下心バキバキトレーナーがトウカイテイオーに改心させられる話 作:散髪どっこいしょ野郎
三女神は気が短ぇんだ!
腹を立てたら何をするんだ?
ウサギとワルツでも踊るのか?
いい夢を見ろよ!
活動報告でいただいた話を書かせていただきました。
⚠注意⚠
暗いです
重いです
残酷な描写がありありです
結局のところ、俺は薄っぺらい人間だったんだ。
ウマ娘と密接に関われる唯一の仕事に俺は惹かれ、軽い信念で知識を積み重ねてトレーナーになった。
そんな浅い理由で将来を定めた俺が多感な少女と長い時間を共に過ごして変わらない筈がなかったんだ。
彼女──トウカイテイオーの陰る表情に喜びを見いだせなくなった時、俺は自分がどうしようもない下衆であることに吐き気を覚えてしまった。
幼い頃から自分がクズであることを知っていた。
それを承知の上で就いた仕事だったのに、情欲をひた隠しにして1人密かにその蜜を啜ろうと画策していたのに、俺が覚えたのは悔恨の味だった。
だから彼女からかけられた言葉に俺は堪えきれなくなってしまった。
クズである自分を貫き通すことが出来なかった。
それが彼女に拭いきれない傷を与えてしまうと分かっていたのに。
その質問に深い意味は無かったんだ。
ボクのトレーナーは今まで関わってきたどんなウマ娘よりも努力家で、どんなヒトよりも親身になってくれた。
あのヒトの隣は居心地が良くて、疲れた様子のトレーナーが心配で何となく聞いてみただけだったのに。
「ごめん」
しばらくは何を言ってるのか理解出来なかった。
ボクは自分がトレーナーを意識してるコトに、その時初めて気がついた。
トレーナーは唐突に今まで隠してきた思いを語りだした。
多分、酷いコトなんだろう。
そんな理由でウマ娘の担当になるなんて、カイチョーが知ったらきっと許さない。
それどころかトレセン学園にいる大半のウマ娘が怒り出すハズだと、思ってはいるんだけど。
今までのボクがそれを聞いたら怒っていたんだろうと思うんだけど。
トレーナーはボクを強くしてくれたし、そんな思いを気づかせないようにしていたし、ボクはそれに気づかなかったし、降りかかる視線も特に嫌とは思わなかったし。
どうして?
そんな泣きそうな顔で暴露してしまうくらいなら今まで通り嘘をついていればいいだけなのに。
酷い理由だ。
だけどボクは──キミをどう思っているんだろう。
「どうしてそのまま嘘をついてくれなかったの?」
簡単な話だ。
俺は偽り続けることに嫌気がさしていた。
彼女を見る度に罪の意識に苛まれている。
それが耐えられなかった。
俺は俺という人間を憎まずにはいられなかった。
どうしたところで俺が彼女に与えてやれたのは深い傷痕だけだった。
俺は何がしたかったんだ。
彼女に憎んで欲しかったのか。なら何故彼女に拒絶されることがこんなにも怖いのか。
俺をトレーナーとして成り立たせていた薄っぺらい動機は剥がれてしまった。
空っぽになった心の洞に萌芽し始めた感情の正体を突き止めることも恐れている。
俺は彼女を■してしまっている。
自分自身からも彼女からも逃げ出そうとして、ただひたすらに仕事に打ち込んだ。
いや違うな。
そうやって自分を殺すことでしか彼女を■せなかったんだ。
怒っていればよかったのかな。
あの時ボクが何か言えていたら、トレーナーは変わらずにいてくれたのかな。
なんて言えばいいのか分からなかった。
最低なハズの告白で頭がいっぱいになってトレーナーに何も言えなくなっていた。
そうこうしてる内にだんだんボクから離れるようになってしまった。
相変わらず練習には熱心に付き合ってくれるけど、すぐどこかに消えてしまう。
胸の奥が痛かった。
考えて考えて、眠れなくなっているのにトレーナーは傍にいない。
あのヒトがボクを拒んでいると思うだけで涙が溢れてくる。
ボクはトレーナーにトレーナーでいて欲しかっただけなんだ。
キミがいないとボクは走れないんだよ。
それを伝えたいのに、ボクの隣にあのヒトはいない。
トレーナー。
痛いよ。
レースで負けるよりもずっと痛い。
そんな理由なんてどうでもいいから、何回だって許すから。
ボクを捨てないでよ。
助けてよトレーナー。
いつもみたいにボクを助けてよ。
伝えられない「■■」の置き場所なんて誰も教えてくれなかった。
きっと許されはしないだろう。
分かってる。
分かってるからこそ聞きたくなかった。何も聞きたくない。何も見たくない。
自分を追い詰めるのは簡単だった。
働いてる間は彼女の為に生きているという実感が持てたからだ。何も聞かなくて済んだからだ。
俺を許せなかった。
どの口が言うんだよ。
今も彼女に渇き続けているだろ俺は。なんなんだよお前は。
誰か助けてくれよ。
ごめんテイオー。ごめん。
こんなわだかまりの解消方法なんて、いくら勉強しようが分かるわけないんだ。
怪我を克服した彼女の復帰レースの翌日、
俺は歩けなくなった。
後から聞いた話だが、その場にヒトはいなかった。
だから運転中に気を失った俺が勝手に事故を起こしただけで済んだ。
鼻腔に漂う薄い消毒液の匂い。
そうか、俺はまだ醜く生にしがみついているのか。
込み上げてきたのは乾いた笑い。
本当に滑稽な話だ。
これが俺の払うツケなのか?
彼女の選手生命を復活させる代償が俺ごときの足なのか?
笑って笑い続けて──テイオーがいることにやっと気がついた。
「全部ボクのせいだから」
違う。
俺は自分を故意に追い詰めていただけだ。
絞り出すように声を出すとテイオーは顔をくしゃりと歪めた。
「…ボクは、ボクはキミがいないともうダメなんだ。
キミがボクの前から消えていっちゃうのが怖くて、胸の奥がすごく痛いんだよ…。もういなくならないでよトレーナー…。ボクをひとりにしないでよぉ…っ」
「…だからっ、全部ボクのせいにして。ボクに責任を取らせてよ。キミの隣にいさせてよ…」
何も変われてなんていない。
俺のテイオーへの想いなんて、最初から最後まで独りよがりのものだった。
なんだったんだ?彼女からの好意にも気づけず、いたずらに彼女を弄び挙句の果てに2人とも傷つけた。
自分の為にしかテイオーを思いやれない俺が──────いやもういい。
俺は自分の為にしか■せなかった。
だからテイオーが俺を使って笑ってくれるのならそれでいい。
いつまでおためごかしほざいてんだよ。
少なからずこうなることを望んでいただろ。
ああ、でも、俺は赦されている。
どうやら俺はこれからもテイオーのトレーナーでいられるらしい。
腐り落ちた自分への憎しみを泣きじゃくる彼女への想いが有耶無耶にしていくのを感じる。
俺の足が死んだのは彼女から逃げられなくなる為なのか。
無様に残った両腕はしとどに濡れる彼女の頬を拭う為にあるのか。
バカバカしい、歯の浮くような文句だ。
しかしそれが認めてもらえるなら、俺は彼女を■しても──愛してもいいのだろうか。
確かめようとしてそっと手を伸ばした。
燻っていた色欲の撃鉄の起こし方を俺は綺麗さっぱり忘れていた。
トレーナーの運ばれた病室に急いで駆けつけると、静かに呼吸を繰り返す姿が見えた。
どう見ても自力で歩ける状態じゃない。
ボクをトウカイテイオーとしてもう1度走らせてくれたのに、キミはもう自分の足で歩けないんだ。
悲しまなきゃいけないハズなのに、ボクの中には1つの考えしかなかった。
トレーナーはボクが支えないと生きていけない。
1度思いついてしまってからはそれだけが思考を占めてしまっている。
久々にトレーナーの手に触れた。
ボクのせいでこのヒトの人生は狂ってしまった。
それなら、ボクがこれから先のこのヒトの生活を支える義務がある。
このヒトの傍にいられる。
積もらせてきた悲しみと■■を泣きながらぶつけてしまった。
こんなボクをトレーナーが受け入れてくれたコトが嬉しくて、トレーナーの人生を奪ってしまったコトが申し訳なくて、嬉しくて、分からずじまいだった■■をこぼれ落ちないように心の奥で抱きしめていた。
「ほら、起きてトレーナー」
優しく揺り起こされる。
退院後、日常生活が困難になるという理由でどうするか話し合いになったがテイオーが俺の介添えをするということで決着がついた。
まだ未成年のウマ娘にそんなことをさせられないと当然周囲は言っていたのだが、テイオーの圧に負け無理矢理その案を通された。
と言ってもあくまで学生の身であるから門限までにはトレーナー寮からトレセン学園寮に戻ること、十分な成績を収めることを条件とされた。
成績は特に問題無かったが、門限に関しては不承不承といった様子で彼女は承諾した。
朝早くから彼女はトレーナー寮に来てくれている。
俺の朝を支配していた目覚まし時計は部屋の隅で埃を被り始めていた。
「おはよう。もうご飯は出来てるから、顔洗ってきて」
「ん」
朝食を腹に収め、適当に身支度を済ませてからすっかりくたびれてしまった服に袖を通して車椅子に身を委ねる。
白んでいる空に目をやりながら、ゆっくりと押されてトレセン学園に向かう。
正直ここまでしてもらわなくてもある程度なら自由に出来るが、彼女が俺にしてくれていることなのだから特に口を挟む気にはならない。
「ありがとう」
テイオーは毎日俺にありがとうと言ってくる。
自室に戻る時も練習後もレースで走った後も。
この「ありがとう」に背負いきれないくらい深く重い意味が秘められていることを俺だけが知っている。
テイオーのトレーナーでいることでその思いに報いられるのならば、これ以上の幸福はない。
どうしてだろうな。
身体は錆びつき、うら若いウマ娘の足枷となっているというのに俺の濁りきった心はいつまでも甘いままだった。
三女神「俺に伝えてどうすんだよそんなこと!!」