下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
うるせえっ今更止められねぇよ!
執筆スイッチONだ!
☆風邪になった話
「ゲホッ、ゲホッ……あ゛ー」
気分は最悪だ。風邪にかかり、仕事を一旦休むことになってしまった。体調管理がまだまだ甘いな、俺も。
「トレーナーさん?起きていらっしゃいますか?」
寝室のドアがノックされる。なんとか身を起こし、俺は言葉を返した。
「ああ、起きてるよ」
「それでは、失礼します」
不幸中の幸いか、今日はジャーニーが休みだ。看病してもらうことは勿論ありがたいが申し訳なさもある。
「氷嚢をご用意しました。熱が辛く感じた際にどうぞ」
「おお……わざわざありがとうな」
彼女が持ってきたのは氷を入れた袋と水、そして──
「お一人では召し上がりづらいでしょう。さあ、口を開けてください」
「……なんか恥ずかしいな」
粥を炊かれた鍋だった。
ただでさえ上気する頬をより一層赤く染めて、俺は程よい味加減の卵粥を堪能したのだった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
食事も終わり、改めてベッドに横たわるが──ジャーニーは一向に戻ろうとしない。
「ジャ、ジャーニー?うつっちゃうぞ?」
「私は大丈夫です。それに、一人きりでは貴方も心細いでしょうから。何か、お望みはございませんか?」
……毎度毎度のことだが、やっぱりジャーニーには敵わないな。
せっかくだ。その厚意に甘えさせてもらおう。
「じゃあ……手、握ってもらえないか?」
「かしこまりました」
白くて滑らかな手が俺の手を掴む。その温もりに、思わず安心感を覚えた。
しばらくそうしていると心地よい眠気が襲ってくる。俺は抵抗することなく身を任せ、目を閉じた。
「ゆっくりお休みください。トレーナーさん」
俺が完全に眠る直前、その言葉と共に柔らかい感触が頬に伝わった。
……ん?ジャーニーは今何を……
「…………」
ぼやけた頭で思考を回しても分かる。彼女が何をしたのか。
氷嚢を首元に当てる。体温が高くなったように感じるのは、風邪の所為だ。きっと。
☆結婚一年目の話
「うーん…………」
俺はトレーナー室で一人頭を悩ませていた。
今日は俺とジャーニーの結婚記念日(初)。もう一日の半分は終わっているが何かしたいという気持ちは確かにある。
「どうしたんですか?うんうん唸って」
どうしたものかと考えていたら担当ウマ娘が部屋に来ていた。
「いやー今日妻との結婚記念日でさぁ」
「えっ!?超重要じゃないですか!有給取らなかったんですか?」
「いやーこの仕事ってそう易々と休めるモンじゃないからなー」
「奥さんのためにも早くトレーニング終わらせましょう!さあ、早く早く!」
「……言っとくけどサボらせないからな」
「ヴッ」
妙に乗り気だと思ったらやっぱ早く休みたいがためだった。
まあでも、確かに今日ぐらいは早く帰るのもいいかもしれない。
▫▫▫▫▫
「ただいまー」
仕事を早めに切り上げ、ちょっとした買い物をしてから帰宅。……なんだかいい香りがする。彼女の纏うソレとはまた違った、美味そうな匂いだ。
「おかえりなさい、トレーナーさん。……おや、それは……」
「結婚記念日ってことで」
俺が購入したのは小さめの花束。要らないと思われたら悲しいなと思いながら手渡すと、彼女は表情を綻ばせた。よかった。気に入ってくれたようだ。だがこういうのは来年からは違うものにしよう。
どうやら結婚記念日を意識していたのは俺だけではなかったようで、ジャーニーは様々な料理を拵えていた。
「ジャーニーも今日早かったのか?」
「いえ、私は有給を消化しました」
随分と用意がいいな。とりあえず風呂に入ろう。話はそれからだ。
▫▫▫▫▫
「「いただきます」」
二人で食卓を囲む、ささやかな幸せ。これからもそれを守っていけたらいいなと思う。
ジャーニーの料理はどれも美味かった。中でもエビグラタンがお気に入りだ。
「ふぃ~……ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
食事が終わった後は特に何かするわけでもなく、テレビを見ていた。……なんか、これでいいのか?せっかくの一年目なのだからもっと趣向を凝らしたものにするべきなのか……。
「……なにかしてほしいことはないか?」
「…………してほしいこと、ですか」
顎に手をかけて思案している様子のジャーニー。眼鏡も相まって知的な印象に見受けられる。実際彼女は博識だ。
「……そうだ」
思いついた様子だが……なんか悪そうな笑顔に見える。
一体何をさせられるのだろうとヒヤヒヤしていると、彼女はおもむろに俺の膝に腰をかけた。
「……ジャーニー?」
「暫く、こうさせてください」
俺の膝に座っているジャーニー。此方からは表情が見えないが、俺の動揺を見抜いてか悪そうな笑顔になっていることは分かる。
俺の顔のすぐ下に彼女の頭がある。例の香水の香りがより強まっていた。
……改めて見ても、華奢な体だ。この小さな肉体であそこまで凄まじいレースができるのだから、やはりウマ娘というのは不思議な生き物だ。
…………なんか緊張してきたな。
「……ふふ」
「……どうした?」
「いえ、なんでもございませんとも」
彼女の背に俺の脈動が伝わっているのだろう。いたずらに笑うジャーニーに、ちょっとした報復心を覚えた。
「ふふ────あら」
「…………嫌だったら、言ってくれよ」
「ふふッ……かしこまりました」
あすなろ抱き、というヤツだ。俺の小さな復讐は、しばらくの間続いた。
☆オルフェーヴルを招いて食事会を開く話
「下ごしらえはこれでよし、と……」
ジャーニーはもうオルフェと会った頃だろうか。彼女たちが家に来るまでに一気に調理しないと。
LANEにメッセージが届く。なになに……
『食事が出来上がるまで喫茶店に滞留することになりました。時が来たらお知らせ下さい』
よし、気合い入れて作るぞー。
▫▫▫▫▫
「よく来たなーオルフェ、はいこれスリッパ」
「…………」
何故かオルフェは上がってから席につくまでじっと俺のことを見つめている。何か不手際でもあったか?不敬だーとでも言われるのか──と、どこか的外れな考え事をしているとオルフェは口を開いた。
「これは、貴様が調理したものか」
「え?あ、ああ。そうだけど」
助けを求めるようにジャーニーに視線を投げかけるも微笑みで返される。なら大丈夫ってことなんだろうが……
そうこうしている内にオルフェはスープを口に運ぶ。……結構ドキドキするな。
「ど、どうだ?」
「──よい。ただ、献上せよ」
「…………あ、あーそうか、そうかぁ……ハァ……よかったぁ……」
思わず胸をなで下ろした。
三人のみの食事会。どういうわけかジャーニーは必要最低限のことしか話さず、俺は自然とオルフェと話すことに。
「あ、それはバゲットと一緒に食ってくれ……って言う前にしてたか」
「余を何と心得る。王の所作に一分の隙も無いと知れ」
そんなこんなで楽しい(?)食事会は幕を下ろす。
彼女がオルフェを送りに行くのを見届けてから、俺はソファに身を投げ出した。
「ッッッッとに、緊張したぁ……」
いくら小さい頃に面識があったとはいえ、相手は王だ。昔はまだよく話せていた方だったが、ヒトもウマ娘も皆成長するもの。コミュニケーションツールが限られてくるのも仕方の無いことだ。
後片付けをしているとジャーニーが帰ってきた。姉妹水入らずの時間を過ごせたようでよかったよかった。
「ありがとうございました、トレーナーさん。オルはとても
……寛いでいたのか?ぶっちゃけ俺は何も分からなかった。
「……よく分かるな」
「姉ですから」
その後は、彼女に軽く肩揉みをしてもらった。……まあ、なんやかんやあったが今回は成功と言っていいだろう。
☆図書館に行った話
「それ、面白いか?」
「はい。読んでいて中々心を動かされる、小気味好いお話です」
彼女が読んでいる小説はヒューマンドラマものだとか。登場人物たちの絡みがかなり好評らしい。
そういえば近所には図書館があった。学園の図書室を使用するのもいいが、たまには外に繰り出すのも悪くはないだろう。
▫▫▫▫▫
「かなりの量ですね……。これらを一晩で?」
「あんまし時間も無いし、パパッと読んでおきたくて」
個人の趣味に没頭するあまり仕事が疎かになってはトレーナーの名折れ。
とりあえず興味が湧いた小説を片っ端から読破することにした。普段資料の山を捌いていることもあってか早読みは得意だ。
▫▫▫▫▫
「…………」
しばらくレースのデータやアスリート研究資料ぐらいでしか本を読んでこなかったが、やはり小説というものは素晴らしい。
作者各々がそれぞれの世界を文字に載せて放つ、それぞれの輝きがある。俺も、かくありたいものだ。
「どうぞ」
「お、ありがとう」
リビングで小説の山を読み倒しているとジャーニーがコーヒーを淹れてくれた。
借り物の本を汚すわけにはいかないので一旦栞を挟んで閉じてからカップに口をつける。……うん。美味い。
SF、ホラー、恋愛等々様々な小説を読んでみたが、活字の世界は奥が深い。ジャーニーにまた新しい目線を気づかせてもらった一日だった。
☆ひなたぼっこをする話
「あーーーーー……。いい日差しだー…………」
旅行帰りの翌日、彼は陽だまりの中で微睡んでいた。
お互いにまとまった休日が取られたため、昨日は日帰りの旅に行った。充実した旅路だった。
しかしその反動か今日のトレーナーさんは反応が薄い。閉じかけた瞳に間延びした声。普段の快活な姿からは考えられない一面だったが……私は彼のそんな側面を見られたことを嬉しく思う。
──それに、不思議なことだが──
「ジャーニーもここ来ないかー……?すっごいあったかいぞー……」
「では」
隣に座ると、彼は頭を預けてきた。
包み込むように抱き締めると、静かな寝息が聞こえてきた。よほど疲れていたのだろう。
……不思議なことだが、穏やかな陽気に目を細める、そんな姿がアネゴと重なって見えた。
互いの体温と、柔らかな日差し。私も思わず欠伸を一つ零した。
☆海に行く話
「ジャーニー、海行かないか」
「おや、貴方からお誘いを受けるとは珍しい」
外はかんかん照りの夏。せっかくだから二人で雄大な大海原に抱かれようと思ったのだ。
「しかし、夏合宿と重なるのでは?」
「あ」
失念していた。
▫▫▫▫▫
「ううぅ……一緒に海行きたかったなぁ……」
「また言ってるよトレーナーさん……」
「よっぽど行きたかったんですね、よしよし」
「確かトレーナーさんの奥さんってあのドリームジャーニーさんだよね?私も見たかったなー」
バスに揺られながら担当ウマ娘たちから励ましを受ける。
ジャーニーと一緒に行けないのが残念で仕方ない。俺的には海は行き慣れている場所だったが、彼女との経験ならより違った新鮮味があると思ったのに。
「よし!じゃ、今日からビシバシ行くぞ!」
「切り替え早っ」
移動中はシナシナだったが茹だるような暑さにあてられて一気にスイッチが入る。今日から二ヶ月、忙しくなるぞ。
▫▫▫▫▫
「トレーナーさん」
「……え?ジャ、ジャーニー?ジャーニーなのか?」
「この方が……あのドリームジャーニーさん……!」
トレーニングも佳境に入り、夕暮れの砂浜にて追い込みに追い込んでいると彼女が現れた。
とうとう幻覚が見えるようになったのかと戦々恐々としていると、ジャーニーはクスリと笑って、俺の担当ウマ娘たちを見る。
「お初にお目にかかります。私はドリームジャーニー、トレーナーさんの妻です」
▫▫▫▫▫
「いやーにしてもビックリしたよー。まさかジャーニーが来るなんて思わなかったからなあ」
「貴方からのお誘いでしたから。……申し訳ありません。日中に到着できず」
今日のトレーニングは終わり、俺とジャーニーは夏祭りに来ていた。学園からかなり遠いのにわざわざ来てくれるなんて。
俺の担当もビックリしていた。GⅠウマ娘の来訪とあれば、気になることも山ほどあるようで、さっきまで質問攻めだった。
それでも穏やかに応対してくれる彼女には本当に感謝してもしきれない。その分、今日は思いっきり楽しんでもらおう。
「ありがとうな、来てくれて」
「はい」
花火が上がる。群衆のざわめきに身を任せ、俺たちはしばらく並んで眺めていた。
☆もう一度走る話
「……へえ」
「……ふむ」
テレビを見ていると興味深いトピックが映し出された。
『引退したウマ娘たちのためのドリームレース』。文字通り、現役を退いたウマ娘たちが再び戦場に身を投じるイベントだ。
年齢
……あの走りを、もしもう一度見られるなら──
「もっかいジャーニーの走りが見たいな」
「……そうですか」
勝負服は厳重に保管してある。自堕落な生活を送っていたわけではないから、袖はすんなりと通るだろう。
▫▫▫▫▫
とんとん拍子で話は進み、私は再びターフに立つことになった。
『無理はしなくていい』……まったく、彼らしい言葉だ。しかし他ならぬトレーナーさんの望みとあれば──今一度、血を焦がすのも悪くない。
ゲートに入る。この圧迫感も、随分と久しい。
周囲を見渡すと、私に視線が集中していた。徹底的なマークは必死だろう。しかし、それを喰らい尽くしてこそのドリームジャーニー。
ゲートが開く。あの頃のように、一歩踏み出した。
▫▫▫▫▫
「すげえ……やっぱすげえよジャーニー!」
元GⅠウマ娘の出走ということでギャラリーは多かった。体力を考慮してウイニングライブは行われないが、それでもファンは大いに湧いた。
「お疲れ、ジャーニー!すっごいレースだったぞ!」
元トレーナーということで特別に出迎えを許された。タオルとドリンクを渡し、休憩を促す。
「……ああ、貴方は、やはり」
そう言うとジャーニーは口を閉じた。
……俺は、やはり?何を言いかけたのだろう。
しかし彼女はそれ以上語らず、満足したかのような表情を浮かべながら控え室に戻っていった。
☆結婚十年目の話
「ふっ、ふっ……」
日課のランニングをしてから、静かに家のドアを開ける。今日こそは……
「おかえりなさい、トレーナーさん」
「……ただいま」
やはり彼女は俺を出迎えてくれた。これで三千何敗目だ?
「それじゃ、いってきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
俺もトレーナーとして大分大成した。男としてもオッサンになっている。
それでも彼女との毎日は飽きることのない幸せに満ちていた。毎日が新鮮で、喜色に溢れていた。
そして今日は結婚してからちょうど十年目。給料をはたいてそこそこいいところのレストランを予約してある。
▫▫▫▫▫
「……な、なんか緊張するな……」
だったのだが、格式張った雰囲気に思わず萎縮していた。
流石にテーブルマナーは心得ているが、こうも厳かな場所だと食べ物の味も分かるかどうか……
「……ふふ」
そんな俺を見つめながらジャーニーは微笑みを崩さない。ああ、俺はいつになったら彼女に勝てるんだ?
▫▫▫▫▫
「ごちそうさまでした。大変おいしゅうございました」
「そ、そうか……ならよかった」
今日の贅沢は彼女のためのものだ。彼女が喜んでくれたのであればそれに勝る事柄はない。
「なあ、ジャーニー」
帰り道を歩きながら独り言にも近い形で言葉を発する。
「これから先も、ダセえ俺と一緒にいてくれるか?」
「勿論です。ええ、末永く」
X年後
「ジャーーーニーーー!!!」
手を振って此方に駆け寄る彼。その姿に、思わず頬が緩む。
「会いたかったぁ……!ずっと待ってたぞ!」
「お待たせしました」
「よし、じゃ、行くか!」
差し出された手を掴み、私たちは歩き出した。止むことの無い光に向かって。
ああ。そういえば、再会したら言いたいことがあった。
言葉を紡ぐ。絶え間ない感情を結ぶように。
「トレーナーさん」
「ん、なんだ?」
「貴方を、愛しています」
誰の話が一番よかったっスか……?
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