娘もチームに迎えることで上手いことそういう展開になれる可能性も増えるかもしれない。

 

そりゃ俺のタイプ真正面どストライクはテイオーだけだが、こちとら元々ウマ娘なら誰でも好き派だしなんなら関わる機会が増えるだけでも僥倖。

 

やってやる。

 

俺は絶対、なにがなんでもウマ娘とイチャイチャするんだ────!

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「あれ、キタちゃん?」

 

「ほわっ!?て、テテ、テイオーさん!?」

 

チームを組むことになってそこそこの人数入ってきたけど……まさかキタちゃんが来てくれるなんて思わなかったなぁ。

 

「ふっふっふー。ここは特別にボクの足さばきを教えてしんぜよー!」

 

「いいんですか!?……よーし!お願いしますッ!」

 

今のところボクはどんなレースでも負け無しの絶好調。慕ってくれる後輩も入ってきたことだし、カッコ悪いとこなんて見せられない。

 

それにトレーナーもいるんだし、一緒に練習する仲間もできたし、

 

あれ、ひょっとして今のボク、すっごい最高の時期なんじゃ?

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「トレーナーさーん!蹄鉄がもうへにゃへにゃでーす!」

 

「ええ……?予備のシューズまだあったっけか……」

 

「トレーナー……膝擦ったんだけど……」

 

「はぁ!?ちょっ、お前、保健室行くぞ保健室!」

 

まったく忙しいったらありゃしない。

 

昼も夜もマジでまったく休む暇が無い。アクシデントは次々舞い込んでくるし、チームの面倒を見るなんて初の試みだから不慣れと経験不足によるミスも結構起こしてしまう。

 

というかこの学園のトレーナーって有能すぎやしないか?こちとらテイオー一人で精一杯手一杯だったのに一気に何人も増えてやっていける気がしない。

 

……いや、こんなところで挫けてられるか。俺だって腐っても中央の人間なんだ。

 

「トレーナー……ちょっと苦しい……振動強すぎ……」

 

「ああ!?んなこと言ったって───ちきしょう!これでいいかこれでぇ!」

 

チームの子を背負いながら保健室までの廊下を爆走する────が、振動が強いと言われて意地と気合いですり足みたいな格好になりながらも突っ走り、

 

「……おい貴様。廊下は走るなと言っているだろうが。仮にもトレーナーとあろうものが────」

 

「へァあぁああっっ!?エアグルーヴッ!?」

 

ああもうこんな時になんてこった。

 

元はテイオーと周りのトレーナーからの話でしか知らなかったが、最近はこの女帝、エアグルーヴに注意されることも増えてすっかり顔馴染みになってしまった。いやもうほんっと……

 

「ちょ、ちょっと今本当に無理だ!後で聞く!」

 

「…………そのようだな。よし、用が済んだら首を洗って待っていろ。いや寧ろ貴様から来い」

 

「トレーナー……まだー?」

 

「じゃかあしいッ!!」

 

エアグルーヴに関してはただの冗談だろうがもうマジで忙しすぎる。

 

ああ……テイオーとイチャつきたい……まだ一回もそんなことできてないが……。

 

というかちょっと膝擦ったぐらいならわざわざ背負うまでもない気が、

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「ねえねえ、マッサージしてよ」

 

「……………………………………っ、ああ」

 

ちょうど練習終わりに足が疲れていたからなんとなくマッサージしてもらうことにした。トレーナーならやり方も知ってるだろうし。

 

もうみんな帰っちゃったからここには自主トレをするボクとトレーナーしかいない。このヒトも忙しい筈なのにわざわざついてきて。

 

そういえば今までこのヒトにマッサージをやってもらったことは無かった。なんでか知らないけどほかの誰かに頼み込んでまでして……。

 

「……トレーナー?」

 

「…………」

 

ものすごい顔が赤くなってる。もしかして、

 

「まさかぁ……照れてるの?」

 

「なっ、いや、俺はなんも、」

 

……前からそうだったけど、ホントにめちゃめちゃ分かりやすいなーこのヒトは。

 

その後も足をほぐしてもらいながらトレーナーをからかったら寮に戻るのが少しだけ遅れてしまった。門限には余裕で間に合ったけど。

 

……最近、こんな風に一対一で話すことも減っちゃったな。一番最初にケーヤクしたのはボクなのに。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

色々と覚束無い俺のチームだが、テイオーとキタサンはレース運びもかなり安定している。特にテイオーは今のところ常勝無敗の意気衝天。まさに絶好調と呼ぶに相応しい状態だ。一緒に走る仲間も増えたことで以前より強くなったところもある。

 

そんなことだから近頃はテイオー以外の子に世話を焼いたりフォームを見たりすることも増えていき。

 

「あのー、トレーナーさん」

 

「んお?どうしたキタサン」

 

トレーニング前だってのに珍しくキタサンの方から神妙な面持ちで話しかけられた。チームの中では最年少でありながらも一番素直に話を聞いてくれるから個人的にかなりありがたい存在だ。そんな彼女が、一体どうしたと言うのだろうか。

 

「その……最近テイオーさんがなんというか……なんだろ……」

 

「?」

 

キタサンにしてはいやに歯切れの悪い話し方だ。テイオーの話というところも気になる。喧嘩か?いや、普段彼女たちを見ていて険悪な雰囲気なんてこれっぽっちも感じられなかったし、

 

「あの、上手く言えないんですけど、なんとなく────」

 

「キタちゃーん、行くよー?」

 

「あっ、うん!────すみません。また今度に」

 

「…………」

 

チームの子に手招きされ、話が本題に入るより先にキタサンはトレーニング場へ行ってしまった。

 

結局その後も立て続けに仕事が重なり、落ち着いて話をする時間も中々作ることができなかった。

 

そういえば最近テイオーのことは彼女本人に任せっきりな気がする。いくら他の子より強いからといってテイオーもまだ子供だ。もう少し気にかけた方がいいのかもしれない。チームだからってみんな揃って同じことをするわけではないから、一人だけあぶれてしまうこともある。

 

しっかしどうにもやることが多すぎて結果的にテイオーに構う時間も少しばかりでしかなくなってしまっている。

 

それぞれの脚質や距離+バ場適性、強みを理解して個別にレースプランを組み立てトレーニングを練り直していく──というだけでも莫大な手間と時間がかかる。

 

いやホントこの学園のトレーナーやばすぎないか?俺のチームはこれでも人数少ない方だってのに。

 

あーだのこーだの言ってもこれは俺が選択した道だ。まともに寝られなくなろうが身体は動く。頭は回る。ならやるべきことはやらなければ。

 

それにたくさんのウマ娘と関わっているだけで俺のモチベは十分すぎるくらいに満たされている。これでも割とトレーナー生活は楽しいと思ってる……筈なんだが……

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

今のボクは誰にも負ける気がしない。常に身体中から力がみなぎってるみたいで、どんなレースでもどんな重バ場でも落ち着いて最高の走りを出している。

 

トレーナーがボクに興味が無いなんてことはない。

 

こっちが残って走っていれば大抵付き添ってくるし、勝てばちゃんと褒める。

 

やる気も満タン。なんだけど……なんでか知らないけどこのところトレーニングの時間がちょっとつまんない。

 

チーム以外にも友達はいる。全然一人ぼっち、ってことにはならない。

 

でもやっぱりモヤモヤする。

 

それもこれも全部トレーナーのせいだ。そもそも最初にスカウトされたのはボクだし、最初に担当ウマ娘になったのもボク。なのにいっつもほかの子ばかりに構って鼻の下伸ばしちゃってさ。

 

一回誰を見るべきかちゃんと教えた方がいいかもしれない。

 

でも、言わない。

 

なんたってボクはテイオー様だから。ちゃんと結果を出して認めてもらうんだ。ほかの子とは違って、ボクは最強だから。

 

だからもっと走って、もっと勝てばトレーナーもボクを見るようになる。そうすれば、元々あのヒトは誰の担当だったか、誰を見るべきなのか思い出すハズ。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……っ、次お願いします!トレーナーさんも、もうしばらく付き合ってください!」

 

「ん、分かっ──」

 

「トレーナー……タオル持ってきてー……それとドリンクも……あ、あと疲れたから運んでー……」

 

「…………おい」

 

みんな分かってないなぁ。

 

トレーナーは最近少しずつやつれてきてる。ボクと出会った頃と比べても結構痩せこけちゃったのに、みんな知らないんだ。

 

「あの、トレ──」

 

「キタちゃん」

 

「──はい?」

 

「ボクたちは向こうで練習しとこ?ほら、今トレーナー忙しそうだし」

 

「────はい!」

 

やっぱりそうなんだ。トレーナーのことを分かってるのはボクだけだから、だからボクだけは分かってあげなくちゃ。だってあのヒトは元々ボクのトレーナーなんだから。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

気の所為……だったのかな?

 

本当になんとなくだけど、テイオーさんの調子が少し悪そうに見える時がたまにあった。

 

今のところどんなレースでも負け無しだから不調ってことは絶対無いんだろうけど……。

 

…………気の所為、気の所為!

 

あたしがこんな後ろ向きになってたらサトちゃんにも顔向けできない。今は目の前のレースに集中しなくちゃ。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

これは間違いなく思い過ごしなんかではないだろう。

 

テイオーはチームメイトに対して少し妬いているようだ。そうなるのも当然と言えば当然なのかもしれない。

 

今まで自分にかかりきりだった奴が今度は他の子にばかり目を向けているのを見れば確かに面白くないとも思うだろう。

 

というわけで彼女に付き合う時間もなるべく増やせるように努めた。

 

それと最近の彼女はどうも練習に熱が入りすぎている部分がある。俺にだけ自分の実力を衒うことが増えたのも、そんな嫉妬心の表れなのだろうか。なんにせよ俺がちゃんと見守っていないと。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「今日ぐらいは休もう」

 

「?」

 

トレーナーが言ってることの意味が分からなかった。

 

ボクはもっと強くならないといけないのになんでそんなことが言えるのか本気で分からない。

 

「なんで?」

 

「…………っ、テイオー?」

 

思わず語気が荒くなった。普段はボクより弱い子ばっか見てるくせしてこういう時は引き止めるのがイラッてする。

 

別に怒ることでもないのは分かってるけど無性に腹が立って仕方なかった。自分でも何がこんなに気に入らないのか不思議だった。

 

ボクに口出しする気なら普段もボクをちゃんと見ていてほしい。

 

そう言うとトレーナーは素直に引き下がって────トレーニングに付き合う時間を増やしてきた。

 

ボク自身が頼んだことなのに何故かそれも気に入らなかった。

 

……トレーナーが心から望んでそうしてくれなかったように感じて。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

トレーナーがマックイーンを見ていた。走り方と対策を研究してたらしい。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

トレーナーがキタちゃんを見てた。当たり前。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

レースがあった。楽勝だった。なのに、

 

なんでボクより弱い子ばっかり見てるの?

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

マズイマズイマズイマズイテイオーが怪我をした()()を怪我してしまった──────、

 

いや落ち着けとりあえず落ち着け。俺が取り乱してどうするってんだ。

 

早期に発覚したのが幸いしたのか、怪我の具合は比較的軽い。菊花賞には間に合うし間に合わせる。

 

アスリートに負傷は付き物だ。こうなるのも読んでいないわけでは無かった。けど、

 

どうしてこんな苦しく感じるんだ。伸び盛りの時期にこんなことになって、少しの間とはいえ走れなくなってしまった彼女のことを思うと胸が締め付けられるように痛む。

 

ダメだダメだクヨクヨしてる暇があったらやれることをやらなければ。

 

……しかし不可思議なのがこれが()()()()という点だ。俺が見ていてそんなことが────ある。

 

彼女も思春期だ。反発したくなることだってある。俺に隠れて一人で走ってたっておかしくはない。近頃の様子を見る限りそのセンが妥当だ。

 

だよな。

 

普通そうだよな。年上の男が、しかも俺みたいなガキが偉そうにお前らのトレーナーやってたらそりゃ気に入らないことだってあるよな。

 

分かる。俺だってそうだ。

 

だけど俺はテイオーと、皆のトレーナーだ。意地でも最後まで支えぬいてやる。たとえ彼女が俺を嫌っていようが、その逆だろうが、約束を果たすまでは。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「と、いうわけで今日から暫くは勉強だ」

 

「うん」

 

「……平気か?」

 

「うん」

 

分からない。

 

今のボクは一人残って走ってるわけでも、走っていられる状態でもない。

 

なのになんで優しくしてくるのか本当に分からなかった。

 

少し経つとあのヒトはチームのみんなを見に行ってしまって、部屋にはボクだけが残された。

 

トレーナーはボクだけのトレーナーじゃなかった。

 

いつだって必死で、どんな時もボクの為に頑張ってくれたけど。

 

それはボクに対してだけじゃなかった。

 

…………でも、あの優しさは()()()()()()()()()()()向けられた。

 

頭に知識を叩き込んでいる間もそんな考えがしつこくまとわりついて離れなかった。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「────、──────!」

 

「─────。────……?」

 

あのヒトが他の誰かと会話している様子が目に入る。

 

何を話してるかなんて知らない。そんなことどうだっていい。

 

明らかに何かがおかしい。トレーナーなんだから他の誰かと話すことなんて当たり前だ。その時間も今はボクが一番多い。こんなことでわざわざ苛立ってるボクは絶対変だ。

 

考えるのもめんどくさい。ただあのヒトがボク以外を見てることが心から気に入らない。

 

でもあの時は違う。トレーナーは心配してくれた。それは誰に対してでもなくって、あの時だけはボクだけを見ていてくれた。

 

ボクが怪我でもなんでもすれば、トレーナーはまた見てくれるかな。

 

「────、」

 

思わず笑ってしまった。こんなことを考えている自分(ボク)は、きっと最低なんだろうなと思って。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「────、──!?──!──、」

 

驚いたような声が聞こえて、歪みそうになる口元を顔ごと覆う。

 

怪我をしたわけじゃない。ただなんかムシャクシャしてしょうがなかったから、ターフの上に寝っ転がった。芝に当たった頬が少し痒い。

 

呆れてしまった。ちょっとばかりの療養期間で鈍ってしまった自分の脚と、こんなことで気を引いて喜んでいる自分の情けなさに。

 

運ばれている間も表情は見せられなかった。とても笑えなかったから。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「────?──……」

 

チームメイトに心配された。適当な返事しかできなかった。

 

話すことに疲れてしまった。

 

皆といると色んな考えが湧いてくる。

 

皆に嫌われることよりもボクが皆を嫌いになるのが怖かった。

 

それなのにどこかで”酷いこと”を考えている自分がいる。今までがそうだったから。ボクは皆と違って強いから、実力でトレーナーに見てもらうんだ、ボクの方があのヒトを分かってるんだなんて下らない思考に取り憑かれて。今までより遅く脆い脚になっているクセに。

 

一応、チーム内で一番成績がいいのはボクだ。多少のアクシデントこそあったけど負けるようなことは一切無かった。

 

何も失ってないくせして皆に支えられているくせして一方的に下に見て勝手に腐ってるボクが意味分かんなかった。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

やはり人間慣れってことだな。ようやく安定してメンバー全員の面倒を見られるようになった。

 

そこで気がついたことだが、テイオーはちょくちょく単独で行動することが増えている。レースプライベートに関わらず、だ。

 

彼女の性格上よっぽどのことでもない限り友人から距離を置きなんてしないだろう。これは明らかな異変だ。

 

「なあ……、ぁ、────っ、最近、なんか……嫌なことでもあったか?」

 

声をかけてから後悔した。俺はなんてバカで単純な男なんだ。こんな聞き方って無いだろう。なんでもうちょっと考えてから話せなかったんだ。

 

「……別になにもないよ。それと、ごめん。悪いけど今あんまり話したくないんだ」

 

「────、、、」

 

それ見たことかこれなら大人しく静観してる方が百万倍マシってもんだマジで何してんだよ俺はこのダラズが。

 

……ショックを受けてないと言えば嘘になる。自分の大切な担当ウマ娘にそんなこと言われたら流石の俺だってヘコむ。

 

だがテイオーはこんな俺よりもずっと苦しんでいる筈だ。この神経が張り詰める時期にあんなことが起きて、更にレースが佳境を迎えるともなれば辛くない筈がない。

 

俺が直接問題を取り除くことができなくとも、最大限サポートはしてやりたい。『してやりたい』というか『させてほしい』。

 

一応後輩(キタサン)仲間(チームメイト)に話しかけられた際は普通に応えているようだから友人関係は特に問題ない……?いや、油断は禁物だ。とにかくこれからもちゃんと見守っていかないと。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

いつまでも不貞腐れていられない。レースはこれからが本番だから。

 

だからとにかく走って勝つことだけを考えた。

 

憧れの三冠まであと一手。何度も夢に見た無敗の三冠ウマ娘。

 

実際、多少は緊張していたけどワクワクしている部分は確かにある。走る事も楽しいって思えている。

 

あのヒトを意識に入れなければ何も心配いらなかった。あのヒトもそれを汲んでくれたのか、ボクから距離をとるようになった。

 

久しぶりに心が軽く感じた。こうやって真っ直ぐ何かを目指すってことがなんだか新鮮に感じて、毎日がイキイキしていた。

 

心の底からそう思っちゃった。なんでそう思ったのか分からない。

 

だってあのヒトがボクに”何か”してきたり言ってきたりしたことは一度だってない。それなのにボクは『()()()()()()()()()()()()()()()()』なんて思ったんだ。

 

だから考えないことにした。頭の中からトレーナーのことを全部叩き出して、そうしていれば何もつらくなんてなかった。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

迎えた大一番。菊花賞。ボクは一番人気だった。

 

ボクは勝った。

 

泣きそうなぐらいに嬉しくて、笑った。心から幸せで心から笑った。

 

ボクは三冠ウマ娘になった。

 

皆お祝いしてくれた。ファンのヒトたちも、友達も、ボクがどこかで蔑んでた『皆』も。

 

なんだか泣きそうになった。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

これで終わりじゃない。三冠ウマ娘になったとしてもボクには憧れの”皇帝”を超えるって一番の目標がある。

 

そこまで止まるつもりなんてないし、それからも止まるつもりなんてない。

 

だからとにかく走って、皆と走って日々を送った。毎日本気だった。

 

天皇賞・春。

 

ボクはマックイーンに勝ってしまった。

 

なんで

 

なんで

 

なんで

 

なんで

 

勝てたのか分からない。

 

マックイーンがどれだけ頑張ってきたのかボクは知ってる。ライバルだから。負けるつもりなんてこれっぽっちもなかった。

 

ボクとのレースに込められた思いもたくさん伝わってきた。こっちも本気だった。

 

だからなんでボクが勝って、マックイーンは負けてるんだろって一瞬思ってしまった。

 

マックイーンは勝者のボクを祝福してくれた。友達としてもライバルとしても応援してくれた。

 

だから、ボクはこれからも走らないといけない。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

テイオーが()()に怪我を負った。

 

重体なのは足もそうだが特に酷いのが精神面だった。療養のためトレーナー室や保健室に常駐する内に完全に塞ぎ込むようになってしまった。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

今までの罰を受けてるのかもしれない。心が持たなかった。

 

焦ってた。もっと強くなって、もっと走らないとって思ってたのに。

 

今は早く復帰する為に休まないといけないと分かっていても壊れた足と走る皆の姿を往復する度になんだかもうどうしようもなくなって、呻いた。

 

怖くて仕方がない。こうしている間にもどんどんボクは遅くなって、皆に追いつけなくなるんじゃないかって思って、

 

日に日に弱くなってく自分からは逃げられない。だって自分の足だから。目を逸らそうとしても意識に入る。

 

皆も自分も見るのが怖かったから、ボクが頼るのは自然と一人だけになってしまった。

 

トレーナーはボクを心配してる。ボクが望む限りはなんだってしてくれた。今のとこそこまで大したことは頼んでないけど。

 

「テイオー?……入るぞ」

 

あのヒトがやって来た。ボクが保健室に入り浸るようになってから昼間は大体ボクのところに来るようになった。

 

こうしてトレーナーとの時間が増えるようになって、最悪なことに気づいてしまった。

 

ボクがダメになればなるほどトレーナーはボクを見てくれるけど、夢からはどんどん遠ざかってしまう。

 

でも(ぬる)かった。このヒトが傍にいる間だけはつらいことも苦しいことも和らいでくれた。

 

もう夢を見続けるのが怖くて、走りたいし勝ちたい相手だっているのに前を向くのが苦しくて堪らないから楽な方気持ちのいい方に落ちるしかなかったんだ。

 

「他にもなんかあったら言ってくれ。できるだけのことはするから」

 

いつも通りちょっとした連絡とこれからの話をし終わると、そんなことを言われた。

 

……本当にこのヒトは素直だなー。そんなこと言われたらこっちだって、

 

「じゃあ、今日はずっと──────いいよ、出て」

 

「…………悪い」

 

せっかく話そうと思ったのに携帯の電子音(コール)なんかに遮られて、話す気が無くなっちゃった。

 

そうだよね。

 

トレーナーはトレーナーなんだから、走れないボクなんてただのお荷物でしかない。なんでそんな簡単なことにも気づけなかったんだろ。

 

「……………………あはっ、」

 

あのヒトが出ていって誰もいなくなった保健室。

 

カーテンを開けて外を見た。

 

走っている誰か(ウマ娘)の上から積もらない雪が降っていた。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

ふざけんな。

 

俺が見たかったのはこんなものじゃない。

 

今も昔も変わるもんか。俺が見たかったのはいつだってアイツらと、彼女(テイオー)の笑顔なんだよ。

 

俺に奇跡は起こせない。アイツみたいな”天才”でもない。でもそこまでの道を繋ぐことはできる筈だ。

 

テイオーはこんなところで終わる程弱い奴じゃない。俺たちは二人で最強なんだ。

 

確かに、今の状況は決していいとは言えない。怪我が治っても心が折れたら勝負は終わりだ。トレーナーからウマ娘にしてやれることにも限界がある。それに今の俺はチーム全員の面倒を見なきゃいけない。

 

それがどうしたってんだ。俺たち二人だと最強なんだ。

 

……やってやる。

 

待ってろテイオー。こんなクソッタレ運命なんて、俺が全部ぶっ壊してやる。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「テイオーさん……!」

 

「……キタちゃん」

 

ボクがこんなだから、皆ちょくちょくお見舞いに来てくれる。その優しさが今は痛かった。

 

「……ごめんね、カッコ悪いよね。こんな、ボクなんて」

 

「ッ、そんなこと無いです!テイオーさんは────」

 

ごめんね。何を言ってるのか分からないや。もう何も聞く気になれないんだ。

 

バカみたいだよね。ほかの子を見下して空回りして、その結果が今のボクなんて。

 

……もう、いいかな。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「トレーナー」

 

「ん、どうした?どっか痛むとこでも──」

 

「もう……全部イヤになっちゃったんだ。……聞いてくれる?」

 

言っちゃった。このヒトの事情も考えないで呼び出して、何もかも投げ出そうとして。

 

「ボクね、多分、トレーナーが欲しかったんだ。トレーナーが他の誰かといる時もそんなことばかり考えちゃってて……あははっ、おかしいよね、こんなの」

 

きっと満足してる。だって三冠も獲った。わざわざ苦しい思いをしてまで夢を目指さなくたっていい。疲れちゃったんだ。

 

「────だから、()()()()()。どうしてくれたっていいしどうなってもいいから、ボクだけを見てよ」

 

こんなボクなんて帝王でもなんでもない。でもトレーナーなら、このヒトならこんなボクの手も取ってくれるハズ────

 

「諦めるつもりか、お前」

 

だと思ってたのに。

 

「……そんな怖い顔しないでよ。どうせダメなんだからさ。もういいんだよ、全部」

 

「俺も大概かと思ってたが……お前も下手だな、嘘つくの」

 

このヒトの怖い顔を久々に見た。初めて出会った時のことを思い出して息が詰まる。

 

「俺はお前が好きだ。変なところで強がってやけっぱちになってる今のお前も全部好きだ。だけど今逃げたら、お前は二度と心から笑えなくなる。俺はそんなの嫌だ」

 

全部見透かされてた。当然だよね。ボクのトレーナーなんだから。

 

「……そんなこと言ったって、キミに何ができるっていうの」

 

「は──ッ、舐めんなよ、トウカイテイオー」

 

ボクの精一杯の強がりもトレーナーは簡単に跳ね除けて、獰猛な目付きに変わる。それがなんだか懐かしかった。

 

「そこで見てろクソガキ。お前に走るってのがどういうことなのか思い出させて……いや、”理解”らせてやる……!」

 

その言葉と同時にトレーナーは部屋を飛び出した。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

ボクにとっては結構思い切った告白……というか暴露だったのに、あのヒトは何も言ってくれなかったな。ちょっぴり悲しい。

 

どうしたって気分が晴れそうになかったから外を眺めた。すると、

 

「──!────!」

 

「え……?」

 

トレーナーがいた。しきりに何かを叫んで、それで、

 

「おいッ!テイォ゛ぉお゛おオぉ゛っ!!!見てるかぁあああッ!!おおおいっ!!!!」

 

「……ふっ、あはっ、あははは」

 

雨と雪に打たれて──(みぞれ)の中を叫びながら突っ走るトレーナーは、当然変な目で見られていて、フォームもちぐはぐで、ここにいる誰よりも遅くて。

 

それでも────見た者(ボク)の心を打った。

 

そしたら今まで抱え込んでた悩みがなんだかバカバカしく思えてきて。

 

ああそうだった。ボクのトレーナーはこんなヒトだった。

 

怖がる必要なんてなかった。ボクはどうやってもみんなが好きで、トレーナーはボクの為ならなんだってやってくれるし応えてくれる。だからボクはトレーナーの為にも走りたかったしみんなと一緒にいたかったし、夢を諦めたくなんてなかった。

 

正直、逃げ出したい。前を向くこともイヤだ。でも、

 

憧れたんだ。ずっと前から大好きなウマ娘に。それだけじゃない。

 

……まだ誰にも負けたくない。ボク自身にも。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「トレーナー」

 

「ん」

 

「たすけて」

 

「任せろ」

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇足(X年かXヶ月後?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとお願いがあるんだけど……いい?」

 

「うぇ?なんだ?」

 

蹄鉄選びの帰り道、空はすっかり赤らんで辺りにもあんまりヒトがいなかった。……でもこれは流石にちょっと踏み切り過ぎかな……

 

「いや、でも……やっぱなんでもないよ。高等部にも上がってこんなの、ヘンだし……」

 

「んなことあるもんか。いくつになってもやってもらいたいことぐらいある。……どうしたそんな、お前らしくもない」

 

……だよね。よし!トレーナーがそう言ったんだもんね!

 

「ん」

 

「……ぇ?」

 

「…………だっこ」

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「て、テイオー?起きてるか?寝た?……寝た……

 

……ちくしょう、やっぱ可愛いなこいつ……

 

 

辺りに人影は少ないと分かっててもやっぱりちょっと恥ずかしい。

 

ドキドキしてるのがバレちゃうんじゃないかと思ったけどボクのそれを打ち消すぐらいにトレーナーの音は大きくて忙しなかった。

 

それがなんだか嬉しくて、こっそり口元が綻んだ。

 

 






















霙ん中突っ走るシーンと同じくらいに

テイオーを元気付けようと「ウマ娘にだって勝ってやる」と豪語し、ウマ娘にレースで勝とうとして死ぬ気で頑張るしどんな手も打ち尽くすけど結局どうやっても人間である以上ウマ娘には勝てるわけなく、汗と涙で顔中グシャグシャにしながらそれでも走ってしまいには疲労でぶっ倒れてしまうけど這いつくばりながらも進もうとするトレーナーの姿に対戦してるウマ娘の方が心折れて勝ちを譲られるシーン

も書きたかったのですがそこまでに至る展開とそこからの展開が思いつかなかったので泣く泣く断念しました。

何ヶ月も前からかっしーこと樫本理子にこのトレーナーが後輩的な意味で懐く話が書きたかったのでアオハル杯と関連付けようかなーとも思いましたがどっちかの影が薄くなりそうだったんで泣く泣く断念しました。

ずっと言いそびれてましたが15話で出てきたもう一人のウマ娘ちゃんは諸事情により名前も一人称も出てきませんでしたが自分的にはキタちゃんのつもりで書いてました。しかし、じゃあその子はキタちゃんなのかと聞かれたらそうですよとはちょっと言い難いです。

トレーナーがそう言ったんだもんね、ってところをトレーナーガソウイッタンダモンニ!って打とうかと魔が差しかけましたが泣く泣く断念しました。
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