下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話   作:散髪どっこいしょ野郎

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スティルインラブとトレーナーがひたすらイチャラブする話

「…………」

 

 

 パソコンにデータを入力する作業。長時間していれば当然首や腰がキツくなってくるし、目だって疲弊する。

 

 

「ふー……」

 

 

 長い息を吐き出す。改めてだが、今こうして仕事できることに感謝せねば。長い期間無断欠勤していたというのに席を取っておいてくれた理事長には頭が上がらない。

 

 

「スティル」

 

 

 トレーナー室には俺一人しかいない。数刻前までは。しかしなんとなく彼女の気配を感じ取ったため、呟いてみた。

 

 

「はい。お傍におります」

 

「……フッ」

 

 

 彼女を見つけるのが好きだった。俺にしかできない″特別″なような気がして。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 ノックの音が響く。ちょっとした特技としてドアを叩く力加減で誰が来たのか大体分かるのだが、ある意味では予想通り、ある意味では意外な来訪者だった。

 

 

「入るよ」

 

「ああ」

 

 

 ネオユニヴァース。怪我に倒れたが学園内でもかなりの実力者。そして……スティルと同部屋。

 

 

「スティルがどうかしたのか?」

 

 

 俺がそう問いかけると、ネオユニヴァースは首肯する。正直この子とのコミュニケーションは不得手だった。

 

 

「ありがとう。あなたの『選択』で、スティルインラブは″HPED″に辿り着いたよ」

 

「?スティルが幸せになるのはこれからだぞ?俺たちはまだスタートラインに立ったばかりだ」

 

「それでも、ありがとう」

 

「フッ、俺からも礼を言わせてくれ。いつもスティルに『よくして』くれてありがとう」

 

「スフィーラ、だね」

 

 

 それだけ言って出て行った。ルームメイトってこともあるんだろうが、律儀だな。

 

 

「さて、もうひと頑張りするか」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……スティル?なんで隠れてんだ?」

 

「……お邪魔になるかと、思い」

 

 

 そろそろ帰ろうかと思っていたのだがネオユニヴァースの来訪後辺りから彼女は部屋の隅で縮こまっていた。普通にいてくれていいのに。

 

 

「お前が俺の邪魔になることなんて無い」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 浮かない顔。ええい、俺はトレーナーなんだ。そんな憂いなんて簡単に弾き飛ばしてみせる。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「……ユニヴァースさんとは、何を話されていたのですか?」

 

「……。…………ははっ」

 

 

 簡単な話だった。

 

 スティルは、妬いていたのだ。

 

 

「お前のことについてだよ。俺たち、あの子(ネオユニヴァース)にも色々心配させてしまっただろ?」

 

「…………怖いのです」

 

 

 表情が真剣なものになる。思っていたより事態は深刻なのかもしれない。

 

 

「トレーナーさんを誰かに奪われるのが、怖い。貴方なら、もっと優れたウマ娘を輝かせることだってできるから。……分かっているんです。こんな嫉妬心、はしたない醜いことだって、分かってはいても恐ろしくて……!」

 

「じゃ、この仕事辞めるか」

 

「…………え?」

 

「最低限金を稼げて両親から離れられるなら何処だっていいしな。まあお前が卒業するまではここにいるつもりだが」

 

「え、そ、そんな、よろしいのですか?」

 

「?今の俺はお前と一緒にいるためにトレーナーやってるだけだぞ。元よりお前以外眼中にない」

 

 

 そこまで言うと彼女は視線をあちこちに泳がせる。突然の情報の連続で頭がついていってないようだ。

 

 

「……では、その……不束者ですが、よ、よろしくお願いいたします……」

 

「…………」

 

 

 ……コイツ本当に愛らしいな。

 

 

「ひゃっ……。と、トレーナーさん?」

 

「悪い、少しこうさせてくれ」

 

 

 溢れ出る感情に任せて彼女を抱きしめる。あまりにも愛おしすぎてどうにかなりそうだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「カフェテリア行こう。なんか奢るよ」

 

「え!?いいんすか先輩!」

 

 

 トレーナーをやっていく内に仕事仲間や後輩ができた。一度はスティルと一緒に逃げてしまったため今更先輩風を吹かす気はないが、後輩の性格は嫌いじゃなかった。

 

 

「やっぱりトリプルティアラウマ娘のトレーナーともなると給金も多いんですか?」

 

「……随分と下世話な質問だな」

 

 

 嫌いじゃないが、特別好きでもない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「先輩、それって……」

 

「ああ。スティルが作ってくれたやつ」

 

「やっぱりー!先輩とスティルインラブちゃん付き合ってますもんねー!」

 

「……え?ちょ、ちょっと待ってくれ。俺とスティルが付き合ってるって……」

 

「?学園では有名な話ですよ?愛し合った末の逃避行ってこともあってウマ娘みんなキャーキャー言ってますし」

 

 

 ……まあ確かに、あの日々は青少年にとって刺激の強いものではある。とはいえ学園中に広まっているとは。道理で誰かとすれ違う度チラチラと見られるわけだ。

 

 

「そういえば先輩真正面に座るようになったんですね」

 

「ん?ああ……もう気にする必要がなくなったからな」

 

「何をですか?」

 

「それは秘密だ」

 

「……スティルインラブちゃん関係のことだったりするんすか?」

 

「次それ言ったらポン酢ぶっかけるからな」

 

「はーい……」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「スティルちゃん、おはよう!」

 

「……おはようございます」

 

 

 最近はよく話しかけられるようになった。学園に帰ってきた当初はトレーナーさんのことで質問攻めだったけれど、今はその追求も落ち着いている。……とはいえ彼の傍にいると生暖かい視線を送られるようになったのは少し恥ずかしい。

 

 

「放課後、空いてる?」

 

「アルヴ、さん……?はい、今日は自由時間が多いですが」

 

「なら、走るわよ」

 

 

 アルヴさんからのお誘いを受けることも増えた。強者との闘争。私の本能が荒ぶる時間。

 

 あの子を呼び起こすことに抵抗感は無くなった。どんな私も彼は受け入れてくれるから。

 

 ──というより、今の私はあの子とひとつになっている。だからもう、大丈夫。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「今日はここまでにしておくか。俺たちはちょっとミーティングするから、アドマイヤグルーヴは先に上がっといてくれ」

 

「……その、ミーティングって…………私が口を挟むことでもないか

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「なんでもない。それと、スティルさん」

 

「はい?」

 

「……程々にしておきなさい。みんな気づいてるわよ」

 

「~~~~ッッ……!!は、はい……」

 

 

 ……一応、ミーティングはしっかりやっている。次のレースの対策や方策を考えなければ良いレースはできない。

 

 ……ミーティングは、しっかりやっている。けれど……

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……とまあ、こういう作戦で行こう」

 

「はい」

 

 

 ……ああ、ダメ、こんなのっ、ダメなのに……!

 

 

「トレーナーさん、その……」

 

「ああ、アレか?」

 

「トレーナーさんがお嫌でしたら止めますが……」

 

「前も言っただろ。好きにしてくれ」

 

「……はい。それでは……」

 

「……んっ」

 

 

 視線は彼の、首元。タートルネックの服で誤魔化してはいてもその痕はチラチラと露出している。

 

 

「……はぁ、むっ」

 

「……っ」

 

 

 卑しい音を立てて彼に吸いつく。……スイープさんの言っていた通り、私はある意味での吸血鬼なのかもしれない。

 

 

「んむっ、は、あ……」

 

「……」

 

 

 吸う、舐る、囓る……。いけないのに、いけないのに……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「…………あれ?」

 

「起きたか。疲れているようだな」

 

 

 いつの間にか、私はトレーナーさんの膝を枕にして眠ってしまっていた。

 

 

「私……」

 

 

 先程の行為を思い返し赤面する。あんな、はしたない、卑しい私が表れるなんて……。

 

 

「ご、ごめんなさいトレーナーさん。私……」

 

「謝る必要なんてない。お前がそうしたかったことが、俺が一番してほしいことだ。」

 

 

 ……その優しさに溺れて、窒息してしまいそう。でも、それでいいと私は思ってしまう。きっとワタシも同じことを考えるだろう。

 

 

「まだ門限までは時間がある。好きにしてくれ」

 

「……では、その……。……抱きしめてください。強く」

 

「分かった」

 

 

 起き上がり、正面から向かい合う。もうトレーナーさんの表情に怯えは無かった。

 

 

「…………」

 

 

 羽のようにふんわりと抱きしめられる。次第に背中へ回された手は熱を帯びた。

 

 

「トレーナーさん……」

 

「なんだ?」

 

「……愛してる……。もっと、強く……」

 

 

 暴れる心臓の脈動が互いに伝わる。よかった。緊張しているのは私だけではない。

 

 ……好き。貴方が大好き。狂おしい程に。

 

 

『?今の俺はお前と一緒にいるためにトレーナーやってるだけだぞ。元よりお前以外眼中にない』

 

「……っ」

 

 

 思い返される言葉があまりにも甘くて嬉しくて、脳が火花を散らす。

 

 いっそのこと狂ってしまいたい。そう思えるぐらいに、満たされた時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「……よかったな、スティル」

 

 

 ウィナーズ・サークルに向かいながら小さく呟く。

 

 今日は彼女の引退レース。観客の盛り上がりからも、彼女が多くのヒトに愛されているのが実感できた。

 

 本能がそうさせるのか、イレ込むことは多々あったが上手く自分をコントロールできるようになっている。彼女の中でなんとか折り合いをつけられたのだろう。

 

 

「あ……トレーナーさん……」

 

「いいレースだったぞ」

 

 

 観客席を眺めながら呆然としているスティルに近寄る。

 

 

「お前は愛されている。だから、胸を張って応えればいい」

 

「私……ワタシ……私……っ」

 

 

 泣き崩れるスティルインラブをなんとか支えて歓声を注ぎ込む。

 

 今日まで彼女はたくさん頑張ってくれた。だからこれからは、俺が彼女に応じよう。俺のできる全てを以て。

 

 もう忘れられることは無い。史上二人目のトリプルティアラウマ娘、スティルインラブの光跡は、未来永劫語り継がれていくことだろう。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「今日まで、色々あったな……」

 

 

 もうこの部屋ともおさらばになる。追憶は遠く。軌跡は確かに残っている。

 

 

「トレーナーさん?いらっしゃいますか?」

 

「ああ、入ってくれ」

 

 

 これからは彼女に全てを捧げよう。これまでと同じように。

 

 気分が浮つく。きっとこれからはなんだってできる。そう思うと未来に希望を持てる。

 

 

「失礼します。……今日まで、長かったですね」

 

「ああ。そうだな」

 

 

 浸食する紅はもうない。弱かった俺はもういない。もう大丈夫だ。俺には彼女がいる。

 

 

「トレーナーさん」

 

「なんだ?」

 

 

 彼女の卒業と共にトレーナーを辞める段取りになっている。後は胸元に忍ばせてある辞表を提出するだけだ。

 

 しかし、彼女が放った一言は予想だにしないものだった。

 

 

「迷わせてしまってごめんなさい。今から言うことは私の身勝手な申しつけです。……貴方には、これからもトレーナーでいてほしい。それが、私の望みです」

 

「──え?」

 

「……本当に、申し訳ありません。それでもやっぱり、貴方には輝ける場所にいてほしいと、そう思ったのです」

 

 

 ……俺は、スティルが望むことならなんだってしてやりたいと、そう思う。望まれたのならトレーナーとして人生を全うするつもりだが、彼女の中でどんな心境の変化があったんだ?

 

 

「……いつか、私以外のレース、あまねく闘争が貴方に喜びを(もたら)してくれる筈です。貴方には幸せでいてほしい。……トレーナーとしても」

 

 

 ……いいのか?

 

 確かに、スティルのレースは見ていて胸が躍った。かつて味わったことのない喜悦がそこにあった。

 

 ……ごちゃごちゃ考えるのはよそう。それが彼女の希望なら、精一杯責務を果たす。

 

 

「……それと、その……」

 

 

 穏やかな表情から一転して顔を赤らめるスティル。差し出された書類、これは……

 

 

「私と、消えない未来を歩いてください」

 

 

 ──婚姻届だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……朝か」

 

 

 目覚まし時計は使わない主義だった。定刻になれば体が自動で起き上がってくれる。

 

 

「おはようございます、トレーナーさん」

 

「んー……」

 

 

 寝起き眼を擦りながら洗面所に向かう。その間に食事が用意されていた。

 

 

「はい。お口を開けてください」

 

「……あーん」

 

 

 恥ずかしい限りだが、この歳になっても彼女に食べさせてもらわないと吐いてしまう。両親のことは吹っ切ったつもりでいたが体の癖は直しようがなかった。

 

 

「それじゃ、行ってくる」

 

「はい。いってらっしゃいませ」

 

 

 トレーナーの朝は早いのに、わざわざ早起きして俺に合わせてくれることにはどれだけ感謝しても足りないくらいだ。

 

 さて、今日も一日頑張るか。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ただいまー」

 

「……ッ!おかえりなさいませ」

 

 

 今はもう後ろ指を指されるような間柄じゃない。心の底から、彼女を愛せる。

 

 俺が帰宅すると決まってやることがある。それは──

 

 

「……汗臭くないか?」

 

「いえ……貴方の香りなら……私は……」

 

 

 ……瞳が蕩けている。俺が帰宅するとスティルはいつも俺を()()。胸元に抱きつき、何度も深呼吸を繰り返す。……流石に恥ずかしい。

 

 

「風呂入りたいんだが……」

 

「……あ、ご、ごめんなさい。お風呂は焚いてありますから」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「「いただきます」」

 

 

 同じ食卓を囲める幸福。もう顔色を伺う必要はない。

 

 毎日思うが、彼女の料理は美味い。自分で調理してもこうはならないから、本当に感謝している。

 

 

「今日はシフォンケーキを作ってみました。よろしければ、どうぞ」

 

「いいな。じゃ、コーヒー淹れるか」

 

 

 食後にはデザートまで付いている充実ぶり。至れり尽くせりだった。

 

 それからは、静かな時間が続く。細やかで贅沢な幸せが溢れていた。

 

 

「トレーナーさん、あの……」

 

「ん、ああ。分かった」

 

 

 彼女を抱きしめる。強く、もう離さないと思うまでに強く。

 

 新しい担当ウマ娘が増える度、この時間は密度を増していく。まったくいじらしい。そして、愛おしい。

 

 

「いいですよ。トレーナーさんも、解き放って」

 

 

 理性はとっくに溶けている。俺は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 X年後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん」

 

「ん……」

 

「起きられますか?」

 

「少し……厳しいな。多分だけど、今日が最後な気がする」

 

 

 それは私も同じことだった。

 

 長い、長い年月が過ぎた。それでも尚、今でも貴方を愛している。

 

 隣に体を倒す。見つめ合うような状態。

 

 

「……トレーナーさん」

 

「……ん」

 

「私……貴方がトレーナーでよかった」

 

「ああ……俺も、お前が担当ウマ娘でよかった」

 

 

 おそろいの気持ちで、(おんな)じ終わり。できすぎてるほどに満たされた最期。

 

 霞む視界だけど、貴方だけが確かにいる。

 

 互いに微笑む。終着点まで、あと────

 

 

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