下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
本能「だからなんだってんだよ」
「…………」
写真……を撮るのは気持ち悪いよな。にしてもこんなアドマイヤベガの姿は貴重だ。
彼女は今、俺の膝を枕に寝ている。
「…………」
くああああもどかしい!思いっきり髪に触れて撫でてみたい!でもそんなことするとキモいのはよく分かってる!
「はぁ~……」
……結婚、かあ。
▫▫▫▫▫
「ふんふふ~ん♪」
珍しく休みを取られたので布団を干していた。日の光をたっぷり当てて清潔にした後、彼女の布団乾燥機が火を吹く。
「さ~って、と……」
「……せっかくの休みなんだから、私に任せておけば?」
「せっかくの休みだからこそだ。俺は少しでもアドマイヤベガの役に立ちたい」
「……そう」
キッチンに二人並び立つだけでもう
▫▫▫▫▫
「……ってわけで、アドマイヤベガと結婚することになったんだ、俺」
呟くは墓前。もう吐き気も動悸も無い。この報告をしてからしばらくはここに来ることはないだろう。貴女もきっとそれを望んでいる。
「……なんやかんやあったけど、幸せなんだ、俺。だから……悔やまないでくれ。俺を愛せなかったことを」
それだけ言い伝えて場を後にした。
「終わった?」
「ああ。ちゃんと伝えてきた」
「……大丈夫?」
「……俺のこういう言葉に説得力はないけど……大丈夫。もう、大丈夫だ」
「そう」
示し合わせたわけでもなく、自然な形で手を繋いで帰っていった。
▫▫▫▫▫
これまたとある休日の一幕。
「んん……」
彼女が隣にいてくれたお陰で悪夢はもう見なくなった。こんなに快適に眠れているのは俺にとっては奇跡に近い。
……のだが、夢を見ている傍らなんか変な感触に襲われている。顔の……頬?
「……ごめんなさい。起こした?」
「いや……大丈夫だけど……何してたんだ?」
目を開けるとアドマイヤベガが傍にいた。……指?
「……何してたんだ?」
「秘密」
そう言うと彼女は顔を赤らめて寝室から出て行った。……マジで何してたんだ?
▫▫▫▫▫
「……まだ起きてる?」
「…………」
朝気づかれたというのに、私は性懲りもなく彼の傍へ身を寄せていた。
「スー、スー……」
穏やかな呼吸。規則正しく上下する胸。その心臓に耳を当ててみると、彼の確かな鼓動が感じ取られた。
以前とは違い、彼は一度眠ると中々起きない。それだけ信頼してくれているのだと思えば少し嬉しかった。
「……ふふ」
彼の頬を指でつつく。今まではそれだけで満足していた。けど──
「……」
……最近、おかしい。寝ても覚めても彼のことばかり考えている。ターフは既に遠い。私の意識の行く先は、レースでなくなり彼ただ一人に集中していた。
もっと。
何を?
もっと、このヒトと──
「ううん……」
「…………ッ!」
何を、しようとした?私は、何を……。
「スー、スー……」
「……」
それからはじっと、彼の寝顔を眺めていた。
▫▫▫▫▫
「アドマイヤベガ、この後流星群見に行かないか?」
「え?今日は曇り空だけど……」
「その向こう側に行くんだ」
彼は星の名前を知らない。敢えてそうさせていた。
それなのに、このヒトからそんな誘いを打診するなんて。どんな意識の転換があったのだろう。
「ごちそうさまでした。明日休みだよな?今日は一日いっぱい付き合ってもらうけど……大丈夫か?」
「……あなたがそうしたいなら、私はそれでいい」
▫▫▫▫▫
車内にはラジオ放送の音声だけが流れている。無理に言葉を探す必要は無い。それほどまでに、この関係は成熟していた。
曇り空の向こう側へ。……このヒトらしいと言えばらしい。
夜のドライブはあまり経験したことはない。基本外泊する時は一人だったから。
「よし、着いた」
「────」
かなり長い距離を走って、辿り着いた先はなだらかな丘。
「──綺麗」
「ああ。綺麗だな」
万華鏡を氷瀑の中に閉じ込めたかのような空。思わず言葉を失った。
彼は慈しむように微笑んでいる。それを察知しながらも私の視線は夜空から動かせなかった。
そうしてしばらく目を瞬かせていると、気づけば夜は明けていた。
「一瞬だったな。けど──忘れられない」
「……そうね」
私は、あなたに返せているだろうか。私の走りが、あの夜空のように忘れられない道しるべとなってあなたの旅路を照らせているだろうか。
それでも言葉は要らない。
……うん。大丈夫。あなたと幸せになっても、私はあの子のことを忘れない。
目を閉じる。すると、彼は突然立ち上がり──
「アドマイヤベガー!好きだぁー!」
「!?」
……!?いきなり叫びだした。辺りには誰もいない、こんな、子供のような告白でも──私の心を捉えていて。
「……っ、わ、私も、好き……」
「聞こえねぇぞー!」
「……っ!私も!好き!」
叫び返す。そうすると、顔は熱いのになんだか笑えてきて。
「……あなたは唐突ね。いつも」
「ははっ、そうだな」
こんな風に笑ったのはいつ以来だろう。このヒトなら、きっともっとその感情を与えてくれる。
▫▫▫▫▫
「……あなた、大丈夫?緊張し尽くしているけど」
「だだだっ、だ、だだ大丈夫」
担当ウマ娘が走る前も緊張はあった。しかしそれは期待だとか熱意だとかが介在していたからある程度の『慣れ』があった。しかし今日は結婚式。友人や親戚が大勢来る。
そういえば、昨日見た夢で何かすごく嬉しいことを言われた気がする。…………あ。
『とうとう明日だね~。トレーナーさん、目を離さないでよ?なんたってお姉ちゃんのウェディングドレス姿を見られるんだからね!』
……そうだ。今日の準備はまだ始まったばかりだけど、これからアドマイヤベガはウェディングドレスに着替えるんだった。
──楽しみだな。きっと、めちゃくちゃ綺麗なんだろうなあ。
「新郎の方はこちらへ」
「あ、はーい」
「……それじゃ、また後で」
「ああ。あ、そうだアドマイヤベガ」
「なに?」
「ウェディングドレス姿、楽しみにしてる」
「……ヘンタイ」
▫▫▫▫▫
「おぉおぉぉぉ……」
「……そんなにまじまじと見ないで。……私だって、恥ずかしい」
かっっっっっわ。いやきっっっっっれい。なんていうか、いくら言葉を連ねても足りないくらいに美しい。
……今度白無垢も着てもらおうか。
「……う、うおおおお……」
「……」
あれ?なんだこれ、涙?感激しすぎて涙が出てきた。
▫▫▫▫▫
「……う、うおおおお……」
私に見とれていたかと思えば、彼は泣き出してしまった。まだ式が始まってもいないのに。
「……もう、泣き虫なんだから」
「そ、そうは言ったって、めっちゃ綺麗……めちゃくちゃ綺麗なんだから……」
「語彙がトップロードさんみたいになってるわよ」
……正直、この彼の姿に緊張をほぐしてもらっている自分がいる。だからこれからは、精一杯示そう。私なりの感情を、私なりの形で。
「
「なんだ?って……なんか懐かしい呼び方だな」
思い切り抱きしめて、耳元で囁く。
「……愛してる」
▫▫▫▫▫
「それでそれで~!?お父さんその後どうしたの~!?」
「……それは、秘密」
「えー!?」
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「あ!おかえりー!じゃあお父さんから教えてもらうよ!ねえねえ、結婚式の前お父さんどうしたの!?」
「それはぁ……恥ずかしくて言えないなぁ」
「えー!?二人ばっかずるい~!」
「はは、ごめんごめん。……なあ、
「なに?」
「……ただいま」
「……おかえりなさい、あなた」