下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
さて、まず前提として、俺はクズだ。
ウマ娘を性的消費したいがためにトレーナーになった、真正の天才なクズだ。
浮き足立っていた。何せこれから俺の性癖を満たすためだけに活動できるからだ。
「クク……」
これから俺の求めていたトレーナー生活が始まる。そう思うと高揚が抑えられなかった。
まあまずは担当探しだ。俺は意気軒昂の歩調で踏み出していった。
▫▫▫▫▫
十数日後……
▫▫▫▫▫
「ハア……」
今日も撃沈。しょぼくれた顔つきで公園に向かう。そこにはトレセン学園に入ってから顔なじみになったウマ娘がいた。
「あ、今日も来たんだ」
ソイツは俺の好みドストライクを貫いていた。
名前はトウカイテイオー。才気に溢れ、是非ともスカウトしたかったがこういうのはまず経験を積んでからだろうと思い、手を出すのは控えていた。
しかし俺の性癖と合ってなおかつ強い選手を選ぶとなると、もう尻込みをしていられない。
だが緊張する。本命を目の前にするとそれなりの威圧感があった。
「どうしたの?そんな難しい顔して」
ベンチで項垂れながら思考を巡らせているとテイオーは俺の隣に座った。やはりどんな姿も絵になる。
彼女との邂逅はスカウトに明け暮れていたとある日のこと。
▫▫▫▫▫
『ハァ……』
俺は何の実績も無しの新米。ついてきてくれる物好きはそういなかった。
頭を抱えながら公園のベンチに座っていると、
『……キミ、大丈夫?……あ、トレーナーなんだ』
胸に光るトレーナーバッジを確かめたのか不思議そうに俺を見つめるトウカイテイオー。もうその時点で俺の心は奪われてしまっていた。
とまあ、初対面は心配されたからというなんとも情けない出会いだった。
▫▫▫▫▫
「今日もスカウトしたんだが
「へ~……。にしし、これで会うの十回目だけど、キミってボクのこと好きなの~?」
「……さあ、どうだろうな」
目的がバレたのではと思い心臓が跳ねるが揶揄っているだけのようだ。大丈夫だ。まだ俺のうまぴょい計画は終わってない。
「それならボクが担当になってあげようか?ちょうど本格化も来たし」
「いいのか?」
「うん。正直トレーナーなら誰でもいいからねー」
……コイツ、俺たち大人を舐めてるな。まあいい。それはそれで曇らせ甲斐があるというもの。
「じゃあこれは契約だ。トウカイテイオー。お前の夢はなんだ」
「ボクの夢は無敗の三冠ウマ娘!しっかりついてきてよね、トレーナー!」
渡りに船、怪我の功名。──斯くして、契約は結ばれた。
▫▫▫▫▫
アタシはナイスネイチャ。
「なあっ、お前、俺の担当ウマ娘にならないか!?」
「──────え、アタシ?」
そんな中出会った彼。
トレーナーさんの口車に乗せられて、あれよあれよという間に契約を結ぶと、そこには焦がれてやまなかったウマ娘がいた。
「あれ?ネイチャじゃん」
「……テイオー」
分かってた。アタシに無い煌めきを持っていて、誰よりもキラキラしているソイツがトレーナーさんの一番だってことは、分かってた筈なのに。アタシは担当契約を持ちかけられたことで浮かれて、自分が″最初″だなんて自惚れて。
……バカみたい。
▫▫▫▫▫
いやー僥倖僥倖。
テイオーと出会えただけで十分すぎるくらいだったのに、ネイチャまで担当にできるとは。
トウカイテイオーは好みドストライクだったが、ナイスネイチャもめちゃくちゃタイプだった。
なので両方選ぶことにした。
計画は順調。俺の好みにウマ娘を育てられるのは至福の喜びだ。
仕事はもちろん忙しい。甘っちょろい覚悟でやってきた俺には少し大変なくらいが相応しいのかもしれない。だが、超絶美少女と交流できるだけで疲れはあってないようなものだ。しかも育て甲斐のある才能持ち。
テイオーはもちろんのことだが、ネイチャの脚も上物だ。本人はやや後ろ向きだが格上にも食らいつける刃がある。
「クク……」
思わず笑みが漏れる。こんなに楽しい毎日を過ごせるのだから。本当、トレセン学園に来てよかった。
「はあ、はぁ……終わったよ、トレーナーさん」
「ボクも終わったよ~」
「ククク……。ああ、よくやった」
夕暮れ時の陽光に照らされる美少女二人。もうそれだけでどうにかなってしまいそうだ。まったく、ジャージの下から伸びるトモが眩しいぜ。
「じゃあ、今日のおさらいをするか。まずテイオーからだが──」
俺は基本的によかったところを褒めて伸ばしていく。テイオーは調子に乗っているがそれに見合う実力がある。
対するネイチャは特に自信が無かった。まあ無理もない。同世代にはトウカイテイオーとかいう才女がいるからだ。
テイオーに負けて曇るネイチャを見て欲望を満たそうかとも考えたが、なんか彼女相手だとそう思えない。
と、いうわけでネイチャはテイオーの二割増しで褒めることにしていた。
「ネイチャは末脚の伸びがよかったな。戦術的にも、ここらを伸ばしていこう」
「はいよ~」
順風満帆な毎日だが、一つ引っかかる所がある。
「……なあネイチャ、言いたくなかったら言わなくていいけどよ、なんか悩みないか?」
彼女は時折、諦めたように笑う。
「ありがとね、心配してくれて。……でもトレーナーさんにはちょっと言いたくないな」
「……そうか」
「ねえねえ、ボクには?」
「……テイオー、気づいてないの?」
「何に?」
「やー……、ごめん。なんでもない」
▫▫▫▫▫
まず、トレーナーさんは最低最悪のクズヤローだった。テイオーは気づいてないようだけど明らかにアタシたちを『そういう目』で見ている。
『……なあネイチャ、言いたくなかったら言わなくていいけどよ、なんか悩みないか?』
原因はアンタだよ、と喉まで出かかった。
分かってたよ。アタシに大した武器はないってことくらい。アタシなんかを見込んでくれるヒトなんて、
分かってた……つもりなんだけどなぁ。
「よし、行けるか、ネイチャ?」
「……うん」
「緊張してるのか?」
「……結構ぐっさりと来るね、トレーナーさん」
アタシの、初の実戦。テイオーは既にデビュー戦を一着に収めている。
そりゃ緊張するよ。アタシたちのことをエッチな目で見てるヒトがトレーナーで、トレーニングの成果なんてあるのかも曖昧で。
「じゃあ今から俺は俺の本心を伝える。だから自分を信じろ……ってことは言わねぇが、ちょいと耳貸せ」
「え?」
それからは顔が熱くなるまで褒めちぎられた。確かに緊張は解けたけど荒療治がすぎると思う。
……それに、どうせ本心じゃない。アタシはテイオーと違ってキラキラなんてしてないし。虚言でしかないって、分かってる筈なのに。
なのに──緊張がほぐれた後は闘争心が残っていた。トレーナーさんのやることはいつも奇想天外だけど、効果はしっかりあったらしい。
「うにゃあ……もう、もう分かったから。トレーナーさん」
「なんだよ。まだまだ言い足りないくらいなのに。じゃ、行けるか?」
「……行ってきます」
「おう、行ってこい」
今でもこのヒトの誘いに乗ってしまったことは後悔している。テイオーの隣は眩しくて、このヒトの視線は不快だった。
それでも、このヒトがアタシのトレーナーさん。なら配られたカードでなんとか頑張るしかない。
勝ちたい。そうだ、アタシは勝ちたいんだ。
地下バ道からターフへ出る。今は愚痴も悔恨も後にして。
そんなこんなで出走したメイクデビュー。アタシは一着だった。
▫▫▫▫▫
「クク……」
何もかもが上手くいっていた。彼女たちはすくすく育ち、競走ウマ娘らしさも表れている。
テイオーは上昇志向の塊だ。ネイチャがそうでないというわけではないが、やはり身近に天才がいると自己肯定感も低まるようで。
「ほらほら、仕事は一旦中止。カフェテリア行くよ、トレーナーさん」
「早くしないと置いてっちゃうよ~?」
「ちょっと待て、今いいとこなんだ」
物事を余分にすると、″遊び″が生まれて楽しくなる。というわけだから俺はすっかりワーカーホリックになっていた。
そんな俺を時には諫め時には世話を焼いてくれるネイチャと、呆れたように笑うテイオー。それが今の日常だった。
そんな日常が──俺は結構好きだった。
▫▫▫▫▫
アタシはトレーナーさんの元へ向かっていた。あんなだけど、勝たせてくれたことは事実だから。お礼は言わないと。
「はぁ……」
……どうせ、どうせトレーナーさんはアタシたちのことを『そういう対象』としてでしか見ていない。だからアタシだけが礼節を重んじる必要なんてない。
だけど、アタシは勝てた。
あのヒトのいる部屋に向かう。ノックをして開けようとした瞬間──トレーナー室から聞こえてくる声。
「トレーナーってホント仕事好きだね~。休憩とか取らないの?」
「いやーこの仕事が思ってたより楽しくてな」
トレーナーさんと、テイオー。二人の声を聞いたアタシは硬直してしまった。
「ネイチャ早く来ねぇかな」
「なんか用事でもあるの?」
「用事ってわけでもないんだが……アイツがいるともっと楽しくなるからな」
「ふーん……」
ドアを開けるのを躊躇っている内に会話は進んでいく。
「ところでだけどお前らって普段交流あるのか?」
「うん。学年は一個違うけど同世代だし」
「じゃあネイチャとはどういう関係なんだ?」
「ネイチャ?ネイチャは友達だよ」
……っ。
ライバルとは言ってくれないんだ。
▫▫▫▫▫
ジュニア級は基礎作りに専念し、アタシとテイオーはクラシック戦線へ飛び出すことになった。
新年明けて初めて挑むレース、若駒ステークス。
……テイオーとの勝負。普段から競い合ってはいたけど、これが本気の戦いになる。
……今のアタシで、勝てる?
「ネイチャ」
「……っ!な、なに?トレーナーさん」
「緊張してるんだな」
「……そりゃ、テイオーとは初めてデスカラネ」
「それじゃあまた″アレ″やるか?」
「……!!あ、アレはもういいって!そ、それにトレーナーさんも思ってもないこと言うのしんどいでしょ?」
今でも覚えている、メイクデビュー戦前の褒め殺し。
おためごかしでしかない。そう思うと聞いていて悲しくなる。腹の底でアタシを良いように利用するための嘘だと思うと、心が錆びついていく。なのに、闘志は燃えたぎる変な調子。
「何言ってんだ?俺は
「じゃ、じゃあ、トレーナーさんはさ、アタシがホントにテイオーに勝てるって……思ってるの?」
「じゃなかったら出走させねぇよ」
そう言って、悪戯っぽく笑う。
……なに、それ。なんでそんな──真っ直ぐな目してるの。
「それじゃ、行ってこい。テイオーにも言ったが、一着獲ってこいよ」
「…………」
▫▫▫▫▫
結果は二着だったけど、アタシが勝つことを疑ってないことは分かった。
トレーナーさんはアレなヒトだけど、それでも信じられている。
▫▫▫▫▫
「あれ、ネイチャ何してんの?」
「トレーナーさん、アタシたちが誘う時以外ご飯食べてないみたいだから。ちょっとお弁当をね」
「へー……ボクも手伝おうか?」
「いいの?じゃ、そこのニラ切って。三センチくらいに」
ボクのトレーナーはネイチャのトレーナーでもある。でも、一番最初に契約したのはボクだ。
ボクとネイチャが作ったお弁当を食べられるなんて、トレーナーは幸せ者だなー。そう思うと俄然やる気が出てきた。
▫▫▫▫▫
「ぜえ、ぜえ……」
「はっ、はっ……」
「息が乱れてるぞー!あと二周ー!」
ボクとネイチャは基本共同でトレーニングしている。その方が効率もいいし新しい学びも見つけられる。
……そういえばだけど、トレーナーってやけにボクたちのことを見てくる。いやトレーナーなんだから当たり前なのかもしれないけど、練習時以外もジロジロと見てくるから変な感じだ。
けど、トレーナーの実力は本物だった。ネイチャはボクに届きかけることもあるし、対するボクも飛躍的に速くなっている。ボクの王道は疑う余地のない確乎たるものになっていた。
「はぁ……はぁ……しゅーりょー……」
「ぜえ……ぜえ……おわり?」
「お疲れ。ほれ、ドリンクだ」
三冠の足がかり、皐月賞に向けてトレーニングをする日々。待っててね、カイチョー。カイチョーみたいな三冠ウマ娘になってみせるから!
▫▫▫▫▫
「……!」
大好きな歓声が聞こえる。それは間違いなくボクに向けられたもの。
「……やっっったぁ~!」
「よくやったな、テイオー!」
控え室で喜びを爆発させる。初のGⅠを華々しく終えられたんだから、嬉しさも倍増だった。
「おめでと、テイオー」
今回の皐月賞にはネイチャは参戦しなかった。負けてあげるつもりはないけど、ネイチャが出てたらもっと難しくなってたと思う。それぐらいに成長している。
「ウイニングライブ、ちゃんと見ててね二人とも!」
「クク……ああ。しっかり見てるからな」
?ネイチャのトレーナーへの視線が一瞬冷たいものになった。なんなんだろ?
▫▫▫▫▫
「はー、そろそろ日本ダービーかぁ……ワクワクするなぁ……!」
「そいつは結構。ま、お前なら行けるだろ」
カイチョーが忙しい時は大抵トレーナーに絡むようになった。仕事をしながらだけど雑談には応じてくれるし、たまにネイチャが無理やりトレーナーを寝かすイベントも起きるから見ていて飽きない。……目の隈すご。
「ネイチャじゃないけどさー、トレーナー、ちゃんと寝てる?」
「元々ショートスリーパーなんだよ俺は」
「にしては体ガタガタな気がするけど……」
「まあいずれ慣れてくるだろ。……って、俺のことはいいんだよ。今は自分のレースに集中しろ」
「はいはい」
大人なのに変なところでだらしなくて、そのくせしてボクたちを指導する能力は本物。それがボクのトレーナー。
そんなトレーナーが──ボクは結構好きだった。
▫▫▫▫▫
「ふー……」
勝った。これで二冠目。
「えへへっ」
ボクを褒め称える声があちらこちらから聞こえてくる。それでこそ走った甲斐があるというもの。
残すはあと一つ、菊花賞。このまま行けば──
「……あれ?」
……あれ?おかしいな。足が……。
▫▫▫▫▫
テイオーが骨折した。俺の望んだ曇らせ展開。なのに気分はどうも晴れなかった。
……まず一旦落ち着け。今自分にできることを見つめ直せ。
菊花賞に間に合わせる。今はそのために尽力するべきだ。
ネイチャにあまり構ってやれなくなるが、すべきことはちゃんとする。
ただ……間に合うかどうかはちょっと怪しいところだ。
彼女の夢である三冠達成。叶うか叶わないかの瀬戸際に置かれている、栄光の目標。
夢を失う辛さは当事者にしか分からないが、少なくとも相応に曇ることは確かだ。
……それが俺の求めていたものの一つだったのに。俺は何か変わってしまったのか?
▫▫▫▫▫
「はいトレーナーさん、弁当」
「いつも悪いな」
「……一応聞くけど、何徹目?」
「仮眠は取ってるぞ」
「……アタシが言っても無駄かもしれないけどさ、無理しないでね?」
「おう」
それだけ言ってネイチャはトレーナー室を去っていった。
今までのように無理やり寝かせてこない理由としては、テイオーの現状を憂いてのことなのだろう。
普段のネイチャのトレーニングに加え、テイオーの療養に活かせるものを突き詰め続ける毎日。おかけでマッサージの腕前がぐんぐん伸びた。
それでも尚足は治らない。菊花賞の出走期限が近づいていく度に彼女の絶望は色濃くなっていく。
仕事は相変わらず楽しい。純度の高い曇らせも摂取できている。だから俺はいくらでも頑張れる……筈だ。
「くあぁ……」
軽く伸びをすると体のあちこちから音が鳴った。意識も限界が近づきつつあるし少し寝るか。
「トレーナー?入っていい?」
部屋の外からテイオーの声が聞こえる。松葉杖で両手が塞がっているからノックはできないのか。
「どうしたんだ?」
「キミの顔が見たくなってね」
「そりゃ光栄なこって。……なんかしてほしいことはないか?」
「特にないよ。っていうか普段してくれていることだけで十分すぎるくらいだから」
「そうか。……ふぁあ~、悪い、ちょっと眠る」
「ボクがいて大丈夫?」
「大丈夫だけど、いたずらすんなよ」
「しないって。多分」
「おい。……それじゃ、おやすみ」
「うん。おやすみ」
▫▫▫▫▫
「……トレーナー?まだ起きてる?」
疲労具合が著しかったからか、トレーナーの意識は沈んでいる。ボクが声をかけても起きないくらいに。
「……」
久しぶりにこのヒトの寝顔を見た気がする。ちょっと前まではネイチャに寝かされていたけど、最近はそれがない。
……菊花賞の出走登録期限まであと少し。心のどこかで分かっていた。多分、今年中には治らない。
「く、ぅうう……!」
トレーナーの寝顔が涙でぼやける。ずっと焦がれ続けてきた夢がこんな形で奪われることになるなんて、思いもしなかった。
「うあぁあ……!」
ひとしきり泣いてから、改めてトレーナーの顔を見る。今日までボクを支えていた、トレーナーの顔を。
……多分夢はもう叶わない。それでも、ボクがカイチョーに憧れを抱いたように。三冠でなくとも、誰かを照らせる無敗のウマ娘に。
「……夢が、消えても」
残っているものはある。だから頑張ろう。このヒトもクタクタになるまで動いてくれたんだから。
寝顔を見つめる。隈の濃い目を見やってから、頭部に手を伸ばす。
「いつもありがとね」
サラサラとした髪に触れても、トレーナーの意識は浮かんでこない。そのレベルで熟睡していた。
「……?」
……なんだろう。この胸のドキドキ。
▫▫▫▫▫
夢は叶わなかったのに。それでもテイオーは気丈に振る舞っていた。
やっぱりテイオーはキラキラしてる。あの芯の強さはアタシじゃ到底真似できない。
そして、アタシは一つの転換点を迎えていた。
菊花賞。本来であればテイオーとの二回目の激突になる筈だったレース。
「すぅ……はぁ……」
情けない話だけど、アタシはまた緊張していた。トレーナーさんに褒め殺し以外の対処法を聞くと『深呼吸してみたらどうだ?』と言われたのでとりあえず実践。
「おい、ネイチャ」
「うわっ!……ビックリした」
いつの間にか背後にトレーナーさんがいた。思わず尻尾がピンと張る。
「何度も言ってきたけどよ。お前はすげぇ奴なんだぞ?テイオーに聞いてもそう返ってくるだろうし」
「……嘘じゃない?」
「前にも言っただろ。俺は嘘を吐けねぇ」
……分からない。アタシはこのヒトをどう思っているのか。
トレーナーとしての手腕は間違いなく一級品。だけど普段はだらしないところが多くて、アタシは自然と世話を焼いてしまう。
……どうせ、アタシたちのことなんか自分の欲望を満たすための道具としか思ってない。そう考えてみても、アタシの脚を信じ込んでいることは事実。
信じられている。アレなヒトなのに、アタシはそれだけで絆されかけている。
我ながらチョロいなとは思う。これまでテイオーみたいな『主人公』タイプにしか光が当たらなかったのを嫌というほど感じてきたから。
それに、なんやかんや言いながらアタシはこのヒトのお世話になっている。今日ここまで来られたのも、トレーナーさん抜きじゃ無理だった。
「そろそろ時間だな。そら、行ってこいネイチャ。商店街のヒトたちもお前の勝利を願ってるだろうよ」
「それ言っちゃうのズルいと思うなあ~……」
テイオーがいない。テイオーが出ていれば……なんて、言わせない。
初めてのGⅠ。テイオーのいない菊花賞。アタシは一着だった。
▫▫▫▫▫
「「菊花賞一着、おめでとう!」」
「……あー……ありがとうゴザイマス」
照れくさそうに頬をかくネイチャ。それだけで一枚の絵になりそうなぐらいに綺麗だ。
俺とテイオーはネイチャの初GⅠ勝利を祝ってちょっとした祝賀会を開いていた。なんと話を持ちかけてきたのはテイオーだった。単にパーティーが好きなだけなのかもしれないが。
「……言っちゃうけどテイオーは大丈夫なの?アタシが菊花賞獲って」
俺もそこは不安だった。しかし立案者はテイオー。彼女なりに割り切ってくれているのだろうか。
「確かに出走できなかったのは悔しかったけど、これでネイチャもボクと同じGⅠウマ娘になったじゃん。チームメイトとして嬉しいんだよ」
「……そっか」
「……ほれほれ、今日は飯も豪華にしてあるんだぞ!早速食ってみてくれよ!」
「トレーナーさん、料理できたんだ……」
「結構自信作なんだぞ?ほらテイオーもネイチャも手を合わせて」
「……いただきます」
「いっただっきまーす!」
俺の料理は好評。美味そうにパクつく彼女たちの笑顔は見ていてベリーベリー満たされるものだった。
……そういや俺の計画ってなんか行き当たりばったりな気が──
▫▫▫▫▫
「今日はここまでにしとくか」
「えー?ボクまだまだいけるよ~?」
「おーおー若いねぇ。けど、あまり根を詰めすぎるのもよくない。今日はもう休んどけ。あ、ネイチャは追加でもう一本な」
「いやトレーナーも若いじゃん」
怪我は無事完治して、復帰戦の大阪杯に向けて修練を積んでいる。目指すは無敗のウマ娘。半端な覚悟じゃやっていけない。
やる気は程よくついている。真っ直ぐ決めた道を走れば、やってやれないことはない。
ネイチャともよく走る。その度に成長度合いを見せつけられるけど、まだまだ負けてあげる気はない。
「……頑張れ、ネイチャ」
トレーナーとネイチャを背に、ボクはその場を去った。
……なんだろう。このささくれ立つ感情。
▫▫▫▫▫
「ふー……」
やっと軌道が元通りになった。テイオーとネイチャ共に状態は良好。
仕事にも慣れてきた。徹夜癖は治っていないが、効率のよい働き方が体に染みついてきている。
「……飯にすっか」
気づけば辺りはすっかり暗くなっており、トレーナー室から見たトレーニング場にも夜の帳が降りていた。
「うんま」
超絶美少女に弁当を作ってもらえる上に味も絶品と来た。俺の幸福指数は際限なしの右肩上がりだった。
「トレーナーさん?入っていい?」
「おー、いいぞ」
ネイチャが部屋にやってきた。ちょうどいい。空になった弁当箱を渡しておこう。
「あ、今食べ終わった感じ?」
「めちゃくちゃ美味かったぞ。いつもありがとな」
「そーですか。ならよかった」
「ところでなんでここ来たんだ?もう寮に戻ってると思ったのに」
「トレーナーさん、ほっといたらまた仕事人間になっちゃうでしょ。だから止めに来たんですよ」
「う……だって楽しいからつい時間を忘れちまってさあ……」
「言い訳しない。ほら、早く帰寮の支度しよ?」
「へーい……」
情けない。未成年に世話を焼かれる成人男性なんて、世間的に見ればかなりの不良物件だろう。そもそもウマ娘を己の欲求のために利用してる時点でクズなことに変わりはないのだが。
「トレーナーさんはさ」
「んお?」
準備を済ませ後はもう部屋から出るのみとなった辺りで声をかけられた。
「アタシとテイオー、どっちが強いと思う?」
「うーん……」
難しい質問が来た。ネイチャとテイオーか……。
「条件にもよるしアイツは骨折した後だし……一概にどっちが強いとかは言えねぇな」
「じゃあ、芝右回り二千メートルだとどっちが勝つと思う?」
……なんか今日のネイチャちょっと変だな。テイオーに羨望を抱いていることは普段の振る舞いで分かるが、それにしても性急が過ぎると思う。
「そこはテイオーの
普段の走りではテイオーの方が白星を多く取っている。しかしネイチャはかなり仕上がってきている。下手すればテイオーに届きかねないレベルに。
「うーん……うーん……」
「……なんかごめんね?そこまで悩むとは思わなくってさ」
答えはあやふやのままその場はお開きとなった。……お世辞でもお前が勝つと言ってやった方がよかったのだろうか。いやでも俺嘘吐くの下手だしな……。
▫▫▫▫▫
「……よし」
復帰戦の大阪杯。ボクは一着だった。次に見据えるのは春の天皇賞。マックイーンが出走する上に長距離とあって、条件はちょっとキツいけど、それが挑戦することをやめる理由にはならない。
「よくやったな、お疲れ」
トレーナーから労われながらウイニングライブの準備を進める。と言ってもそこまで大したことはしないけど。
……やっぱり、最近変だ。
「テイオー?どうかしたのか?」
「……ううん、なんでも」
トレーナーを見る度、話す度、思う度に心臓の鼓動が速くなる。出会った当初はこんな風になることはなかったのに。
別に不快ってわけじゃない。だけど不思議で仕方なかった。
「見てたよ、テイオー」
ネイチャとボクのレースプランは案外重ならない。その裏にはトレーナーの思惑もあるんだろうけど、普段一緒に走ってるからそこまで違和感はなかった。
「ねえネイチャ」
「なに?」
「……後で話していい?」
「?いいけど……」
「なんだよー、俺には話してくれないのか?」
なんでか分かんないけど、この高鳴りはトレーナーに言いたくなかった。
▫▫▫▫▫
「……って感じで、最近トレーナーのこと考えると変になるんだ。ネイチャはこの状態の名前分かる?」
「────」
「ネイチャ?」
「────あ、ご、ごめん。アタシはちょっと分かんないかな」
……それって。テイオーは、トレーナーさんに──
「……っ」
「ネイチャ?どしたの?」
心臓が握り潰されるんじゃないかって思うくらいに痛い。だってテイオーはトレーナーさんの″一番″で、アタシはその次で。
アタシはトレーナーさんをどう思っていたのか。皮肉なことに今になって気づきだす。
最低だなって思ってた。だからどうせアタシたちのことは道具としか認識してないって決めつけて。
それなのに、打算ありきの言動だと勘ぐってたのに、トレーナーさんから飛び出してきた言葉はどれも本物だった。
たくさん褒められた。だからアタシも調子に乗って、テイオーに勝てるんじゃないかって自惚れて。
──気持ち良かった。
見ない振りをした承認欲求が一気に満たされて。アタシはあのヒトの一着なんだって刷り込まれて。
アタシは『特別』になりたかったんだ。他の誰でもない、トレーナーさんの特別に。
だから、
だから、
──テイオーに、勝ちたい。
▫▫▫▫▫
「はぁ……はぁ……勝っ、た?」
紙一重。マックイーンとの決戦は、ギリギリの勝利で形を終えた。
「おめでとうございます。今回は私の負け。ですが次は私が勝たせていただきますわ」
「あー……ありがと。次も勝つからね、マックイーン」
どこか夢心地で、ふわふわとした現実に包まれる。無敗を達成するに当たって最大級の壁だったマックイーン戦は、勝利に終えられた。
「お疲れさん。何かしてほしいことはあるか?」
まただ。トレーナーを見ているとドキドキする。普段のボクだったら快活に返せてたのに、なんでこんなに尻込みしちゃうんだろう。
「?テイオー?どうかしたのか?」
「……ちょっと、こうさせて」
トレーナーの服の裾を握る。変な安心感と共によく分からない感情が滲み出した。
▫▫▫▫▫
マズいマズいマズいマズい。テイオーがまた怪我をした。ストライド走法故に足への負担が蓄積しやすいという理由もあるが、俺の不注意が原因の一端なのかもしれない。
ネイチャは恐ろしい程の健脚。それぞれ切り離して考えるべきだと、今になって理解した。
不幸中の幸いか、競走人生終了レベルの怪我とまではいかなかったがまた療養生活が始まる。彼女のストレスが増えるかもしれない。
曇ったのなら愉しめばいい。なのに、どうして俺は、こんなに──
「トレーナー?」
「……んあ、悪い。ちょっと考え事してた」
テイオーへのマッサージ。うら若い美少女の足に触れられる絶好の機会。……なんだが、どうも気分が晴れない。俺はどうなってしまったのだろうか。
▫▫▫▫▫
今のところはまだ無敗。その称号がボクを支えていた。
嫌いな病院に通うことになっても、走れない時間が増えても、無敗に目を向けることでなんとかやり過ごしてきた。
幸いにも今回の怪我は今年中には治りそう。まだボクには道が残されている。
「トレーナー、髪梳かしてー」
「なんで俺に頼むんだ……?まあいいが」
焦燥感はある。ネイチャだけが成長して、ボクは足踏みをしているだけ。いやそれどころか怪我の影響で前より遅くなっているかもしれない。
ネイチャのトレーニングを一緒に観察したり、仕事ぶりを見てたりと、以前よりトレーナーとの接点は増えた。
例の正体不明感情はこの際考えないことにした。どうせ知ったところで意味もないだろうし。
「よし……と。これでいいか?」
「うん。前より上手くなってるよ」
「そうか?ならよかった」
ボクの髪に触れると何故かトレーナーは顔を赤らめる。その反応が面白くてついつい揶揄っちゃう時もある。
はー……走りたいなあ……。
▫▫▫▫▫
「ふっ──!」
「はぁぁっ──!」
「う~ん。眼福眼福」
怪我はなんとか治り、テイオーは再び走るようになった。
……もう怪我させたくねぇなあ。色々大変だし、曇らせは何故か愉しめなくなってるし、脚の切れ味は落ちるし。
だからといって無理に走り方を変えさせてテイオーの持ち味を潰すのもよくない。……祈ってみるか?三女神サマにでも。
「終わったか。じゃ、今日のおさらいすっぞ」
「あ~疲れた~」
「はぁ……はぁ……」
俺が褒めるとテイオーはくすぐったそうに笑い、ネイチャは頬を赤く染めて視線を逸らす。うん、美少女。この時間がずっと続けばいいのに。
▫▫▫▫▫
それからテイオーは三つのレースに出走した。
秋の天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念。ジャパンカップにアタシは出られなかったけどテイオーは一着を獲っている。
肝心なのは秋の天皇賞と有馬記念。その両方にアタシは出走している。そしてその両方でテイオーは敗れている。
秋天では七着、有馬では十一着。順位ではアタシが
そして、三度目の骨折が判明した。
▫▫▫▫▫
もうここまで来たら泣けばいいのか嗤えばいいのか分からない。
テイオーに到来した現実は三度目の骨折。更に、仮に完治してもこれまでのように走れるかは微妙なところという絶望感。
曇らせが俺の求めていたもの(の一つ)だというのに。どうしてここまで胸が締め付けられるんだ。
「はー……どうしてこうなっちまったんだろうなあ……」
俺の所為ではある。運が悪かったのもある。曇らせセンサーはビンビンに稼働してるのに愉しむ心が残っていない。
テイオーとネイチャの笑ってるところを見ると嬉しくなる。それは初対面の頃から変わらない、絶対の幸福だった。
「……もうちょっと頑張ってみるか」
ここまで来たんだ。あともう少しだけ足掻いてみるのも悪くないのかもしれない。だけどテイオー本人が諦めるなら、俺も終わりに手を引いてやるつもりだ。
▫▫▫▫▫
もう全部なくなっちゃった。三冠でもない、無敗でもない、おまけに今まで通りに走れるのかも分からない。
トレーナーは方々にかけあって、昼夜問わず奔走している。ネイチャのトレーニングに付き合いながら。
ネイチャはすごく強くなった。ボクが勝てなかったGⅠレースも勝てるようになったし、ぐんぐん成長している。
……もうボクに残ってるものは、なにもない。なにも。
「……」
トレーナー室の窓から外を眺める。しとどに濡れたトレーニング場は重バ場練習のいい舞台だ。
しばらくそうしていると、ノックの音が響き渡った。
「いいよ。入って」
「んじゃ、入るぞ」
トレーナーだった。頬はこけ、目の下には濃い隈が表れている。
「大丈夫……じゃないよな。何かしてほしいことはあるか?」
「ボクのことはいいよ。トレーナーはネイチャの面倒見てあげて」
本心を隠すのは思ってたより簡単だった。
本音を言えば怖い。もっとボクのことを心配してほしいし、もっと傍にいてほしい。だってこのヒトに一番最初に誘われたのはボクなんだから。
だけど、栄光の道は閉ざされてしまった。ボクを飾る称号はなにも残ってない。
……いいなあ、ネイチャ。『ボクの』トレーナーなのに。
「じゃあ、また後でな。あと、辛くなったら言え。一緒に逃げるくらいのことはしてやる」
「……え」
鼓動が、高鳴る。
▫▫▫▫▫
「は……?今、なんて……」
「だから、引退しようって決めたんだ。もうボクは、走れない」
「……いや、トレーナーさん言ってたじゃん。足さえ治ればまだ挽回できるって」
「こんななのに?」
「……」
「ネイチャも今までありがとね。ボクのチームメイトになってくれて。ボクがいなくなっても大丈夫でしょ?トレーナーもいるし」
「…………」
「だから、ボクのテイオー伝説はこれで終わり。GⅠ三つ勝てたしトレーナー的にも十分でし──」
「ふざけんな!!アタシはまだ、アンタに勝ってない……!」
「……有馬記念と秋の天皇賞で勝ったじゃん」
「あんなの!勝ったって言わない!アンタの力はあの程度なわけがない!」
「……じゃあ、どうすればいいの?今のボクに残ってるものなんてないのに」
「……いいの?トレーナーさんを、アタシが取って。あのヒトの一番を掻っ攫われて」
「なんでそこでトレーナーが出てくるのさ」
「アタシ、トレーナーさんが好き。だからあのヒトの一着はアタシがいい」
「……たいよ」
「え?」
「ボクだって、トレーナーにカッコいいところ見せたいよ!ボクだって、あのヒトが好きだよ!だけどボクはもう無敗でもなんでもなくって、だか、ら……もう……終わりなんだよ……ほっといてよ……」
「……トレーナーさんがなんて言ってたか教えようか。あのヒトはね、『トウカイテイオーはこんなところで終わるウマ娘じゃない』ってアタシに言った。アンタはもう、信じられてるんだよ。もちろんアタシからもね」
「……っ」
「アタシはアンタに勝ちたい。レースでも、恋でも、一着は譲りたくない。──帝王になるんでしょ?脇役にまとめて掻っ攫われてちゃかっこ悪くない?」
「……ふふ、自分のこと脇役って言っちゃう?普通」
「今まではアンタの影に立ってただけだった。けど、これから変わるって決めたから」
「じゃあ、勝負だね」
「うん。だから──立ちな、テイオー」
▫▫▫▫▫
「トレーナー、ボク、もうちょっとだけ頑張ってみるよ。だから、見ていてくれる?」
「愚問だな。俺はお前らから目を離す気なんて毛頭無ぇぞ」
俺のスタンスは変わらない。金も名誉も興味無い。ただ目指すは──担当の笑顔。
クク……腕がなる。確かに今は逆境に置かれている。だがそんな曇天現実をはねのけるからこそ、人生は楽しくなるんだ。
ネイチャと、テイオー。お前らとなら、どこまでだって行ける。
▫▫▫▫▫
「それでこのレースになったと。テイオーもトレーナーさんも豪胆だね~……」
「そう言うネイチャだって仕上がりまくってるじゃん。勝つ気満々なんじゃないの~?」
テイオーの復帰戦、そしてネイチャとの決戦場に選んだのは中山の地、有馬記念。
「クク……お前ら、出走前からバチバチじゃねぇか。まあ俺から言うことは一つだけだ。勝ってこい!」
「うん!」
「……頑張りますか」
ターフへ出たら俺ができることは無い。それでも誓え。俺が二人を勝たせると。
同着という例外が無いわけではないが、基本勝負というものには勝ち負けがついて回る。どちらかが負けるのは確実だろう。
それでも、俺は二人を信じる。
▫▫▫▫▫
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
主役になりたい。叶わなくても、届かなくても、弱くても、惨めでも、ただ一つの輝きが欲しい。
だから、アンタに勝つよ。トウカイテイオー。
『おおっとナイスネイチャ、大外から追い込みをかける!』
力の全てを両足に叩き込む。これさえ通せられればもう何もいらない。
分かってたけどテイオーは速い上に、
外に膨らむ分走る距離も伸びる。それでも、トレーナーさんがアタシを信じてくれたように、アタシはアタシの脚を信じる!
あのヒトと完成させた末脚を爆発させる。これが、アタシの本気!
差す、差す、差す!アタシが、トウカイテイオーを差す!
▫▫▫▫▫
……やっぱり最後に来るのはキミだよね、ナイスネイチャ。
残り二百メートル。それまでにボクの溜め込んだリードを削りきってくるか?いや、ネイチャなら来る。
分かっていた。数多の駆け引きの果てに待っているのは、単純なフィジカル勝負。速い方が勝つ。
お互いに
「ハアァァアアアァアアッッ!!」
「だああぁあぁあああぁっっ!!」
ストライドは大きく。全てを燃やし尽くして両足を回転させる。
背後から迫り来る強烈な威圧感。それでも、ボクは──
「ボクはっ、トウカイテイオーだあぁぁっ!!」
▫▫▫▫▫
「あー……言葉が出てこない。とりあえず、おめでとう、テイオー」
「……ありがとう。キミが……いや、キミたちがいたから、ボクは強くなれた」
「これからも追い続けるよ。アンタの背中」
「うん。テッペンで待ってる」
▫▫▫▫▫
おかしい。俺が求めていたのはウマ娘との健全なイチャイチャ(未成年と関係を持つ時点で不健全だろという指摘は除く)だ。
元々、レースに興味なんてなかった。それなのにこの心は熱を帯びている。
……ああ、そうか。俺は、彼女たちに変えられていたのか。
「最ッ高にかっけぇな、お前ら」
▫▫▫▫▫
「トレーナーさん」
それはとある昼下がりのこと。光で満たされたトレーナー室にて、ナイスネイチャとトウカイテイオー。そして彼女たちのトレーナーがいた。
「なんだ?」
「アンタさ、アタシたちをスケベな目で見てたでしょ」
「!?!???!!?!???!!!!?」
思わず椅子からずり落ちる彼。そんな男を彼女たちは意にも介さない。
「い、いつから気づいてたんだ?」
「最初から。テイオーはアタシが言うまで分からなかったみたいだけど」
「やけにジロジロ見てくるからなんだろうなーって思ってたけど……ぷぷ、トレーナーってばそういう目的でボクたちを見てたんだ」
「ああ、あとね、アタシとテイオー、トレーナーさんのことが好き。likeじゃなくてloveの方で」
「!?!???!!?!???!!!!?」
打ち上げられた魚の如く床で跳ねるトレーナー。トウカイテイオーは思わず吹き出した。
「それでアタシたち決めたんだ。トレーナーさん、どっちか選ぶなんてできないだろうから──二人で共有すればいいって」
「言っとくけど、拒否権は無いよ?散々ボクたちを利用してきたんだからそれぐらいは覚悟してよね」
「……まあいいか!!よろしくなあ!」