下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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果てる話

「キミさ、ボクをエッチな目で見てたでしょ」

 

「……え?」

 

 

 トゥインクル・シリーズが終わり、ボクは温め続けていた爆弾を投下する。

 

 狼狽するトレーナーを見て、やっぱり間違っていなかったという確信と優越感が心を占めていくのを感じた。

 

 最低だ。そんな最低なキミが好き。

 

 

「なん、で。どうして」

 

「なんでもなにも分かりやすかったよ?まあ、ボクの洞察力がすごいってのもあるけど」

 

 

 本当に分かりやすかった。ボクに向けられる視線、そこに介在する欲求。

 

 もちろん、初めの頃は不快感があった。そんな風に見られるコトは今まで無かったから。

 

 でもトレーナーは変わった。時が経つにつれ本気でボクを支えようとしていたコトは確かに伝わってきたし、本心からボクを想ってくれていた。

 

 次第にボクはトレーナーに惹かれていった。良い面も、悪い面も、全部ひっくるめて。外面のいいこのヒトの卑しい部分を知っているのはボクだけという事実もそれを加速させる要因になった。

 

 

「…………すまな──」

 

「別に怒ってないよ」

 

 

 謝罪も弁解も求めていない。今はただ、この喜びに浸らせてほしい。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 ある日、トレーナー室に行くとトレーナーは頭を抱えていた。

 

 ……本当に分かりやすいなあ。

 

 

「もう、そんな悩まないでよ。ボクの夢を繋いでくれたのはキミなんだよ?」

 

「──だけど、俺はお前を裏切って……」

 

 

 このヒトは生きるのが下手だ。そんなところも含めて好きなんだけど。

 

 

「トレーナー、ボクを見て?」

 

「……ッ」

 

 

 強引に顔を掴んで視線を合わせる。恐怖の混じった眼差しに、ボクの心は熱を持った。

 

 そして、引き寄せる。

 

 

「トレーナーがいたから、今のボクはいるんだよ?大丈夫。世界がキミを否定してもボクだけは味方だから」

 

 

 一度は消えかけた三冠の夢。それを拾って、繋げてくれたのはこのヒトだ。

 

 ボクは無敗の三冠ウマ娘で、皇帝を超えた帝王だ。そうさせてくれたのは紛れもなくこのヒトだって、信じてる。

 

 ……ああ。やっぱり心底好きになっちゃってるんだなあ、ボクは。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 罰ならいくらでも受けるつもりだった。

 

 しかし俺に与えられたのは許しだった。

 

 その中に這い込む途方もない好意。若輩に過ぎない俺にはどうにも持て余すものだった。

 

 俺は確かにクズだ。担当ウマ娘を裏切って、背徳行為に耽って、私腹を肥やしたクソ野郎だ。

 

 だから……受け入れられない。どうして俺のようなクズに彼女は惹かれたのか。どこを良いと思ったのか。

 

 テイオーのためならなんでもしようという気概はある。だが、寄せられた想いへの返答は掴めないままだ。

 

 仕事は安定してできている。かけだしだったあの頃とは違い、コツや手法も熟知した。

 

 テイオーは相変わらず快進撃を続けている。となれば、問題は以前の目的がバレていたこと以外なく。

 

 ……俺は、裁かれるべきだ。彼女を裏切り続けていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 気にしなくていいって言ってるのになー。トレーナーはまだあのコトを引きずっている。

 

 

「ねえ、トレーナーは罰が欲しいの?」

 

 

 ハッとして顔を上げるトレーナー。なるほど、これがこのヒトの最適解だったんだ。

 

 

「じゃあ指出してよ。左手の」

 

 

 こちらの様子をうかがうようにおずおずと差し出される左手。ボクはそれを両手で掴んで──その薬指に歯を当てた。

 

 

「な──テイ──」

 

「静かにしてて」

 

 

 そして離すと──ほら、痕が付いた。

 

 気にしなくていいって言ったけどあれはウソだった。

 

 トレーナーは大人だ。ボクの気持ちに応えようとはしないかもしれない。目を背けて逃げるかもしれない。だから、一生の後悔、一生の罪、一生の傷として記憶に残り続けていたい。それがボクの求める罰。

 

 

「なんで、お前は、俺を」

 

「なんでって……。好きになっちゃったんだもん、しょうがないよ」

 

 

 これはきっとしょうがないコト。ボクの初恋は、最低なこのヒトに奪われちゃったんだから。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 もう受け入れるしかない。テイオーは俺のことが好きだ。

 

 まず第一に考えるべきだったのは彼女のことだ。俺は今まで何をしてたんだ?うだうだと贖うことだけを考えて、彼女の思いを無視して。

 

 テイオーのために俺は何ができる?

 

 俺の罪は許されるものじゃない。

 

 だから向き合わなければならない。大嫌いな俺自身に。そしてテイオーに。

 

 

「トレーナー、まさかとは思うけど他の子に粉かけたりしてないよね?」

 

「そんなのっ!……するわけないだろ。つうかどこで覚えたんだそんな言い回し……」

 

 

 部屋には俺とテイオーを除いて誰もいない。

 

 彼女は俺といることが増えたように思う。友達は少ないわけではないだろうに。俺の所為で友人関係が磨り減るようなことはあってはならない。

 

 

「いいんだよ。逃げたいなら逃げても」

 

「────」

 

 

 この立場から逃げる。甘い誘惑に一瞬その方向へ意思が傾きかけるが、それはあまりにも最悪なことだ。彼女を惚れさせといて、青春を滅茶苦茶にしといてハイさよならなんて虫が良すぎる。

 

 

「でも、逃がさないけど」

 

「……俺がそんなことをすると思っているのか」

 

「もしかしたら、ぐらいには考えてるよ。実際当たりでしょ?」

 

 

 図星だった。口をつぐむ俺を見て、テイオーは満足げに笑顔を浮かべる。

 

 

「……俺は、もう逃げない。俺自身からも、お前からも」

 

 

 自分自身に言い聞かせるように言葉を連ねる。言いながら決意を固める。

 

 

「それってトレーナーを続けるってコト?」

 

「ああ」

 

「ふーん……。ボクがいなくなっても?」

 

「…………それは…………」

 

「ごめん、イジワルな質問しちゃったね、ボクはどっちでもいいよ」

 

「いや」

 

 

 覚悟はとうに決まっていた。彼女に、彼女の走りに改心させられたあの日から、やるべきこともやりたいことも決まっていたんだ。

 

 

「俺は、お前が何よりも大事だ。だからお前が望むなら、いつまでも一緒にいる」

 

「…………へー」

 

 

 虚を突かれたように俺を見るテイオーだったが、その表情に喜色が浮かび始める。

 

 

「……いいの?」

 

「ああ」

 

「えへへ……そっかぁ……やったー……」

 

 

 ようやくちゃんと笑わせられた気がする。今はそれだけで十分だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 あの時の言葉を何度も反芻する。

 

 

『トレーナーの所為でボクはおかしくなっちゃったんだから、責任、とってくれるよね?』

 

 

 責任を取る。重苦しい、麗々とした響き。

 

 どこからどこまでが責任の範疇にあるのだろう。まあ、そんなことを考えたって俺のやるべきことは変わらないが。

 

 

「~~♪」

 

「これでいいか」

 

「うん。トレーナーも大分上手くなったね」

 

 

 彼女の髪を梳き、大きなリボンでひとまとめにする。

 

 彼女のモノになると誓ったあの日から、こんな感じの風景が見られるようになった。

 

 どうか俺に縛られないでほしいと願うばかりだが、テイオーはそれを許さない。離そうとするほどしがみついて離れない。

 

 喜びは無い──と言ったら、嘘になる。

 

 俺は自分で思っていた以上に彼女のことが大事らしい。改心させられてからというもの、彼女の幸福を望まない日は無かった。

 

 そしてその結果がこれだ。俺は選択肢を間違え続けた。

 

 しかし腹は括った。トウカイテイオーは笑っている。なら、今はこれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーの思いはよーく伝わってくる。

 

 毎日ボクのために色々なコトをしてくれるし、こっちが何かをしても拒まない。

 

 ボクは幸せだった。だけどそれとは裏腹に、別の欲求が首をもたげる。

 

 やっぱりボクは欲張りだから、トレーナーにも笑顔でいてほしい。

 

 そのためにはまずどうするべきか。ボクにできることはなんなのか、手札を確認する。

 

 ボクは間違いなくあのヒトのコトが好きだ。最低で最高な、ボクのパートナー。

 

 考えろトウカイテイオー。あのヒトをどうやったらボクと同じにできるか。

 

 ……振り返ってみれば、トレーナーはボクのコトをどう思っているんだろう。何よりも大事って言ってくれたけど、内心ボクを恨んでいるのかもしれない。

 

 ……そうだったら、怖いな。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ねえトレーナー。ボクのコトどう思ってる?」

 

「どう……とは」

 

「簡単だよ。好きとか嫌いとか、そんな単純なコト」

 

「…………」

 

 

 単刀直入に切り込むと、トレーナーは押し黙る。顔を赤くして。──これって、もしかして。

 

 

「マヤノじゃないけどさ、分かっちゃったよ。キミ、ボクのこと好きでしょ?」

 

「………………………………ああ」

 

 

 このヒトは間違いなくボクのコトが好きだ。自惚れじゃないと今なら断言できる。

 

 

「~~~~っ!えへへ……あは、あはははっ!ボクもだよトレーナー!ボクもキミが大好きだよ!」

 

 

 笑いが止まらない。こんなに嬉しくなっちゃっていいのかな。理性は感情に打ちのめされてもうボロボロだ。

 

 感極まって飛びつく。いきをするのがきもちいい。とれーなーのむねにいるとなにもかんがえられなくなる。

 

 

「……俺でいいのか?」

 

 

 背中に回す腕の力を強めることで返答する。当たり前じゃん。キミじゃないとイヤだよ。

 

 そうしてしばらく、門限ギリギリまでボクはトレーナーを抱き締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 思いを伝えた日から、テイオーは更に付きっきりになった。走る時も勿論、出かける時まで俺にくっついている。

 

 どんどん重みを増していく責任。彼女の純情を弄んだクズの末路にはこれが相応しいのかもしれない。まあ、不快感は一切無いから到底罰とは言えないが。

 

 

「ほらほら、行くよトレーナー!」

 

 

 飛び跳ねながら先を歩くテイオーに今日もついていく。

 

 俺が俺を許せる日はまだ遠いかもしれない。それでも、俺は彼女に望まれている。

 

 それでも、一度誓ったのだから。

 

 彼女と共に歩いていく。その現実が、今の俺には丁度よかった。

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