下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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赤テイオーのバレンタインチョコメッセージ(?)に頭を灼かれながら書いた超短い話です


















停滞する筈だった話

こうなることは元から望んでいた。

 

言ってしまえば本懐が叶った瞬間だ。だというのに、

 

 

「……そっかあ。ここが、終着点なんだ」

 

 

俺は喉奥から迫る、饐えた何かをこらえることに思考の殆どを割かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう、いいのか?悔いは……無いんだな?」

 

「あるに決まってんじゃん。……でもそうだね。やりたいことは大体やっちゃったから。──うん。大丈夫。だから、さ。そんな顔しないでよ」

 

 

 

三冠を達成しトゥインクルシリーズを終えた無敗の帝王は、故障を機に呆気なく引退することとなった。

 

皇帝を破り快進撃を続けていた中での負傷。彼女の足と俺の力では『初め』でしかない三年を終えるだけで精一杯だったらしく。

 

どんな手を尽くしても完治することはなく。再び走ることすら、土台無理な話だった。

 

 

「…………………………………ご「ごめんなんて言ったら怒るよ」」

 

「…………そうか」

 

 

涙は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかさあ、雲が遠いと空まで遠くなったみたいになるよね」

 

「そうか、言われてみればそうだな。……この年になって気づくことがあるなんて思わなかった」

 

「この年って。トレーナーまだ若いでしょ」

 

 

緩慢で怠惰な日々。捲られていくカレンダーが懲罰の証にも感じられるようだった。

 

走れなくなったからといっても修める課程はあるし世界は回る。

 

ただどうしようもない現実だけが、俺たちを容赦なく突き刺していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

 

独りで言って、独りで食べる。

 

一人きりのトレーナー室は薄暗く、太陽の明かりもどこか向こう側に思える。夢の終わった跡がそのまま部屋になったような侘しさがこの空間に詰め込まれているのではないか、と独り考えた。

 

俺はハッピーエンドとバッドエンドどちらも大好物だった。だから彼女の行く末を見届けようとしたのだが、辿り着いた先はどちらでもない、ただの終わりだった。

 

問題点としてはこれから先も他のウマ娘を見ていくだけの”熱”が俺にはないというところだろうか。

 

愛着が湧いてしまった、とでも言うべきか。

 

ウマ娘そのものに対しての感情が強くなりすぎた故に失うことが恐ろしくなった。卒業による別れ、怪我や故障による引退、どれも考えるだけで嫌になる。例え彼女たちの夢が叶ったとしても。

 

だから、そんな辛い思いをするくらいなら潔く辞めるべきだ。俺はそう思った。

 

 

「…………」

 

「や、空いてる?」

 

 

この部屋に来る誰かなんてテイオー以外いない。当然だ。彼女が初めての担当なのだから。

 

この数年でテイオーは大分大人びたように感じる。隣にいて『かっこいい』と思った事例も一度や二度では収まらない。

 

コツコツと松葉杖を突いて歩く姿は痛々しくありながらもどこか様になっていて、場が場でなければ見惚れていたくらいだ。

 

 

「なんでここに来たんだ。時間的にカフェテリア空いてるだろ」

 

「え、何。そんな嫌なのボクのこと」

 

「なわけあるか。……ここにいたってつまんないだけだって言いたいんだ」

 

「……食堂にいるとさ、気、遣われちゃうんだよね」

 

「あー……分かった。ゆっくりしていけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー…………キツいなあ。何がキツいって、こんな状態だとすれ違う度に同情の目で見られることだよ。

 

トレーナーもやる気無くしちゃってるし。あーあ。なんでこんなことになっちゃったのかなぁ……。

 

───夢は叶った。

 

それは間違いない事実。

 

走ってる時は楽しかったし、故障した時はもちろん辛かった。だけどやりたいことはやり終えたっていう達成感と、もう走れないんだって寂寥感が混ざり合ってなんだかよく分かんないや。

 

トレーナーは多分トレーナーを辞める。証拠は無いけど確信できる。

 

できるなら止めたいけど、今のトレーナーに──トレーナーだけに歩ませるのはなんだかとても残酷なことに思えて。

 

口出しはしないし踏み込みもしない。ただ隣にいる。そんな関係が今のボクたちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかイベントやってるっぽいね。行く?」

 

「そう……だな。行くか」

 

 

学園が妙に騒々しいと思ったらイベントが始まっていたらしい。顔を出してみるとVRウマレーターなるものを使っている生徒たちが見えた。

 

 

「……帰るか?」

 

 

脚は治りかけとはいえ無理な運動に耐えうる程ではない。ゲームやレースシミュレーションには少なからず運動を伴う。今の彼女は──場違いと言ってもいい。

 

 

「……もうちょっとだけ見てく」

 

「分かった」

 

 

彼女が何を考え何を見ようとしているのかなんて分からない。俺は、いつの間にか理解することすら放棄していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……よし、

 

そろそろ本気出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議で仕方がない。

 

 

「……すげえな。もうプロだろこのクオリティ」

 

「ま、天才だからね、ボク」

 

 

前々から気づいてはいたのだが何故テイオーは俺に好意を寄せてくれるのだろう。

 

こんな歪んだ人間と、誰とでも仲良くなれる彼女が釣り合う筈もないだろうに。

 

 

「ねえ、気づいてる?」

 

「?」

 

「ボクがどんな気持ちを込めてチョコ(これ)作ってたか、分かる?」

 

「……それなりには」

 

 

通例と化したバレンタイン。彼女からのチョコを受け取りながら、俺はまた嘘をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと考えていた。

 

俺は何がしたいのだろうと。

 

元々の目的は彼女の行く末を見届けることだった。

 

年若く才能に満ち溢れた少女が苦難苦節の果てに何を成すのか、何を失うのか。

 

その結果が今だ。俺は何が楽しくてトレーナーなんてやっているのだろう。

 

 

「お前はどう思う?」

 

「……まあ、トレーナーがちょっと『変わってる』のは知ってたけどさ、普通こんないきなり聞くかなぁ」

 

「どう思う?」

 

「…………えっとね~……」

 

 

幸い時間はたっぷりある。折角の機会だ。彼女の答えをよくよく噛み締めて聞くことにしよう。

 

 

「…………ボク、楽しかったんだ。トレーナーと一緒にカイチョーに挑んで、マックイーンと戦って……それだけじゃない。キミと走る日がずっとずっと、楽しくて嬉しかったんだよ」

 

 

……覚えている。三冠を達成した瞬間の熱狂を。皇帝を降した、彼女の笑顔を。

 

 

「トレーナーは辞めるつもりなんでしょ?トレーナーの仕事」

 

「よく分かったな」

 

「……ハァ……やっぱりそっかー……うん、でもまあ、うん、いいんじゃない。それはキミの自由なんだし」

 

 

最初で最後の担当ウマ娘がトウカイテイオーとは、なんと身に余る栄誉だろうか。最高に贅沢な辞め方で俺は今 任を退こうとしている。

 

 

「……でもね。ボクは、ボクのトレーナーがキミで良かったって、そう、思ってるから」

 

「そうか」

 

 

ならこれで話はおしまい。もう続けていく理由など──

 

 

「──俺、もうちょっと頑張ってみるよ」

 

「え?」

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そうだ、考えてみりゃまだやりたいことは山積みなんだ。トリプルティアラだって獲ってねえし、海外にも行ってない」

 

 

なんだ。心配しなくたって、このヒトはこのヒトだったんだ。

 

 

「金……そう、カネだって欲しい。俺はまだまだ生きてるんだから、もっと、もっと──そうだお前、まだ走れるか」

 

「え?だ、だってボクはもう走れないって──引退式だってあるし──」

 

「医者の話では、だろ?──何が引退だバカバカしいそんなもん取りやめだ取りやめ」

 

 

ヤバい。なんか変なスイッチ押しちゃったのかもしれない。

 

だけど──

 

 

「来いよ帝王。まずは一発、奇跡起こしてみろ」

 

「────うん」

 

 

この脚は確かに、疼き出していた。
































元は 停滞する話 としてお出しする予定でした

しかしバレンタインチョコを受け取った後のメッセージを見て気が触れて(ry
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