リリカル For FFXI   作:玄狐

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見ユル先ハ未ダニ遠ク

 さて、衝撃の強制イベントから数ヶ月ほどたった。

 その間も当然のように緑屋は営業しているため、なのはの面倒を見るものがおらず信志がなし崩し的に面倒を見ることが続き、彼の意思に関係することなくなのはの好感度を稼いでいく中、彼は学校のパンフレットを読み漁っていた。

 目的は、とある条件を満たす学校を探すことにある。

 風芽丘では無理で、と言うより海鳴市において今のところ彼の中の条件を満たすところが一つしかないのだ。

 その条件とは…。

「なんで、寮がないんだ…」

 高町家を抜け出すための条件に必要と信志が考えているものの一つ、寮がある。

 かと言って、家から離れすぎれば父親にまた別の気を使わせる。

 そもそも、寮があるところであっても高町家は家から通えと言うのが予想されるだけに面倒なだけかもしれないがやる価値はあった。

「聖祥か…」

 避けたいところではあるがそれ以上に条件が魅力的だ。

 成績優秀者には特待制がとられさまざまな形で恩恵にあずかれる。

 年齢的に考えれば、なのはが来年には小学校に通うこととなるが高校では訳が違うし、適当に部活に入れば寮もいるのも、高町家に寄り付かないのにも良い訳としては上等だろう。

 いっそ、海鳴市から出ることも検討に上げるべきと信志も考えたが良くも悪くもこの土地に愛着があり、父親がここを帰る場所となっているならそれを守るのも子の勤めと割り切っていた。

 ある程度成長したらば、この地を離れてもいいし、この地で何か始めてもよいだろう。幸いなことにFFで培った技術は想像を絶する苦しみとともに脳にインプットされている。

 が、それは強制されなければの話であって押しつけの善意で固められた道など歩きすらしない。

 選んだ以上は事情がどうあれ、子の責務を全うしなければならないからだ。

 尤も、これは父親に感じている引け目や恩から来ているものだが、この状況は信志にとって面白くない展開なのだ。

 親への恩は返す。母親がどうなろうと知ったことではないが、生んでもらった義理ぐらいはある。しかしながら、父親ともなると話が違う、気が付けば世話になりっぱなしで受けた恩は数知れず、礼を言えば『親とはそういうものだ』と返される始末、恩を返す当てはいまだ見えない。

 いずれ、結婚して子供が生まれたならば、その子供の返そうとは思うがそれとは別に父へ何らかの感謝を残しておきたいところではある。

 故に、父の希望は極力応える。いや、応えなければならないと信志は考えていた。

 だからこそ、この高町家下宿も飲んだ。

 卒業が迫ってきたこの時期、抜け出す数少ない機会が進学である。

 国立を最初は考えていたのだが、この海鳴に関して言えば国立は近隣にすら存在せず、信志の考える条件である寮がある学校も少ない。

 これは海鳴の立地がベットタウンであることが大きい、家があるのに態々、寮を選ぶ人間が少ないためだ。

 そんななか条件を満たす物件を見つけた。

 気にしていた金銭面だが公立に比べれば割高ではあるが、何らかの特待制度を得ることができるのであればむしろ公立より安い。

 少々、ズルいかも知れないがここはジョブをフル活用させてもらう事にしよう。進学先を高町家に伏せたまま、父に相談したところ、快い返事をもらっている。

 難色を示すかとも思ったが、年頃の娘がいる家に下宿するというのは父親である彼としても抵抗感がなかったわけではないらしく、むしろ、士郎によって押し切られてしまったが迷惑をかけて申し訳ないという苦々しいものが割合としては多くなってきていた様で、入寮もできる学校である旨を報告すると学校のレベルの高さに驚いてこそいたものの、頑張れとのことだった。

 ただ、最大の問題であるこの一家をどうするかが残っていたのだが―――

「信志君、それは本当なのかい?」

「はい、高校に入るのを転機としてこちらから出させていただきます」

 士郎の問いに正座の姿勢を崩さずに是とうなずいた。

「無理に寮に入らなくてもいいんじゃないかしら?なのはだって懐いてるしせめて受験までここに居たらどう?」

「いつまでもここに居る訳ではないですし、高校に入れば今のようになのはの面倒を見るのも難しくなります、それに受験勉強に専念したいので」

 彼女に懐かれてしまったのは問題ではある。

 信志なりに性格の歪みを直すべく手を打ってみたものの結果は芳しくない。

 結論だけ言ってしまえば、彼が行った行動は好感度≒依存性となって引き上げてしまっただけなのだ。

 なのはから見れば『良い子』ではなく、『なのは』を見てくれる人に。

 時に可愛がり、出来た事を褒め、我が侭も嗜め、行き過ぎたことをすれば戒める。

 彼はカウンセラーではないし、彼なりには努力したが、元々は親がやすべき教育であって、すべき二人はなのはと信志のやり取りも見て安心してしまい仕事に傾倒していくという悪循環が生まれていた。

 果たして、彼女はまた、あの状況に戻されて耐えられるのだろうか?

 情がないと言えば嘘になるが、このままなし崩しは回避したいし、そもそも、本来、親が気が付いて直すのであって他人である信志のなすべきことではない。

 無論、放置する訳ではなく多少ならばフォローもしようと信志は考えていた。

 尤も、それは信志の領域を侵食しない限りと線引きされているが。

「別にこっちで勉強してもいいんだけどね、一人は大変じゃないかい?」

「問題ありません」

 引き留めようとする士郎に信志が断言する。

「つらくなったら、いつでも戻ってきていいのよ?なのはも顔を見たがるだろうし」

「つらいと自覚したら戻ります」

 残念ね、と頬に手を添えながら言う桃子に、内心はそんなことはありえないだろうと信志が思いながら答えた。

 そして、引き払う当日、ボスが動いた。

 玄関口で信志は足止めされている。

 具体的にはなのはに服をつかまれて泣きつかれているのだ。

 『良い子』のなのははそんなことをしないだろう。

 だが、信志は一か月の間に彼女と触れ合い、『普通』の子供として扱った。

 恐る恐る我が儘を言った彼女に付き合い、正しい事をすれば褒め、悪い事をすれば怒る。

 それが、彼女にとってどれだけのカルチャーショックになるとも知らず、行った。

 ある意味、彼は甘く見ていたのだろう。

 前世ではそれなりの過程でそれなりの愛情を受けて育ち、今世では片親でこそあるが与えられた愛情は何ら遜色ない。

 愛情に飢えた子どもに与えてしまった時の反応を全く考慮していなかったのだ。

 彼にしてみれば、多少でも普通に近い生活を行い子供らしさを取り戻してほしい。位なものだったが、常に愛情に飢えていたなのはは違う。

 それは、劇薬にも等しい効果をもたらす。

 決して、高町家においてなのはは愛されていない訳ではない。が、注がれている訳でもない。

 朝は家族と食事をとり、晩も家族こそいないが食事は用意され、子供の喜びそうなおもちゃも揃えられ、学校も名門私立に入れてもらっている。

 ただ、そこに足りないものがあるならば、触れ合いだろう。

 親や姉はリハビリと称して、修行三昧。そこには兄の姿さえ見られる。

 なのはとて、家族と痛くて希望しなかった訳ではないが「怪我をするといけない」と言う理由で断られ「なのはの事が心配なんだ、わかるな?」と言われれば、それ以上言えない。

 母も同様、兄も手伝っており自分も何か手伝えないかと聞いても父と似たり寄ったりな言葉で断られた。

 詰まるとこ、信志と触れ合ってしまったが故に家族と折り合いをつけてしまったのだ。

 嗚呼、この人達はこういう存在なんだ―――

 と、ある種の諦めが混じり従順に接することを彼女は選んだ。

 家族、家族と言いながら彼女の位置はペット・家畜と変わらないのだと、彼女は無意識に解釈を行い理解してしまっている。

 ただ、それは間違いでもあるのだが否定する材料もない。

 贅沢な暮らしをさせて気が向いたら構う。要求するのは従順で尻尾を振ってじゃれてくる可愛いペット、そう考えてしまうと彼女はすとんと心が落ち着いた。

 続けて彼女が無意識下で行ったのは他の対象を探すこと。

 対象は直ぐにできた。

 友達と我が儘を言っても何をしても見捨てずに『良い子』と頭ごなしの説明をしなかった信志である。

 関わり合いになりたくはないものの、小市民性と言うべきかお人よし加減が抜けきらない信志が目の前にいたなのはを放っておけなかっただけだが、彼女にとってはそれは砂漠に彷徨っていた旅人が見つけたオアシスに見えたことであろう。

 もう一つは、友人なのだが、彼女の以前の立ち位置が災いし「いてもいなくても変わらない」と言うポジションを堅固なものにしており今更それを崩せず、無理して崩して今以上の孤独にさらされるのが怖く動けなくなっていた。

 だから、彼女が家を離れようとする信志に縋ろうと言うのは必然ともいえた。

 離れられるのは怖いが、無理を言って嫌われるのはそれ以上になのはにとっては恐怖であり、曲がりなりにもようやく我が儘と言う甘えを受け止めてくれる相手がいなくなる。

 親に絶望し、兄妹に諦めを見た少女にとってそれは、譲れない一線だった。

「いっちゃうんですか?」

 ズボンの裾を握りしめ、目には涙を浮かべた少女が懇願している。それだけで撤回する人間もいるにはいるだろう。

 が、信志はその中に入るモノではない。

 端的に言えば、他人よりも自分を彼は取る。冷たいかも知れないが、彼が望んでいるのは血肉沸き踊る冒険ではなく、平穏無事な人生である以上は仕方なしと言ってもしょうがないだろう。

 何より、彼がおそれているのは原作の崩壊で、良い方に物事が進むなどと過信するつもりはなく、彼にとっての世界は『今、ここにある世界』なのであって『テレビや2次創作物で見るもの』ではないのだ。

「勉強しないと行きたい高校に行けなくなるからね」

 ついでに言えばこちらも、良くも悪くも本音である。

 未だにこの国は学歴社会であり、尚且つ、資格社会でもある。

 彼が得た技術から一定以上の評価は受けることができるだろうがそれにしても限度がある。人が人を評価するにあたっていくつかの項目がありその中に、必ずと言っていいほど学歴が入る。

 高学歴で関係ない職業についていたところで変わり種として見られるだけだが、逆はそう見られづらいのは確かだろう。

 好意的に見てくれる人ばかりではない。それが世間と言うもので下世話であればあるほど、喰い付く人もいる。

 何より、ここらで離れなければなのはは小学校へ上がり、繋がりが必要以上に強化されしまい抜け出すのが難しくなり、抜け出すためにどうしても必要な一手となったのだ。

「私のせいですか?我が儘ももう言いません、悪いところがあるなら直しますからっ!」

「なのはちゃんのせいじゃなくて、自分のために動いているんだ」

「自分のため…?」

 セリフをオウム返しの様に呟くなのはに信志が目線を合わせて頭を撫でながらセリフを続けた。

「そう、自分のため。確かに『今』は大切だけど、その先がある。欲張りすぎかもしれない、けど、上もある。少し大変かもしれないけど、頑張らないと後で大変なことになるんだ…それにそこで得たことはきっと無駄じゃない、だから先に行くんだ。欲しい未来がそこにあるはずだからね」

 ここで別れることは『高町』と言う中心点から離れることになる。

 3~4年ぐらい、離れていればおそらくは大丈夫だろう、そのころにはなのはは4年生、そうなれば向こうが忙しいだろうし、思い出に代わっている可能性も高い。

「だから、暫しのお別れ、もう会えない訳じゃない。だから大丈夫、ね?」

「……また、お話してくれますか?」

 握っていた手が緩め、そっと信志を見るなのはに満面の笑みを浮かべて頷いた。

「もちろん!」

 そうして、時は過ぎる。

 

 

 

 そう、無印の時代へと

 


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