下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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元々ゴールドシップの話と一緒に投稿する予定だった話っス

そのためシリアス度は全くないっス明るいバカ軽い話っス

今更っスけどお気に入り登録や感想などなどマジでありがとうございますめっちゃ励みになってるっス










高校鉄拳伝ヤエノ スパーキングメテオ

「私のトレーナーに……なっていただけませんか」

 

「────ぅえ?おれ、に?」

 

 

とある昼下がり、スカウト疲れで座り込んでいたなんの実績もない新人トレーナーである俺に声をかけてきたのは一人のウマ娘。

 

驚きを隠せなかった。なにせその子は一度スカウトを試みて断られた相手だからだ。

 

ともあれ、何かを決意したかのような固い意思を感じさせる彼女の瞳の前に俺はおずおずと頷くことしかできなかった。

 

彼女の名前はヤエノムテキ。金剛八重垣流門下生にして、後に俺の師となるウマ娘だった。

 

 

 

 

 

 

彼女はいついかなる時も鍛錬、朝も鍛錬夜も鍛錬、とにかく鍛錬といったように、ひたすら己の心技体を鍛えまくる子だった。

 

その中でも特に特徴的だったのが彼女の修める古武術、金剛八重垣流だ。曰く、拳で風を叩き、大地を蹴り、決して人を傷つけない武術────らしい。

 

彼女の夢は師である祖父母の為にその武術を更なる繁栄へ導くことだとか。

 

 

それはそうとして、彼女の日課である武の研鑽──宙に放つ正拳突きなどなど──を見ていると……その……見惚れてしまった。

 

なんというかこう、ブレがないんだ。混じりっけ無し、純度百パーセントの”武”がヤエノの周りには顕現していた。

 

打ちのめされた気分だった。俺は、何故今までこの「武」という美しさを知らなかったのかとさえ思った。

 

そうやって見学させてもらっているうちに少年心を思いっきりくすぐられ、いつの間にか俺も金剛八重垣流を習いたいと懇願していた。

 

想像の五倍ぐらいすんなり受け入れてもらえた。今まで体を鍛えてきた経験すらない俺に態々彼女が教える義理も義務もないというのに、一から俺を見てくれることになった。

 

以降、トレーニングでは俺がヤエノに古武術ではヤエノが俺に指導するようになり。

 

忙しい身でありながらも彼女は丁寧に手ほどきしてくれた。まあ楽とかほのぼのとかとは圧倒的にかけ離れたスパルタさだったが。

 

そして──────

 

 

 

 

 

 

「────────ふッ!」

 

「──せいやッ!!!」

 

 

休日真昼間の公園にて、俺とヤエノはいつものように鍛えていた。

 

ヤエノは自分の技を師匠(祖父母)には遠く及ばないと言っていたが、俺はそんな彼女の足元にすら届いてない。

 

一応これでも毎日必死こいてやってるつもりなのだが、何が足りないんだ?やはり経験がものを言うのか……。

 

 

「ハァッッ!!」

 

 

拳が鈍る。幾度にも渡る全力の空打ちで体力はすっからかんだ。これでもう何度目かも数え切れない。

 

隣のヤエノを横目で確認すると、全く疲労を感じさせない安定した動きが見えた。

 

 

「く……そ……!どうしたらそんなふうにできるんだ……」

 

 

限界が来たのか、笑う膝を投げ出して後ろに寝転んでしまった。

 

こうして稽古をつけてもらってから一度もヤエノの領域に届いたことはない。

 

体は強くなってる筈なのにどうしてこうまで俺は弱いんだろう。

 

 

「至れない理由があるとするなら……貴方の中に何か、不純物があるような────いえ、すみません。忘れてください」

 

 

全身が硬直した。

 

まさか、バレたのか?いや、んなわけない。ヤエノの前でそんな素振りは見せたことはない筈だ。

 

体の中は熱いのに肌が刺すように冷たい。

 

ぶんぶんと頭を振ってからもう一度立ち上がりがむしゃらに鍛錬を続ける。湧き出た冷や汗を身体中から迸る熱で誤魔化す為に。

 

 

 

 

 

 

ヤエノは礼儀やルールには人一倍厳しく結構お堅い無口なイメージだったが、芦毛の怪物(オグリキャップ)などの強敵と出会った時には闘志を剥き出しにしていたり、犬や猫──それもペットショップで売られているようなか弱い生き物にメロメロになっていたりなど意外と年相応に子供っぽいところもある。

 

しっかし最初俺が担当になったばっかの頃はとにかく荒かった。今でこそ並んで修行してくれるようにはなったが、始めん頃といえば口も聞いてくれないしミーティングとかもしてくれなかったし、態度がかなり冷たかった。

 

つっても俺はそんなつっけんどんなヤエノを「可愛いなー」とどこか反抗期の……娘?妹?を見るように感じていたからそれほど支障は無かったが。

 

なんといっても彼女は美少女。キリッとしたあの表情や真剣に走る姿を見てるだけで俺は毎日ホクホク顔でいられたと言っても過言ではない。

 

 

そんな中でも捨てられた犬の引き取り先を一緒に探したり日夜問わずに金剛八重垣流の技を磨き続けたりしていると次第に俺の中にあった色々な煩悩が薄れていって。

 

気がつけば金剛八重垣流を修める者として、ヤエノムテキのトレーナーとして、俺の全てを賭けて責務を全うしようと誓っていた。

 

最近は彼女の信頼もある程度は勝ち取れているようになったかなぁ……なんて少しだけ思って(自惚れて)いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は中々に奇異な人物だった。

 

粗暴だった頃の私がどれだけ遠ざけようとしても「ヤエノーヤエノー」と狗のようにまとわりついてきていた。

 

 

当初、彼にスカウトされた時点では誘いを受ける気など毛頭なかった。

 

トレーナーなど私にとっては目の上の瘤にも等しく、あまつさえ彼のような経験も実績もない新人に従うなど到底許せるものではなかった。

 

加え、彼の奥からは形容しがたい(よこしま)な何かを感じた。そんな男におめおめと三年間もの間この脚を捧げるなどもってのほか。

 

当然断った。彼は残念そうにこそしていたが潔く立ち去っていった。

 

しかし、その後垣間見た担当を探して奮起する彼の姿、そこに隠れた”熱意”は間違いなく本物だった。

 

そこで私は考えた。彼の善も悪も受け入れ、鍛錬によって邪念のみを打ち払い、昇華させていく────。

 

そうすることで金剛八重垣流の本懐──彼の毒牙から弱き者を護り、私の精神もウマ娘としての能力(ちから)もより高みを目指せるのではないか、と。

 

…………決して私の態度を恐れてスカウトしてくるトレーナーが彼以外全くいなかったからとか、そういう理由があったわけではない。あったわけではない……筈。

 

 

だが彼が専属になったばかりの時の私は酷いものだった。自分の力のみを信じ、トレーナーを頼るどころかトレーナーを蔑ろにするような形で走っていたのだから。

 

彼から弱き者を護る────。そんなのは建前にしかならなかった。掲げるばかりで実践できない理想をいつまでもくだらない矜恃(プライド)で遮り、彼をただ拒絶することしかできない自分にどこかで嫌気がさしていた。

 

彼から金剛八重垣流を学びたいと頼まれた際も断りたくて仕方なかった。それでもじいちゃ──師のことを思い、不承不承といった形で彼に手ほどきを行うことにした。

 

劇的に事態が変わるように大きな出来事があったわけでもないが、彼は一日たりとも気を抜かず真摯に修行を続けていた。

 

多少は骨がある、とは思ったがその時の私は尚も彼の指導を受ける気になれなかった。

 

そんな私が勝てる程この世界(レース)は甘くない。オグリキャップさんを筆頭に多くの強者の前に敗れ、私は現状への不満と勝利への渇望、何かに縋りたいという思いとそれとは裏腹に彼には頼りたくないという臆病なまでのプライドの狭間で揺れていた。

 

どこかでは理解していた。私一人の力では勝てないと測れない程愚かではない。それでも彼を見下すあまりどうしても認められなかった。

 

そしてある日、私はいつものように絡んできた彼にいつも以上の無礼を働いてしまった。

 

 

「ヤエノー、今日のレースを見て色々考えてき────」

 

 

耳障りだった。彼の声を聞くだけで神経を逆撫でされるような不快感に襲われる。

 

 

「それでな、オグリ対策にこんな作戦を考えたんだが────

 

「必要ありません」

 

 

壁際に追いやり、彼の真横に手を当て、威圧するように顔を近づけて凄む。

 

 

「私の走りは私が決める。貴方のような三流に、口出しされる筋合いはない」

 

 

私の言葉が聞こえなかったわけではないだろう。だというのに、何故か彼は顔を赤らめて────照れていた。

 

その数秒後にはいつもと変わらない笑みを浮かべ、人懐っこい態度で振舞っていた。

 

 

私がどんなにぞんざいに扱おうと彼は笑顔で私を見ていた。その視線がどこかじいちゃん──祖父に似ている気がして、余計に苛立った。

 

薄気味悪いヒトだった。

 

 

その日以降、彼の技の上達ぶりは輪にかけて早くなった。不審に思い自主練に(かこつ)けて放課後外に出た彼を尾行してみると、彼は日が落ちるまで、日が落ちた後も古武術の鍛錬を続けていた。

 

後で分かったことだが彼は私よりも遅くまで風を拳で叩き、私よりも早く──早朝から大地を蹴っていた。

 

トレーナーの仕事もあるだろうに、学園で会う彼はなんの疲れも見せずカラカラとした笑顔で自らの職務に取り組んでいた。

 

 

「俺はまだまだ弱いからな、ヤエノに認めてもらえるように頑張んなきゃ」

 

 

聞いてもいないのにそんなことを言っていた。

 

 

 

 

 

 

「あれは────捨て犬……!?」

 

 

自主練の最中、学園外を走っていた私が発見したのはダンボール箱に押し込められ衰弱していた子犬だった。

 

このようなか弱き命を、見捨てる者がいるとは……!

 

激情に支配されかけながらもなんとか心を鎮め────無意識に携帯電話を取り出し、彼に連絡しようとしていた。

 

その判断は正しい。学園寮ではペットを禁止されている。私が拾ったところでどうこうできる問題ではない。

 

────あの男に、頼る。

 

屈辱にすら思えた。……それでも、目の前で丸まる小さき命。そのか細い鳴き声を耳にし、私は躊躇うことを忘れた。

 

 

彼の対応は迅速かつ的確だった。体を清めさせ栄養を取らせ、獣医師に診させた後里親を見つけるまでの間は自分達が面倒を見ると学園側に直談判を行い、ありとあらゆるツテを頼り信頼できる相手にその子犬を託した。

 

…………不覚にも、里親を募集している間私がその子犬を密かに愛でていた際彼に見られてしまったことがある。

 

普段誰にも見せてこなかった姿をよりによって彼に見られ、私は瞬く間に顔色を秋の山肌よりも赤く染め上げた。

 

彼はといえば全く気にしていないようにあっけらかんと、

 

 

「ああよかった。ヤエノ、犬が好きなんだな。俺犬が苦手でちょっとしたアレルギー持ってるからさ、気が向いた時でいいからそいつに構ってやれないかな」

 

 

と言ってみせた。

 

絶句した。私がこうして彼に犬や猫が好きなことを気取られるまで、彼は一人でその子の面倒を見ていた。程度は低いとはいえアレルギーを持つ身でありながら拾った当人である私にも頼ろうとせずに、だ。

 

 

私は己の未熟さを恥じた。

 

もっと強くならなければ。心身共に成長しなければと心の中で決意した。

 

 

そのようにして他愛もない日々を過ごす内に……私は少しづつ彼と脚を並べるようになった。

 

彼の指導を聞き、策を練り、共に励み、そうして私達はとうとうかの怪物、オグリキャップさんも下してみせた。

 

────ああ、そうだ。

 

私は、トレーナーさんに変えてもらったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前からヤエノの態度がかなり柔らかくなったような気がする。

 

前までは内に秘めた優しさはあったものの口調など結構刺々しい部分があり、他の子から怖がられることも珍しくなかった。のだが、近頃はサクラチヨノオーやバンブーメモリー、メジロアルダンといった仲のいい友人もできたようで。

 

俺に対しても礼節を重んじるところは変わりないがふとした時──会話や稽古の休憩中に──、ふっ……と微笑んでくれることが多くなった。

 

体を鍛えたことで心も鋼のように堅くなったがそれでも危ないところだった。ヤエノのややぎこちなくさりげない、しかしめちゃくちゃ可憐な笑顔を見せられてあやうく死ぬ(天に昇る)とこだった。

 

 

そんな感じで最近の学園生活は平和を極めていた。

 

 

ただ一つだけ心配事があるとするならば……

 

なんかヤエノ前より俺から距離とってる気がするってことで……。

 

前のツンケンしてた時は「貴方のような三流に──」とかなんとか言いながら壁ドンしてくるくらいには距離感バグってたのに、今は俺が半径一メートル以内に近づいただけでギクシャクしている。

 

やっぱりあの時恥ずかしがるヤエノにうまぴょい伝説のライブ練習をサクラチヨノオーに手伝ってもらいながら無理やりやらせたのが原因なのか……。

 

そうは言ってもライブの練習はやらなきゃならないことだし……彼女もそれは分かってくれてる筈だから……。

 

でもヤエノって恋愛ソングの歌詞で顔真っ赤にするぐらいには純真な子だからなぁ……悪いことしたかなぁ……。

 

 

もしかしたら俺を異性として意識するようになったのでは、なんてバッッッッッカ気持ち悪い考えが浮かんだがすぐに放り捨てた。

 

そりゃ期待しないわけではない。でも冷静になってみろ。あんなに礼儀や作法がしっかりしてて真面目で、前のどうしようもなかった俺を見捨てずに面倒見てくれて腐った性根を叩き直してくれた相手にそんなことを考えるなんて失礼とかそういう次元じゃねぇじゃねえかよ、えーーーっ。

 

やはり俺はまだまだ未熟だ。昼食の時にでも稽古をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヤエノ……最近疲れてるのか?なんか技の鋭さがいつもより鈍くなってる気がする……というか……』

 

 

数日前、トレーナーさんに言われた言葉を今も反芻している。

 

確かに最近の私はどこかおかしい。動きが機械人形のようにぎこちなくなる時がある。それも決まってトレーナーさんが傍にいる時に。

 

彼が近くにいなければいつものように鍛錬を行えるのだが、何が私を鈍らせているのだろうか。

 

このままでは余計な心配をかけさせてしまう。そうなればトレーナーさんに負担がかかる。

 

 

彼の善も悪も受け入れ、鍛錬によって邪念のみを打ち払い、昇華させていく。

 

それ自体は成功した。

 

彼が何を目論んでいたか推し量ることはできなかったが、今の彼の目から黒い光は抜け落ちている。

 

 

しかし──────オムライス─────最近トレーナーさんといると─────パスタ────

 

─────私は何を考えて……。

 

 

顔を上げる。視線の先にはオグリキャップさんと、山盛りになった菜料の数々。

 

そういえば今は食事の見取り稽古の真っ最中だった。

 

もっと集中しなければ…………

 

……また、トレーナーさんの顔がよぎる。

 

 

このままではいけない。いい加減答えを出さなければ。……しかし、どうすればいいのかまるで見当もつかない。

 

やはりトレーナーさんに関する悩みなのだから、今一度トレーナーさんと向き合ってみるべきか……。

 

その為には──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか今日のヤエノは暗いというか、普段以上に静かだ。何かを決意したかのような固い意思を感じさせる瞳が出逢ったあの日を想起させる。

 

いつもなら目を合わせて話してくれるのに今日はずっと視線を逸らされてしまったのが何気にしんどかった。

 

トレーニングも終わり、さあこれからどうしようかという時唐突に彼女は俺を外に誘った。

 

古武術の稽古かなーと考えながらついて行くと俺達の鍛錬の場となっている公園──を通り過ぎ、どこかの広い原っぱのような場所に辿り着く。

 

 

「私と、立ち合っていただけますか」

 

 

凛とした声で彼女はそう言った。

 

 

立ち合う。立ち合うっていったら試合ってことだ。俺達は今まで金剛八重垣流同士で試合とかはしてこなかった。それが、何故今?

 

いや、ヤエノが軽い気持ちでそんな重要なことを言い出すわけがない。今日一日過ごしてそれでも意思は揺るがなかったということは、彼女の中で俺との立ち合いに何かしらの意味を見出したということだ。

 

 

「ご安心を。ヒト並に力は落とします」

 

 

彼女が何を考えているかは分からない。

 

ただ今俺がやるべきこと、それは────

 

────全身全霊で目の前の”敵”を打ち倒すということだ。

 

 

「分かった」

 

「……ありがとう……ございます」

 

 

まだ始まってもいないのに彼女はどこか救われたような表情を浮かべる。一瞬揺らぎそうになったが頭の中でスイッチを切り替え(撃鉄を起こし)、闘士としての自分を作り上げる。それは彼女も同じだった。

 

五歩分の距離をとる。

 

合図は不要、戦いは既に始まっている。

 

 

 

 

 

 

「────────」

 

「ぐッ……!?」

 

 

速すぎる。

 

数メートルの距離を一息に詰めて鍛え抜かれた拳による洗練された一閃を、見惚れてしまいそうなぐらいに美しく真っ直ぐに打ち込んでくる。

 

空気を裂く音、”敵”の息を吐く音が、拳に乗せられて耳に届く。

 

目が追いつかない。感覚だけが辛うじてそれを捉えている。

 

習った受け流しの技術を用いてなんとかいなすことに成功した─────が、

 

 

「────────」

 

「く、お────っ」

 

 

一度やり過ごしただけで”敵”の攻撃が止まる筈もない。

 

嵐のように荒い、それでいて流麗な連撃の前では受け流すことも不可能に近く、俺はひたすら守りに徹することしか許されなかった。

 

 

苦悶に喘ぐ。

 

このままではダメだ。とりあえず距離を、

 

 

「────」

 

「───────────こ、」

 

 

甘かった。

 

長い時間を共に過ごしてきた()()が俺の行動を予測できないわけがなかった。

 

 

体を後ろに逃がそうと飛び退いた俺に向かって”敵”は勢いよく踏み込み、いつかの鍛錬の時に見た正拳突きが繰り出される。

 

躱せない。

 

無防備な胸に衝撃が奔る。

 

地面から足が離れる。

 

彼女の姿が遠のいていく。

 

 

 

 

。。。。。。。。

 

 

 

 

 

 

星が散りばめられた夜空が見えた。

 

どうやら何メートルも吹き飛ばされていたみたいだ。

 

 

「か───────」

 

 

声が出なかった。

 

ヒト並に落とされた力とはいえ俺の胸に叩き込まれた一撃により体の中にあった空気は既に風の中へ消えている。

 

 

息ができない。

 

胸を打たれ、背中から地面に叩きつけられ、からっぽの肺はビクビクと脈動するばかりでこれっぽっちも働いてくれない。

 

 

霧がかって色を失いかけた視界を振り絞りなんとか目をやる。

 

”敵”は俺をぶっ飛ばした位置から動いていない。

 

 

「────────」

 

 

綺麗だなと思った。

 

月明かりに照らされたヤエノムテキはとても綺麗だった。

 

こんな状況に置かれて頭の中では苦痛が暴れ回っているのに彼女の姿を見ているとそんな自分もどこかに行ってしまっている。

 

こんな状況だというのに俺は一体何を考えているんだろう。

 

むしろ頭が真っ白に染まりかけているからこそこんなことを考えてるのか。

 

 

「────────」

 

 

ヤエノムテキ。

 

俺を変えてくれて、鍛えてくれた少女に一矢報いることも叶わないのが悔やまれる。

 

俺はヤエノのトレーナーだというのに彼女からはいつも学ばされっぱなしだった。

 

彼女の善意に報いたいと、寝る間も惜しんでトレーナーと古武術の鍛錬を重ねてここまでやってきた。

 

トレーナーとしては成功した。

 

彼女は多くのレースで勝利を掴み取った。

 

 

「────────」

 

 

それでも今はどうだ。

 

反撃できずに一方的に()()()()おしまい。

 

こんなものなのか?

 

彼女に貰った力は、誰かを護る為の力は、彼女に報いたいと願った俺の思いは、こんなところで終わりなのか?

 

 

「────────」

 

 

いや、

 

たとえ力を失ったとしても

 

俺はヤエノに、

 

せめてヤエノには、

 

 

「─────────ぐ」

 

 

彼女が、俺の隣にいることを恥じないような自分でいたいんだ。

 

 

今日初めて視線が重なった。

 

倒れた俺を見据える表情はどこか悲しげで──────

 

 

■に火が灯る。胸から四肢へ、瞳から脳髄まで、その炎は留まることを知らずに広がって俺を焼き尽くして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…………」

 

 

私は何をしているのだろう。護る為の力を振るい、いたずらにトレーナーさんを傷つけてしまった。

 

何の答えも得られず、胸の奥がただ締め付けられるのみ。

 

咳き込みながらトレーナーさんは私を見ている。恨んでいるのだろうか。当然だ。彼には私を糾弾し、憎む権利が十分すぎるほどにある。

 

ごめんなさい。

 

トレーナーさん、じいちゃん、ばあちゃん。

 

私は結局何も────

 

 

「ォ───────ウオおオォオォおおォオオォッッ!!!!!」

 

「な…………ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が息を呑む空気が伝わってくる。

 

痛覚なんてとっくに弾け飛んでいるのに握りしめた拳の感触と肌を刺す夜の冷気が脳神経に直接叩き込まれているかのようにハッキリ感じる。

 

そうだ。そうだろ。こんなんで終わりじゃないだろ。

 

勢いよく空気を吸い込み、爆発するイメージで地面を蹴り抉る。

 

獣の如き気迫を纏い飛びかかる────が、そんな力任せの攻撃を捌けないほど彼女はヤワじゃない。

 

弾かれ、突き崩され、転ばされ、何度も体を打ち付けた。

 

それでも地面に散らばった勇気を掻き集めてもう一度だけもう一度だけと何度も立ち上がる。

 

 

「……ッ、申し訳、ありません……もう止めにしま…………」

 

「────無礼(なめ)んなよ、ヤエノ」

 

 

腹が立つ。何が一番腹が立つかって、俺が彼女を悲しませてしまうぐらい弱いってことだ。

 

 

「俺がこの程度でくたばるとでも思ってんのかよ……!俺は、お前のトレーナーだっ!!金剛八重垣流張ってんならテメェも死ぬ気できやがれ!お前の思い、全部俺にぶつけてこいッ!!」

 

「────ええ、ええ。確かにその通りです。……失礼しました。次は、本気で」

 

 

空気が変わる。

 

力は当然ヒト並に落とされているとはいえ、技の精度が段違いに上がる。

 

 

使ってしまえ。

 

俺の命に価値は無い。だったら今この場で燃やし尽くしてしまえ。

 

俺は風を転がる塵と同義。今更失うことへの恐れなんぞ持ち合わせていない。

 

故に、俺の命は──そうだ、俺は────

 

 

 

この戦いの為に生まれてきたんだ────!

 

 

「──────」

 

「──────」

 

 

それは戦いと呼ぶにはあまりにも静かだった。

 

目の追いつかぬ技の応酬。それをいなし、弾き、反撃を繰り出し、いなされ、弾かれる。

 

それ程の激戦でありながらも空気が揺らぐ音しか聞こえない。

 

なんとか食らいついていけている。

 

命を顧みない。そうすることで俺は抗えている。

 

しかしそれにも限界がある。

 

俺と彼女の間にはどうやっても覆せない力量差が確かにある。

 

現に今、俺は食らいついているだけで体力もどんどん削られている。

 

このままではジリ貧、何かしらの決定打を出さなければ勝機はない。

 

それは彼女も見透かしている。易々と隙を作らせてくれるヤエノじゃない。

 

なればこそ、俺は挑んでやる────。

 

 

お互いのハイキックがぶつかり合い、僅かに距離が離れる。これはわざと作り出された隙だ。引っかかった俺を容赦なく仕留める為の。

 

それに、思い切り踏み込んだ。

 

 

全てを投げ捨てる勢いで間を詰め、満身の力で右腕を振り上げる。

 

被せるようにして彼女が放った左のクロスカウンター。凶器にも等しいそれは俺の拳よりも早く俺の顔面を捉え、意識を刈り取ることだろう。

 

この一撃はどうあっても躱せない。両者ともに理解している決定事項だ。なら、

 

 

躱すことができずとも、俺が意識を保てるのならばそれでいい。

 

頬でその一撃を受け、左に受け流すことで衝撃を殺す。

 

一瞬飛びかけたがなんとか堪えた。後は俺の力をありったけぶつけてやればいいだけの話。

 

そして俺の右が届く────

 

────筈だったが、やはりヤエノは強い。それすらも読んでいた。

 

 

残ったもう片方の手は既に防御体制(カバー)に入っている。

 

俺の全てをかけた右は受け止められ、状況を悪化させたまま場は仕切り直しになることだろう。

 

そう、全てをかけたのが、()()だったなら。

 

 

しかし、

 

俺の右拳、その本質は、

 

当てることに無い。

 

 

彼女に迫っていた拳、それは閃から曲へ軌道を変え、()()()()()()()()()()()

 

全てがこの為の布石。

 

力、技術が劣るならば、戦略で彼女を凌駕する。俺はトレーナーなのだから。

 

彼女が目を見開く。受け止める筈だった衝撃はかすることなく過ぎ去っていったのだから。

 

 

本命は、この()()だ。

 

左に逸らした頭と腕の勢いを最大限に引き出し、この右脚に力を乗せ体全体で放つ回し蹴り。

 

これこそが、

 

あの日、ゲーセンで見取った奥義────

 

これが、これが俺の、

 

 

「鉄芯ッ、爆砕脚だあァァアァッッッッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……参りました」

 

「──────ふは、ふははは……」

 

 

敗北を認めたヤエノは全くと言っていいほど(こた)えている様子ではなく、余力を十分に残しながらここに来た時と変わらない傷一つ無い格好で立っていた。

 

 

対する俺は完全に力尽きて地面に倒れ伏している。

 

虚を衝く形で放った渾身の鉄芯爆砕脚。炸裂する筈だったそれは、結局俺が躊躇ったことで不発に終わってしまった。

 

ヤエノを蹴りたくなかった。

 

無礼るなとか言っておきながらこの体たらく。やっぱり俺は中途半端だなと呆れるような思いだった。

 

 

誰の目から見ても負けたのは俺だ。

 

が……彼女がそう言ってくれるなら甘んじてこの勝利を味わおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明確な答えが出たわけではない。

 

それでも、トレーナーさんの……何度も立ち上がる姿。それはとても────胸を打つものだった。

 

今までもそうだった。彼は何度私に拒まれようと、決して私から離れようとはしなかった。

 

だから、私はこれからも、そんな彼と共に歩んでいきたいと思った。

 

相変わらず彼が近くにいると緊張してしまうがその答えはこれからゆっくり出していけばいい。

 

 

 

 

「ありがとうございました。トレーナーさん」

 

「おーう……」

 

「それで、トレーナーさんがよろしかったらの話ですが……」

 

「……?」

 

 

 

 

「今後とも────共に鍛錬を重ねていただけないでしょうかッ……!」

 

「──────応ッッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 











いけーっ、ヒトの息子!!


ちなみにこの後

1、2年後にいつも通り「鍛錬」をしているとたまたま通りがかったナカヤマフェスタorタイキシャトルに茶化され、動揺しまくって錯乱したヤエノムテキ(極み駆ける全力手加減なしモード)と主人公が戦うことになります

そのままだと主人公の勝率は一割あるかないかぐらいだがある言葉を言えたらば八割強までに跳ね上がります

主人公が勝てば強制ハッピーエンド、

負ければ先延ばしになる感じっス


あと今回は奇跡的に相性がよかっただけでカレンチャンとかダイワスカーレットとかと組んでた場合目も当てられない惨事になるっス

やっぱりこの主人公クソっスね
忌憚のない意見って奴っス

トウカイテイオーの話とナイスネイチャの話できてから投稿した方がいいかなーとか考えてたんスけど息抜きに書くはずだったヤエノムテキ(今回)の話が思いの外長引き、一万文字超えて芝生えてしまったので出来上がってすぐに投稿することに決めてしまいました。

5♡四♡さん♡にー♡いち♡(モチベが)ぜろ♡ぜろ♡ぜろ♡

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