下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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20話(ビヨンド・ザ・ホライズン
)の続きです











超究極ハッピーカムカム心うまぴょいエンド

「────ごめん。よくわかんなくなっちゃった」

 

「そうか」

 

 

 また言えなかった。

 

 何度目かもわからない一方的な会話の打ち切りなのにトレーナーは眉一つ動かそうとしない。

 

 多分ボクがちゃんと言えるまでいくらでも待ってくれると思う。トレーナーはそういうヒトだから。

 

 とは言ってもいつまでもそれに寄りかかっているわけにはいかない。

 

 だから早く伝えなきゃって思って────

 

 ────結局言い出せないままズルズル引きずってきてしまってる。

 

 ボクは何を伝えたいんだろう。この気持ちの名前も正体も、わからないままだ。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、テイオーのトレーナー君」

 

「……お前は」

 

 

 シンボリルドルフ。生徒会長ともあろう者が、何故俺のトレーナー室に?

 

 

「少し話をしたいのだが、いいかな?」

 

「……ちょっと待ってろ」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 ……よし。仕事は一段落ついた。

 

 

「コーヒーでいいか?」

 

「ありがとう。では、それで頼む」

 

 

 普段だったらテイオーのために砂糖を入れていた。だが彼女から聞いた話では会長はブラックで飲んでいたということを思い出し、惰性で入れようとしていたところを押しとどめた。

 

 カップは二人分。こんな時のために来客用の物を買っておいて正解だった。

 

 

「それで、話ってなんだ」

 

「先ずは──ありがとう。君のおかげで彼女は私を超えてくれた」

 

「俺の助力なんて些細なものだ。アイツの才能と努力によるものだよ」

 

 

 それを言うためにわざわざここに来たのか?

 

 そんなことを考えているとシンボリルドルフはつらつらと語り始めた。

 

 テイオーは以前と比べて随分変わったらしい。生徒会の仕事にも興味を持ち始めているだとか。

 

 俺の知らない彼女の一面。改めて、俺は彼女に必要ないのだなと再実感する。

 

 

「何故俺と話そうと思ったんだ?」

 

「さしたる理由は無いよ。ただ君とは一度話しておきたかった、それだけさ」

 

 

 何故?困惑が覆い尽くすのを感じながら、俺はふと湧いてきた疑問をぶつけることにした。

 

 

「なあ、シンボリルドルフ。お前の言う『全てのウマ娘が幸せになれる世界』に、テイオーはいるのか?」

 

「勿論だ」

 

「そうか。ならよかった」

 

 

 そのやりとりを最後に、静かな時間が流れる。お互い言葉は無く、カップを置く音だけが響く。

 

 

「……君は、消えるつもりなのか?」

 

「どうしてそう思った?」

 

「…………いや、すまない。気にしないでくれ。コーヒー、ご馳走さま」

 

 

 シンボリルドルフは出て行った。

 

 ……消える、か。或いは、それもいいかもしれない。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 今日も今日とて彼女の走りを見る。あの三年間を経て研ぎ澄まされた走行は、見る者全てを魅了するほどに洗練されている。

 

 かの皇帝を超えた存在ということでいつの間にかギャラリーも増えていた。彼女のスター性を鑑みれば妥当と言える。

 

 

「はぁ、はぁ……これで終わり?」

 

「ああ」

 

 

 タオルとドリンクを手渡す。もう何百回と繰り返してきたことだ。

 

 

『……君は、消えるつもりなのか?』

 

 

 それも悪くないと思う。だが、それをするのは彼女を最後まで見届けてからだ。

 

 もう俺は大人だ。しなだれかかった責任を放り出していい理由はどこにもない。

 

 ……それに俺は、答えを得てしまった。

 

 誰かの苦しむ姿と喜ぶ姿が好き。しかしそれは一面的なものであり、究極に言えばただ皆と同じように過ごし同じように笑いたかった、それだけだった。

 

 俺は彼女()()のために自分を殺し尽くす。その意志は今も揺るがない。

 

 それでももし、もしも、この思いが許されるのであれば、俺は──どうすればいいのか。結局何も分からない。

 

 彼女は……テイオーは、俺から離れるべきだ。それだけは確かなことだ。なのに。

 

 なのに俺は──

 

 

「トレーナー」

 

「っ、ああ。どうした?」

 

 

 彼女といられるこの一瞬を、惜しいと考えている。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 あともうちょっとって自分に言い聞かせて、どれくらい経った?

 

 トレーナーは確実にボクに依存している。それを完全なものにするために、あとほんの少しだってことはわかってる。

 

 でも、ダメだ。この気持ちの伝え方も、トレーナーへの最後の一押しもままならない。

 

 あのヒトが自由に笑えるようになるまであとどれくらいの時間がかかる?……なんて相談、誰にできるわけもない。

 

 トレーナーについて考え事をする時間が増えた。友達と話す時もどこかであのヒトについて思考を巡らせている。

 

 

「テイオー」

 

「あれ、カイチョー?どうしたの」

 

 

 考えながら廊下を歩いていると、カイチョーに会った。今までのボクなら迷わず話しかけにいってたけど、最近はそうでもない。

 

 

「……何か悩み事はないか?」

 

 

 思わずギクっとさせられた。カイチョーの洞察力はやっぱりすごいな。

 

 

「なんにもないよ。今日もボクは絶好調だよ!」

 

 

 好調であることはウソじゃない。悩み事に関しては……まあ。

 

 多分きっとバレてる。でもそれをわかっていてわざわざ踏み込もうとしないのは、カイチョーの優しさだ。

 

 

「…………そうか。何か有事の際は迷わず私を頼ってくれ」

 

「……うん。ありがと」

 

 

 この切り札を、ボクは早々に使うことになる。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 歓声が場内に響き渡る。

 

 勝つのは好きだ。みんなに褒められる、そして認めてもらえるから。

 

 今日もボクは勝った。いつもなら大手を振って喜んでいたけど、最近は少し控えめになっている。

 

 

「ナイスファイト、テイオー」

 

「うん」

 

 

 トレーナーからも褒められる。けどあの時言ってたみたいに、()()()()()()()()()()このヒトは喜んでいる。

 

 それでもいいと思う。ボクの傷つく様と喜ぶ姿、それに対する気持ちが表裏一体だとしても、トレーナーが嬉しいならボクも嬉しい。

 

 ……?今、なんかわかったような……。

 

 

「どうした?」

 

「……なんでもない」

 

 

 笑ってみせる。するとトレーナーは苦しげにボクを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 テイオーはいつか俺の元を去る。その絶対が、今の俺を締め付けるようについて回る。

 

 こんなことなら、答えなんて得なければよかった。彼女たちのために自己を滅し続ける機械になりたかった。

 

 

「トレーナー君」

 

「……シンボリルドルフ?」

 

 

 グダグダと雑考に身を任せているとシンボリルドルフがやってきた。

 

 

「君たちは、一度ゆっくり話し合った方がいい」

 

「……や、やっほートレーナー」

 

 

 その後ろにはテイオーの姿。トレーニングにはまだ早いが、どうしたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのね──」

 

 

 二人きりの部屋。上手く伝えられるかはわからないけど、それでもしっかり踏ん切りはつけておきたい。

 

 

「ボクは──」

 

 

 このヒトが辛そうにしているとボクも辛くなる。このヒトが嬉しそうにしているなら、ボクも嬉しくなる。

 

 カイチョーへの憧れや恋愛的なものとも違う、たった一人に対する特別な気持ち。

 

 この思いの名前は今日も、そしてこれからも多分わからない。

 

 でも、ボクは、キミが自由に笑えるまで、キミの隣にいたい。

 

 ……ごめんね。わかりにくいよね、こんなこと言っても。

 

 でも、これがボクの全部。

 

 あの時──遊園地に行った時の笑顔を、もう一度見たい。そのためなら、このヒトをボクに思いっきり依存させたって構わない。

 

 これはエゴ。それでも、大切にしたい感情だ。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 後悔してないと言えば嘘になる。

 

 彼女の心を迷わせた挙句奪ってしまった。

 

 それが許されるものでないというのも重々承知している。

 

 テイオーが何故俺を心配してくれたのか、今まで考えたこともなかった。てっきり長らく共に過ごしてきた情によるものだと思っていた。まあ、それも多少はあるだろうが。

 

 そして、あの時の問いに対する解答も分かった。

 

 俺は、彼女の前で、笑っていた。

 

 そして彼女は、そんな俺の笑顔を求めていた。

 

 ──最初から、俺の求めているものは手に入っていた。

 

 しかしいいのか。こんなことが許されるのか。

 

 ……いや、違うな。

 

 元より誰かを笑顔にするために俺はトレーナーになったんだ。その本質がどのようなものであれ、俺は俺の生きたいように生きている。

 

 なら──ほら、テイオーがそこにいるだろう。

 

 出してみろ。答えを。

 

 

「俺は──」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 彼の部屋にテイオーを入れてから一時間は経過した。

 

 小心翼翼と笑われるだろうか。しかし心配なものは心配だ。

 

 トレセン学園の防音効果は優れている。ドアに耳を当ててみれば内部でどんなやりとりが行われているか分かるだろうが、他の生徒の前でそんな行動はとれない。

 

 テイオーは悩んでいる様子だった。三年間もの間共に歩んできたパートナーをどうしたら笑わせられるのかと、苦心惨憺して。

 

 しかし……彼とテイオーの関係は彼女から聞いた限りでは決して悪くない、寧ろ喜ばしい関係だと私は思う。お互い良い意味で心を砕いて接していたようだから。

 

 だから荒療治になることを覚悟して、彼女たちには腹を割って話し合ってもらうことにした。これが吉と出るか、凶と出るか……賭けになるが仕方が無い。

 

 ……!ドアが開く音がした。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はあの日、自分が何をしたかったのか知ることができた。その時点で解は出ている。

 

 俺は優しくもないし正しくもない。

 

 だから手を伸ばす。

 

 たとえ届かなかったとしても、冷たく固い自分のまま変われなくとも、俺は『彼女を想う自分』を目指し続ける。それが俺の……出した結論だ。

 

 

「テイオー……、トレーナー君」

 

 

 ドアを開けたすぐ先にシンボリルドルフがいた。こちらにも随分迷惑をかけてしまった。そんな憂いも払拭できるように、固く握った右手は離さない。

 

 

「ええと……その……君たちはどうしたんだ?」

 

「え?これからトレーニングに行くんだけど」

 

「ではその手は……いや、すまない。私はここで失礼するよ」

 

「うん。ありがとね、カイチョー」

 

「俺からも。ありがとうな、シンボリルドルフ」

 

 

 互いの手を固く結びながら俺たちは歩いていく。

 

 こんな結末は間違いかもしれない。

 

 だとしても、俺はこれを選んだ。なら後は先に進むだけだ。

 

 

「ねえトレーナー」

 

「なんだ?」

 

「辛かったけど、楽しかったよ。今まで」

 

「そうか。……俺もだ」

 

 

 いつか雪は溶けて桜が芽吹く。変わりゆく季節に思いを馳せながら、俺は一つ決意を固めた。

 

 二度と、もう二度と、この手は離さない。

 

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