下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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アンケートご回答誠にありがとうございました

長さの割にゃ展開が駆け足かつちょい重い話になったっス

















トレーナーに理解者がいた場合の話

 

「ふぃー、気持ちよかったー……ねえねぇ、タイムはどうだった!?」

 

「めっちゃくちゃよかった。自己ベスト更新」

 

「ホント!?やったー!」

 

 

微笑んでるトレーナーからタオルを受け取って、練習の成果と嬉しさを噛み締める。火照った体も浮かんできた汗も今だけは最高に気持ちよかった。

 

やっぱね、ボクは最強だからね。そこにトレーナーが加わったらもう超最強だ。

 

──今では上手くいってるけど……そういえばこのヒトってなんでボクとケーヤクしたんだっけ?そんなノリノリってわけでもなかったのに。

 

えーと……たしか初対面でいきなり声をかけられた。そこは覚えてる。()()()()()()()()()()()()()()いきなり話しかけられたんだ。かと思えばスカウトしに来たわけでもなくって、ボクからすればすごい困った。

 

それはきっと──このボクの才能を見抜いたってことだよね!実際入学試験の時から一部の子やヒトには目をつけられてたし。ボクのトレーナーがそうだって不思議じゃない。

 

まあいっか。今はそんなこと考えなくたって、上手くいってるんだもんね。何にも心配することなんてない。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

桃色に彩られた石畳、どこか古くさい乾木の匂い。そのどれもがこれから訪れる新しい生活と時速65kmの青春を意識させる。

 

道行く誰もが期待に胸を膨らませていた。トレーナーとウマ娘、その瞳に大きな希望と僅かばかりの不安、小さな野望がこれ見よがしに映し出されるものだから早くも(オマエ)はこの場に相応しくないと突きつけられているようだった。

 

挨拶もそこそこに俺はだだっ広い学園内を散策し始めた。新人トレーナー同士、ということで交流を深めている者が大半だったが俺はどうにも自分が場にそぐわないと思えてならず、一人学園敷地内の施設や部屋の場所などを頭に叩き込んでいた。

 

長い廊下を歩いていると入学式終わりか、多くの生徒とすれ違う。あまりにも彼女たちが明るいものだったから自分が道端に転がっている埃か何かに感じた。

 

 

『え、いや、そんな…………は?なんでお前、なんで……』

 

『……な、なに?』

 

 

そのウマ娘を見た瞬間、俺は思わず何事かを口走っていた。そうせざるを得なかった。

 

名前すら知らない彼女を視認した途端、想起されたのは色褪せながらも離れないセピア色の記憶。

 

俺は彼女に────────

 

 

「…………」

 

 

妙な夢を見た。俺の現在(いま)にして初めての担当ウマ娘、トウカイテイオーと出会った時の話。

 

普通こういうのはもっと昔のことが出てくるものだろう。それに夢を見ている、ということは完全に熟睡できていないということだ。

 

なんにせよ気分のいいものではない。俺は身を起こした。

 

いつからか早くに起きるようになったのが幸いだった。朝食を摂らなければ、シャワーを浴びなければ、部屋を出る用意をしなければと思いながらも俺は目覚めて三十分近く何も行動に移せないからだ。

 

いつからこうなったのか。答えは明白だ。だから治しようがないことも理解している。

 

俺は後悔していた。

 

あの日、何故彼女に話しかけてしまったのか。トレーナーになってまだ一日すら経っていなかったというのに。

 

トウカイテイオーは、俺には勿体ないほどの才能に溢れている。彼女の担当になったのも半分以上が俺のエゴと過失によるものだ。

 

今この時間帯はウマ娘はおろかトレーナーですら起きている者は少ない。余程熱心なトレーナーだろうと睡眠時間は最低限取っている。

 

このままではいつか体を壊す。そう思いながら一体何年が経過したのか。

 

……そろそろ考えるのにも飽きてくる頃だ。あと数分。あと三十秒。あと少し。起きるなら早くしてくれ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふわあ……おはよ、トレーナー」

 

「おはよう」

 

 

早朝のターフは冷たく気持ちのいい風が吹く。テイオーは目を細めながらも既にストレッチを開始していた。

 

やはり中央ということか、朝早くから練習に励むウマ娘は多い。トレーニング場以外に河川敷などで走っている子もちらほら確認できる。

 

テイオーは本気だ。このトゥインクルシリーズを全力で駆け抜ける気でいる。無論、トレーナーである俺がその心意気に応えないわけにはいかない。

 

指導者側である俺が彼女よりも早くに準備を始めなければならないのは当たり前だが、元々睡眠時間が短い俺からすれば何の負担にもならなかった。

 

 

「じゃあ行ってくるから、ちゃんと観ててね」

 

「おう」

 

 

寝足りなさそうに目を擦りながらも、彼女は勢いよく駆け出していった。その背中を見ているとなんだか無性に泣きたくなった。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「それって……はちみー!?くぅう……ボクも飲みたいのに…………おねがい!一口だけちょうだい!」

 

「……なんなら全部飲むか?」

 

「え?い、いやでもそれは流石に」

 

「いい、いい。俺甘いもの苦手なんだ」

 

「……ふーん……?」

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「トレーナーって絶対ボクのこと好きだと思うんだよねー」

 

「……えっ!?な、なんで!?」

 

 

マヤノとの恋バナ?の最中、話の流れでそんなことを言った。深夜テンションとか見栄とかが半分だけどもう半分は割と本気で考えてる。

 

だって聞いた話だとあのヒトは毎日遅くまでトレーナー室にこもってるらしいし、朝は誰よりも早くから準備してるらしい。

 

いくらボクを勝たせるためだとしてもそれはやりすぎなんじゃない?ってくらいまで自分を追い込んでるんだから、少なくともボクを好きでもないとやってられないと思う。

 

 

「テイオーちゃん」

 

「ん?」

 

「マヤ、いくらなんでもそれは決めつけすぎると思うよ」

 

 

そうかなぁ……。

 

いや、それだけでトレーナーがボクを好きだなんて自惚れてるわけじゃない。熱心なヒトなんだなーって片付けたらすぐに納得がいく。

 

でも……上手く言えないけど、やっぱりトレーナーはボクが好きだと思う。

 

すごい距離感が独特なんだよね。パパやママとは違う、一般の先生(トレーナー)とも違った心の近さ。

 

ちょっとだけ──ボクにお兄ちゃんがいたらあんな感じだったのかなって、考えたぐらいの。

 

でも普通のお兄ちゃんはあんなにおせっかいじゃないし過保護でもない。たまに兄弟がいる子と話すことがあるけどあのヒトみたいな話は聞いたことがない。

 

それはそうと、この前気づいたことだけどトレーナーは毎日はちみーを買ってた。全然量が減ってなかったから一口貰おうかと思ったら一本丸ごと渡されちゃって驚いた。話を聞くと、トレーナーは甘いものが苦手らしい。それなのに毎日買ってるって……

 

ホント、なんなんだろ?

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「……やっぱり、お前は凄いな」

 

 

レース上がりの彼女を見ていると賞賛の言葉が口から先走っていた。

 

月並みな感想だが実際彼女は凄いと思う。俺が初めて受け持つ子がテイオーというのは、やはり幸運なことなんだなといつも思い知らされる。

 

 

「え──っ、でしょでしょ!?にしし、もっとボクを褒めるといいぞよ〜!」

 

 

笑う彼女の姿が、またあの子に重なった。

 

 

『ふふんっ、キミはケーガンだからね。特別にボクのレースを見せてあげるよ!』

 

『……俺はいいよ』

 

『えー!なんでー!?』

 

 

俺がまだ初対面でレースすら見ていなかったテイオーに話しかけた後のこと。

 

俺は彼女を避けるようになった。それがあまりにも露骨だったのか、皮肉なことにその頃俺に話しかけてくる生徒はテイオーがほぼ全体を占めていた。

 

彼女の頬を膨れさせて怒るところ、少し小生意気なところ、自慢げにするところ、妙に聡いところ、その全てが懐かしく、苦しかった。

 

俺は彼女のレースを見ようとすらしなかった。関わり合いになりたくなかった。

 

彼女からすれば不可解なことこの上ない筈だ。見知らぬトレーナーにいきなり声をかけられたかと思えばスカウトなどではなく、以降は自分を避けようとしているのだから。

 

テイオーの性格上そんな俺に自分の走りと実力を認めさせようとするのは何ら不自然なことではなかった。

 

 

『大体なんで俺なんか誘うんだ。お前はどこ行ったって引く手あまただろ』

 

 

トウカイテイオーの噂は早くも広まっていた。将来有望なウマ娘の一人ということで既にベテラン勢からも声がかかっているだとか。そんな彼女がなぜ執拗に新人の俺に突っかかってくるのか不思議でならない。

 

 

『トレーナーは正直誰だっていいし……でも、ボクのレースを見たヒトはみんなボクをすごいーって言ってスカウトしてくるんだよ?キミもそうかなって思ったのに全然観戦しに来てくれないじゃん。だからほら、一回でいいからさ!ボクのレース見に来てよ!』

 

 

それからも事ある毎に誘われ、その度に断った。

 

テイオーが俺の元に来る度にあの子のことを思い出す。それでも彼女は生きている。俺の見ている前で笑っている。だから彼女はあの子じゃない。それを何度も繰り返し思い知らされた。

 

あの子は俺の妹だった。

 

俺の妹は、テイオーに似て快活な子だった。時には諍うこともあったが家族として大切に思っていた。少しシスコンなところがあったのかもしれない。

 

俺がまだ純粋に不純な動機でトレーナーを目指していた時、妹は呆れながらも俺の夢を否定せず、背中を後押しすらしてくれた。

 

両親に『ウマ娘と関わりたいからトレーナーになりたい』などというふざけた理由をバカ正直に伝えられるわけがない。それはバカでガキだった俺でも理解していた。

 

そんな俺が誰にも言えない本音や望みを打ち明けられるのは決まって妹だった。あの子はスナック菓子をつまみながらも決して聞き漏らすことは無かった。軽い気持ちで聞いてくれることで俺も気が楽だった。その駄賃として俺が妹の相談に乗ることも一度や二度ではなかった。

 

俺たちはきっとそこらの兄弟姉妹よりも仲が良かった。だからそれを喪った俺がどうしようもなく欠けてしまうのも当然のこと。

 

その日は勉強と部活動の板挟みで疲れ切っていた。外食について行くことすら億劫で、俺は一人惰眠を貪っていた。

 

今でもありありと蘇る。いつもよりやけに大きな秒針の音。すっかり伸び切ったラーメン。受話器越しの嫌に淡々とした声。

 

家族は死んだ。車に乗っていた誰一人欠けることなく俺一人を残して唐突にいなくなってしまった。

 

偶然に偶然が重なった末の事故。完全な不可抗力。極限まで感情を押し殺した目をした誰かにそう伝えられながら、俺はどこか的外れな思考に溺れていた。

 

俺の見ていないところで皆死んでしまった。仮に俺がいたとしてもどうしようもなかっただろうが、俺にはその場に居合わせる権利も家族を助ける選択肢すらも与えられなかった。

 

俺の見ていないところでもヒトは死ぬ。それを見届ける自由もこの世には存在しない。

 

それが俺という世間知らずのガキが知った”当たり前”だった。

 

それからの俺は今までのように眠ることができなくなった。あの日から一年間はあの日俺を叩き起した着信音が目を閉じる度に暗闇から追いかけてきた。

 

 

「でもここで終わりじゃないよ、ボクはこれからも止まるつもりなんてないからね!」

 

「ああ、分かってる」

 

 

俺とは違って前向きなところ────本当によく似ている。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

カイチョーがいなかったからトレーナーのとこに来たのはいいけど、全然つまんない。

 

こんなことなら生徒会室でお昼寝でもしてた方がよかった。トレーナーもカイチョーも(カイチョーはカイチョーだから仕方ないけど)もうちょっと構ってくれないかなー……。

 

 

「なあ」

 

「ぴえっ!?」

 

 

…………びっっっくり、したー……。話すのはいいけどいきなり顔を上げられたらこっちもビックリしちゃうよ、まったく。

 

 

「あ────悪い。なんでもない」

 

「?」

 

 

急に顔を上げたと思ったらまたテーブルに向き直って自分の仕事に集中しだした。なんだったんだろ?

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

やってしまった。

 

二人きりで部屋にいるとつい勘違いして話しかけてしまう。

 

もう”彼女”が帰ってくることなんてないのに。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「ちょっと聞いてよトレーナー!」

「マヤノが『恋を知らないテイオーちゃんはまだまだコドモだよね〜』って言うんだ!」

「ボクだって恋の一つや二つできるやい!」

「胸がドキドキしたり、苦しくなったりってすっごいレース観た時みたいなのでしょ?」

 

「………………はは」

 

「……もー!何笑ってんのさー!

違うなら違うって言ってよー!」

 

「いや……どんなのだろうな。恋って」

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

こんなことシンパイショーなトレーナーに言ったらすぐに練習ストップさせられちゃうかもしれない。

 

確かに足は大事。でもボクはもっと強くなって、もっと早くなんなきゃいけないんだ。

 

日本ダービーが終わった後ぐらいからちょっとだけ痛むけど……ボクは無敵だから、こんなのぜんぜん────

 

 

「……いっ!?」

 

「─────────────」

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

俺は最終的にテイオーと契約する道を選んだ。

 

年相応の幼さ、挫折を知らない向上心の塊。そこに潜む危うさを思うと気が気でなく、いつか彼女が困難に突き当たった時、俺はそこにいない。また俺の見ていないところであの子に似た誰かの道が絶たれる。

 

関わりたくないと思いながらもそんな強迫観念にも近い不安に襲われ、俺はテイオーのトレーナーになることを決めた。

 

元はと言えば俺が声をかけたせいだ。俺があの時どこかに妹の影を見なければテイオーが俺に興味を持つことなんてなくて、彼女の夢を知ることなんて無かった。

 

そして、まただ。また俺だけが安全な場所で一人のうのうと生かされている。

 

テイオーに謝りたかった。今の状況に至ってしまったことではなく。

 

俺は泣けなかった。彼女が密かに足を痛めていたことを知っても涙を流せなかった。彼女の為に流す涙は一粒も残っていなかったんだ。何もかも枯れてしまった。あの夏の日に。

 

耳を刺す電子音、消毒液の匂い、靡いたカーテン、”彼女”の白い肌、そして……。

 

あの夏から止まってしまった俺の季節は、彼女(トウカイテイオー)と出会ったことで再び動き始めた。

 

結局、俺は都合のいい拠り所があればなんでもよかったということなのか。彼女が妹に似ていたから、”彼女”と俺の間に子供がいたらあんな感じだったのかもしれないと思ったからなのか。

 

まったく。俺の差し伸べる手の、結ぶ言葉の、なんて薄っぺらいことだろうか。

 

俺は”彼女”が生きてくれさえすれば後はなんだってよかった。それ以外に願うものなんて何も無かった。

 

家族を喪った後俺はトレーナーを目指そうとは思えなくなっていた。そんなことを考えていられる余裕なんて無い。

 

それでも俺はトレーナーにならなければいけない。他でもない家族が後押ししてくれたことだから。

 

そんな中出逢った”彼女”。バイトと勉強に明け暮れる中とうとう孤独と不眠に耐えかね飛び出してしまった俺に甘ったるい蜂蜜ドリンクを差し出してくれたヒト。

 

今もこれからも変わらない俺のただ一人の恋人だ。”彼女”と出逢った瞬間から俺がトレーナーになる理由なんてとっくに消えていたんだ。

 

誰かを本気で好きになったことは初めてだったしそれが最後でよかったとも思う。

 

クサイ言い方かもしれないが愛していた。今でも誰よりも何よりも大好きなヒトだ。誰よりも俺のことを理解してくれて、俺も”彼女”を誰よりも大切に思っていた。今考えるとお互いに依存していたのかもしれない。それでも俺は幸せだった。

 

幸せだったんだ。”彼女”は子供を作ることが叶わない体だったが構わなかった。病に蝕まれて痩せ細っていく”彼女”も俺は愛していた。だけどもし俺たちに子供がいたら、あんな感じだったのかな。なあ。

 

”彼女”は命尽きる直前、俺に『幸せだった』と言ってくれた。あなたと会えてよかった。今までありがとう。そんなありきたりで安っぽいドラマにでも出てきそうな、陳腐で愛おしい言葉をいくつも貰った。

 

俺は恋人であるヒトにどうしてやることもできない。俺はトレーナーでしかなかったから。病状を診ることも治してやることもできやしなかった。

 

俺が見守る中、”彼女”は安らかにその生涯を終えた。あまりにも早すぎる死を悼むように蝉が鳴いていたのを覚えている。

 

そしてあの夏芽吹いた若葉がまとめて散った後、俺はトレーナーになった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「じゃあ……ボク、走っていいの?」

 

 

”彼女”がいない現実を受け止めながらあの夏伝え損ねた言葉を今でも用意し続けている。明日にでもすぐ言い出せるように。

 

 

「うん……うんっ!

えへへ……ありがと、トレーナー!」

 

 

永久に埋まらない空席を手持ち無沙汰に抱えながら俺はこれからも生きていくんだろう。

 

俺の家族も恋人もきっとみんな俺の幸福を願っている。俺だから分かっている。

 

 

「うん!一緒に頑張るって約束する!」

 

 

だから、俺は幸せにならないといけない。

 

だから終わらせない。俺の見ている前で、もう誰も死なせない。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

今日はクリスマス!

 

トレーナーと一緒にゲームしてケーキを食べてパーティーだ!

 

……一時期は、レースに出走できるか分からなかった時があったけど、今は無事に走っていられてる。だからこれからも頑張るんだ。トレーナーと一緒に。

 

でも今日は待ちに待ったクリスマス。いっぱい楽しいことして思いっきり羽を伸ばそうっと。

 

 

「……悪い、忘れ物した。ちょっと待っててくれ」

 

「えー?早く戻ってきてよねー」

 

 

せっかく準備を済ませたのにトレーナーったら忘れ物?を取りに部屋を出ていっちゃった。

 

 

「…………」

 

 

初めてあのヒトの部屋に来たけど……なんだか寂しく感じる。

 

ボクも二人で遊ぶ用に色々持ってきたし飾り付けも(トレーナーが)済ませた。だけど部屋はどことなくガランとしてて、一人だとなんとなく窮屈。

 

……遅いなー……。

 

…………そうだ!

 

普段トレーナーの部屋に来ることなんて滅多に無い。しかも今は一人っきり。

 

だったら────探検するしかないよね!

 

 

「ふふんふーん♪」

 

 

こういういつもは行かないようなところを調べるのはとってもワクワクする。

 

普段はマジメなトレーナーだけどきっとすごいものを隠してるに違いない。

 

早速戸棚の一番上の段を開けて、

 

 

「──────」

 

 

………………?

 

何これ。

 

写真、写真だよね、これ、二枚の。あと、

 

──────指輪?

 

あーこれ、

 

ボクが見ちゃダメなやつだ。

 

しまおう。あ、最初に開けた時と同じようにしとかないと。

 

トレーナーはちょっと待っててって言ってたし大人しく待とう。ほら、テレビでも点けて。

 

…………。

 

………………。

 

……………………なんで考えちゃうのさ。

 

……あれって、トレーナーの写真だよね。トレーナーが写ってたんだし。

 

いやでも、学園寮にも家族写真を持ってきてる子なんていっぱいいる。別になんにもおかしいことじゃない。

 

じゃあ……あの切れ端って何?何かが燃えたみたいな布の一部。

 

それだけならまだ大丈夫だよ。なにも変じゃない。

 

だけど、

 

あの髪の毛はどう考えたって……

 

……もう片方の写真はトレーナーと女のヒトがいた。

 

指輪……普通片方だけじゃないの?それとも、渡す予定?

 

でも……あのヒト……すごいガリガリだった。笑顔も全然覇気が無くって。

 

…………悪いことしちゃったな。

 

 

「トレーナー……まだかな……」

 

 

それからも一時間近くトレーナーは帰ってこなかった。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「は……ぁあ……」

 

 

こうして夜道を歩いているとトレーナーになった夜のことを思い出す。

 

冬の冷気が骨身に染みる。寒さで震えが止まらない。目の淵から頬にかけて冷たくなる。そんなグチャグチャで最悪な感覚があの時の俺にはちょうどよかった。

 

今俺はどこに向かっている。早く帰らないと。テイオーが部屋で待ってる筈だ。

 

自分の息の音しか聞こえない。辺りはとても静かだ。

 

涙も流れないのに俺は夜空を見上げている。

 

彼女と一緒にいればいる程、昔のことを思い出す。彼女のトレーナーであることを自覚する度に俺は自分が最低な男だと気づかされる。

 

何かで心を埋めていたかったんだよ。仕事で忙殺していれば俺は許されるんじゃないかって。

 

でも、やっぱ駄目だよな。何かで無理矢理欠けを隠したって(あな)はどこまでも広がっていくだけで、そんなのお前が好きになった俺じゃないよな。

 

俺はきっと、あの日からずっと、皆から貰った愛情に生かされ続けている。

 

どこまで行っても感情を殺せず、幸せになるため生かされ続ける。果たしてそれは俺自身のエゴなのか、皆に託された呪いなのか、知る由もない。

 

 

「テイオー」

 

 

────テイオーに会いたい。

 

彼女の声が聞きたい。

 

彼女を、俺は今度こそ、

 

彼女はトウカイテイオーだ。俺の恋人でも妹でもない。俺にとって──何よりも大切な、大事な大事な担当ウマ娘。

 

もうテイオーだけは何があっても。

 

 

「帰ろう」

 

 

うん。帰ろう。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「……あのさ、今日だけじゃなくって────今までもありがと!」

 

 

三年間も終わったことだしいい機会かもしれないと思って、ボクは遊園地帰りに今までの感謝を全部ぶつけることにした。

 

……真正面から言うのはちょっと照れくさいから、隣を歩きながらだけど。

 

 

「…………はは」

 

「むー!なにその反応ー!」

 

 

結構勇気出して言ったのに、そんな微妙な笑顔で返されちゃったらこっちが恥ずかしくなっちゃうよ、もう。

 

 

「……とにかく!これからも一緒に頑張ろうね、トレーナー!」

 

「──────テイオー」

 

「あれ、どうしたの?」

 

 

トレーナーはいきなり立ち止まった。どうしたんだろ急に。

 

 

「もう何処にもいかないでくれ」

 

「行かないよ、どこにも」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

……トレーナーが何を考えてトレーナーをやってるかボクは知らない。ボクがどう思われてるのかも詳しくは知らないけど、大切に思われてるのは分かる。

 

今までこのヒトは、ずっと笑えなかったんだと思う。ボクといる時の態度とか時々見せる変な行動とか、過保護なところも今考えたら全部納得がいく。

 

ボクはこのヒトのことを何も知らない。あの写真に写っているのが誰なのかも直接聞いていないし、このヒトから何か言ってきたことだって無い。だから今考えてることは全部憶測。

 

今までたくさん助けてもらった。数え切れないくらいの力をもらった。だからその恩をいつか返したいなって思って。

 

ボクじゃトレーナーの『恋人』や『家族』にはなってあげられないかもしれない。それでも、ボクの『トレーナー』はこのヒトだけだから。

 

だから──頑張るんだ。トレーナーがいつか心から笑えるようになるまで……ううん、笑えなくても、ボクといるときぐらいは安らげるように。

 

キミはボクの……。

 

……最高のパートナーだから。

 

 























『トレーナーの家族関係にちょっと問題があった場合の話』ですが、アヤベさん(アドマイヤベガ)の話で書くことに決定しました

先に実装されたら多分また糸が切れると思います

トレーナーに兄や友人などの理解者がいた場合の話(尚理解者は話開始前に亡くなっている)を書こうと思っているのですが、誰に死んでほしいですか

  • 兄(テイオーに向ける憧れと酷似)
  • 弟(どこかテイオーと重なる)
  • 姉(最初の依存先)
  • 妹(どこかテイオーと重なる)
  • 娘のように可愛がっていた近所の子(どテ重
  • 幼なじみ(どこかテイオーと重なる)
  • 恋人(一番理解してくれて一番大切だった人
  • 友人(テイオー並にフレンドリー)
  • 複数人(上記の中から2〜3人+両親)
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