下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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悪魔は死なないんだぜ


















真説・下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話

 

 

「うーん、いい天気だぁ……」

 

 

 『希望』とは、まさに今の俺を指す言葉なのだろう。

 

 念願のトレーナー試験合格。それも中央、あの中央のライセンスを獲得したからだ。

 

 俺の中にある欲望はもはや留まることを知らない。そしてなにより、俺には会いたくてたまらない相手がいた。

 

 名も知らぬウマ娘。いつかの日、彼女と出会った時から、俺のトレーナーライフは始まっていたのだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 ウマ娘が好きだった。整った顔、抜群のスタイル、鍛え抜かれたトモ、魂を奪われそうな声帯。どれもが俺の獣心を刺激した。

 

 要するに、俺の性癖にウマ娘たちが合致していたのだ。

 

 それからは早かった。いいトレーナーになればいいウマ娘と巡り会える。あわよくばキャッキャウフフできるのではないかと、それはもう浅ましい下心に塗れていた。

 

 そんな中、験担ぎのため足を運んだ神社にて、そのウマ娘と遭遇した。

 

 

『────』

 

 

 長い髪を後ろにまとめ、ぴょんぴょんと跳ねながら甘酒を飲むウマ娘。人混みの中でソイツが光っているようにすら思えた程に俺の性癖ドストライクだった。

 

 しかし神社は混みすぎていた。人混みをかき分けコンタクトを取ろうとしたが、その小ささ故か発見する前にそのウマ娘はいなくなってしまった。今でもあの時の悔しさは忘れない。

 

 俺は一つの可能性に賭けた。中央のトレーナーになり、彼女を見つけ出す。もしかしたら地方に通うヤツかもしれないが、目指す先は高い方がいいだろうと判断した。

 

 

「……よし、行くか」

 

 

 仮に会えなかったとしてもウマ娘はみんな美少女。俺のうまぴょい計画は、始まったばかりだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はぁ……今日も玉砕か……」

 

 

 積極的にコミュニケーションを図っても、俺が新人だと分かったら誰も彼もそっぽを向く。一生に一度のトゥインクル・シリーズだ。そうなるのも当然だと思うし、責めるつもりは全くない。

 

 だが担当を持たなければ食い扶持が無くなる。これは死活問題だ。

 

 あー困った困った。どうしたものかと頭を抱え、真昼の公園で項垂れていると──彼女は現れた。

 

 

「キミ、大丈夫?どっか痛いの?」

 

 

 ──それは、ずっと焦がれ続けてきた相手だった。

 

 それはまさに、運命だった。

 

 

「ッ!?!?お、おま、おま、お前……!」

 

「?初対面だよね?」

 

 

 お前にとってはな、と言いたかったが二の句が継げない。

 

 ずっと探していた。もう無理かもしれないと諦めかけた。けど彼女は今、ここにいる。

 

 

「…………お前、名前は」

 

「ボク?ふふん、ボクはトウカイテイオー!未来の三冠ウマ娘だよ!あれ?そのバッジ……キミ、トレーナー?」

 

 

 こうして、俺は性癖ドストライクウマ娘と再会したのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「よう」

 

「あれ?公園の時のトレーナーじゃん。奇遇~。ボクに何か用?」

 

 

 この時間帯なら飯食ってるだろうということでカフェテリアに突撃。他のウマ娘は眼中にない。

 

 見た目ドストライク。声ドストライク。ボクっ娘属性ドストライク。もう俺の目標はトウカイテイオーを育成すること以外なかった。

 

 

「単刀直入に言う。俺と契約してくれ」

 

「いいよ」

 

「……いやお前、一生に一度のトゥインクル・シリーズだぞ?トレーナー選びは慎重にしねぇのか?」

 

「いいよいいよ。どうせ走るのはボクなんだし。ボク、最強だし」

 

 

 ……ふふ、ふっふっふ……。

 

 コイツ、俺たちトレーナーを舐めている。そういう生意気な所もまた性癖に刺さるのだった。

 

 

「じゃあ決まりだ、トウカイテイオー。俺は俺の全てをお前に捧げる。テッペン、獲らせてみせるからな」

 

「おー、熱血。……にしし、じゃあボクがどれだけ速いかキミに教えてあげるよ!」

 

 

 斯くて契約成立。後で知ったことだが彼女に目をかけていたトレーナーは少なくなかったらしく、新人の俺にはそれなりのプレッシャーがかかってくるのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 というわけで俺はトウカイテイオーについて調べ尽くすことにした。ルーティンから趣味嗜好に至るまで、知られる全てを調査した。その課程で理解したことが、一つ。

 

 ……もったいない。たった一つの綻びが、彼女の成長を妨げていた。というわけなので──

 

 

「今日の模擬レース相手はシンボリルドルフだ。言っとくが、全力でやれよ」

 

「ふふ、よろしく頼むよ、テイオー」

 

「えっ!?カイチョーと走れるの!?やったー!」

 

 

 ……やっぱり、予測は的中している。その憧憬を、力に変えることができれば彼女は一気に化ける。

 

 

「じゃ、スタートの合図を切るぞ。よーい……」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふー、ありがとカイチョー!やっぱカイチョーはすっごいなぁ~!」

 

「……そうか。いい練習になったよ。ありがとうテイオー、そして、トレーナー君」

 

 

 去り行くシンボリルドルフをキラキラ輝く眼差しで見つめるテイオー。俺は眉をひそめた。

 

 

「おい、テイオー」

 

「ん、なに?」

 

「いやお前、何してんだよ」

 

「え?全力で走ったじゃん」

 

「そうじゃねえ。お前、最強なんだろ。なにシンボリルドルフに負けてんだよ」

 

「か、カイチョーは凄いウマ娘だし、ボクの憧れだし……確かにボクは最強だけど……でっ、でも!カイチョーはすっごいんだよ!」

 

「それで負けを認めてどうすんだおたんこにんじん。言っただろ。俺がテッペン獲らせるって。……よし、決めた。ここから三年以内に俺がお前をシンボリルドルフに勝たせる。これは絶対目標だ」

 

「カイチョーに……勝つ……?」

 

 

 ……考えようともしないのは重症だな。だが、手探り手探りやっていこう。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

 

 夜のコースをひた走る。正体不明の燻りがボクの中で渦を巻いていた。

 

 ボクは天才だ。レースの才能は誰よりもある自信があったし、事実同期を捻じ伏せてきた。

 

 誰にも負けるつもりはない……と、思っていたけど、ボクはカイチョーに負けた。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

『そうじゃねえ。お前、最強なんだろ。なにシンボリルドルフに負けてんだよ』

 

「ッ……!」

 

 

 あの時のトレーナーの言葉が頭から離れない。確かにボクは強くなりたい。だけど、負けた。最初から、シンボリルドルフというウマ娘に負けを許していた。それをあのヒトに気づかされて、ボクは退っ引きならない状況に置かれている。

 

 

「くっ……!」

 

 

 カイチョーは強い。この学園でもトップクラス。だからってボクは、勝負をする前から負けていた──?

 

 燻りが広がっていく。誤魔化そうと走ってみても、モヤモヤは抜けない。

 

 

「おーやってるやってる。ようやく思い知ったか」

 

「……トレーナー」

 

 

 契約を結んでまだちょっとしか経過してないのに、ボクの思惑を全て見透かしたようにトレーナーは現れた。

 

 

「……ねえ、トレーナー。キミなら分かる?」

 

「修飾語が抜けてるぞ。俺は知ってることしか知らねえ」

 

「カイチョーに負けて、キミに指摘されてから、変なんだ。喉の奥が焼かれてるみたいで……」

 

「よし、じゃあ次のステップだ。俺を信じてみろ」

 

 

 ……信じるって、どういうこと?

 

 

「信じるってどういうこと?みたいなツラしてるな。簡単だ。トレーニングは俺が面倒を見る。自主トレは一切禁止だ」

 

「でっ、でも……!」

 

「でももだってもない。いいから俺についてこい。俺の、トレーナーの力を″理解(わか)″らせてやる」

 

 

 ……ボクに負けず劣らずの自信に満ち溢れた表情。ひょっとしたらボクは、悪魔と契約したのかもしれない。……とびっきりヘンテコな。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 トゥインクル・シリーズが始動。今はメイクデビューに向けてじっくり体を作る時間だ。

 

 うん。予想はしてたがアホみたいに忙しい。今日も資料とデータ処理、テイオーへの指南で時間が溶ける溶ける。

 

 だが俺のモチベーションは最高潮まで高まっていた。好みドタイプのウマ娘と関われる、話せる、それだけでもう毎日が楽しくてしかたなかった。

 

 

「ふぃー……」

 

 

 ──とはいえ。疲労は徐々に溜まっていく。いくら彼女が才能に恵まれているとはいえ、手綱を握る俺がへっぽこだったら意味が無い。

 

 俺は天才だ。中央のトレーナーになれているのだからそれはそうだが、取り巻く環境を考えると俺はこの学園でも下の方にいる。

 

 俺より努力が上手で俺より才に恵まれたトレーナーは山ほどいる。だからってそれが腐っていい理由にはならない。

 

 だから俺は、自信を持つ。俺ならできる。俺とテイオーなら──皇帝に勝てる、と。

 

 

「おーい、入るよー?」

 

「んお、どうぞ」

 

 

 トレーナー室で骨を鳴らしているとテイオーがやってきた。茶の一杯も出せないが仕事は止めない。

 

 

「あ、また仕事してる。トレーナーってそんなに忙しいの?」

 

「俺が凡骨なだけだ。それよりなんだ。用事、あるんだろ?」

 

「ボクってさ、トレーナーのこと何も知らないじゃん。だからキミの話が聞きたくて」

 

「……物好きなヤツだなお前」

 

 

 俺の計画を告解するわけにはいかないので、当たり障りの無いことだけを話す。しかしそれを見抜かれたのか、イヤに勘の良い質問が飛んできた。

 

 

「じゃあさ、なんでトレーナーになろうと思ったの?」

 

「…………」

 

 

 真実を語り失望するテイオーも見てみたくはあるが、そういうのはもっと関係を築いてからぶち壊した方がカタルシスがある。

 

 うーん、どう答えようか。俺がトレーナーを目指した理由かぁ……。……あ。あるじゃん一個。

 

 

「お前を見つけるためだな」

 

「……ふぇ?」

 

 

 とんでもないことを言ってしまったと気づいたのは、その日の就寝直前だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「やっぱ強えなテイオー」

 

 

 歓声轟くレース場。メイクデビューは無事一着だった。

 

 

「……ま、これからだな」

 

 

 目標は三冠達成と皇帝超え。ここでつまずくようであれば、俺の指導方針に問題がある。

 

 

「あっ、トレーナー!見てた見てたー?」

 

「ああ。最高のパフォーマンスだった」

 

「むふー!もっとボクを褒めるといいぞよー!」

 

「……可愛いな、お前」

 

 

 テイオーは走ることに加え、認められる、褒められることを何よりも待ち望んでいた。

 

 誰かを褒めるのは嫌いじゃない。ソイツのいいところ、評価されて然るべき部分を見つけ出すのは得意だった。

 

 

「じゃ、ウイニングライブ、行ってこい」

 

特等(とくとー)席で見せてあげるから!ちゃんと見てよね、トレーナー!」

 

「ハッ、一瞬たりとも見逃すかよ」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 俺の計画は究極的に言えば勝たせることにない。ただ関係を継続していくにあたり勝った方が都合がいいだけだ。

 

 俺の歓喜はレースに無い。躍動する肢体を眺められるのは嬉しいが夢だとか憧れみたいなものに共感はできなかった。

 

 ……こうして箇条書きしてみると、俺は長期的にトレーナーという職業に就くのに向いていない。無駄に頭が良いだけ、自身の活動意義に疑問が浮かぶ。

 

 まあ俺とは違くともカネのためだけにトレーナーやってるヒトもいる筈だ。多少薄っぺらくとも、この世界は結果を出せば許される。

 

 

「ふぁあ……」

 

 

 眠い。寝食を忘れて仕事に打ち込んできたため疲労が著しい。少し眠るか。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、トレーナー、起きて──ない、ね」

 

 

 たまには帝王サマ直々に食事に誘ってあげよう、と思い至りトレーナー室に顔を出すと、トレーナーは眠りについていた。

 

 

「……」

 

 

 いつもキビキビしてるトレーナーの無防備な姿。それを見たボクの中に、悪戯心が芽生えた。

 

 

「……にしし」

 

 

 どうしよう。顔に落書き……はスタンダードすぎるし、ワッ!って起こすとビックリして体調を悪くするかもしれないし……。

 

 

「うーん……」

 

「……ん、ぅう?」

 

 

 あ、バレた。

 

 

「……お前何やってんだ?」

 

「イタズラしようとしてたんだけど、起きちゃったか~」

 

「お前の気配バレバレなんだよ。俺にイタズラしようだなんて十年早い」

 

「気配で気づけるものなんだ……」

 

 

 そういえば、だけど。このヒトはボクのことをなんでも知っている。かけてほしい言葉、負荷限界量、食べ物の好みからあらゆることまで。

 

 別にイヤじゃない……けど、変な気持ち。パパとママ、友達にも感じたことがない心模様。

 

 

「起きたなら一緒にカフェテリア行こーよ。お腹空いてるでしょ?」

 

「……お前と、飯を食うのか」

 

「え、イヤなの?」

 

「なわけ。ちょっとワクワクしてただけだ」

 

「ふふふー、トレーナーはホントにボクに夢中だなー」

 

「否定できねえのが悔しいんだよなぁ……」

 

「ねえねえ、せっかくだしさ、食べながらキミのこと教えてよ」

 

 

 今はただ、キミを知りたい。それが、ボクからトレーナーに向ける感情だった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「いっくぞー!」

 

 

 ……天才とは恐ろしいな。上がっていく負荷を気軽に飛び越していく。プランがいくつも塗り替えられた。

 

 

「そろそろレベルを上げるか……」

 

 

 先輩から教えてもらった、レベル別トレーニング。ダートを走ることから始まり最終的には瓦割りになったり、勉強から始まり最終的には将棋になったりする。

 

 俺一人でやれることには限界がある。だから、目標達成までは媚びへつらってでも上を目指す所存だ。

 

 

「ふーー……。終わったよー?」

 

「相変わらず速いなお前は」

 

「でしょー!ま、これがテイオー様の実力ってやつだよ!」

 

「調子に乗るな」

 

 

 和気藹々とした空気が非常に美味しい。超絶好みの美少女に尽くせる、この時間は俺の人生の最盛期だ。

 

 

「……仲間を増やすか」

 

「ん?トレーナー何言ってんの?」

 

「確かにお前は強い。が、独りっきりじゃつまらないだろ?」

 

「んー……そこまで考えたことはないけど……確かに楽しいに越したことはないかな」

 

「よし決まった。じゃ、コネクションを広げるぞ」

 

 

 以降、学園のウマ娘というウマ娘をテイオーとのトレーニングに勧誘するようになった。元々彼女の友人が多かったこともあり俺の『サポートカード戦略』は上手いこと軌道に乗るように。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『一着はトウカイテイオー!強いとしか言えない走り──』

 

「まあ、だろうな」

 

 

 年明けて若駒ステークス。本格的にクラシック戦線が始動する。その第一のレースでテイオーは一着になった。

 

 期待の新鋭。それが、トウカイテイオーというウマ娘の評価だった。

 

 

「えへへ、どうだったトレーナー!ボク、強かったでしょ!」

 

「ああ。やっぱお前とならテッペン獲れるな」

 

 

 満たされた日々。焦がれ狂っていたウマ娘と共に歩む毎日。

 

 しかし俺には更なる欲望があった。

 

 それは、担当ウマ娘を泣かせたい。曇った姿を愉しみたいという、到底ヒトには言えない欲求。

 

 まあそれと同じくらい喜んでる姿が好きなので、意図的に曇らせようとは思わない。旅の副産物として味わえればいい的思考だ。

 

 

「よーし、祝勝のはちみーだー!今日はマシマシにしちゃうもんね!」

 

「いいぜ。奢ってやるよ」

 

 

 求め続けていた、乞い続けていた彼女とのストーリー。いずれ終わる関係だとしても、残りの人生全てを捧げてもいいぐらいに満足だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「よし、今日のレースはGⅠだが……みなまで言わなくても聡明なお前なら分かるだろ?」

 

「うん。いつも通り、でしょ?」

 

「よく分かってるじゃねぇか。よし、行ってこい」

 

 

 息つく間もなく皐月賞。初GⅠの重みは俺にも深くのしかかっていた。

 

 とは言いながらも高揚感も確かに介在している。彼女の勝負服姿を拝める。それだけで今日という日は価値があった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーの傍は居心地がよかった。

 

 

「やったー!トレーナー、見てた?」

 

「そりゃトレーナーなんだから見るだろ」

 

「そうじゃなくて!ボク、頑張ったよ!」

 

「ああ。いつも頑張ってくれてるからな。その成果が出てた。よくやった、テイオー」

 

 

 一冠め、皐月賞。ボクの体は羽のように軽く、観客席の歓声を一番浴びられる存在となった。

 

 ふー……。やっぱり、気持ちいいなあ、走るのって。賞賛を受けるのも嬉しいし。

 

 

「これなら日本ダービーも行けるな」

 

「とーぜん!キミもちゃんとついてきてよね!」

 

 

 あの夜。ボクがカイチョーに負けてモヤモヤしてた夜。このヒトは『俺を信じろ』と言ってのけた。実際その大言に見合う程に、トレーナーは有望だった。そういう意味だとボクたちは似たもの同士なのかもしれない。

 

 ただ一つ不思議なことを挙げるとするならば──

 

 ──トレーナー、やけにボクを見てくる。

 

 トレーニング中もそれ以外の時も、気づけばボクばっかり見てる。いやトレーナーだから″視る″のは当たり前なんだろうけど、それにしても視線を感じる。

 

 でもまあ、そこまで嫌な気はしない。だってトレーナー、ボクのこと大好きだし。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『一着はトウカイテイオー!これで二冠ウマ娘となりました!』

 

「えへへっ、よゆーよゆー!」

 

 

 抜群に整えられたコンディション。普段みんなと走ってる経験も助力して、ボクは日本ダービーを制覇した。

 

 ──なんだけど。

 

 

「……あれ……?」

 

 

 足、が……?

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 マズイマズイ非常にマズイ。テイオーが骨折しやがった。

 

 競走人生引退、とまではいかないがそれでも怪我という要素は大きいものだ。

 

 とりあえず菊花賞に間に合わせる。そのために、彼女にできる全てを突き詰めなければ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あっつ……」

 

「あづー……これから夏合宿かぁ……」

 

 

 まだ100%安全とまではいかないが、ひとまずトレーニングは許されるようになった。我ながらよくやったと思う。

 

 かんかん照りの夏合宿。熱気は苦しいし汗は不快だが、俺の中に一つ嬉しいことがある。それは、水着姿のウマ娘を堪能できるという点だ。

 

 ククク……合法的にウマ娘を見られる、このためにトレーナーになったと言っても過言じゃない。さあ、楽しもうか。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーと医師からあらゆるサポートを受けて、ボクはまた走れるようになった。一時期は菊花賞に出られないかもって焦る時もあったけど、こうしてボクは立てている。

 

 ……まだ決めつけるのは早いかもしれないけど、トレーナーがボクのトレーナーでよかった。ボク一人だったら、乗り越えられなかったかもしれない。

 

 そんなわけでボクはトレーナーのことを改めて見直すことにした。このヒトはボクのことが大好きで、ボクのためならどんな負担も厭わない。

 

 

「よし、今日はここで終わりだ!塩分とミネラル補給用のスムージー作ってきたんだ。飲んでみてくれ」

 

「……あ、美味しい」

 

「だろ?疲れた体にはよく効くだろうと思ってな」

 

「……トレーナーってさ」

 

「あん?」

 

「ボクのこと大好きだよね」

 

「──は、ははははははぁ!?!?そ、そそっ、そんなことっ」

 

「見ててバレバレだよ?」

 

「……あー、畜生、そうだ。そうですよ。なんか文句あっか」

 

「ふふっ、やっぱそうなんだ」

 

 

 いい意味で大人らしくない、トレーナーの赤ら顔。

 

 

「ボクも、キミのこと嫌いじゃないよ?」

 

「随分と上から目線だな」

 

「まあまあ、いいじゃんいいじゃん!これでもボク感謝してるんだよ?」

 

「はぁ?何にだよ」

 

「こうやってまたボクを走らせてくれたこと!面と向かって言うのは恥ずかしいけど、いつもありがとね」

 

「ああー……そんなこと、トレーナーとして当然だろ」

 

「それでも、ありがとう」

 

「……なんだよ。今日はやけに素直だな」

 

 

 そこまで話して、一瞬トレーナーの目線がボク以外に向く。その先にいたのは、海を泳ぐウマ娘。

 

 鼻の下伸ばしてる……。……ボクのこと好きなくせに。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「よし、今日も分析するぞ」

 

「するのはいいんだけどさー……トレーナー、寝てる?」

 

「俺ァショートスリーパーなんだよ」

 

「のわりには目の隈濃い気がするけど……」

 

 

 ……確かにテイオーが怪我してからというもの、俺はほとんど眠らなくなった。限界まで働いて、電池が切れたように気絶する。これじゃ車の運転できねぇな……。

 

 とはいえ止まるつもりはない。三冠達成、最後のピースとなる菊花賞。出てくるメンツも相当な筈だ。

 

 

「よし、決めた!」

 

「何をだよ──って、うわっ」

 

 

 ……成人男性が、中等部のウマ娘に抱えられている。触れられるのは役得だが、俺のメンツは丸つぶれだ。

 

 そしてソファに寝かされる。あーヤバい。最近マジで寝てないから横になっただけで意識が、とお、く……。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 

「スー……スー……」

 

「……ホントに疲れてたんだね、キミ」

 

 

 ボクが間近にいるのにこのヒトは眠っている。少し前だったらすぐに気づかれたのに。

 

 沸き立つ気持ち。菊花賞を目前にして、ボクはうずうずしている。本当だったら今すぐにでも駆け出したい。でもボクはこのヒトを信じるって決めた。だから、今は分析に集中する。

 

 

「……よし、こんなもんかな」

 

 

 レースの座学は授業でも一通り学ぶ。トレーナーが求めているのは、更に深い内容。

 

 作戦をいくつか用意した。トレーナーがトレーニング中に残したメモも参考に、ボクらしい走りを当てはめる。

 

 

「トレーナー?終わったよー?」

 

「…………」

 

 

 意識が深層に沈んでいる。不思議にもいつかのような悪戯心は湧いてこない。

 

 近くに寄った。それでもトレーナーは起きない。

 

 

「帝王サマが褒めてしんぜよー……なんてね」

 

 

 頭を撫でる。むず痒そうに口元を緩ませるトレーナー。

 

 

「……ふふっ」

 

 

 レースの高揚感や、ライブの充足感とは違う……なんて言えばいいんだろ。心の温もり?みたいな。そんな、フワフワした感情が押し寄せる。

 

 その名前を、ボクは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

『一着は、■■■■■■!二着はトウカイテイオー!』

 

「…………」

 

 

 距離の壁、もあったと思う。怪我の影響も、無いとは言い切れない。

 

 

「……テイオー」

 

「…………」

 

 

 項垂れている。無理もない。幼い頃からの夢が、叶わなかったのだから。

 

 

「……ぐすっ」

 

 

 泣いた。それは俺が求めていた曇らせ展開。

 

 クククク……曇らせは憐憫 背徳 後悔 そして愉悦が含まれている完全コンテンツだァ

 

 ……その筈が、何故俺の胸は痛んでいる?

 

 

「……ボクたちの目標、忘れてないよね」

 

「一秒たりとも忘れてねぇよ」

 

 

 皇帝を超える。そのために、この敗北を糧にする。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「…………」

 

 

 ネットの記事が目に入る。そこに記載されていた内容は、菊花賞のテイオーに関わる話。

 

 

『あのトレーナーの所為でトウカイテイオーは三冠を逃した』

 

 

 そんな評論家の一言が取り沙汰され、世間は、賛否両論だった。

 

 勝てたらウマ娘が強かった。負けたらトレーナーが未熟だった。その評価は、俺が新人だからというのも後押ししている。

 

 ……一応補足すると、そのような風潮は俺たち以外にも適用されている。何より、実際に走るのはウマ娘だから。

 

 だけど……その批評が少し、悔しい。自分にこんな人間くさい部分があるとは思わなかった。

 

 努力だ。一も二も努力しかない。足りないなら考えろ。それが俺だろ。

 

 

「トレーナー、いる?」

 

「ああ」

 

 

 忍ばせた怒りがバレないよう、携帯端末を閉じる。にしても今はお昼時、俺に何の用があるというのか。

 

 

「何の用だ」

 

「キミ、ボクが誘わないとご飯食べようとしないじゃん。だからほら、一緒に食べよ!」

 

「……眩しいなお前は」

 

「?何の話?」

 

「なんでもない。行くか」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 夢が叶わなくなって一番先に浮かんだのは、トレーナーの顔だった。

 

 三冠を獲れなかったことは今でも悔しい。だけどそれと同じくらいに、あのヒトの努力に応えてあげたかったという無念が胸を駆け巡る。

 

 そんなことを考えながら引っかかったことが一つ。

 

 ボクは、あのヒトのことをどう思ってる?

 

 

「おつかれトレーナー。先上がってるよ」

 

「おう」

 

 

 今日も、今日までも。トレーナーから放たれる正体不明の温もり。

 

 近くにいると心地が良い。向こうが笑ってると、こっちも嬉しい。出会ったばかりの時はこんな気持ちになったことは無かったのに。

 

 そして何より不思議なのは、この正体をトレーナーに問おうとしても何故か言い出せないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「あけおめー」

 

「んー」

 

「キミは初詣行く?」

 

「んー……正月まで仕事じゃ窮屈だしな……お前が行くなら、行く」

 

「よし!じゃあ早速準備しよう!」

 

 

 この時期は寒いのに、テイオーは元気だな。俺もガキの頃は雪に目を輝かせていたっけか……?

 

 シニア級に突入し、いよいよ対シンボリルドルフ戦のことを視野に入れ始めるようになった。あれはマジでヤバい。生半可な覚悟では容赦なく食われる。

 

 己に活を入れ直すために、俺は外出準備を始めた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「うー、さむさむ……。トレーナー、カイロ持ってない?」

 

「あがががが……そんな都合のいいモン持ってねえよ」

 

「はー、仕方ないなー……それっ」

 

「!?!?!?!?」

 

 

 はっ、な、何コイツ、俺の右腕に、体を絡ませてきやがった────!?!?

 

 

「ッッッ……!?!?」

 

「ふー、これであったかくなる……。ん?どうしたのトレーナー」

 

「あばばば……お、おん前、急に何を」

 

「……えー、なに、照れてるのー?」

 

 

 待ち望んでいたシチュエーションが、目の前で、更に俺の体を介して行われている。

 

 嬉しくないわけがない。だからといってこの状況を受け止められる程俺の腹は据わってないのだ。

 

 

「……もしかしてだけどキミ、女のヒトと関わってきたことない感じ?」

 

「うるせえな。勉強で忙しかったんだよ俺ァ」

 

「えへへ、それじゃボクが一番だねっ。……え?何言ってんのボク」

 

「……お前本当どうしたんだ?」

 

 

 俺は知ってる。こんな思わせぶりな態度取っておきながら、こっちがいざ思いを伝えるとドン引きされるということを。

 

 更に俺は知ってる。中~高等部のウマ娘にそんな思いを伝えるのは、例外なくロリコン野郎ということを。

 

 俺はそんな下奴であることを自覚してきた。そのためにトレーナーなったんだし。

 

 だからこの時間も楽しめばいい……と、思ってはみても、謎の感情が胸を刺す。

 

 あー!最近俺たちおかしいぞ畜生……!

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……ごめん、負けちゃった」

 

「……いや、お前は確実にフルスペックを発揮した。過失なら、俺にある」

 

 

 勝ったらウマ娘が強かった。負けたらトレーナーが未熟だった。そんな言葉を否定するつもりは無い。事実、レースに向けて体作りさせるのは俺の役目だからだ。

 

 春の天皇賞、メジロマックイーン戦。俺たちは手痛い敗北を味わった。

 

 今回はメジロマックイーンが強かったこともあり世間の批判は少なかったが、元より俺は他人からの評価に嘆いていられるほど暇ではない。……悔しさはあるが。

 

 

「マックイーン、強かったね」

 

「……お前はもっと強くなれる筈だ。確かに今日は負けたが、次こそは……!」

 

「……キミは相変わらず熱血だね」

 

 

 二着。限りなく頂点に近づいたが、敗北を刻みつけられる結果。

 

 次こそ、今度こそと息巻く俺を俺はどこかで不思議に感じていた。俺はいつからこんなレースに熱心になってるんだ?

 

 頭を振る。余計な思考は切り捨てろ。そして何より、曇らせを愉しめ。

 

 

「……クックック……」

 

「おお、悪魔的」

 

 

 無理やり笑ってみても、気分は上がらず。不可解な一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 時間が経つにつれ、ボクは成長する。体も、心も。

 

 ……ホントは、ホントは最初から知っていたのかもしれない。ボクだって女の子だから、そういうジャンルに憧れることもある。

 

 時期は二度目の夏合宿辺りかな。花火を一緒に眺めて、気づいた。

 

 ボクは、トレーナーが好き。異性として、恋愛的な意味で、大好きだ。

 

 伝えようか何度も迷った。期せずして去来した感情に悩まされることもあった。

 

 でもボクは、どこまでいってもウマ娘だから。走ることでしか、示せない。

 

 ボクはトレーナーが好き。それはもう分かった。

 

 だったら、どうする?初めての気持ちに振り回されて、またいつかのように夢を見失う?……そんなの、帝王じゃない。

 

 だからボクは、走る!どこまででも、走ってみせる!

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 楽しい時間はいつだってあっという間に過ぎる。気づけばもう二年以上彼女と歩んできた。

 

 幸せだった。だから幸せにしてやりたいと思った。きっとその時点で俺は変調していた。

 

 ──俺はもう、テイオーの曇らせを愉しめない。

 

 

「おいテイオー」

 

「なに?そろそろ行かなくちゃ」

 

 

 ジャパンカップ。国内外から凄腕ならぬ凄脚のウマ娘が参加するレース。

 

 距離は菊花賞や春天より短い。この距離(せかい)は、彼女のテリトリーだ。

 

 そして見送る地下バ場。俺はポケットからそれを取り出し、テイオーに放った。

 

 

「これ、やるよ」

 

 

 それは、髪飾り。彼女の付けてるリボンとは対称的なカッコ良さに意匠を凝らしたアクセサリーだ。

 

 

「え、どうしたの急に。ていうか悪いよ。何円した?」

 

「生憎、非売品だ」

 

「手作りってこと?」

 

「ご名答」

 

「……付けて」

 

「あ?」

 

「キミが、付けて」

 

 

 ……緊張させやがる。一筋縄ではいかない辺り、やっぱりコイツは″王″だ。

 

 

「……動くなよ」

 

「……うん」

 

 

 髪に触れる。そして、飾りをそっと取り付けた。

 

 

「……行ってくるね」

 

「おう、勝てるぜ、お前」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「んん?このバカ忙しい時に誰だ……。どうぞー」

 

 

 トレーナー室のドアを開けたのはテイオー。ジャパンカップを勝ちに収めたトウカイテイオーだった。

 

 息つく間もなく有記念がやってくる。その対策を講じるために、俺は部屋に籠もっていたのだが……。

 

 

「テイオー?どうした、もうすぐ門限だぞ?」

 

「ちょっとだけ、外歩かない?」

 

「……はー……。ちょっとだけだぞ」

 

 

 ……コイツ、ひょっとして……

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「うー、さっむ……やっぱ外は寒いな……」

 

「ねえ、いい?」

 

「あ?……好きにしろ」

 

 

 そう伺いを立てると、彼女は俺の体に寄りかかるように腕を腕へ絡ませた。この胸の鼓動が伝わらなきゃいいんだが……今更か。

 

 

「いよいよだね、カイチョーと戦うの」

 

「カイチョーカイチョーうるさかったお前がここまで成長するとはなー」

 

「むっ、なにそれ」

 

「ふっ、悪い悪い」

 

「……ふふ」

 

 

 曇らせはもういい、腹いっぱいだ。俺の所為で三冠は獲れず、ライバルには負けた。もう十分だ。

 

 

「……ねえ、トレーナー」

 

「ん」

 

「トゥインクル・シリーズが終わっても……ボクと一緒に歩いてくれる?」

 

「ククク……俺はお前のトレーナーだぞ?お前がどれだけ嫌がろうとお前を果てまで走らせる。それが俺だ」

 

「……キミは、まったく……」

 

「?なんだよ」

 

「なんでもないよー。……あはは」

 

 

 それからは、謎の無言時間が流れていった。そんな冬の、一時だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……とまあ、作戦はこんな感じだが……いざとなったら本能のまま走れ」

 

「……キミは、ボクがそれで勝てると思う?」

 

「あ?お前が今更負けるわけないだろ。ここまで走ってきて、見てきて、痛いほど分かってるんだから」

 

「あはは、キミならそう言うよね。……よーし!」

 

 

 控え室を出て、地下バ場。トゥインクル・シリーズ最後のGⅠレースを前に何を言ってやればいいだろうと勘考していると、爆弾発言が彼女から飛び出した。

 

 

「トレーナー」

 

「なんだ」

 

「最初はこのレースが終わったら伝えようかなって思ってたけど……ボクの気持ち、言わなくても聡明(そーめー)なキミなら分かるでしょ?」

 

「……ハァ、俺の負けだ。その様子なら、俺の心情も察してるだろ?」

 

「うん。……行ってくるね!」

 

「ああ。夢の先で待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ア゛ァァッ!」

 

 

 戦場の息が迸る。作戦は当てはまった。後は自力勝負!

 

 

「ぐっ、うう……!」

 

 

 やっぱりカイチョーは強い。本当に……強い。けどボクには負けられない理由がある!

 

 ──あのトレーナーでなければ、トウカイテイオーは三冠を達成できていた。

 

 ──あのトレーナーの未熟さが、トウカイテイオーに土をつけさせた。

 

 

「うっさい!あのヒトは、ボクのっ、トレーナーなんだ!!」

 

 

 奪わせない。誰にも、否定されて──

 

 

「──たまる、もんかぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい歓声。かつて聞いたことが無い程の。

 

 

「……テイオー」

 

 

 ガキだった彼女が、この場にいる誰よりも輝きを放っている。

 

 ……そうか。俺は、本当の意味で彼女のトレーナーになりたかったのか。

 

 今更だ。遅すぎた。どの面下げてこんな思いを吐露する。

 

 それでも俺は、呟いた。

 

 

「行け、テイオー」

 

 

 結果はまあ、言わずとも分かるだろう。 

 

 帝王が、中山の地に君臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっははは!あー、楽しかったー!」

 

「よくはしゃぐなあお前は」

 

 

 皇帝へのリベンジを達成し、彼女は晴れて帝王を名乗っていた。やっぱり、テイオーは笑ってる方がいいな。

 

 

「ねえねえ」

 

「なんだよ。流石にもうジェットコースターは勘弁──」

 

「いつもそうだけど、今までありがとう!ボク、キミに会えてよかった!」

 

「お、おう……」

 

 

 相変わらず心臓に悪い。ちょっと気を抜けばそんな言葉を浴びせられるのだから、反応に窮する。

 

 

「ッ……」

 

「……トレーナー、ひょっとして泣いてる?」

 

「……るせえ……う、うあああ……」

 

「これで終わりじゃないよトレーナー!ボクたちのストーリーは、始まったばかりなんだからね!」

 

 

 ……そうだ。競走人生はこれからも続く。

 

 きっといいことばかりではない。涙に濡れる夜もあるだろう。それでもいい、それでもいいんだ。俺たちは答えを掴んだのだから。

 

 だから俺は、俺たちは、たとえ何度折れようと、何度生まれ変わろうと、

 

 何度だって、物語を紡いでみせる。

 


































三女神「悪魔は地獄へ行きやがれッ」
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