下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
禁断のアヤベさん二度打ち
前回の話は実装発表から実装までの一日間に大急ぎで書いてしまったことで個人的に不完全燃焼感がありました。
というわけで今回の話はそれの補完というかおまけの小話みたいなものです
「は──っ、は……はぁ……っ」
「──よし、いい感じだ」
あれから。
トゥインクルシリーズが終わったと言っても特に何かが変わったというわけでもなく、ある意味いつも通りの毎日だった。
ただ……
「……汗、拭いて」
「ん」
嬉しいことに彼女が俺を”使う”頻度が増えた。一応かなり前からトレーニングやレース方針を
こんな俺でもアドマイヤベガは信用してくれている。だから俺も頑張って父さんみたいにならないと。
▫▫▫▫▫
寮に戻る前、トレーナー室を見に来たのはいいけど……またやってる。
あからさまに外見に出てるんだから、もうちょっと上手く
「何度も言うけど、少しぐらい休んだらどうなの」
「ああ……うん……そうなんだけどな……」
どこか煮え切らない返事。不調を顔に浮かべながら手を動かす彼の姿は何かに取り憑かれているよう。
「……また眠れなかったの」
「…………ああ」
「ほら」
「ん……」
私が寝かしつけると彼はすぐに横になった。こうでもしないとこのヒトはいつまでも止まらない。
「いつも……悪いな……」
「……いいから早く寝て」
門限までまだ時間はある。それまでなら私も──隣にいてあげるくらいのことはできる。
私がこんなことする義務は無いしいい迷惑。でもこのヒトは、私がいないと────
「私も暇じゃないの。お礼なんていいからあなたはまず体を休めて」
「でも……いつも、俺が寝た後も傍にいてくれてるんだろ……?だから……」
──本当に嫌なヒト。こんな時にそんな言葉を投げかけてくるなんて自分勝手もいいところ。
「だから……ありが──」
「わかっ、たわよ。分かったから」
「────」
言いたいだけ言って意識を閉ざしてしまった。やっぱりこのヒトは︎︎…………………………苦手。
「────おやすみなさい」
▫▫▫▫▫
やっぱり敵わないな。
周りのヒトは上手く誤魔化せてるつもりだが彼女にはどうしても気づかれてしまうらしい。
こんなんじゃ駄目だってのに。これじゃあ俺は父さんみたいなヒトにはなれない。また母さんにしたことと同じことを繰り返してしまう。
あの日、俺は口を開いたきり何も話せなかった。
隣で星を眺める彼女を邪魔する気になれず、そうやって口当たりのいい言い訳を繰り返して何も決断できなかった。
今がその時かもしれない。
トゥインクルシリーズが終わって一区切りついた頃だ。一応俺はアドマイヤベガの担当を続ける気だが、彼女が望むようだったら契約解除も視野に入れていいのかもしれない。
というわけで早速聞いた。こんな時だけは思い切りがいいなんて情けなさすぎて笑えてくる。
「は……?私のことを一番分かってるのはあなたでしょ。今更そんなこと言わないで」
何故今まで分からなかったんだろう。
俺は元々、彼女が輝けるようにいくらでもこの身を捧げるつもりでいた。笑顔にしたかった。その為だったらどんな手間も惜しむ気はなかった。
彼女から妹の話を聞いてその衝動はさらに膨れ上がった。たとえそれがどれだけ浅はかで身勝手な願いだったとしても、アドマイヤベガにはウマ娘として当たり前の幸せを掴んでほしかったんだ。
そしていつの間にか、アドマイヤベガは俺にとって大切な存在になっていた。彼女の為なら俺は……。
それはきっと父さんの模倣でも、母さんへの罪悪感でもなく────
……父さんも、こんな気持ちだったのか?
▫▫▫▫▫
「は────っ、ふ────」
軽やかに芝を巻き上げて、無感動に脚を回す。
そこに意味なんて要らない。私はただあの子の分も輝く為に走るだけ。今までそれだけしか考えてこなかった。それ以外考えるつもりもなかった筈なのに。
「はっ────、は……っ」
あの日から、走る度に胸が高鳴る。
「……っ、ふ…………」
何度目かも分からないクールダウン。ゆっくり勢いを弱めてるのに……どこかが熱を持っている。
心臓が落ち着いてからも高鳴りは止められなくて……心地がいい。夜風に吹かれながらも体じゃないどこかが熱かった。
「…………」
優しくされるのも構われるのもあまり好きじゃない。あの子が手に入れるべきだったものを私だけが貰うなんて認めたくなかったから。……単純に愛想よくするのが苦手なのも、あったのかもしれないけれど。
こんな気持ちも要らないって思いたかった。捨てられるなら今すぐ捨てたい。
それでも思ってしまう。レースが、走る事が楽しい……って。
忘れようとしてみてもその度に彼が邪魔をする。トレーナーさんが私にこの感覚を何度も思い出させる。
「お疲れ」
「…………ハァ」
どうせ私がいくら拒んだってこのヒトは踏み込んでくる。勝手に私の知らないものを与えてきて。私のことを何もかも暴いてきて。
今日だってそう。解放時間いっぱいまで走って周囲の人影が少なくなる中でもやっぱり彼は最後まで残っていた。
「はい。診るんでしょ、足」
全部このヒトの所為。だから私も仕返しをする。目を離せば直ぐにでも崩れてしまいそうな程に脆くて危なっかしいこのヒトに私だけが助けられるなんてありえない。
どこまでも
▫▫▫▫▫
彼女は休日もトレーニングを欠かさない。いつだってひたすらストイックに己の肉体を鍛え続けるものだから、『たまの休みくらい遊んだりしないのか』なんてチグハグで中身の無いお節介を口走りそうになったこともあった。
──母さんが休日にボランティア活動をよく行っていたのは、俺から少しでも離れたかったからなのだろうか。
思えば俺が幼かった時からそうだった。流石に毎週家を空けるようなことは無かったにしろ今考えてみれば色々と不自然な点も多い。
だったら。俺がそれを手伝うようになったのは、
「ちょっと」
「あ──」
アドマイヤベガの声に意識が揺り戻される。
今は日中。空は澄み渡り、太陽がてっぺんから照らしている中でも煌めく星を見ていた筈なのに。気づけば俺の意識はあの家の中に沈んだままだ。
「疲れているの?だったら少し休んでいた方がいいと思うけれど」
「……ああ、そうだな」
それには多分抗議的な意味も込められていたのかもしれない。無理をして中途半端なコーチングしかできないなら俺がいる意味も無い。
というわけだから今日は大人しく引き下がることにして場を後にした。トレーニング場から出ていく間彼女からの視線をやけに感じた。
▫▫▫▫▫
「…………っ」
どう頑張っても一人で寝るのは難しいところがあった。目をつぶって体を横にするとどうしても棺に収められたあのヒトを連想してしまうから。
今のままじゃいけない。彼女に迷惑をかけるぐらいなら無理やりにでも休んだ方がいい。
「─────ぁっ、」
いくらそう考えようとしても人間自分の意識はそう簡単に変えられない。唸りながら身を起こしてしまう。
だから俺は結局彼女のことに専念するしか、
「……こんなことだろうと思ったわ」
「あ。アドマイヤベガ」
珍しい。彼女が休日に、しかもお昼時にやってくるなんて。
「あ──悪い。余計な心配かけさせて」
「別にそういうのじゃない。ちょっと気になったから来ただけ」
仮にそうだったとしてもアドマイヤベガには悪いことをしてしまった。本当、俺は誰かに迷惑をかけることしかできないのか?母さんならもっと、上手く──
「…………少しは、私を頼って。これでもあなたのことは信用してるんだから」
そうか。俺はいつも一人であのヒトみたいになろうとしかしていなかった。でもあのヒトだって完璧じゃない。疲れることだってあるし何かに縋りたくなることだってあっただろう。
──父さんは、母さんがいてくれたからあんなに頑張っていられたんだな。
母さんから幸せを奪った分俺は誰かを笑顔にすることだけに取り憑かれて、だから父さんになろうとした。それも全部なりそこないのまま。
もういい。
あの日アドマイヤベガは言ってくれた。俺がどう思おうと彼女にとって俺は俺でしかない。だったら今はそれでいいだろ。
俺は父さんでも母さんでもない。彼女が必要としたパートナーは『俺』ただ一人なんだ。
「────いつもありがとうな。助けてくれて」
「……それはお互い様でしょ」
そうだな。俺がアドマイヤベガに星を見たように、彼女の孤独を壊したのも──今ならハッキリ言える。俺だけなんだ。
そうやって
▫▫▫▫▫
「…………」
次に挑むことになるレースについて、彼と話し合わなければいけないことや提出しなければいけない書類が山ほどある。
家族と相談は済ませてある。だから後は彼と足並みを揃えればいいだけ。簡単なことだとは思っていてもいざ部屋の前に改めて来ると変な緊張感がある。
どうせ彼のことだから私が何を言ってもついてくる。だからそんな気負うことでもない。
そう思いながらドアに手をかけて──
「……またやってる」
扉の向こうから聞こえてきた実況音声に気分を掻き回された。
▫▫▫▫▫
「…………」
今現在俺が見ているのは担当ウマ娘、アドマイヤベガのレース映像だ。
トゥインクルシリーズ最終日のあの日から、暇さえあればアドマイヤベガの──彼女が一等星に成ったレース、それ以外にも彼女が走った重賞レースを見返していた。
何故かは分からない。ただそれを見ていると、胸の奥がとても熱くなる。
「……そんなに良かった?」
「ああ」
知らぬ間に入ってきてたアドマイヤベガにも迷いなく即答する。いきなりの質問にも即答できるくらいこのレースは凄いってことだ。
「…………そう」
あれ?アドマイヤベガ、が、珍しく────
「何?」
気づいていない、のか?
「…………!」
あ。
「忘れて」
「え、いや今お前───」
「うるさい。バカ。変態」
……ちょっとだけ笑ってたな。
▫▫▫▫▫
その日の夜。
昼間のあれはただでさえ滅多にない光景だったのに、更に珍しいことに今度は彼女の方から天体観測に誘ってきた。
「…………」
相変わらず会話はそこまでない。俺も彼女も時間を忘れてただひたすらに目の前の景色を焼き付けていた。
そうしてたらふと気になったことがある。割とかなり前から聞いてみたかったことが。
「そういや俺、未だにお前のことアドマイヤベガってフルネームで言ってるけど……やっぱみんなみたいにアヤベって呼んだ方がいいか?」
実は結構悩んでいた。アヤベってかアドベか、はたまたベガか……。変にかしこまって聞くのもアレだっていうのもある。
「アヤベって言わないで」
「え?」
「あなたは、アドマイヤベガって呼んで」
会話はすぐに終わったが俺は内心肩の荷がおりた気分だった。ようやく長年抱え込んでいた小さな悩みが無くなったのだから。
そんなことを考えていると何故か彼女は呆れたように息をついて、口を開いた。
「あなたがいつも見てるレース……あるでしょ」
「おお」
それはアドマイヤベガのトゥインクルシリーズ終盤の大一番のことを指しているのだろう。あれは俺の中で一番のお気に入りだ。
「私あの時……走ってて『楽しい』って思ったの」
それは初耳だった。そしてそれを聞くと同時に喜びが込み上げてくるのを感じる。彼女がレースを楽しんでくれたことが純粋に嬉しかった。
「楽しかったの。私は、そんなこと思ってはいけないのに」
彼女は星を見上げながら滔々と語った。
「あなたの所為。
「…………」
ああそれは、彼女なりに俺という人間を認めてくれているんだろう。……本当にアドマイヤベガは優しいな。俺には勿体ないぐらいに。
「……責任、取って。私をこんなにしたんだから」
「────はっ、」
「……何」
「いや……クク……」
────本当に。
どうしてお前はそんなに嬉しいことを言ってくれるんだろう。
「取るよ。一生でも」
「…………ばか」
ムフフフ
曇らせは前回の話まで
それ以降はイチャラブに変身するの