二次創作「Snow flutters. ~Fantasy Star Online 2~ 」 作:北宮 涼
ダーカーとの邂逅からおよ一週間。
現在の日付は4月1日、時刻は……時計がないため正確な時刻は分からないが、恐らく夕刻だろう。
やる事もないからと一人で筋力トレーニングを重ねている間に、一人の男が運び込まれてきた。
赤い髪に、左頬から鼻先へ走る傷跡が印象的なこの男はアークスであるらしく、運んできたサラとマリアはしばらくの間此処で静養させると伝えてきた。
よく見れば身体中が傷だらけで、一体何があったのかと聞くと、ダークファルスとやらが復活し、それと交戦した為に傷を負ったと説明を受けた。
そのダークファルスが復活した場所は惑星ナベリウス。俺が空間歪曲とともに現れた星で、その様なことが起きていたらしい。
「そういう事だから、コイツを暫らくここで匿ってやってくれ。後、これからは定期的にここへ来るからね」
マリアの話によると、先のダークファルスとの戦いで力不足を嘆いた彼───ゼノは、これから激化していくだろう戦いで大切なものを守れるだけの力を得るべく、マリアに訓練をつけてもらうことになったのだという。
殊勝なことだ、と感心していると、マリアがこちらに視線を投げかけてくる。
「……何故俺を見る」
「なぁに、アンタも付き合っちゃくれないかと思ってね。さっきまでの様子を見るに、時間を持て余しちまってるんだろう? いい暇つぶしになるだろうし、何よりどれだけ動けるのかをアタシが見ておきたいってのもある」
その言葉を受け、シャオの方を見る。
そんな俺の様子を察したシャオは、少し考えるそぶりを見せると返答を口にした。
「別にいいんじゃないかな。それに、マリアが居ない間の鍛錬を君に手伝ってもらえれば彼も助かると思うし」
───何より、マリアと同じで君がどれだけ戦えるのか気になっていてね。
楽しそうにそう喋るシャオの発言により、めでたく俺もマリアによるゼノの訓練に加わることになるのだった。
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ゼノが運び込まれてから更に1週間が経った。
傷の具合は良くなってきたものの、まだ完治とまではいかないようで、現在も傷を癒す為に療養中……
「ひぃぃぃ!! 死んじまう!! 死んじまうって姐さん!!」
「情けないねぇ、この程度で音を上げてんじゃないよ!! 時間は待っちゃくれないんだ!! ほらサラ!! 動きが止まってるよ!!」
「う……うっさいわね……わかってるわよ、この、バカマリア……っ!!」
……療養中の、筈だった。
設備も何もない中で傷を癒すには傷が塞がるまで無理をしないで安静にする事であった筈なのだが、そこに現れたマリアは無慈悲にもこう言い放ったのだ。
───さて、一週間休んである程度回復しただろう。ちょいと早いが、そろそろ訓練を始めるよ。
その場に居た俺とサラ、シャオを含め、そのマリアの発言にゼノと同じ反応をした。
鬼かアンタ、と。
「シンヤは……へぇ、流石は元ベテランアークス。この程度じゃ温いか」
「そんなことはない。だが、まだ余裕があるのは確かだな……っと!!」
「あはは、今のを避けるのかい!!」
現在、マリアを囲む形で3対1での実戦形式での模擬戦を行っている。
流石に無手じゃ厳しいだろうという事で貸し与えられた訓練用のナックルで臨んでいるが、これがまた手強い。
傷が完治しきっておらず本調子ではないゼノは兎も角、彼女に鍛えられたというサラはこの激しい訓練に付いてくるのがやっとのようだった。
かくいう俺もまだ一打も与えられてはいないが、こちらも一打も貰っていないという状況だ。
「アタシと雑談しながらやり合えてる時点で大したものさ。実力だけじゃなく、継戦力も申し分なし。総合的な能力はヒューイにも届きそうだね」
「そのヒューイってのが誰なのか、俺は知らない訳だが」
「アタシと同じ、偉い立場に居る奴さ。年はアンタやゼノ坊と同じくらいかな」
ナックルとパルチザンが正面からぶつかり合い、火花を散らしつつシノギを削り合う。
幾度目かの衝突で鍔迫り合いに発展し、純粋なパワー勝負に持ち込まれた。
(くっ、馬鹿力が過ぎるだろう!! 均衡を保つのが精いっぱいだ!!)
凄まじい膂力による圧を受け、押し切られないよう踏ん張る。
その光景を見ていたサラからは『すっご……』と言う呟きが、ゼノからは『どっちも化け物かよ……』という引き気味の発言が聞こえてくる。
対面するマリアからは感心したような声が上がった。
「アタシが純粋な力のみで抑え込み切れないだなんて、やるね。でも……」
不意にパルチザンから伝わる圧が弱まり、力の均衡をずらされた事で僅かに姿勢を崩された。
刹那、横なぎに振るわれたパルチザンを何とかスウェーで回避。
追撃を恐れて即座にバックステップを挟んで距離を空けようとしたが、それを読んでいたマリアに目前まで詰められ、再び鍔迫り合いに発展する。
「やっぱり、何処か動きがぎこちないね。こうして少し翻弄してやれば簡単に抑え込めちまう」
その後も何度か鍔迫り合いの回避を試みるも、終始喰らいつかれ続け、最後には押し切られてしまうのだった。
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唐突に始まった訓練は、俺からしてみれば良質な鍛錬であったと評価できるものであった。
約2名、そのスパルタさに付いて行けずにボロボロになっているが。
「あんたら二人が規格外すぎるのよ……マリアは兎も角、あなたは記憶を失ってて本調子じゃないんでしょ?」
「おいおい、それなのに姐さんと競ってたのかよ。マジで化け物だな……」
マリアが二人の貧弱さを指摘すると、サラがぶうたれるように文句を口にする。
それに合わせて俺に関しても言及がなされ、ゼノからは完全に怪物を見るような目で見られてしまっていた。
ほんと、随分な言い様だな、おい。
「正直、シンヤがここまで出来るとは思ってなかったよ。それだけに、今日は少し残念だったね」
マリアからは、今日の訓練の内容を振り返った発言を賜った。
及第点を通り超えて合格、これならアタシが居ない間も訓練の監督を任せられる、とも言われた。
「シンヤの事を向こうで少し調べてみるかね。使っていた武器とか、戦い方だとか」
「出来るのか? 下手な動きをしたらルーサーに目を付けられるんじゃ」
「そこは心配しなくていいよ。アタシにも伝手は居るんだ、その程度の調べモノなら足が付くことなく必要な情報を引っ張って来れるさ」
そう口にしたマリアは、存外楽しそうにカラカラと笑って見せた。
「さて、アタシはそろそろ行くとするかね。サラ、ゼノ坊、次に来るまでにもっと鍛えておくんだよ」
「はーい」
「了解」
こんな無茶苦茶がまだ続くのかと心底嫌な顔をしていたが、二人から拒否の言葉は出てこなかった。
そこで3人の視線が俺に集中し、代表してマリアが口を開いた。
「そういう訳だから、アタシが不在の間はこの二人の相手を頼んだよ。ビシバシ扱いてやってくれ」
「ああ、分かった」
俺からの返答を聞いて満足したのか、シャオへ挨拶をしてから彼女は帰還していった。
「さてと……今日はお疲れ様だな。それでサラ、頼んでいたものは持って来てくれたか?」
「ええ、用意してあるわ。でも、そんなもの、どうするつもりなのよ?」
サラが指を差した方向には、持って来てくれるよう頼んだものが置かれていた。
「どうするか、だって? 決まっているだろう」
───料理するために使うのさ。
そう言いながら、頼んだもの───調理器具と食材を手に、笑って見せた。
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調理用器具を乗せるために適度な大きさの石の破片を組み、簡易的な調理台を作る。
合間を見て集めておいた枯草を敷き、調理のために必要な火は摩擦熱で起こして火種を作る。
「はぇ~……あなたって意外と器用だったのね」
「意外とってなんだ……っと、前準備はこれでいいな。さて、下拵えから行くか」
着火した台にフライパンを乗せ、熱しておく。
その間に別の台で食べやすくスライスした赤身肉を数枚用意。
包丁で筋を切り、フォークで全体を適度に刺してゆく。
下準備が整った赤身肉に塩と胡椒で味付けを施し、これで準備完了。
後は十分に熱したフライパンに調理用オイルを入れ、そこに下拵えした赤身肉を乗せた。
「もう一度希望を聞いておくが、二人とも焼き加減はウェルダンでいいんだな?」
ジュー……という、肉の焼ける音を聞きながら、石を組み合わせて作った簡易的な食卓台の前で待つ二人に確認を取る。
「焼き加減の話だろ? ああ、それでいいぜ」
「うわぁ~……もういい匂いがしてきてる……」
サラが今が今かと待ちわびている様をしり目に、火加減の調整を行う。
調理用のコンロではないためにかなりコツがいるが、そこは何とかできると根拠のない自信があった。
料理をしてみようと思い至ったのは数日前。
補給物資として運び込まれるレーションを、俺とゼノとサラの3人で食べていた時の事だ。
特に文句もなく黙々と食べる俺とゼノだったが、そんな中でサラがポツリと零した『出来立てのものを食べたい』という言葉に、俺が反応した事が切っ掛けだった。
朧げながらも少しづつ記憶が戻り始めてきたここ最近において、こういった野営を行う際は自前で用意した素材やら調味料やらでよく調理を作っていたことを思い出せていたのだ。
その記憶を頼りに、提案という形でサラに調理器具と食材の調達を頼んだ結果、今回の状況に相成ったのである。
「よし……良い焼き目だ」
ガンガンと火を焚いて強火の状態を維持し、焼いている肉の状態を見る。
表面に肉汁が浮かんできているのを確認し、裏返してさらに強火に通す。
表面の時同様に肉汁が浮かび始めたら、一度フライパンを脇に置いて火加減を調整。
火の勢いを落とした後に再びフライパンを乗せ、今度は弱火で少し待つ。
「めっちゃ腹の減る匂いをさせるな」
「ねぇ、まだなの? もういいんじゃない?」
もう少しで出来るから待っててくれと伝えつつ、最後に開封して中身を取り出したレーション類を皿に盛り付け……完成。
「はいはい、お待たせしたね。赤身肉のステーキ、ベジタブルレーション添えの完成だ」
完成した料理をそれぞれの前に置き、俺自身も自分の席に着くと手を合わせる。
「それじゃ、頂こうか」
「おう!! 有難く頂くぜ!!」
「いただきまーす!!」
二人が肉に齧り付いたのを見てから、俺もナイフを使って小分けにしつつ食べ始める。
戦うものとして沢山食べたいだろうと思い、なるべくボリューミーかつ食べ難さを覚えない様なサイズで焼いた肉だったが……
「ンッ!! こりゃあうめぇ!!」
「あんな設備も整ってない中でこんなおいしいステーキが焼けるとか……あり得ないんですけど!?」
……どうやら、満足していただけたようだ。
かくいう俺も、ステーキを口にした瞬間にある種の後悔を覚えたほどには美味しく出来たと思った。
その後悔というのは、携行食ばかリで過ごしてきた今の環境でこのレベルの物を口にした結果、次回もこれと同等の物を欲してしまうという人の欲由来の理由に起因する。
俺は我慢できるが、この二人は……
「なぁ、おかわりはあるのか?」
「確か余分に買っておいた食材があったわよね? 明日以降も作って貰っていいかしら? 何なら食材はこっちで用意するわ!!」
……まぁ、この反応から察する事ができるだろう。
作ること自体はやぶさかではないが、これが常だと思われると色々と厳しいものがありそうだな……なんて、図らずもガッチリと掴んでしまった二人の胃袋の事を考えながら、笑顔で食事を楽しむ二人を眺めつつ、緩やかに流れる時間を美味しい食事と共に流してゆくのだった。