下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
1話再構成です。
さて、俺はトレセン学園の試験を受けたわけなのだが。
1番重要な事を忘れていた。
担当するウマ娘を探さなければ。
3年間という長い時間を共に過ごすのだからそれはもう最高の相手を見つけなければ損というもの。
ついでに俺のうまぴょいしたいという夢を叶えられるウマ娘を見つけられれば言うことは無い。
まだ受かっているのかも分からないというのに
俺はトレセン学園に繰り出した。
さすがウマ娘と言うべきか、練習場には魅力的な子ばかりだ。
その中でも彼女、トウカイテイオーは特にいい。
デビュー前でも分かる程の傑出した実力と俺にとって理想的なプロポーション。
「いい走りだな」
「んぇ…?キミ、誰?」
そういえばトレーナーのバッジをまだ持っていなかった。
しかし俺の合格は既に決まっているようなもの。そう思ってなければやってられない。
「是非ともお前のトレーナーになりたいと思ってな。合格が決まった訳では無いけど」
「…あははっ!何それ!───じゃあいいよ。キミが受かってたらボクのトレーナーにしてあげる」
「随分アッサリ決めるんだな」
「どうせ決めなきゃいけないなら早くから見つけていればいいかなーって。
どうせ走るのはボクなんだからトレーナーなんて別に誰でもいいと思うんだけどなー」
「へぇ…相当自分の力に自信があるんだな」
「とーぜんだよ!なんたってボクは無敵のテイオー様なんだからね!───あっ、でもカイチョーは別だなぁ…」
俺はここが好機と見た。
「カイチョー?シンボリルドルフの事か?」
「そうだよ!ボクの憧れの強くてかっこいい最強のウマ娘!カイチョーはボクより速いんだよ!」
「…カイチョーに負けるのはいいのか?」
「えっ?」
「彼女に負けて、彼女が歓声を受ける姿を後ろでただじっと見ている。それはいいのか?」
「う〜ん…カイチョーはボクの憧れで…。そんな事今まで考えて来なかったし…」
「彼女よりも強くなりたいとは思わないのか?」
「カイチョー…よりも…?」
「彼女に勝って、最強のウマ娘になるんだ。どうだ?」
「…キミならそれが出来るって言うの」
「ああ。俺が、俺ならお前を皇帝をも超える帝王にしてやれる。選抜レースの1着なんかよりも最高の勝利をお前に与えてやる」
「…」
それ以上の会話はしなかった。
この言葉が起爆剤になりクソガキテイオーをわからせる事ができればそれでいいと思っていた。
その後は選抜レースまでトウカイテイオーのフォームやクセ、練習方法などの研究を重ねていった。
傍から見た俺はさぞかし熱心な新米トレーナーに見えた事であろう。
合格が決まった時は歓喜に泣き叫んだ。
彼女のトレーナーになれる。
その喜びは本当に大きい物だった。
ボクはずっと声をかけてきたあのヒトの言葉について考え続けていた。
今までカイチョーはすごいって、かっこいいって、そればかり思っていたけれど、カイチョーと走るなんて考えたことなかった。
ボクはカイチョーが好きだ。
それでもあのヒトに言われた言葉が頭の中で行ったり来たりしている。
選抜レースでカイチョーに褒めてもらえて嬉しかったハズなのに、いつまでもその疑問は心の奥でつっかえたままだった。
初めてカイチョーと勝負をした。
負けて、そのモヤモヤの正体が分かった。
悔しい。負けたくない。
たとえ憧れのウマ娘であっても、どんなに強いウマ娘であってもボクは負けたくない。
勝ちたい。
ボクに夢ができた。あのヒトに気づかされた。
ボクは海辺の公園であのヒトを待っていた。
「よう」
少しだけ痩せた様子のトレーナー。
薄く笑ってボクを見ている。
「ねえ」
「ボクの夢を叶えて」
トレーナーの目がやけにギラギラ光っているように見えた。
トレーナーの練習メニューは完璧だった。
ボクの限界も能力も全て知り尽くしていた。
自分がどんどん強くなっていくのが分かる。
だけどボクの中にあるカイチョーに勝ちたいという思いとボク以上に完璧なトレーナーへの嫉妬心が先走ってしまい、トレーナーが休ませようとしているのにも関わらず隠れて無茶な自主練をするようになってしまった。
それがボクを追い詰めているコトを知っていながらも自分を止めることはできなかった。
そしてボクはあるレースでその間違いを思い知らされるコトになった。
それは重要なレースではなかった。
だからこそ勝って当然のなんてことないレースのハズだったのに、結果は惨敗。
勝手に無理をしてきた反動がレースで出てしまった。
控え室に戻るとボクはトレーナーにあたってしまった。
「ボクを勝たせてくれるって言ったのに…!
嘘つき!ボクを最強にするって言ったのに!
カイチョーに勝たせてくれるって言ったのに!」
全部ボクのせいだ。分かってるのに悔しくて悔しくて気持ちを抑えられなかった。
トレーナーは何も悪くないのに。
「テイオー」
「なにさぁっ、今更取り消すなんて──」
「お前は俺を信じてくれないのか?」
何も言えなかった。
「俺はそんなに頼りにならないか?」
トレーナーはボクが何をしてるかなんてお見通しだった。トレーナーはボクを見ていたんだから。
それでもボクを無理やり止めようとしなかったのは、ボクに間違いを気づかせる為だったんだ。
「お前は1人で走っているんじゃないんだ。お前にはパートナーがいるんだ。だから俺をもっと頼ってくれ。
俺を見てくれ」
頬がこけて肉が削ぎ落とされたようなやせ細った顔で、トレーナーは真っ直ぐボクを見ていた。
ごめんなさい。
何度謝っても足りなかった。謝りながら泣くボクをトレーナーは見守っていてくれた。
ボク1人では「無敵のテイオー」じゃないんだ。
それをわからされてしまった。
俺を見てくれ
ボクはその声に縋った。
その日からボクが負けることは無かった。
何回謝ってもトレーナーは笑って許してくれた。
パパやママやカイチョーにも言えなかった悩みをトレーナーは全部受け止めてくれた。
ボクはいつものようにトレーナーの指示に従ってトレーニングをこなしていた。
トレーニングが終わって自販機にトレーナーの分も一緒にジュースを買いに行って戻ると、イスに座って寝ているトレーナーがいる。
さっきまで起きていたのに、ほんの少し離れただけでトレーナーは寝てしまっていた。
ボクの前では1回も弱音を吐かず疲れた様子をおくびにも出さないトレーナーは、ボクが少し席を外しただけで寝てしまった。
「トレーナー…」
ボクが縋っている時もそうでない時もトレーナーはボクの為にボロボロになっている。
その光景は痛々しくて見ていて辛かったハズなのに、なぜかゾクゾクして落ち着いていられなかった。
湧き上がるよくわからない衝動を誤魔化そうとしてテーブルの上に置かれていたノートを手に取る。
それはトレーナーがボクの練習の度に何かを書き込んでいるノート。
いけないってわかってるのに、ページをめくる手は止められなかった。
ページの端から端まで事細かにボクのコトが書かれている。まだ合格が決まっていない時からトレーナーはボクのコトを見ていたんだ。
出逢った日からトレーナーはボクを見ていた。
トレーナーは天才でも完璧でも無かった。
合わせようと支えようと必死になって努力を重ねて「トウカイテイオー」のトレーナーになった。
「ごめんね。ありがとう」
その感情の名前は知らなかった。
ボクは走るコトもカイチョーもライブで歌って踊るコトも友達と話すコトも好きだ。
ボクの中にはたくさんの「好き」があった。
それなのに、最近は1つのコトしか考えられなくなっている。
勉強しててもダンスの練習をしてても気がつくと脳内にトレーナーの顔がよぎる。
そんな風に毎日過ごしているのに、成績が悪くなったり調子が落ちることは無かった。
むしろトレーナーを思うだけで集中力がグンと上がったような気さえする。
これが恋ってことなのかなと思っていたけれど、調べれば調べる程それがよく分からなくなる。
トレーナーの負担になっている。
トレーナーが傷ついていく。
それを嬉しいと感じてしまうなんて、ボクはちょっとおかしいのかもしれない。
苦しみも喜びもボクだけで感じてほしい。
頭の中にはそれだけが残った。
でもトレーナーがボクを見るのはボクが好きだからじゃないんだ。
何かを好きになっているのにどうしてこんなに辛いんだろう。
辛くて苦しくて仕方なくて、それでもトレーナーに縋り続けた。
どうしようもなく欲望が膨れ上がったある日。
「トレーナーはどうしてボクを見てくれるの?」
そんなわけないと思いながらも何かを期待せざるにはいられなかった。
「え…っ、い、や…俺は…」
トレーナーは嘘がヘタだった。
ちょっと質問をしただけで真っ赤になって黙ってしまった。
だからボクを四六時中見ていたんだ。
ボクが気づいていることも知らないで。
嬉しかった。
1度負けてしまった時はどうなるかとハラハラしたが、かえってテイオーにはいいクスリになった。
逆に大して重要ではないレースで負けたことで自分を見つめ直して強くなったとも言える。
それからは調子を崩すことも無く練習をこなしていくテイオー。
トレーナーになる前から徹夜して研究した甲斐が有るというものだ。
テイオーにトレーナーになった理由を聞かれた時は本当に焦った。
普段彼女をガン見してる事がバレたのではないかとビクビクしていたが、まぁなんとかなった。
その日から何故かテイオーは俺に懐いてきたような気がする。
嬉しすぎて内心叫びたい気分だった。
それはそうと、最近不審な出来事が増えている気がする。
まぁテイオーのコーチングをする事と比べればそんなのは全く気にならなかったが。
「あれ?…マジかぁ〜…結構気に入ってたんだけどなぁ〜…」
「どうしたの」
「いつの間にかこんなことになってた」
彼が掲げた服は1部が切り取られたかのように無くなっていた。
「…しょうがないなぁ、ボクが縫ってあげるよ」
「いやこんぐらい別に──「いいから」─…すまん、じゃあ頼んだ」
彼の中ではお気に入りの服がボロボロになっていた悲しみよりもテイオーに自分の服を縫ってもらえるという喜びが勝っていた。
対して彼女は獲物を手に入れた獣のような獰猛な目つきで渡された服をじっと眺めていた。
「なぁ…最近どうしたんだ」
「何が?」
テイオーは休みの日になると必ず自身のトレーナーと過ごしていた。
「せっかくの休みなんだからもっと自由にすればいいのに」
「いいの。ボクはここがいい」
「…そうか」
「ぅあぁああ〜っ…疲れたァ〜……」
トレーナーという仕事は中々に忙しい。
彼はそれに加えてテイオーのケアやトレーニングの為に悲鳴を上げる体に鞭を打ちながら無理やり動いているような状態で働いていた。
「トレーナー」
「っ!?テ、テイオー。いたのか…」
「キミはボクのトレーナーなんだから、あんまり無理をしないでよ」
「いや、大丈夫だ…。こんぐらいなんてことない」
「ダメだよトレーナー」
両肩に手をかけられる。
彼の心臓はそれだけで破裂しそうな程昂っていた。
「もう1度言うけど、キミはボクのトレーナーなんだよ。ボクに嘘ついて体を壊すなんて絶対ダメ。ボクが頑張るから、キミはもっと自分を気遣って」
「…すまん」
「ふふっ、でもキミはボクの為に無茶してくれたんだよね?それはすっごい嬉しいよ。ありがとう」
彼女はそう言うとニッコリと微笑んだ。
…今日は来ないんだな。
最近よく部屋に来るようになったかと思えば、唐突に来なくなってしまった。
今まで練習する時に一緒にいるだけで満たされていたというのに、どこか物足りなく感じている。
あまりにも落ち着かないものだから意味も目的も無く外をほっつき歩いていた。
「トレーナー?」
偶然テイオーと鉢合わせしてしまった。
お前に会えなくて寂しいから歩いていたなんて言えるわけが無い。
それでも緊張して上手く言葉が出なかった。
「ひょっとして…ボクに会いたかったの?」
完全に図星だった。
「あはは、いいよ。今日もキミと一緒にいてあげる」
胸が高鳴り始めた。
俺は別に自分の下心を満たせればそれでよかった。
うまぴょいしたくてトレーナーになっただけだというのに、俺の中では何かが激しく渦巻いていた。
当初はテイオーが触れる度に自分の欲望がバキバキになっていくのを感じたが、最近は落ち着いてきた。
俺はもうテイオーの傍にいることにすっかりハマってしまったのだ。
彼女──テイオーは俺にとって欲望を満たすだけのウマ娘でしかなかったのに、最近は彼女の事で頭が染め上げられている。
情欲一辺倒で努力してきたというのに、今は彼女に関する様々な事柄をきっかけにして動くようになった。
彼女がどうすれば喜ぶか、いつまで一緒にいられるか、どうすれば笑ってくれるか。
ごちゃごちゃと思考がまとまりを無くしている。
罪悪感を覚えなかったわけではない。
ただそんなものに浸るために脳のリソースを割くぐらいなら彼女の為になることを考えていた方がよっぽど建設的というものだ。
要するに俺は彼女以外の全てがどうでも良くなった。
トレーナーはどんどんボクのコトを好きになっている。
ボクと一緒にいないとトレーナーは落ち着かなくなってしまっている。でもそれはボクも同じだ。
だからトレーナーにはボクに溺れてもらう。
もうボクはトレーナーから少し離れただけで落ち着かなくなって動悸が激しくなるようになってしまった。
だからその間寂しさを紛らわせるモノが必要だった。
そう、例えばトレーナーの残穢が染み付いた服だとか。
トレーナーは元々ボクがスキだったのだから、トレーナーを夢中にさせるなんて簡単だった。
でもトレーナーはボクがどんなコトをしてもボクになにもしなかった。
もっとボクで幸せになってほしい。
もっとボクを見てほしい。
もっとボクを愛してほしい。
その「もっと」は収まらなかった。
トレーナーとボクの日常はどちらも欠けることは許されない。
有マ記念。
ゲートに入ろうとしたシンボリルドルフは1枚の布切れを大事そうに持っているトウカイテイオーを見た。
何故かそれに強烈な違和感を覚え、勝負の直前だというのに思わず彼女に聞いてしまった。
「それは…一体…」
「あぁ、これ?」
「ボクの大事なモノだよ。とても大事なモノ」
そう言うと口角を吊り上げた。
トレセン学園理事長、秋川やよいは1人自室で考え事をしていた。
URAファイナルズで見事勝利を収めたトウカイテイオーとそのパートナーについてである。
彼らは1度しか敗北していない。
それは大変素晴らしい功績だが、その敗北以降彼らの様子がどこかおかしくなったように見えた。
一見すると仲のいいトレーナーとウマ娘と他人は思うかもしれないが、何か異様な雰囲気が感じ取れる。
しかしそれに気づいたのは理事長である自分のみ。
駿川たづなでさえも分かっていなかった。
では自分が間違っているかと言えばそうではない。
巧妙にそれを隠しているが彼らは全く離れようとしないのだ。
唯一の敗北から数日後、トウカイテイオーは食堂に全く顔を見せなくなった。
それ以外にも休日や平日の練習後の僅かな自由時間でさえもどこかに行っている。
あくまで予想に過ぎないが、トウカイテイオーは彼の部屋に入り浸っているのではないか。
また、彼にはトレーナーとしての矜恃というものがハッキリと見えない。
一般的なトレーナーのような情熱を感じないのだ。
そんな彼がトウカイテイオーと密接な関係になっているということは、何かが危険だ。
トウカイテイオーが彼の部屋に行っている事が事実だとするならば彼らの関係はトレーナーとウマ娘という範疇をとうに超えている。
彼らの仲が深まることは否定しない。
しかし2人のそれは明らかに異常だ。
強すぎる依存はウマ娘としてもヒトとしてもお互いを腐らせてしまうだけだ。
気づくのが遅すぎたかもしれないが今からでも手を打とう。
それが2人の為だと思って立ち上がる秋川やよいだが、
底の見えない沼に片足を突っ込んだかのような感覚に襲われる。
若輩でありながらもトレセン学園の理事長になった秋川やよいの研ぎ澄まされた天性の勘が警笛を鳴らす。
それ以上踏み込んではならない。
彼女は流れ出た一筋の冷や汗を拭うと、その疑問を頭の奥深くへ追いやり決して開けられることの無いように蓋をする。
そして何事も無かったかのようにゆっくりと席に着いた。
その判断は正しかったとだけ言える。
2人は福引きで手に入れた券で温泉旅行に来ていた。
さも当たり前かのように同じ湯船に浸かるが、それ以上は何も無かった。
それは2人にとっては何ら特別な事ではなく、ただ離れたくないという理由で入ったに過ぎない。
温泉から上がった後彼はテイオーの髪を懇切丁寧に梳いていた。
「トレーナー」
「ん?」
「キミはボクの夢を叶えてくれた。ずっとボクの為にトレーナーでいてくれたよね。」
「だからさ、ボクもキミのお願いを叶えてあげようと思うんだ。」
「俺の…願い?」
暫くの沈黙。
テイオーは彼が何を言おうと喜んで受け入れるつもりでいる。
「俺と…ずっと一緒にいてほしい」
「トレーナーぁっ!」
「おっと、どうしたどうした」
「トレーナーぁっ、トレーナーぁ…!」
夢中で彼の胸に頭をうずめるテイオー。
そうでもしないと自分を抑えられなかった。
「うん。わかった。ずっとキミと一緒にいる。約束だよ。絶対離さないから。絶対」
彼女は喜色満面の笑みで応える。
「…ごめん、ボクどうしてもキミに1個だけワガママを聞いてほしくなっちゃった。」
「…?まぁいいけど」
「最初に会った時みたいに、ボクをめちゃくちゃにスキになってほしいんだ」
薄暗い部屋の中。
1人の男と1人のウマ娘がいた。
彼女は座っている男に身を委ね、満足そうに目を細めている。
男はそんな彼女の手を固く握っている。
2人を幸福たらしめる物はなんら特別な事ではない。
ただお互いの心を温めあい手を繋ぐだけで良かった。
故にその欲望は留まることを知らない。
トウカイテイオーはトレーナーに求められる事で彼の愛情を貪っている。
トレーナーは自分の抱いた欲望と自責の念、その他全ての感情を愛情として彼女に注いでいる。
2人の行く先が破滅であろうと恒久的な平穏の日々であろうと、2人はもう止まらない。
依存というものは総じてただ沈みゆくだけなのだ。
元々3話分しか無かった私のテイオー愛ですが、ここまで膨らませることが出来たのは感想欄及び読んでくださった方々のお陰です。
ありがとうございます。