下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
その最中に思い浮かんだ話もおまけとしてぶち込んであります。
⚠注意⚠
2人とも曇ります
見てろ 二度とうまぴょいできねぇようにしてやる
トレーナーは嘘つきだ。
ボクの前ではいつも気丈に振る舞っているのに、ボクがいなくなると泥のように眠っている。
何の疲れも見せずにボクに笑いかけているけれど、本当は誰よりも体をボロボロに使い潰している。
そんなふうにしてボクには何も自分を見せてくれないのに、ボクのコトを理解しようとしてくれている。
トレーナーは最初からレースなんてどうでもよくて、男のヒトとして近づいてきたコトをボクは知っている。
なのにそれをボクにぶつけてくることは1度も無かった。それどころかボクのサポートをいつどんな時でもサボることはしなかった。
あのヒトは自分自身を放り出してまでボクのトレーナーでいてくれているのに、結局ボクに弱みも内側も何も教えてくれなかった。
トレーナーは自分勝手だ。
ボクの為に頑張ってボクを知ろうとしていても、ボクにトレーナーをわからせてくれなかったから。
レースで走っている時、ふとそんなことを考えてしまった。
そうして1着を逃して、悶々としながら戻ると頭を抱えて座り込んでいるトレーナーがいた。
いつも笑ってるトレーナーがそうやって悩んでいる姿を初めて見た。
誰も見たことのないあのヒトの暗い感情をボクだけが知っている。
本当の心の奥を見れた気がして、顔が熱くなって声をかけることが出来なかった。
ボクが負けてからトレーナーは更に頑張るようになった。
ボクは強くなって、1着も取れるハズだった。
それでもボクは勝てなかった。
ここで負ければトレーナーがグチャグチャに悩む姿を見れる。
勝たなきゃいけないのにそんな考えがよぎってギリギリで目標のレースを通ってしまった。
トレーナーは目に見えて疲れきっていた。
頑張れば頑張る程ボクが勝たなくなっていくのだから、
身も心も崩れそうになっていた。
心に余裕が無くなってもトレーナーは自分をさらけ出そうとはしなかった。
つらそうな表情は見たくなかった。見たくなかったけど見たくなってしまった。
ボクがトレーナーの負担になっている。
好きなヒトのいいところも悪いところも全部知りたいと思ってしまうのはボクの最低なエゴだ。
でもそんなグチャグチャなトレーナーを好きになってしまったんだ。止められなかった。
「なあ、テイオー」
トレーナーがボクに真剣な顔で話しかけてくることは滅多に無かった。
「なに?」
だから今こうして答えている間も心臓はドキドキして落ち着かなかった。
「俺…俺ってお前の担当としてちゃんとやれてるかなぁ」
トレーナーがボクに相談してくるのは初めてだった。
「どうしてそう思うの?」
「あぁ…いや…なんでもない」
最後まで言ってくれないコトが歯がゆかった。
トレーナーが倒れた。
無理やり動き続けたせいで倒れてしまったんだ。
「ごめんねトレーナー…本当にごめんね」
何十回でも何百回でも謝るつもりだった。
ボクが悪いんだ。
分かってるのに足を止めてしまうボクが。
「うぅ…ぅあ…っ」
うなされながらトレーナーは起きた。
「あれ…?俺…っ」
「キミは練習中に倒れたんだよ。───お願い。もう休んでよトレーナー。そんな苦しい思いをしてまで動かなくたって、ボクは───「ダメ…だ」
「俺が…俺がやんなきゃ…俺がもっと頑張んなきゃ…!俺が…!」
うわごとのように呟き続けてトレーナーはまた気を失ってしまった。
ボクは泣いていた。
涙を流していいのはボクじゃない。
ボクが招いたコトなんだ。
つらいのに、どこかで満足している自分がいる。
ボクは酷いウマ娘だけど、トレーナーが好きだ。
全く勝てなかったけど、なんとか有マ記念までやってこれた。
トレーナーのおかげで実力は他のウマ娘より圧倒的に高くなっていた。
実際のところボクは目標のレースをギリギリで通ったように見せかけて無意識の内にわざと2着や3着になるように走っていたんだ。
トレーナーの曇った表情が見たかったから。
有マ記念は違う。カイチョーが相手でも絶対に勝たなきゃいけない。これからもトレーナーと一緒にいられるように絶対に勝ってみせる。
本番1時間前、ボクは伝えたいコトがあって控え室でトレーナーに話しかけた。
「トレーナー、ちょっと聞いてくれる?」
「……あぁ」
頷いた頭には白髪が増えていた。
「ボクはこの3年間あまりレースで勝てなかったけど、それはキミのせいじゃないよ」
「ちが──「ボクはね、わざと負けてたんだ」──は?」
「キミが分からなくて、キミが何を思っているのか知りたくなっちゃったんだ。担当になったあの日からキミはボクを理解しようとしてくれたけど、ボクはキミのコトを何も知らなかった。キミがいつも見てくる理由も陰で無理をしているコトも知ってた。でもそれだけだったよ。ボクが知ってるだけでキミは何も教えてくれなかったよね。誰よりもボクを分かろうとしてるのに自分の胸の内を吐き出してくれなかったのがどうしても我慢出来なかった。ボク自身どうしてこんなにトレーナーを知りたいと思ったのか不思議だったけど、今ならハッキリ言えるよ───ボクはキミが好きなんだ」
言葉は途切れることはなかった。
「ボクが負けて悩んでいるキミの姿を見た時、ボクの前では見せなかった姿を見た時、すっごく満足していたんだ。ボクはトレーナーに全部理解して欲しかったし、全部理解したかった。キミが
「トレーナーがつらそうにしてるのは嫌だった。でもそれ以上にそんなキミが好きだった。3年間───そう、3年間だよ。ずっとボクの為に頑張ってくれたよね。誰も心配させないように倒れても追い詰められても「トウカイテイオー」の為に生きてくれた」
「うん、やっぱり好きだ。こんなに尽くしてくれたキミっていうヒトがボクは心の底から大好きなんだ」
「好きなヒトの何もかもを知りたいって思ってからはレースに集中できなくなっちゃってさ、絶対に勝てるレースでもボクは勝たない道を選んじゃった。そうすればキミが普段見せない感情が知れるから」
「───────っ!」
声にならない声を小さく上げてボクを壁に押しつけるトレーナー。
嬉しくて思わず笑ってしまった。押しつけようとしてるのにボクを傷つけないように優しく掴んできたんだから。
初めてトレーナーがボクに隠してた思いを教えてくれた気がして幸せだった。
「なんで…なんで抵抗しないんだよ」
「これがキミのしたかったコトならボクは喜んで受け入れるよ。いいよ。キミになら何をされてもボクは嬉しい」
「ちが…違う…俺は…俺はこんな事、」
「キミはなんでトレーナーになったの?」
「俺っ…おれ?…あれ、おれ、なんで…お、れは、どうしてなにが──」
うずくまってどんどん呼吸を荒らげていく。
その背中をさすりながら囁いた。
「自分が嫌で仕方ないんだね。分かってるよ。キミがボクをそういう目で見なくなったコトも、それでもボクが好きなコトも全部」
「キミは確かに悪いヒトだったのかもしれない。でもそれをずっと表に出さないでトレーナーの仕事を全うしたキミと我慢できなくなって負けちゃったボクはどっちが悪いんだろうね」
「キミは最高のトレーナーだよ。もういいよ。ボクがキミを傷つけたから、キミにはボクを傷つける権利がある。だから、だからさ」
キミの全部をボクに見せて
「俺は…!もうトレーナーとか嫌なんだ…!でもやらなきゃお前と一緒にいられないから…!だから、でも、俺はもうトレーナーでいたくない…ただトウカイテイオーの傍にいたい…お前の傍にいたいだけなんだ」
感情を全て打ち明けたトレーナーにトウカイテイオーは微笑んでいた。
その後トウカイテイオーは
勝利の栄光も敗北も挫折もウマ娘としての実力も歓声も全て手に入れた彼女と、トレーナーとしての自分を何もかも失った彼が宿したものは絶対に変わることの無い想いだった。
「おやすみ、トレーナー」
ボクの腕の中で穏やかな寝息を立てるトレーナー。
キミはボクのもので、ボクはキミのものなんだ。
それを確かめる為に、もう1度優しくトレーナーの頭を撫でた。
「トレーナー」
大大大大大大大大大大大大大
大好きだよ。
1話の有マ記念でトウカイテイオーが勝てなかった場合の話
惜しくも2着に終わった彼女の夢を、俺はただ見ていた。
やはりシンボリルドルフは最強だった。
俺のような新米トレーナーが死にものぐるいで努力したところで勝てる相手では無かった。
トウカイテイオーには素質があった。皇帝を超える素質が。
つまり俺が彼女の夢を木っ端微塵に叩き潰したということだ。
俺の中には最早自分を責める自分もおらず、ただ1つの決断が残った。
よし、消えよう。
彼女をなるべく優しく見送り、トレーナーを辞めて誰にも迷惑がかからないようにひっそりと消えよう。
そう考えるといくらか前向きになれた気がした。
控え室に戻って落ち込んだ様子の彼女に俺は寄り添っていた。
裏切り続けていたあの日と同じように。
「トレーナー…」
「ん?」
「ボク達、もう一緒にいられないのかな…」
答えあぐねて口を噤んでいると彼女は泣きながら言葉を紡ぎ出した。
「嫌だよ…キミと離れるなんて、そんなの嫌だ!3年なんかじゃ全然足りない!もっとキミとたくさん話して、おいしいもの食べて、色んなところに行って…っ、もっとずっと一緒にいたい!」
笑えばいいのか泣けばいいのか分からなかった。
オレはクズ以下の人間だった。
テイオーの夢を壊し、あまつさえ彼女の心を奪ってしまったのだから。
「いやだよぉ…トレーナーぁ…!」
すがりついてくる彼女が愛おしくて愛おしくて狂ってしまいそうだった。
俺は彼女の為なら自分の命を何回だって投げ捨てられる自信がある。
それが思い上がりであることも理解している。
しかし彼女は俺と離れたくないと、そう言った。
ならばそうしよう。
どんな障害があろうと、俺が今度こそねじ伏せてみせる。
俺が生きる理由はそれが全てだった。
テイオーは俺がそばにいる時は温かな手を固く繋いで離さない。
俺が離れてしまう事に怯えるかのように必死に手を繋ごうとする。
俺には彼女以外の何もなかったから、離れる気など毛頭ないのだが。
だからありったけの想いを込めて握り返した。
冷えきった掌に、最も傲慢で最悪で愚直な愛情を携えて。