下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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アヤベさんとうまぴょいする話

 息を吸って、吐く。たったそれだけの行動が、今はとても覚束ない。

 

 それもそのはず、何せ目の前には──懐かしい制服姿のアドマイヤベガがいたからだ。

 

 

「あなたってヒトは本当に……」

 

「……!……………!!!!」

 

 

 あまりの尊み爆弾に声が出ない。

 

 何故こんなことになったのか、事態は数分前に遡る。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「アドマイヤベガの制服姿見たいな」

 

「は?」

 

 

 とある休日の昼下がり。リビングでゆっくりしていると、そんな本音がこぼれ落ちた。

 

 

「え……あれ?俺、声に出てた?」

 

「これ以上ないくらいによく聞こえたわよ」

 

 

 ジト目になるアドマイヤベガ。うう、いつから俺はこんな変態になったんだ?

 

 

「……だけ」

 

「え?」

 

「……一回だけだから」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 そして、現在に至る。

 

 

「んんんんっっ…………!!ん~っ…………!」

 

「……あなたってヒトは、本当にヘンタイ」

 

 

 ジト目を通り越して呆れ顔になるアドマイヤベガの前で、俺は悶絶していた。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「あれ、そのライブ映像……アドマイヤベガさんのですよね」

 

「お、よく知ってるな」

 

 

 トレーナー室でアドマイヤベガのウイニングライブを見ていると、現在の担当ウマ娘が興味ありげに覗き込んできた。

 

 

「たしかトレーナーさんの初めての担当なんですよね」

 

「ああ」

 

「やっぱり恋愛関係になったり……」

 

「……ソンナコトナイヨ」

 

「いやいやその反応!絶対図星ですよね!」

 

 

 やっぱり誤魔化したり嘘ついたりするのは無理なようだ。俺のバカさ加減も、いよいよ来るところまで来たな。

 

 

「えー!なんですか!トレーナーさんも隅に置けませんねー!」

 

「ヤメテ、ワキバラツツカナイデ」

 

「キスとかしたんですか?」

 

「────!ゲホッ、ゲホッ、そ、そんなのできるわけないだろ!」

 

「ですよねー。トレーナーさんはトレーナーさんですもんねー」

 

 

 あれ、俺バカにされてる?まあ実際バカなのだが。

 

 

「仕事の合間にウイニングライブ観るくらいですもんね。そうとうお熱ですねこれは」

 

「……悪いかよ。いや、悪かったわ」

 

「それで今はどうなんですか?アドマイヤベガさんとは」

 

「……同棲してる」

 

「おぉぉぉ……」

 

「あ、でも付き合ってはいないぞ」

 

「……え?お、お互い告白とかは……」

 

「したよ」

 

「好きって言われたんですよね?」

 

「ああ」

 

「じゃあ付き合って──」

 

「ないよ」

 

……こりゃ相当だな……だったら、好きなところ言えます?アドマイヤベガさんの」

 

「いいぞ。まずは──」

 

 

 それからは休憩時間いっぱいまでアドマイヤベガの好きなところを熱弁した。担当ウマ娘は何故か呆れたような目で俺を見ていた。

 

 

……結構重いな、このヒト

 

 

 しかしいつまでもこの関係に甘んじるのも不義理だ。いい加減、白黒ハッキリつける時だ。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「アドマイヤベガ、俺と結婚を前提に付き合ってくれ」

 

「……ごめんなさい。少し、考えさせて」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 ……私がいないと、彼はきっとダメになる。それは以前からもそうだった。

 

 ……彼がいないと、私はきっとおかしくなる。それは多分、以前からそうだったと思う。

 

 思えば、彼はどうして私を選んでくれた?

 

 同情などではない。彼の言っていた、罪滅ぼしというのも違和感がある。

 

 或いはそれも事実なのだろう。母親に対する罪悪感から、ぶっきらぼうな態度しか取れなかった私に関わったというのも本音なのかもしれない。

 

 けど、彼から貰った温もりにそれらしき名称は付けられなかった。

 

 

「……いいのかな」

 

 

 これ以上幸せになって、いいのかな。またあの日のように失うのが怖い。幸せになるのが怖かった。

 

 あの子はそれを望んでくれている。直接話して分かった。

 

 だけど……私と付き合って、あのヒトは幸せになれる?私はまだ、あのヒトに何も返せていないのに。

 

 一緒にいられるだけで私は幸せだった。もうそれ以上何も求めるつもりはなかった。だから、彼が事故に遭った日のように離れていくのが恐ろしくてたまらなかった。

 

 ……結婚を前提に、か。

 

 私でいいの?彼のことを思うのであれば、もっとお似合いの相手を見つけることだってできる筈。

 

 だけど──自分を誤魔化すのはやめるって決めたから。あの子のお姉ちゃんとして、彼のパートナーとして。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「ふー……今日の分は終了ー……」

 

「お疲れさま。お茶を淹れたら、飲む?」

 

「ん……じゃ、頼む」

 

 

 彼は夜が更けるまで仕事に熱中していた。努力家なのは前から知っているけど、その″熱″が今は私にではなく新しい担当ウマ娘に向いていることに……正直に言うと……嫉妬している自分がいる。

 

 もちろん今もこのヒトは私を大切にしてくれている。こうやって穏やかな時間を一緒に過ごしてくれる。

 

 それなのに、私はもっと、もっとって、彼を求めてしまう。

 

 このヒトは私が好きで、私はこのヒトが好き。これは不変の事実。

 

 それでも首をもたげる疑念。

 

 いいのかな。私と付き合って、彼は幸せになれる?

 

 ……でも、

 

 でも、仮に私といてこのヒトが不幸になるとしても──

 

 離したくない。彼の手を握るのは、ずっと私がいい。

 

 

「アドマイヤベガ?どうした?」

 

「ハグしましょう」

 

「……………………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 尊重すべきは彼女の意思だが、俺は内心泣きそうだった。一世一代の告白に、ごめんなさいと言われたから。

 

 かと思えば突然ハグをしようとの提案。俺の情緒はしっちゃかめっちゃかになった。

 

 

「ど、どういう、え、い、いきなり何を」

 

「言葉通りの意味よ。ハグしましょう」

 

 

 ……アドマイヤベガやけっぱちになってないか?耳と尻尾の挙動がめちゃくちゃ激しくなってるし。

 

 ……スー…………。

 

 …………うん。まあ、彼女がしたいと言うのなら俺は。

 

 

「…………………………じゃあ、するか」

 

「…………………………ええ」

 

 

 控えめに広げられた両腕。俺は彼女の背に腕を回し、ゆっくりと微弱な力を込める。

 

 

「…………」

 

「………………頭が、ふわふわになる」

 

 

 互いの鼓動が伝わる。速くて忙しない、俺と彼女の鼓動。

 

 砂の感覚とは違う、柔らかくて、温かい、いつまでもこうしていたくなるような多幸感。

 

 俺の腰と背に回される彼女の両腕。それはどこまでも温かく、文字通り包み込まれるような安心感に溢れていた。

 

 お茶は、すっかり冷めきっていた。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「アドマイヤベガー」

 

「なに?」

 

 

 引かれないか?いや、引かれるだろうな。だとしても、いきなりなのはお互い様だ。そろそろこっちも反撃といこう。

 

 

「その……添い寝、してくれないか」

 

「……………………いいけど」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 眠っているところを見守ってもらうことは多々あったが、こうして同じベッドに寝ることは初めてだ。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 やばい。緊張で眠れない。

 

 目の前にはアドマイヤベガの姿。改めて見てもそうでなくともやっぱり綺麗だな。

 

 声もなく見つめ合う。添い寝……といえば添い寝なのだろうか。

 

 

「もうちょっとこっちに来てもらえるか」

 

「?こう……?──あ」

 

 

 身を寄せるアドマイヤベガにぴったりと密着させる形で体を動かす。やはりくっついていると温かい。

 

 

「……どうして?」

 

「何がだ?」

 

「どうしてあなたは、私を選んでくれたの……?」

 

 

 答えを出すのは簡単だ。だがそれは、彼女自身がこれからの生活で知っていってほしい。

 

 

「悪い。それには答えてやれない。だけど、お前は俺にとって何よりも大切だから。だからそれは、俺と一緒に感じ取ってほしいんだ」

 

「……ばか。ばかよ、あなた……」

 

 

 胸元に抱き寄せると、彼女は遠慮がちに頭を埋めてきた。

 

 

「……私は、あなたから離れた方がいいかもしれないと思う時があるの」

 

 

 それは初耳だ。彼女の言葉に全神経を集中させる。

 

 

「私たちは、お互いに依存しているから。だからこれ以上の関係になると、私たちは戻れなくなるって思って」

 

 

 もしかしたらどこまで行っても俺たちは互いに依存しているだけなのかもしれない。それでも、この温もりは嘘じゃないと、断言できる。

 

 

「でも、好き……やっぱり私は、あなたが好き」

 

 

 言葉は不要だった。俺たちはしばらくそうやって抱き締め合ってから、優しい夢へ潜り込んだ。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「なあアドマイヤベガ。また()()言ってほしいんだけど……」

 

「……最初で最後にするつもりだったのだけど」

 

 

 俺が言ってほしい言葉。それはあの日の、なんでもないようなターフの中での言葉。俺を今でも支え続けている言葉だ。

 

 

「……大好き」

 

「──ああ。俺も、俺も大好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あなた、これは流石に……」

 

「頼む!一回!一回だけでいいから!」

 

「…………一回だけよ」

 

 

 俺にとって究極の時間がやってきた。彼女は頬を赤らめ、恥ずかしそうに身を捩る──そう、うまぴょいの時間だ。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

『~~~♪~~~~~♪』

 

「うおおおお!!いいぞ~!!最ッ高にカワイイぞアドマイヤベガー!!」

 

「……もう。このヘンタイ」

 

 

 そして、懐かしの勝負服に身を包みうまぴょい伝説を踊るアドマイヤベガの前で俺はサイリウムを振り──所謂(いわゆる)ヲタ芸(うまぴょい)を楽しんだ。

 

 


































騙して悪いが、全年齢なんでな。
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