用は済ませたし、会話もした。
ついでに言えば、態々、担任のメンツも立てて届けなくてもいいプリントを届けていたのだから、もう頃合いだろう。
彼女は学校には来ている。
にも関わらずプリントを届けなければいけない理由は一つ。
この問題を解決するためにほかならず、教師による介入を強く出さないようにするためだ。
話をする機会を欲していたのだが手が不味い、と言うか状況だな。
人に話しかけるには礼を失しているのだ。
少なくとも、プリントを回してもらうように手を回したのなら待つなりなんなりすればいい、が、彼女はしなかった。
父親を優先するのはかまわないが、足止めになのはを使い、いざ、来てみれば自分は悪くない、あくまで足止めしたのはなのはと匂わす物言いは姉の言うセリフではない。
もちろん、これは穿ちすぎる見方でただ、端にお礼を言っているだけとも見て取れるし、父親を優先せざるを得なかったかもしれないが付け入る隙を見せているほうが悪い。
親に迷惑がかかるのは避けて通りたいところだが、このまま、ずるずると折れるならさっさと小細工を入れたほうが後々楽だ。
父に電話を一本入れ、迷惑をかけるかもしれない旨を述べ謝ると、快く頷く訳ではないが積極的な介入も否定もなく。
「まぁ、碌にそばに入れない僕が強く言えることではないし事情があるんだろう。せめて迷惑ごと位は親らしく喜んで引き受けさせてくれよ?」
との回答を得た。
まぁ、めんどくさくなるのはここからが本番だった訳なんだが…。
正直、行動力と言うものを甘く見てた。
しばらく、彼女が大人しくしていたところから遂に諦めたかと喜んでいた矢先のことだ。
高町士郎がリハビリを終え自宅に帰ってきたのを祝ってパーティをするらしいので参加してほしいと美由希から直々のお誘いを受け―――
「なのはも会いたがってるし、よかったら」
「よくないので断る」
断った。
なにか問題が?
「君の希望であった日常的に会話もこなしているし避けているわけではない以上の譲歩する必要性が全く感じられないそもそも参加する名目はなんだ?家族の団欒に異物が紛れ込んでいいはずがないと言うよりも何か月単位でようやく家族団欒なのだからそこは一家庭の区切りをつけるなり店の従業員を誘ってやるなりすれば良い訳で俺を呼ぶ意味はまったくそこには存在しない仮になのはが会いたいと言うがそれはパーティで会う必要が皆無な訳だが理解しているか?理解できなくとも構わないがパーティは遠慮するしなのはの件に関してはこちらで一考する。以上だ」
一言でまくしたて回れ右をして教室を出る。
が、誰が言ったか魔王からは逃げられない。は現実にあるようだ。
だって、校門を出たところに魔王が目の前にいたから。
「あ、あの!」
魔王は顔を真っ赤にしながら袖をつかんで意を決したように口を開いた。
「お店でお祝いをするので一緒に来てくれませんか?」
振りほどくのは簡単だし逃げるのも簡単、だが、そのあとの評判がどうなるか分からない。現に小さい子が勇気を出して精一杯のお誘いをしている以上断るな世的な視線も飛んできている。
そもそも、如何に相手が魔王だろうと今は、幼児なのだ。つらく当たるなどできるはずもない。
結果―――
「……はいはい、行きますよっと」
ため息一つつきながら、学校を後にした。
にこにこと嬉しそうに笑うなのはと疲れたような信志、そして、空気のように忘れ去られた美由希を連れて―――
レイズとケアルについては、病院で行った魔法によりある程度、推論が立てられていた。
元々、この魔法は女神アルタナの慈悲によって行使されるものではあるが、なぜか獣人などの明らかに女神側じゃない種族や生命体にも効果がある。
尤も、それぞれに理由はあるが。
とりあえず、話はそこそこにして、ケアルとレイズが効く条件として生命力が上げられ、魂に力があるか否かがその分かれ目となると考えられる。
Hpが0の場合、魔力で一時的にHPを補うための術式であるレイズが使われ、破損された魂の器たるHPが完全に定着するまで衰弱の状態となり、ケアルは魔力を持って傷を塞ぎ体力を補完する。
つまり、病院で奇跡の恩恵を受けたものは一定の魂の強さを持っており、こぼれたものは寿命ないし生きるだけの魂を持っていなかったと考えていた。
なぜ、こんな取留めない事を考えているかと言えば、現実逃避である。
と、言うよりは俺のした行動に意味はなく、なのははなのはになるべくしてなのはになったと、認識をさせられざるを得ないかった。
だからだろう。
隣で魔王が甲斐甲斐しく俺の世話をしている。
お茶のお替わり如何ですか―――
あ、何か食べるものもってきます―――
幼稚園で―――
この前、テレビを見てて―――
お留守番してた時に―――
何一つ、家族に関する会話がなかった。
いや、見ていればわかる。
彼女は家族の会話に交じれていなかった。
高町夫妻は仲良くしゃべり新婚のようだ、兄妹も恋人のような睦まじさを見せており、時折、夫妻と兄妹は相手を変えながら喋っていた。
会話が無い訳でもない、無視された訳でもないし、当然のようにこちらに向けられている視線がある。
ただ、なのはにかけられた言葉は少なく、俺も同様で心配や気遣いはわかるがそれはあくまで『わかるだけの年齢や技能をそれなりに有しているもの』の話だ。
小さな子供がそんなものをわかるはずもなく、彼女の期待とは裏腹に精々、俺への謝罪と感謝の言葉。なのはには窘めの言葉が述べられ、夫妻も兄妹も他の来客への対応で忙しそうにしていたのを見て、なのはの頭を撫でながら何度目ともしれないため息をついた。
パーティーはわかる。
ある種の節目と捉え、それを祝う事で次への助走をつけることができるし、こうして知人や友人を呼び店としてのアピールができる利点をうまく利用しているとさえいえるが、やはり、家族としてのコミュニケーションは圧倒的不足になる点はぬぐえない。
この状況下において信志は不機嫌だったが更にそれを加速化せられている最中だった。
理由は簡単、目の前の存在が原因である。
パーティーは終わり、帰るつもりが呼び止められ、所謂、家庭の事情を根掘り葉掘り聞かれた。と、言うよりは確認だろう。
現在は一人暮らしに近く、親はあまり帰ってこない。成績は並、友人関係は良好。
母親が一緒じゃないと答えた後は何も聞かないあたり、そちらの情報も流出していると考えて間違いないだろう。
あの
「なのはも懐いているし、良かったら家に来ないかい?」
「結構です」
善人ではあるのだろう士郎の申し出をきっぱりと断った。
独論ではあるが、善人には2つのパターンに分けている。
周りの人間を幸せにする善人と自分が幸せになる善人だ。
前者は周りのことを考えて動く人間で、過程を進みながら満足していくタイプ、後者は良かれと思えば一直線に行い、頑張る自分を見て満足するタイプ。
さして違いはないようではあるものの、最大の違いは拒否できる善意と押し付ける善意である。
分かりやすく言えば、彼らは店の店員で、信志は客にあたり、何かを買うとして、前者はカタログを渡すだけに対しアドバイスに徹しあくまでも主導権は買い手にある、後者はこれが良いと決め只管にそれのみを進め、主導権がいつの間にか売り手にある。
買い手は、品を買うのもやめるかもしれないし、何か買うかもしれない。希望の形や性能、機能を求めている場合もある。前者は柔軟性があるのに対し後者はそれがない。
これが最大の問題である。
なぜ、そのようなことを今更、長々と考えているのかと言えば、この押し問答、既に5回目であるからだ。
彼の出自は特殊だ。生まれもだが、何より転生してきており厄介ごとに巻き込まれることを恐れ、異分子の乱入による物語の崩壊や最悪、この世界そのものの死に繋がることを理解しているため、彼なりに設けているパーソナルスペースというものを一層複雑なものにさせている。
もはや意味をなさない筈なのだが、ここにきて彼らが手にしていた電話を信志に渡した。
『信志か?高町さんから話は聞いた、君もしっかりはしているがまだ子どもだ、下宿も考えたけど家から離れるの嫌がってたど。家も近いし高町さん乗り気だしどうだろう?』
『父さん!?』
いったいどんな説明をしたのだろう?ひとり家に残すことに抵抗を覚えていた父からすれば確かに渡りに船であり、ありがたいことこの上ないだろう。信志は現状と高町夫妻の周辺の評価を考え、頭を抱えた。
夫妻は周囲からの評判もよく、兄妹の反応も悪いものはない。
娘をよこすならともかく、寄越すのは息子で向こうが乗り気ならば尚のことであろう。
『まぁ、どうしても嫌なら構わない、けど先方さんにも失礼のないようにね』
『まって…』
嗚呼、こうなっては断ること自体が『失礼』にあたってしまうのを父親は理解したうえで行ったのだろう。
面倒だ。
物凄く、面倒だ。
これが、彼の偽りない感情だが下手に断り波を作るのはまずいし、避けたところで美由希となのはが付きまとう可能性は高く、ここに住んでいる以上、避けることはできない。
つまりは、既に彼は詰んでいるのだった―――
「はぁ、では、よろしくおねがいします」
信志はあきらめ、何度目かになるか分からないため息をついて頭を下げた。
信志くんはいろいろな意味で出生が特殊なので無駄に警戒している節があります。
ついでに家族を大事にしようとする傾向が強く、壊そうとしているものを非常に嫌います。
なので、家庭を壊した母を嫌っていますし、今後脅威とならんとしている高町家を非常に警戒しています。
ですが、泣いている子どもであるなのはは放っておけないがその状況を甘んじて作っている高町家にいい感情を抱いていません。
尚、今週は毎日更新するかもしれませんが来週以降は不明ですorz
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