リリカル For FFXI   作:玄狐

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切りよく少しだけ長いです。
そろそろ、ストック残さないと…


褒める。ただそれだけなのにどれだけ難しいか。

 真夜中の寝静まった丑三つ時に月明かりが照らす病院の中に彼はいた。

 白と赤を基調にした衣装を身に纏い、見回りにくる看護士に見つかればすぐに通報されるぐらい、見事に浮いていた。

 尤も、『見つかれば』だが。

「こちらスネーク、大佐、指示を頼む」

 さて、バカなことをしてもばれていない彼が緩慢な作業をして、だれにも見つからないのは『見えないから』だ。

 インビジと呼ばれる不可視の魔法を使い、その場に立っている彼だが、スニークと呼ばれる消音魔法は使われていないため、音がダダ漏れして目の前にあるナースステーションから小さな悲鳴が聞こえてきているが、彼は気にしない。

 だって、今の状態で驚いていたら、もっと驚く羽目になるのだから。

「白のグリモアよ、目覚めよ!女神よ、ここに癒しの加護を、ハートオブソラス!」

 呟くぐらいの声なのだが、広い空間である病院では異常に音が響き、それと同時に現れ男にナースから悲鳴が上がる。

 むしろ、悲鳴を上げるなと言うほうが無理だ。

 呟く声と同時に行き成り、目の前に男が白く輝く本を持って現れ、薄い青色の光が波紋を浮かべながら男を中心に広がっていくのだがら、その怖さたるや想像するのも難しいだろう。

 だが、無情にも言葉は続く。

「女神降臨の章、レイズIV」

 何も知らない人間から見れば、この言葉を吐いた途端、彼から無数の光が回りながら現われ、さらに気泡とも光とも取れない何かが彼の周りに大量に浮かび上がる。

「傷つき倒れるなかれ、汝は倒れる時に非ず。我は其の断りを許さず、女神は慈悲を与えたり」

 神託の様に告げると男は手を天井にかざすとさらに光は強くなり、周りは光であふれたあたりで悲鳴を上げていた看護士は意識を手放した。

「女神降臨の章、ケアルVIII」

 この光景は防犯カメラにも映し出されており、海鳴の奇跡として度々、茶の間をにぎわす種として使われる映像となるが、ここでは省かせてもらう。

 映像は男がゆっくりと消えるその瞬間までおさめられており、そのあとに危篤患者も含む大量の怪我人が息を吹き返し、病院はさらに大騒ぎとなるのだが、そんなこと彼には関係のないであった。

 

 

 

 人生とはままならないことの連続であり、日常は非日常の積み重ねである。

 何が言いたいかと言うと、結果的に何も変わらなかった。とだけ言おう。

 なのはの歪みを除去して『無印』であったとしても、あの性格が変われば、意味の分からない説得という名の暴力や押しつけがましい善意から逃げられる可能性が増える。なにより現状の最大の問題であった高町美由希の生徒間の不和に関する相談が、取り下げられる可能性が高くなると踏んだためだ。

 が、しかし、現実はそう動いてはくれなかった。

 あのアホ一家、末娘ほっぽいて、大黒柱が回復傾向になったのをいいことに起きたばかりの親父はリハビリに母親は店に本格的に集中しやがった。

 蓄えがないとは言わせない、何年も前なのでうろ覚えだが、どう考えても親父のほうは高度医療を使っており、申請をすれば結構な額は戻ってくるはずだし翠屋は連日満員御礼、周りにライバルらしいライバルも存在しない。

 独占禁止法違反じゃないのかとさえ思えるほどの人気っぷりを発揮している。

 確かに、ここでさらに地盤を固めようと思うのは商人として間違ってはいない、自分の技術が認められより安定した収入につながるのならそれに越したことはないのだから。

 だが、である。

 娘を放置していいものか?

 様子を見たことがある。

 1度や2度ではない、しかし、その中に一日として仕事を早く切り上げ帰ることはない。

 売切れれば次の日の仕込みと新たしい商品の開発を息子と一緒にやる。

 嗚呼、一人息子なら、美由希と彼ならさぞ理想的な家族なのだ。

 息子は母を手伝い、娘は父を支える。

 結論的に言えば、あの家庭は子供が一人か二人で定員となる家庭と言える、いや、事故がなければまだ違うだろうが、なのはが劇中で言っていた『私はこの家では浮いている』だったその当たりのセリフはなかなかに的を得ているのだ。

 同時にここには『とらハ』にいる居候がいない。まだ来ていないのか、やはり無印だからなのか、これでは彼女に目を向けるものがいない。

 これはまずい。物凄く不味い。どれくらい不味いかと言えば、生命感知のモンスターだらけの場所でリレイズを行使して、HPゲージが真っ赤の状態で起き上がらねばならない位には不味いのだ。

 なぜ、不味いかって?

 あのエリアあらため、BCたる『Takamati Home』に俺がプリントを持っていかねばならないからだ。

 その回数、すでに3回。

 2回目の時はよかった。出迎えたなのはが嬉しそうに、俺に報告してきたからだ。

 曰く、お父さんが目を覚ました―――

 と、人外の構造は知らないがすぐに退院できるだろうと踏んでおり、当時、俺は楽観視してしまった。

 レイズで死の淵に居ようとなんだろうと対象を指定した上で、女神降臨を使い範囲魔法として使い、PTにしかつかえないケアルガを止め、ケアルに女神の印と女神降臨を使い、HPが1だろうと完全に体力を戻した筈なのだ。

 しかし、あのアホ一家、あんなことはないようにと病院でリハビリにいそしんでいる。

 3回目に訪れた時になのはがしょんぼりしながら俺に教えてくれた。

 聞いた瞬間、フレアIIIあたりでもぶち込もうかと思ったのはここだけの話である。

 そして、同時に発覚した驚きの事実―――

 スキルもない癖に渡した蒸留水を聖水にしていやがりました。

 何、この魔王?

 しかも、手に取ってみると頭に浮かぶ表記に『聖水*3』とある。

 HQ成功してんじゃねぇ!と叫び、魔王のスペックに恐れ慄きそうになるが更なる恐怖がそこに待ち構えていた。

 晩飯に誘われました。

 いや、幸いなことに翠屋じゃないんですがね?魔王猊下直々のお手製なわけですよ?

 いや、そこらへんに良く出ているOHANASHIなんて出来ない筈だしされても逃げる訳ですが、こうやって出されると不味い。

 いや、だって考えてくださいよ?小っちゃい子が一生懸命『ナニカ』を作っているんですよ、台所で。見に行ったら座って待っててくださいって言われるし。

 いや、待つしかないでしょ?ここで下手うつと本当に呼ばれかねないし。

 混乱のあまり、いや、と何度つづけたか分からなくなってきたけど出されたメニュウはサンドイッチと元々あったサラダを分けたものだ。

 予想していたより、遥かにまともである。

 正直、カタゆで卵とか切っただけのチーズなどを筆頭にする素材群を想像していただけにこれは良い意味で期待を裏切られた。

 何気なくサンドイッチを手にしたところで気が付いた。

 サンドイッチの具である。

 FFにも末期に追加されたものではあるがほかのサンド系やおにぎり系同様、中身の具の選択があった。

 何が言いたいのかと言うと、具が高度すぎる。

 挟まれていたのはハンバーグ、決して彼女が簡単に手を出せるメニューではない。

 何より、俺がトースターと電子レンジを使う以外の音を聞いていないのだ、作れるはずがない、と言う事は彼女用に用意してあった食事をサンドイッチと言う形にすることで量を補ったとみていいはずだ。

 そして、ここで何よりも難しい選択肢が生まれ出る。

 ハンバーグサンドをワザと齧り付き、ゆっくりと咀嚼しながら皿を見る。

 皿の上にあるのはベーコン&レタス、チーズ&トマト、ツナタマゴの3つ。

 ハンバーグを含めた4つの内、いくつかは本当に『手作り』なのだ。更に言えば、彼女にとって褒められたい一品が紛れ込んでいる可能性が高い。

 あの『なのは』が『良い子』であろうとする以上、何かしら褒められるであろう行動をとると予想され、前回、前々回の対応から考えて何らかの対処をしてくることは明らかともいえるからの判断である。

 情報を整理してみよう。

 おそらくはハンバーグ+αが彼女の夕食だったと思われる。

 そこからレタスやチーズは冷蔵庫に入っていた可能性が高いが、残りの怪しいものはベーコンとツナタマゴである。

 普通ならツナタマゴと答えるのだが彼女は卵は茹でていない、と言う事は卵も冷蔵庫にあったと考えていいだろう、ツナとあえて出したのは間違いなく彼女だが、それを言えばベーコンを切って出したのも彼女だ。

 何を褒めるべきだろうと続いて手を出したサンドイッチを手にして気が付いた。

 温かいのだ。

 なるほど、頷き、何を褒めればいいのか見つけた俺はようやく、不安げにこちらを見るなのはの頭を撫でた。間違っていないことを必死に願いながら。

「ちゃんと、具材を温めたり、パンを焼いたりしてくれたんだ、ありがとう。美味しいよ」

 そう、褒めるべきところはそこなのだ。

 一々、考えないで答えてもいいが、できるならば問題は避けたい。となるとやはりこうなった。

 二人でそのあとはゆっくりと夕食を平らげ、食器を洗い帰り支度をする。

 この時なのはは、なぜか鞄を持って見送りをしてくるが、毎度の流れで今回もそうだろうと信じていた俺が馬鹿だったのかもしれない。

 自分自身が明らかなトラブルメイカーとも言うべき特異点がここであるのだ。

 何も起きない訳がない。

「ただい…ま?」

「おかえり、プリントは置いてある。SHRまではいたんだから説明はいらないともうが何か質問は?」

 なのはの見送りを受けて玄関を出て表門から出ようとしたところで高町美由希が出てきた。

「えーと」

 言わずもが不信を含んだ目で見られる。学校で不仲だったはずの男子生徒がいきなり家にいて、妹に見送られているのだ、プリントを持ってきてくれたことは感謝こそしているが、何故、こんな遅くに家から出てきたのだろうと疑問に思うのは当然と言える。

 これがまだ、私服ならよかったが学生服に鞄持ちである、家に帰らずにまっすぐ来たのに関わらず、今は午後8時を回ったあたり、これを不審と見なくてなんとする。

「妹さんが夕食を御馳走してくれたので御呼ばれしただけだ」

「ああ、なのはが…って、そうだ!信濃君、なのはにご飯作ってあげてなかった?」

「それが何か?」

 冷蔵庫の食品には手を付けていないが調味料は使っているし、普段と違う場所になべやフライパンを置いておけば気も付くだろう。

「ごめんね、なのはが迷惑かけて」

 玄関のほうからビクン、と動きがあるのがわかる。

 この戯けは、なのはの歪さに磨きをかけたいのかなんなのか…もしくは俺に迷惑をかけたくて仕方がないのかどれなのだ?

「迷惑…ね、どちらかと言えばお前が迷惑なのであってあの子に関して何ら迷惑はかけられていないな、あの年なら出来すぎた行動ととれる。そもそも、気まぐれであの子と遊んだだけだ、そっちが気にすることじゃないな…ああ、調味料とかを勝手に使ったのはすまなかった」

 尤も、と一旦言葉を切り、美由希が呆然としているのを無視して言葉をつなげる。

「学校に来ているくせにプリントも受け取らないで、その上、家で健気に留守を守る妹をほっぽりだして、夜遅く帰ってきた挙句、冷えた飯を食わせた事を棚に上げてあの子を怒るようなことはしてやるなよ?」

「それは…!」

 反論しようとするものの手ごろな反論材料がなかったためか、言葉を止めた美由希が小さくわかったと頷くのを確認して、俺は家に帰った。

 




説明…はいりますかね?
スネーク&大佐>>段ボールの人たちです。
インビジ>>俗にいうMGS魔法と呼ばれる迷彩魔法の一つ
スニーク>>同上、これが実装されるまでは潜入は鬼の難易度を誇った。実装後は当たり前のように見破りを持ったNMや一部雑魚が混じることとなる。
グリモア>>大体の方の想像の通りで、黒と白が存在し両方展開することはできない。展開した場合、黒魔法と白魔法のどちらを使用可能となる学者用アビリティ
ハートオブソラス>>白魔導士のアビリティで回復に特化することが可能。
女神降臨の章>>学者のアビリティで白グリモア展開時に加納、範囲拡大の効果がある。
レイズ&ケアル>>ご存知の通り、組成と回復魔法
生命感知>>FFXIには様々な感知方法のモンスターがおり、生命感知とはアンデット系の感知方法の一つでHPゲージが減少していれば減少しているほど感知されやすく気が付けばタコ殴りにされる悪夢を見ることができる。(例:墓地などのエリアで蘇生したところ生命感知したスケルトンがダース単位でやってきた。
フレア>>火系統 古代魔法に数えられ非常に強力
聖水>>光クリスタルと蒸留水を組み合わせると作ることができるが、正直、スキル0の人間が作れるわけがない。ちなみに効果は呪いを解くだけでモンスターに使うことはできず。

ちなみに、プレート&定食に関しては作者の妄想です。
パイでおなか一杯とかありえんだろうと思いこちらを採用しています。

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