下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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「恋愛」をする話

どうやら俺は天才らしい。

 

飛び級に飛び級を重ね、15歳にして中央のトレーナーになったのだから。

 

そんな頭脳を持ち合わせておきながら何故トレーナーになったのか。答えは単純。誰もが美少女であるウマ娘とお近づきになりたい、あわよくば恋仲になりたいと思ったからだ。

 

 

「…………!」

 

 

というわけでやってきたトレセン学園。噂通り広いのなんの。

 

すれ違うウマ娘たちは俺の同学年だったり年上だったり年下だったりする。だがやはり、みんなしてツラがいい。

 

これからだ。これから念願のトレーナー生活が始まるんだ。

 

意気揚々と俺は踏み出していった。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「……ウソだろ」

 

 

惨敗だった。

 

挙げられる理由としては俺が若すぎること。何の実績もコネも無い、歳の近い俺についてこようとする物好きはそういない。

 

やはりどこかのチームに取り入って多少なりとも経験を積んでおくべきだろうか。

 

いやしかし……と考えながら歩いているといつの間にかゲーセンの前にいた。

 

ゲームは得意だ。与えられたタスクをこなせばいいだけの話だから。

 

 

「……暇つぶしには丁度いいか」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

……おかしい。どのゲームも一人の奴にランキングを独占されている。

 

『ワガハイちゃん』。コイツが全てのゲームを総なめしている。

 

よし、手始めにコイツを超えることにするか。

 

 

「よっ、ほっ……!」

 

 

馴染みのあるダンスゲームでハイスコアを狙う。これなら奴の牙城も崩せるだろう。

 

 

「クソ……!」

 

 

結果は二位。決して悪くない数字だが……一番を取れないのはどうもモヤッとする。

 

 

「おっ、キミ、中々やるね~」

 

「あ?」

 

 

声をかけられ振り向くと、そこには一人のウマ娘がいた。いや、肝心なのはそこじゃない。

 

──瞬間、衝撃が走った。

 

ソイツの容姿声帯共にストライクゾーンド真ん中をぶち抜かれた。一目惚れ、と言ってもいいくらいには。

 

 

「オマエ、名前は」

 

「ボク?ボクは未来の三冠ウマ娘、トウカイテイオーだよー!」

 

 

決めた。俺はなんとしてでもコイツのトレーナーになってみせる。

 

 

「あれ、そのバッジ……キミ、トレーナーなの?そうは見えないけど」

 

「失礼だな。これでもれっきとしたトレーナーだぞ」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

今日も足しげくゲーセンに通う。目標は『ワガハイちゃん』超えもといテイオーとの関係作り。

 

 

「今日も来たの?トレーナーって案外暇なの?」

 

「仕事なら済ませて、あるっ、からなっ……!」

 

 

苦節数日、俺はとうとう『ワガハイちゃん』の記録を塗り替えた。

 

 

「やるねぇ~、こりゃボクも本気ださなきゃね」

 

「……なんだと?」

 

 

あれから分かったことは、テイオーは俺の一個下で”天才”の類いのウマ娘だということ。

 

 

「よっ……と、はいボクの勝ちー」

 

「ウソだろ……」

 

 

俺が新しく打ち立てた記録は呆気なく覆された。てかコイツが『ワガハイちゃん』だったのか。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「よお」

 

「……わ、ホントにトレーナーなんだ」

 

「君が、噂の……」

 

 

お昼時にカフェテリアへ向かうとシンボリルドルフと共に食事をしているトウカイテイオーがいた。

 

シンボリルドルフが何かを言っている。噂って、俺が一体どうしたと言うのだろう。

 

 

「ボク、おかわりしてくるね!」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

「……噂って、何だ」

 

 

テイオーがいなくなったのを見計らって尋ねる。噂されるようなことをした覚えは無い。一体何が……。

 

 

「君については兼々伺っているよ。若くしてこの中央のトレーナーになった傑物だと」

 

「まだ俺は何の成果も出してない。決めつけるのは早いんじゃないか」

 

「フム……時にトレーナー君。彼女のことはどう思う?」

 

「彼女?」

 

「”トウカイテイオー”について」

 

「……期待できるけど、危うさもある」

 

 

連日聞かされた。憧れの会長がどうのと。確かにシンボリルドルフは強い。だが憧れは時に諦めへと繋がる。

 

焦がれているまま燻っているだけでは頂点には立てない。

 

 

「……そうか。フフッ」

 

「何がおかしいんだ」

 

「いや、君はやはり傑物だよ。それを再確認させられた」

 

 

……やっぱりこういった手合いは苦手だ。全てを見透かされているような感覚になる。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ねえキミ、ボクのトレーナーになってみない?」

 

「どういう風の吹き回しだ」

 

 

いつものようにゲーセンで悪戦苦闘していると、そんな言葉をかけられた。

 

コイツのトレーナーになれるならこちらとしても願ったり叶ったりだが、一体何故?

 

 

「んー、トレーナーなら正直誰でもいいんだけど……そろそろトゥインクル・シリーズに出走したいし、それならキミが丁度いいって思ったから、かな」

 

「俺はついでかよ。まあいいや。それじゃ明日トレーナー室来い」

 

「やった!これからよろしくね、トレーナー!」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「それでね!カイチョーはすっごいんだよー!今日だってボクに勝っちゃってさ──」

 

「前々から思ってたんだが、オマエ、悔しくないのか?」

 

「え?」

 

「なんで負けてんのに満足してるんだ?」

 

「満足って……」

 

「勝ってみたいって、思わないのか?」

 

「……キミならそれができるって言うの」

 

「ああ。当然」

 

 

起爆剤はセットした。後は火を付けるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

考えたこともなかった。カイチョーに……”皇帝”に勝つって。

 

でも、もし勝てたら。それはきっと──

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナー、ちょっと付き合ってくれない?」

 

「ん?別にいいが……何の用だ?」

 

「ボク一人だと緊張しちゃうからね。カイチョーにセンセンフコクしに行くんだ」

 

「フッ、そうか」

 

 

無事種は実ったようだ。というわけで当面の目標は無敗の三冠達成と”皇帝”超えになった。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「……やっぱ強えなアイツ」

 

 

走るテイオーを見ながら独り言をこぼす。

 

アイツは才能の塊だ。どこまででも走っていけるような、途方もないポテンシャルを備えている。

 

努力する天才と努力する天才が組んだ以上、負けはあり得ない。事実今日まで模擬レースで負けたことはシンボリルドルフとの一戦以外無い。

 

まずはこのまま一冠、皐月賞を目指す。

 

それはそれとして……

 

やっぱ可愛いなアイツ。なんというか、眺めているだけで心が満たされるというか。

 

ウマ娘は誰もが美少女だがテイオーは特にぶっ刺さる。アイツの何が琴線に触れるのかは分からないが、俺はすっかりテイオーの虜になってしまっていた。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「ッシャア!俺の勝ちだ!」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

気分転換にとやってきたゲーセンで、俺はとうとうテイオーに勝利した。

 

頬が熱くなる。長らく苦汁を嘗めさせられた後の勝利は格別の味だ。

 

 

「UFOキャッチャーは下手なのに……」

 

「アレは確率の問題だろ」

 

 

そうは言ってみせたが、実際俺はUFOキャッチャーが苦手だった。

 

どんだけ金を注ぎ込んでも全く取れる気配が無い。あんな単純なつくりなのにどうして失敗するのだろう。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

皐月賞。テイオーは一着を獲ってみせた。

 

 

「……ふぅ」

 

 

深呼吸をする。初のGⅠということもあり、えもいわれぬ高揚感が俺を支配していた。

 

滑り出しは好調。アイツなら、三冠達成も夢じゃない。そう思わされる程強い走りだった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

自分で言うのもアレだけど、ボクはきっと天才だ。

 

昔から大抵のことはなんでも出来た。勿論、レースだって。

 

ボクのトレーナーもきっと天才だ。ボクより一つ上なだけなのに中央のトレーナーになってるし。

 

そんなボクらがタッグを組めば向かうところ敵無しだ。

 

皐月賞もヨユーだったし、次は日本ダービー!

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「何そのノート」

 

「これか?オマエについてまとめたノート」

 

「へえ……ちょっと見せてよ」

 

「なんでだよ」

 

「いーじゃんちょっとくらい」

 

「……ったく、ほらよ」

 

 

渡されたノートにはボクの走り方のクセからトレーニングメニューに至るまで事細かく書かれてあった。

 

 

「へー……よく見てるね」

 

「これでもトレーナーだからな」

 

 

にしたって……いやホントによく見られている。ボク自身も気づかないところまで。

 

 

「……なんだよ」

 

「いや、改めてキミってトレーナーなんだなーって思いしらされたよ」

 

「フフッ……なんだよそれ」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「敵そっちいったよ~」

 

『オッケー……ハイやりぃ』

 

 

トレーナーは飲み込みが早い。初めてやるゲームでもすぐに上達する。

 

今やゲームはボクたちのコミュニケーションの一環となっていた。

 

 

『……ぷはぁ、ちょい休憩しよう。三時間ぶっ続けは腰にクる』

 

「んぎぎぎ……そうだね。休憩しよう」

 

 

今日は休みの日ということで通話しながらFPSをした。たまにはこういう日があってもいいかな、なんて思ったり。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

準備万端、日本ダービーの日がやってきた。

 

仕上がりは上々。この場にいる誰もがテイオーの勝利を確信している、そう言ってもいい程の期待に包まれていた。

 

そしてアイツは勝った。これで無敗二冠を達成したことになるが、それよりも目を引いたのは。

 

 

「……アイツ、どうしたんだ?」

 

 

歩様がおかしい。心なしかいつもより足を引きずっているような……。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「骨折です」

 

「────え?」

 

「えぇぇえっ!?」

 

 

あれから気になって無理やり検査を受けさせたら、そんな返答が返ってきた。

 

 

「それじゃ──菊花賞は!?」

 

「残念ですが……」

 

 

諦めろ、と暗に告げられた。

 

事態が飲み込めていないのかテイオーは唖然としている。俺も現実を受け入れられなかった。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「入るぞ」

 

 

ノックしてからトレーナー室に入る。返事は無い。相変わらず茫然自失とした様子だった。

 

 

「……ねえ、トレーナー」

 

「……なんだ?」

 

「病院を変えてみようよ。ほら、医療ミスってこともあるしさ」

 

「……テイオー」

 

「いやーおっちょこちょいだよね先生も。こっちはなんでもないのに骨折だなんてさ」

 

「テイオー!」

 

「…………っ」

 

「……聞き分けろ。オマエの足は折れている」

 

「っ、そんなの、受け入れられるわけないじゃん!」

 

 

コイツの動揺も尤もだ。菊花賞に向けて追い込む筈が、こんな事態になるなんて。俺も思いもしなかった。

 

 

「なんとかしてよ!トレーナーでしょ!」

 

「……すまない」

 

 

……どこかで油断していた。俺たち二人ならなんだってできると思っていた。

 

その結果が今のこの状況だ。

 

俺たち二人の、初めての挫折だった。

 

お互いにどうしても諦めきれないということで必死のリハビリに取り組んだが、現実は甘くなかった。

 

結局菊花賞には間に合わず、復帰は来年へ持ち越しとなった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

三冠の夢は、叶わなくなった。

 

分かってる。トレーナーも精一杯色んなことをしてくれた。それでも菊花賞には間に合わなかった。

 

……なりたかったなあ。三冠ウマ娘に。

 

…………それでも、それでもボクの夢に終わりは無い。三冠がダメなら無敗のまま突き進む。”皇帝”超えだってまだしていない。

 

復帰戦の大阪杯。今度はそこで勝ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

大阪杯を一着に終えたテイオーはライバルであるメジロマックイーンと戦う為、天皇賞・春に出走することになった。

 

 

「どうだった」

 

「ん?いいレースだったぞ」

 

「そういうんじゃなくて、マックイーンに勝てると思う?」

 

「……五分五分ってところだな」

 

 

メジロマックイーンという強敵や怪我の影響もあり、今まで通りに上手くいくとは思わない。ましてや舞台は相手(ステイヤー)の土俵。

 

だがここで諦めては話にならない。最終目標はあの皇帝。俺が上手く調整させなければ。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「おいテイオー、資料もっ、て、き……」

 

 

対メジロマックイーン戦に向けてトレーナー室に直近の奴のレース資料を持って行くと、机に突っ伏して眠っているテイオーがいた。

 

 

「…………」

 

 

刹那、目を奪われた。眠っているテイオーの顔があまりにも綺麗で。

 

思考を切り替えコイツの体をソファーに運んでいく。……この小さな体で、あんなに凄いレースをしているのか。そう思うとよく分からない感情が浮かんでくる。

 

 

「んぇ、トレーナー……?」

 

「いい。寝てろ」

 

 

それだけ言うとすぐに眠った。……少し疲労が溜まっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーってボクのこと好きなの?」

 

「ブホェッ!?」

 

 

自分でも唐突だなと思ったけど、ふと気になったので聞いてみることにした。

 

そしたらトレーナーは口をパクパクさせて、誰の目から見ても明らかに動揺していた。……そんな変な質問だったかな。

 

 

「ゴフッ……急に、何を言うんだ」

 

「……なんとなく?」

 

「…………そりゃまあ、最低限は」

 

「ふーん……」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」

 

 

いける。このまま行けば、マックイーンに勝て──

 

 

「────ッ!?」

 

 

ウソだ、速すぎ────

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

無敗の夢は、叶わなくなった。

 

まだ残っているのは皇帝を……カイチョーを超えること。でもどこか宙ぶらりんな日々を送っていて。

 

そしてなにより、

 

 

「骨折って……また?」

 

「……らしいな」

 

 

また、怪我をした。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

空気の抜けた風船みたいだ。

 

無様に地面に這いつくばって、ただ見てるだけ。

 

トレーナーはボクの為に昼夜問わず奔走している。分かってる。分かってる、けど。

 

……つらい。

 

みんなにも心配されて、それでも大丈夫だって虚勢を張って。

 

……もう、分かんないよ。どうやって走ればいいか。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「入るよ」

 

 

返事は無いけど部屋に入る。すると、トレーナーは眠っていた。

 

 

「…………」

 

 

ここ最近、トレーナーも神経が張り詰めているようだった。ボクの足を治す為にあらゆる手を使って。

 

そんなトレーナーを見ていると────

 

 

──ドクン。

 

 

あれ?

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

完全に俺の誤算だった。

 

初めて出逢った時からそうだった。

 

コイツとならどこまでも行けると、その驕りが今の状況に繋がった。

 

──それでも。

 

テイオーに勝ってほしい自分がいる。今までの俺だったら決して考えられない感情だ。

 

惚れていた。

 

そうだ。俺はトウカイテイオーに惚れていたのか。

 

……ならば。やるべきことは一つ。

 

テイオーを最後まで信じること。それが今の俺にできる最大限だ。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

あれから、トレーナーのことを見たり考えたりすると胸がドキドキして、どうしようもないくらいに熱くなるようになった。

 

気分が沈んでいてもトレーナーのことを思うと心臓が高鳴って、それで……。

 

 

「テイオー?どうした?」

 

「……なんでもない」

 

 

トレーニングにも、どこか身が入らなくて。

 

 

「明日、気分転換にどっか行くか」

 

「…………うん」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

色んな所にいった。ゲーセンだったり、カラオケだったり、服屋だったり。

 

 

「今日はありがとね、トレーナー」

 

「別に。俺も楽しかったし」

 

 

この感情がどういうモノなのかは分からない。けど、なんだか悪い気はしなかった。

 

そして、

 

三度目の怪我が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

三度目の絶望に心が揺らいだ。

 

俺はテイオーを信じる。その決意すらも今は不確かで、ホントに俺がトレーナーでよかったのか、なんて考えてしまう。

 

……クソ。ダメだダメだ。こんなんじゃいけない。トレーナーとしてもっと、もっと強くあらないといけないのに。

 

『以前のような走りはできない』というのが医者の見立てだった。例え完治しても今までのようにはいかないと。

 

……俺は、俺はテイオーが好きだ。アイツが望むなら何回だって立ち上がらせてみせる。

 

だけど本人にその意思がなければ……俺は何もしてやれない。

 

全てはアイツ次第だ。諦めるか、もう一度立ち上がるか。

 

アイツが引退を望むなら、俺はそれに殉ずる。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

もうあんなふうには走れないんだ。

 

マックイーンの走りを見てから、その思考はより一層強くなった。

 

……引退すれば、この苦しみは無くなってくれるのかな。

 

なのに……なのに。なんで?

 

なんでボクの足はこんなに疼いているんだろう。

 

 

トレーナーなら、ボクが諦めても一緒に墜ちてくれる。

 

その事実が皮肉にもボクを安心させていた。

 

 

『──一緒に墜ちてよ、トレーナー』

 

 

そう言ってさえしまえば後は楽だ。これ以上踏ん張る必要もなくなって、勝手に転がり落ちていくだけだから。

 

なのに

 

どうしてボクの足はこんなに疼いているんだろう。

 

 

「キミはどうしてそんなに諦めないの?」

 

 

ある日、トレーナーに尋ねてみた。

 

 

「──そんなの、決まってる。オマエを信じているからだ」

 

 

返ってきたのはそんな言葉。

 

 

……ああ、そっか。そうだよね。

 

無理かもしれない。必死に足掻いたって、沈んでいくだけかもしれない。それでも。

 

好きなヒトの前でくらい、カッコつけたい。

 

 

ボクは──トレーナーが好きだ。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、まだ、まだ……!」

 

 

療養を終えて、ボクはただひたすらに突っ走っていた。

 

これじゃ足りない。もっと、もっと強く。

 

 

「──よし!ここで一旦終わりだ」

 

「ハァ……ハァ……ふう」

 

 

いつからだろう。トレーナーの目を見て話せなくなってしまった。視線が合うと、つい逸らしてしまって。

 

 

「……ねえ、トレーナー」

 

 

そんな情けなさも今日で終わりにしよう。ボクは、走るんだから。

 

 

「なんだ?」

 

「──いつもありがとう。それだけ」

 

「……おう」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

トゥインクル・シリーズ最後の大一番、有記念。

 

カイチョー以外にも名だたる面子が揃っている。

 

それでも関係ない。ボクは、必ず勝つ。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

残り200m。会場は既に爆発的な歓声が巻き上がっている。

 

なあ、テイオー。聞こえるか。オマエの走りを望む声が、こんなにたくさんあるんだぞ。

 

行け、勝て、走れ、トウカイテイオー!

 

 

「いけぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!テイオォオオォオオオッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

最終直線に入った。前を行くのはビワハヤヒデと()()()()()()()()

 

負けたくない、負けるもんか、負けてたまるか──!

 

ここまで何度も折れてきた。もうダメかもしれないって何度も思った!

 

だけどもう負けない!トレーナーが見ているんだから──!

 

 

「うああああああぁぁあああぁっっ!!!!」

 

 

そして、勝ったのは────

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

『トウカイテイオーだ!トウカイテイオーだ!トウカイテイオー!奇跡の復活!』

 

 

涙で前が上手く見えない。

 

ホントによくやった。あそこまで追い詰められながらよくここまで。

 

 

「……あ、トレーナー……」

 

 

ウイナーズ・サークルに立つテイオーに駆け寄り、夢中で抱き締めた。

 

 

「へ……あっ……!?と、トレーナー!?みんな見てるよ!?」

 

「ホントに……ホントに、よくやったなあ、オマエ……!」

 

 

涙で顔中くしゃくしゃで、とても見せられる表情じゃなかった。

 

 

「……うん。ありがとう、トレーナー」

 

 

抱き締め返される。

 

こうして、俺たちの有記念は終わった。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「あー楽しかった。キミはどう?」

 

「いやあ、舐めてたけど遊園地って楽しいモンなんだな」

 

 

トゥインクル・シリーズが終わり、俺たちは遊園地に来ていた。年甲斐もないことだが、あちこち回りきってすっかり満喫していた。

 

 

「トレーナー、背伸びたね」

 

「成長期だからな。こんなもんだろ」

 

 

その発言は単に見てくれの高さだけを言われたものではないだろう。確かに、俺は変わった。

 

 

「なあテイオー」

 

「なに?」

 

 

少し唐突なことだが、それはあちらも同じだ。相応に困ってもらおう。

 

 

「オマエ、俺のことが好きなのか?」

 

 

意趣返しも兼ねて冗談めかして言うと、

 

 

「うん。好きだよ」

 

 

そう返ってきた。

 

 

「……へ?」

 

「トレーナーもそうでしょ?」

 

 

それどころか、見透かされていた。

 

 

「……話変えるぞ」

 

「?いいけど」

 

 

いつか聞いてみようと思っていたことだが、この際全部言ってしまおう。

 

 

「俺がトレーナーで、よかったか?」

 

「うん。キミは、最高のパートナーだったよ」

 

「──フッ。そうか」

 

「ねぇねぇ、ボクは?」

 

「……最高のウマ娘だった」

 

「へへ、でしょ?」

 

 

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