下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
⚠注意⚠
IFルートということでかなりメリーバッドエンド風味が強いです。
R15までとは行きませんがそこそこに過激な描写があります。
それと今更言うことでもありませんがオールシリアスです。
閲覧の際にはこれらの事にご注意ください。
トウカイテイオーの足が蘇ることはなかった。
奇跡というのは所詮ヒトが作り出した絵空事であり、彼女がそれにまみえる事などありえない話だったのだ。
1人の男が部屋の中で項垂れていた。
下卑た欲望に従った結果、トウカイテイオーのウマ娘としての未来は潰えた。お前がウマ娘としての彼女を殺した。
男の脳内を占めたのはそんな身勝手な自責の念。
トウカイテイオーの怪我に関してはこの男に責任はない。
実際の所、男は内面はどうであれトウカイテイオーの為に自分の時間を全て費やしてきた。
彼女の怪我が直らなかった理由は男の怠慢でも未熟さでもなく、残酷なまでの不運に見舞われたことなのだ。
しかし、男はこの期に及んでようやく自分の今までの過ちに気づいてしまった。
つまり男は彼女の不幸を自分を責める為の体のいい理由付けにしていたということだ。それはこの男自身でも許せるモノではなく、許されざるモノだった。
俺のせいだ。俺のせいでウマ娘「トウカイテイオー」は死んだ。俺が殺したんだ。
もう走れないと告げられた彼女の顔を見て、俺の胸は張り裂けそうだった。
今更な話だ。俺は彼女を走らせてあげたかった。彼女を勝たせてあげたかった。彼女を幸せにしてやりたかった。
遅すぎる。何もかも手遅れなんだ。俺というどうしようもないクズに騙され続け、その果てに彼女は殺された。
もう嫌だった。こんな人間の為に彼女は殺されるべきウマ娘なんかじゃあなかったんだ。
俺が死ぬべきなんだ。俺の使いようのない命で彼女の足を癒せるなら何度殺されようとかまわない。
──ハッ、俺は何を自惚れているんだ?俺ごときのくだらない命が、彼女の足と釣り合うとでも?
どこまでも傲慢なクズだ。俺のような塵芥がこれ以上何かをすることが許されるとでも思っているのか?
俺が死んだら彼女はどうなる?トレセン学園にどれだけ迷惑がかかると思っている?
うるせぇんだよ。俺は、俺がもう何をした所で彼女が救われることなんてなくて、俺はクズのままなんだ。
だったらもういい。どうせ俺はクズなんだから。俺はもう───「トレーナー…」
トウカイテイオーは泣き腫らして赤く充血した目で自分のトレーナーを見つめていた。
「ごめんねいきなり…でもキミに言っておきたいことがあって来たんだ…」
「…」
男はもはや言葉を返すことも出来ずにいた。
「──ありがとう。それと、ごめんね。ボクはずっとキミに助けられてきたのに、ボクは何もしてあげられなくて」
トウカイテイオーは泣いていた。ただ助けられてばかりの自分が情けなかった。
「全部…俺が招いたことなんだよ…」
「…トレーナー?」
「俺は、お前のパートナーになるべき人間じゃなかったんだ。俺がトレーナーになったのは、お前を勝たせたかったからでもトレーナーに憧れていたわけでもなくて、ただウマ娘と関わりたかっただけなんだよ…」
「何を…言ってるの?」
「俺がお前を選んだ理由だってそうだ。お前がただ好みの女の子だったから担当になりたいだなんて言ったんだ…。他のトレーナーを押しのけてまで…」
「…」
男は少女に何もかもを吐き出した。それを彼女がどう思うかも知らぬまま。
「…でも、キミはボクの為に頑張ってくれたよ。キミがいなかったら勝てなかったレースだってある」
「でももうダメなんだ。お前は走れなくなった。全部、全部俺のせいなんだよ…。
お前は何も悪くないんだ。俺のせいで「トウカイテイオー」は死んだんだ。…だから俺を憎んでくれ…許さないでくれ…」
「キミはどうしたいの」
「俺は自分を許せない…もうダメなんだ…」
床に倒れ込みそうな程に男は頭を垂れる。
少女は男に歩み寄った。
「トレーナー、ボクを見て?」
「……ッ」
顔を持ち上げられ視線が交わる。
涙で濡れる掌も意に介さず、彼女はそのまま手を滑らした。
首元に添えられた彼女の両手はとても温かかった。
「トレーナーは何も悪くないよ。いつもいつもボクの為に夜遅くまでずっと練習メニューを考えてくれたよね。そのおかげでボクは強くなれたんだから。」
「ボクが色々嫌になっちゃって言いたい放題言って当たり散らしてもトレーナーは許してくれたよね。トレーナーはボクがどんなに酷い子になっても支えてくれた。恥ずかしくて言えなかったけど感謝してるよ?いつもありがとう。」
「ケガをした時トレーナーは心配してくれたよね。眠れないボクに寄り添ってくれて朝も昼も夜も色んな所に掛け合ってくれて。あはは…ボク、走れなくなった事はすっごい悲しかったけど、トレーナーがボクの為にいっぱい傷ついてくれた事も笑ってくれた事も悩んでくれた事もすっごい嬉しかったんだ…」
黒く染まりかけた景色が色を取り戻していく。
酸素を取り込もうと脈動するかのように激しく痙攣を繰り返す体と、霞がかってボンヤリと薄れた意識はまるで夢の中の出来事のようで、男は心と体が剥離していくかのような不思議な感覚に囚われていた。
それでも尚彼女の声だけが鮮明に聞こえていた。
「だからトレーナーは走れなくなったボクをもう見てくれなくなるんじゃないかって思って怖くなった。」
「トレーナーの為ならボクはいくらでも走れたのに、それが出来なくなるって思ってすごく怖かった───────けど、トレーナーはボクのコトをウマ娘として見てなかった。そんな自分が許せなかった。そうだよね?」
答えることは出来なかった。それを認めてしまいたかった。
「だから──そうしてあげる。キミがボクのコトを見てくれる代わりに、ボクが罰を与えてあげるよ。もうボクはキミの為に走れないから。キミの為なら何でもしてあげる。」
「もっと早く気づいていればよかったなー。キミがそんなにボクのコトをスキだったなんて。ありがとうトレーナー。ボクもキミが好きだよ。誰よりも、何よりも」
上手く動かせなくなった左手が握られる。何かを確かめるかのように、強く。強く。
「
それを幸せだと思ってしまう自分がいた。彼女を殺しておきながら、俺は幸せになっている。
俺の罪が消えることは無い。俺は彼女を欺いていた。たとえ彼女の怪我が俺の引き起こした結果でなくとも。
それでも俺はテイオーが好きだ。ウマ娘でないテイオーだろうと、俺はテイオーが好きだ。
俺に彼女を愛する資格はない。俺が彼女の全てを奪ったのだから。
トウカイテイオーは走ることが全てだった。それを失った今、彼女に残されたのは俺という存在だけ。
これが贖罪になる訳がない。
それでも彼女には俺しかいない。
今の俺には彼女しかいない。
何度も何度も頷いた。
慈しむように頭を胸元に抱き寄せられる。彼女の鼓動は安らかで、温かかった。
テイオーの瞳は満悦に満ちていた。
抱かれながらも流れては止まらない涙の源は歓喜に打ち震える心か激しく呼吸を続ける肉体か。
俺も彼女も知ることはない。
「ただいまー」
「あっ、おかえりトレーナー!」
2人は何もかも捨てて逃げ出した。男はもうトレーナーではなく、少女はウマ娘ではない。
「「いただきます」」
同じ食事をつつく2人。
ある人が見ればそれを仲むつまじい親子と呼び、ある人が見れば初々しいカップルだと呼ぶだろう。
最早その程度で済む関係ではないのだが。
2人の表情に一切の曇りはない。
それでも何処かから漂う小さな不安。そしてなだらかな平穏を孕んだ奇異な空間がそこには形成されていた。
「テイオー」
「…うん、いいよ」
食事も終え、唐突に男は少女に話しかけた。
少女は傍に来たかと思うと、おもむろに男の肩に顔を近づけた。
男は少女の頭を痺れが弱く残る左手でぎこちなく撫でている。
しばらくして離れたかと思うと、男の肩には楕円形の跡が付きそれを中心として赤く皮膚が変色した。
トウカイテイオーは幸せになってしまった。
もう観客の歓声を受ける事も憧れのウマ娘から褒めて貰う事もないというのに、たった1人の男によって幸せになってしまった。
男は幸せになってしまった。
剥き出しの下心でウマ娘を育て、トレーナーとしての役目も果たせなかったというのに。
それでも少女といられる事を幸せだと思ってしまった。
少女は男の首元に未だ残る浅黒い痣を指先でなぞる。
それはまるでトレーナーとウマ娘というお互いを縛る鎖を無くしてしまった2人を繋ぎ止めようとする首輪のようだった。
やっぱ怖いッスね共依存は。
意地でもR15にしたくなかったのでトレーナーくんの苦しむ描写を省いてしまいました。
そしてどうしても書きたい欲を抑えきれずこのような重々しい物を作ってしまいました。
本当に申し訳ありません。