下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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熟す話

「ふぅ……今日の業務終わり」

 

「お疲れ、トレーナー」

 

 

 激動のトゥインクル・シリーズだった。

 

 ボクの脚は何度も折れて、メンタルもガタガタだったけど、最終的にはトレーナーと一緒に″帝王″になれた。

 

 それで今はドリームトロフィーリーグで戦っているけど……トレーナーはボクのことをどう思ってるんだろう?

 

 妹的な存在?やっぱりただの担当ウマ娘?

 

 今まではこのヒトにどう思われても何も感じなかった。ボクの一番は会長だったし、友達だってたくさんいる。

 

 それだけど──って、回りくどい言い方はよそっか。

 

 ボクは、このヒトが好き。考えるだけでドキドキするし、一挙手一投足に目を惹かれる。

 

 

「よく頑張ったねトレーナー。ボクが褒めてしんぜよ~!」

 

「ちょっ、やーめーろーよー」

 

 

 トレーナーの頭を撫でる。表面上はふざけているけど内心バクバクだ。

 

 本音を言えば思いっきり抱きしめたいし抱きしめてほしい。恋人関係がどういうものなのかは分からないけど、少なくともそこまで踏み込むには未成熟の関係だということは確か。

 

 トレーナーは大人だから。ボクの想いを袖にしなければいけないんだろう。ボクみたいな『子供』を、相手になんかしてくれないのかもしれない。

 

 ──嫌だ。

 

 このヒトが欲しい。全部をボクだけに向けてほしい。

 

 もしかしたらこれは、思春期特有の熱に急かされただけの衝動なのかもしれない。

 

 それでもボクは、キミが欲しい。ただの依存にすぎなくても、ボクが全部を受け止めたい。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……」

 

 

 寮の自室に帰宅後、エナドリと栄養補助食品の詰まった袋をテーブルに置き、俺は呟いた。

 

 

「テイオー可愛すぎんだろちくしょお……」

 

 

 俺の担当が可愛すぎる件について。

 

 ちなみにだがここは天下の中央。寮の防音機能も特上だ。叫び散らそうと音漏れは無い。

 

 本当に最近はヤバい。テイオーやけに距離近いしスキンシップも増えてきてるし。触れられる度に俺の心臓はハードロックだ。

 

 俺がトレーナーになった理由は非常にバカらしいものだ。美少女だらけのウマ娘と関わりたいだけ、それだけのために勉強を頑張ってきた。

 

 だが、彼女と出会い俺は変わった。始まりの三年間が非常に紆余曲折あったこともあり、今ではこの仕事に生き甲斐を見出していると言っても過言ではない(しかし対テイオー限定)。

 

 ……なのだが。最近テイオーを意識する度に頬は紅潮し頭が茹だる。ロリコンなのは前々からだが、テイオーに関しては生まれもった(さが)以上の何かを感じていた。

 

 ハッキリ言ってしまおうか。俺はトウカイテイオーに依存していた。仕事を頑張る理由も、改心したきっかけも、何もかも全てが──彼女に起因している。

 

 大人としてはダメダメなんだろうなとは思う。教え子に欲情するどころか依存するなんて。

 

 だがしょうがない。俺は無駄に年取っただけのガキなのだから。だから……彼女の夢を叶えさせられなかったのは、俺の所為だ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「トレーナーって他の子の担当にならないの?」

 

「え?あー……お前が卒業するまではお前の担当やるつもりだぞ」

 

「やりぃ」

 

 

 今日もテイオーは可愛い。対して好きになれないこの仕事も彼女のためだと思えば楽勝快勝大優勝。

 

 

「トレーナー、かっこよくなったね」

 

「なんだよ急に」

 

 

 そういえばだが、一定の時期から彼女は俺の周りにずっとひっついている。昔はシンボリルドルフ一筋だったのに。

 

 

「あはは、何~?照れてるの~?」

 

「……うっせぇ」

 

 

 顔が熱くなる。面と向かって褒められるとこそばゆいものがあった。

 

 ……かっこよくなったか。自分のことをそう思った経験はないが、そう言ってくれるのであれば甘んじて受け入れよう。

 

 あと数年もすれば俺はアラサーだ。目指す自分は渋い俺だが、果たしてなれるだろうか。

 

 

「ねえ、トレーナー」

 

「なんだ?」

 

「好きって言ったら、どうする?」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「えへ~……すきー……好きだよー……トレーナー……」

 

「……」

 

 

 バックハグ。後ろから体全体を使って抱きしめられ、腕と足がガッチリ組まれている。

 

 どうしてこうなった。

 

 あの時、俺は大して思考せずに脊髄反射で言葉を繰った。繰ってしまった。

 

 

『え?ああ。俺もテイオーが好きだぞ』

 

 

 ……バカである。第一こんな関係が許されるのか?いやウマ娘と関わりたいがためにこの職業に就いた時点でアウトなのだが。

 

 

「……なあ、テイオー」

 

「なに?」

 

「俺……お前の夢を叶えてやれなかったんだぞ?それなのに……どうして?」

 

「どうしてもなにも、分かんないの?」

 

「だって……俺は……」

 

「ホントに、分かんないの?」

 

「……分かってる。分かってるよ。ったく、面倒な性格だな、俺って奴は」

 

「面倒くさくてもいいじゃん。それがキミだよ」

 

 

 結局、俺たちはお互いを想い合ってしまっている。こうなるのも当然の帰結なのかもしれない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「で、問題はお前が卒業してからなんだが」

 

「んー?ケッコンすればよくない?」

 

「お前の親御さんにどう説明するんだよ……。俺の第一印象教え子に手を出したロリコン野郎だぞ」

 

「しょうがないなー、じゃ卒業してから数年は普通のお付き合いってことで手を打たない?」

 

「…………」

 

「うわ、めっちゃ意識してんじゃん。顔真っ赤だよ」

 

「うっせぇ」

 

 

 そも、異性との関わりが少ないんだ。精神年齢もガキのままでやってきた俺なんだから、想いを寄せる相手と付き合う経験なんぞ一度もなかった。

 

 ハァ……結婚か……。

 

 まったく想像がつかない。結婚は人生の墓場と聞くが、面倒事もそれなりにやってくるのだろう。

 

 まあでも、人生というのは一波乱ある程度が楽しいもんだろう。漣のような一生より、弾ける西瓜の刹那を。

 

 

「はー……お前に関われない仕事なんてやる意味あるのか……?」

 

「今のトレーナーなら色んな子担当にできると思うよ。諦観するには早すぎるって」

 

「……不安にならないのか」

 

「何が?」

 

「俺が他のウマ娘に目移りするんじゃないのかって」

 

「ないない。だってキミのキャパ的に一人に目を向けるので精一杯じゃん。ボク以外の誰かに惹かれることなんて、今更ある?」

 

「……敵わねぇな」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「早かったね、今日まで」

 

「そうだな」

 

 

 トウカイテイオーと、彼女のトレーナー。

 

 今日はトレセン学園卒業式の日。トウカイテイオーは愛しき学び舎に別れを告げようとしていた。

 

 桜が舞い散っている。周辺には、彼らと同じように恩師へ感謝を綴る元生徒たちがいた。

 

 

「……もう、トレーナー、泣きすぎ」

 

「いや……だって……今までのこと思い出したら……つい……」

 

 

 トウカイテイオーは笑っているものの、目頭が熱くなることを隠せずにいた。

 

 対するトレーナーはそれはもう号泣。涙がとめどなく滴り落ちていた。

 

 

「ほ゛ん゛と゛う゛に゛……よ゛ぐ゛が゛ん゛ば゛っ゛た゛な゛あ゛、お゛ま゛え゛……!」

 

「あはは……どんだけ泣くのさ……グスッ」

 

 

 卒業したからといって彼らの旅路が終わるわけではない。それどころか卒業することで道が再び絡み合うまであるのだが、それはそれとしてこのイベントは涙を誘うものだった。

 

 

「それじゃ、これからもよろしくね、トレーナー!」

 

「あ゛ぁ……あり゛が゛とう……」

 

 

 しっかりと握手する両者。そうしていると、トウカイテイオーの中に一つのひらめきが生じた。

 

 

「ねえトレーナー。目を閉じてくれる?」

 

「?」

 

 

 疑問を浮かべるが言われるがままに従う彼。すると──周囲にはとても届かない程の──小さく──本当に小さな湿音が、唇を鳴らした。

 

 

「…………。…………!?!?!?!?!!」

 

「ほ、ほら、これからボクたち付き合うんだから、これくらいはしてもいいんじゃないかなーって、……トレーナー?」

 

 

 状況をゆっくりと咀嚼しきってから、彼は顔を赤らめて──

 

 

「ぅへ……」

 

「わ!?ちょ、ちょっとトレーナー!」

 

 

 ──仰向けに倒れたのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ただいまー」

 

「あっ、おかえり!トレーナー!」

 

 

 数年後。逃げたわけでもなく、己が責務を果たした二人は同棲していた。

 

 

「よしよし、よく頑張ったねトレーナー」

 

「……これ毎回やらなきゃダメか?」

 

「いい加減慣れなよー。それに、キミも嫌じゃないでしょ?」

 

「……まあそうだけどよ」

 

 

 おかえりのハグと頭を撫でる行為。見ているだけで砂糖を吐き出しそうな、いやもう反吐が出る空間がそこにはあった。

 

 

「ご飯もうそろそろできるから、先にお風呂入ってきちゃって」

 

「いつもありがとな。俺は働いてるだけだってのに」

 

「いいのいいの。いずれ夫婦(ふーふ)になるんだから、これぐらいはさせてよ」

 

 

 笑みを浮かべ脱衣所に向かう男。トウカイテイオーも微笑んでからキッチンに向かった。

 

 

「「はぁ……幸せだなあ……」」

 

 

 その場に立ち会わせていなくとも、両者の思考は一致していた。依存から始まった恋が、円満に成熟していく心地は二人にしか味わえないものだった。

 

 要するにこれは、一組の番いがくっつくまでの、そんな与太話。

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