二次創作「Snow flutters. ~Fantasy Star Online 2~ 」 作:北宮 涼
「先ず一つ。これは単純な話で、10年前に死んだとされている人物が記憶を失ったまま生還するだなんていう事はまずあり得ないからだ。
先の戦いを経験して何となく理解したかと思うけど、ダーカーは僕らフォトンを持つものを殺すために何処からともなく現れる。
それを武器も持たず、更には記憶も失った状態で10年という歳月を凌ぎ切れるはずがないんだよ」
それは理解できる。
あの戦いでは半数近くを素手で倒せていたとは思うが、あれが長期化すれば傷を負い、精神は摩耗し、次第に劣勢を強いられることになる。
行く行くは抵抗もままならなくなり、最終的には殺されることになるだろう。
うまく凌げても、ひと月程度で詰むだろうことは想像に容易い。
しかし、これは『アークスに帰還してはならない』理由にはなり得ない筈だ。
「例え生き残ることが可能であったとしても、それは生還した者以外に協力者がいるという証拠になってしまう。
それが二つ目の理由だ。今のアークスを牛耳っている存在……ルーサーに、外部で動いている存在がいる事を悟らせたくない。
今のアークスを正常な状態に戻すためにこうして水面下で活動しているのに、今君をアークスへ帰してしまったらすべてが崩壊しかねない」
色々と内情を聞いた今であるならば、その話も理解できる。
だがこの話を元に考えるならば、現アークスの態勢を崩すためにその隙を伺っている今の状況において、俺という存在は、いつ不安要素を吐き出してしまうかも分からない不発弾そのものの筈だ。
俺を発見した人物がアークスに与するものであればここまでややこしくはならなかったのだろうが現状は違う。
サラに救われ、シャオ自身の判断の元で保護されて今に至っているこの状況に対する理由としては、些か的外れに過ぎる。
「だとしたら何故俺を助けた? 助けずに見捨てておけば、ここまで面倒な事にはならなかった筈だろう?」
疑問を直接ぶつける。
俺という存在が不安要素になるのであれば、助けることなどしなければ良かったのだ。
そうすればここまで頭を悩ませることもなかった筈だ。言ってしまえば、俺を助けるという行為は悪手以外に他はない筈なのだ。
それでも俺を助けたという事は、即ち『俺を保護する理由』があったという事になる。悪手を打ってでも抱え込まねばならない理由が。
「それが、三つ目の理由に関する所なんだ」
一呼吸を置き、真剣な眼差しで俺を見つめながら、シャオは再び口を開く。
「君が今、僕と会話をしている事。これこそが、今目の前で起きている異常の最たる例であり、君を保護することを決めた理由さ。
僕は君の前に姿を現すつもりはなく、サラを通じて色々と物事の伝達をしようとしていたんだ。
それがどうだい、目を覚ました君は僕の姿をバッチリと捉えていただけじゃなく、意思疎通すらもできてしまった。
サラならわかるよ? 僕の縁者だし。マリアだって、僕の協力者だから、必要に迫られれば会話することも可能だ。
だが、君は違う。そんな段階すらもすっ飛ばして、何もかもがゼロの状態で僕を視認した。それが問題なんだ」
そっと目の前に歩み出で、見上げるように見つめてくる。
その瞳には、ここひと月の間ずっと薄れることのなかった警戒の色が強く出ている。
「現段階では、君という存在は何もかもが未知数なんだ。そんな危険な存在を野放しにするだなんて、僕にはできない。
同じリスクを孕むにせよ、抱え込んでおいた方が幾分もマシだ。
だから僕は、君を向こうに、アークスに送ることを良しとしないんだよ」
語るべきことはすべて語った、そう言わんばかりに黙り込むシャオを前に、今し方言われたことを反芻し思考を回す。
いつかサラが話した事の中に『シャオはアカシックレコードの劣化コピー』であるという爆弾発言があったことを思い出す。
本来ならば、シャオから力を授かった者や、シャオ自身が許可を出した存在以外にはその姿は見えないのだという。
つまり俺は、そう言ったプロセスすらなく、本当に何の接点もないままにシャオという存在を認識したという事になる。
「分からない事ばかりで未だに合点がいかないんだが……つまりは、シャオの事を認識できる俺が、アークスのトップに君臨しているルーサーとやらの元に渡ることを恐れている、という事でいいのか?」
「そういう事。僕としては、計画の中に君という乱数を放り込むのは怖くてしたくないんだけどね」
"計画"と称する言葉の意味は、打倒ルーサーへ向けた行動の事だろう。
この三人が何度も口にするほど危険視されているルーサーとは、一体何者なのだろう。
「そういう事なら、俺はここでジッとしているさ。さっきの様な事にならないよう、隅っこで膝でも抱えているとするよ」
「そこまでしろとは言ってないんだけど、まあいいか。もしかしたら君が役に立つこともあるかもしれないし、その時にすぐ動けるようにはしておいてもらいたい」
「了解。どのみち俺はあんた等の庇護なしには長く生きられないんだ。せいぜい役に立つ努力をさせてもらうよ」
疑問が疑問を呼ぶが、それが晴れるのは何時になるのだろう。
未だズキズキと痛む頭にはもうこれ以上思考する力は残っていなかったのか、壁にもたれ掛かる様に座ると自然と瞼が落ちていった。