下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
「……こいつは参ったな」
「あれ、トレーナー何見てるの?」
月刊トゥインクル。有力ウマ娘の記事や次のレースに出走するウマ娘について書かれているため、トレーナー勢でも購入するヒトは多い。
そこで目を惹いたのはこの特集記事。トウカイテイオーの有馬記念。奇跡の復活劇についてなのだが……
「うわ、ドアップで撮られてるじゃん」
「なんだよなぁ」
レース終了後に俺がテイオーを抱き締めたことが丸々二ページ使われて書かれている。
『若くして奇跡を起こした神童トレーナー』などと見ているだけで恥ずかしくなるような見出しと共に、俺たちが抱き締め合っている写真を背景に事細かくやや誇張した文面がはっつけてあった。
「でも実際トレーナーも凄いと思うよ?ボクが言うんだから間違いないって」
「そうか?ならいいが……」
最近俺に対しての取材が多かったのはこれが理由だったのか。
別に嫌とは感じないが……担当ウマ娘より認知されてどうしろととは思う。
まあ幸いにもテイオーのネームバリューは豊富だ。俺の知名度に埋もれることはないだろう。
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「あそこのゲーセン新しいの出たって」
「そうか……行くか?」
「うん。行こう行こう」
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ゲーセンにいくと人だかりができた。単純に俺たちのプレイが上手いのもそうだが、膨れ上がった知名度も後押しになっている。
だがやはりこういった状況には慣れているのか、テイオーは見事に勝ちファンサまでやってのけた。
「……やっぱオマエ凄いな」
「でしょ?もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「ハッ、コイツめ」
帰路につきながら軽い言葉を交わす。
────あぁ、今、すごい幸せだ。
▫▫▫▫▫
「はぁ、はぁ、やった……!」
今日のレースも無事に勝てた。ウイニングライブの時間待ちで控え室に戻るとトレーナーがいて。
「……勝ったよ」
「ああ。よくやったな」
そんなトレーナーを見ていると、ふとイタズラ心に近いものが込み上げてきた。
「ねえトレーナー」
「ん?」
「ボク、勝ったよ」
「そうだな」
「勝ったんだよ」
「……なんだよ。急に」
「だからさ、ほら、」
両腕を広げる。
「ちょっとくらいご褒美があってもいいと思うんだ」
半分ふざけて、半分本気でそんなことを言ってみせた。
「……後悔すんなよ」
「え?わ────っ」
抱き寄せられる。唐突なことで軽く混乱した。言い出したのはボクの方なのに。
「……キミ、緊張してる?」
「当たり前だろ」
トレーナーの鼓動はドクドクと激しくて、今にも心臓が飛び出してきそうなくらいだ。
……ヤバい。ボクもボクでドキドキしてきた。
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それからというものレースで勝つ度に……アレを………………ハグを、求められるようになって。
あれはヤバい。心がふわふわして、何も考えられなくなる。
「ねえトレーナー」
「……今度はなんだよ」
そんな、ふわふわして放心状態になってる時に声をかけられた。正直返事をするだけで一杯一杯なのに。
「今年の”ドロワ”、ボクの”デート”になってくれない?」
「…………は?」
は?
▫▫▫▫▫
リーニュ・ドロワット。通称ドロワ。
トレセン学園で開かれるダンスパーティーで、これまで多くのウマ娘が参加し、”ベストデート”の称号を掴み取ってみせた。
テイオーも勿論参加経験ありだ。メジロマックイーンとのコンビでベストデートに輝いたこともある。
「だからってこんなん無理だっつーの!俺ただのトレーナーなんだぞ!?」
「大丈夫だって。ボクがリードするし」
「てかそもそもトレーナーが参加してどうするってんだよ!絶対浮くって!」
「カイチョーに聞いたらオッケーって言ってたよ?それにキミもボクたちと年齢近いし大丈夫だよ。だからほら、立って」
「~~~…………ちくしょう、負けたら責任取れよ……!」
どういうわけか俺がテイオーと組むことに。
……なんにせよ、やるからには全力で、だ。一番になるのは、俺たちだ。
▫▫▫▫▫
トレーナーはやっぱり要領がいい。
なんだかんだ言いながら動きにはしっかりついてこられてるし、アドリブにも対応してみせた。
トレーナーがリーニュ・ドロワットに出るなんて前代未聞の事態だ。カイチョーもちょっと驚いてたし。
出られる理由は向こうの若さにある。ボクと一個しか違わない、圧倒的な若年男性。多分この学園の中で最年少のトレーナーだ。
ボクがトレーナーと組むとなって、好奇心と野次ウマ根性のこもった視線を投げかけられることも増えた。そんな奇異な目線も、吹っ飛ばせるくらいになるまで練習したつもり。
いよいよ本番だ。デートの準備はできてるかな。
「スゥゥゥゥゥ……フゥゥゥゥ……よし、行けるぞ」
「よし、じゃ、行こっか」
▫▫▫▫▫
足取りを合わせる。呼吸を整え、時には俺が、時にはテイオーがリードを取り事を運んでいく。
視線を感じる。なにせ俺が初めてのトレーナー勢出場者だから。
硬くなるな。動け。ミスをするな。今日の主役は俺たちなんだから────
「トレーナー」
刹那、声をかけられた。目線だけで分かる。コイツが語ろうとしていることを。
──大丈夫。ボクがいる。
「──ッハ──」
ああ。なんだ、これ。なんだろう。
よく分からないけど、今ならハッキリ言える。
楽しい。俺はダンスを楽しんでいるのか。
頬が緩む。ボルテージは最高潮のまま時は流れ、そして────
▫▫▫▫▫
「今日までありがとねトレーナー。付き合ってもらっちゃって」
「いや──よかった。あぁ。楽しかったんだ、俺」
なんとかベストデートの称号をもぎ取った俺たちは、二人で軽い祝賀会を開催していた。
自分でも意外だった。あの”熱”が、歓喜がこれほどまでに心地よいものだとは思いもしなかった。
「参加してよかった?」
「……おう」
思い返してみると中々に恥ずかしいことをしたのではないか、と微かに後悔する。が、それでも尚胸を張って言える。
「オマエがデートでよかった」
「ふふ、ボクもだよ」
▫▫▫▫▫
「トレーナー……」
「……どうした?そんな深刻そうな顔して」
「……また、足が」
「………………え?」
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医師から説明を受けている間、トレーナーは今にも死んでしまいそうな顔で話を聞いていた。
それもそうだろう。三度の骨折を経てアフターケアは怖いくらいにさせてきた。それなのにこの事態を避けられなかったんだから。
いよいよもって引退か──レース雑誌にはそんな触れ込みが回っていた。
「……んでだよ」
「え?」
「なんでオマエばっかり、こんな……!」
血が滲み出てきそうな程に固く握り締められた拳。
トレーナーは怒っていた。ボクを否が応でもレースから遠ざけようとする運命に、気づけなかった自分自身に。
……正直、トゥインクル・シリーズを終えて燃え尽きてしまった感はある。目標だったカイチョーを超えて、ボクなりの全力を出しきって。
だけど。
それでも。
ボクがウマ娘である限り、トレーナーが傍にいる限り、ボクは諦めない。
「トレーナー」
「……なんだよ」
誓っちゃったもんね。キミにカッコいい所見せるって。
「ボク、勝つから」
奇跡なんて、何度だって起こしてみせる。
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四度目の怪我。
普通であれば絶望してしまいそうな状況だというのに、テイオーは真っ直ぐ前を向いている。
……だからだろう。
そんなアイツだからこそ、俺は今も信じていられるのだろう。
アイツは再び蘇る。
もう運命なんて知ったことか。俺たちが、この世界の主人公なんだ。
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レースもウイニングライブも大歓声に包まれながら終わった。何度倒れかけても立ち上がり続けるその姿に、ファンも涙していた。
俺は
「オマエに一つ言っておきたいことがある」
「なに?そんなかしこまっちゃって」
トレセン学園に帰宅している最中、俺は声をかけた。
テイオーはすでに
「俺は、オマエが好きだ」
「うん。ボクもキミが好きだよ」
その一言を言ったと同時に爽やかな開放感が吹きつけた。長らく抱えていたつかえが取れたような、清々しい気分だった。
そして──
「…………っ」
「あはは、トレーナー顔赤すぎ」
途方もない羞恥心に襲われる。こんな、告白まがいのことを平然と言うなんて。
──まあ、でも。言いたいことは言った。
「ねえ、腕を広げてよ」
体が固くなるのを感じる。まさか、いや、辺りに誰もいないとはいえ、ここで……!?
考えるよりも先に体は動いていた。両腕を上げ、完全にコイツを迎えようとして──
「えい」
「ちょ、オマ、あ……っ!?」
俺の胸に飛び込んでくるテイオー。要するに、また抱き締められていた。
「えへへ……ボクも大好きだよ、トレーナー!」
「────ああ。俺も」
トウカイテイオーは笑っている。なら、いいか。