とあるトレーナーとウマ娘達   作:Siranui

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カレンチャンは引けましたが未だにマルゼンスキーは来てくれません(白目)
今週にセイウンスカイは来るのでしょうか……


〇〇級 4月中期 新入生は稀有の怪物

 何故この様に鍛えれば逸材になる人材があっさりと決まったのか、それは数日前にさかのぼる。

 

 オグリキャップは故郷から都会へと上京して来た身であるが、都会と故郷では人の数が違い過ぎた。 右を見ても人、左を見ても人、後ろから押されるは目の前を人が横切っていくはで落ち着かないし、初めてこんな人込みをぶつからない様に気を使いながら歩いていくととても疲れるものであった。

 

 ……都会とはとても忙しい所だな……と、人の流れに逆らわない様に何とか歩いて行こうとしたのだが、はてさてここは何処だろうか?

 

 まっ直ぐに直進すれば良かった所をあっちこっちと流されている間に方向を見失い、気が付いたら見覚えの全くない都会のど真ん中で地図を片手に迷子である。

 

 

「あの……何か手伝える事はありますか?」

 

 

 きょろきょろと周囲を見渡し、手元の地図と交互に見渡していた……そんな時に掛けられた声に視線を上げると、一人のスーツ姿の男性がこちらを向き心配そうな瞳を向けていた。

 

 確かに困ってはいる、だが突如として見知らぬ人に声を掛けられたら誰だって警戒するだろう。 どうした物か……と思案していると、彼はそれに気が付いた様で慌てて名刺を差し出してきた。

 

 

「ごめんごめん、そうだね。 いきなり見ず知らずの人間が声を掛けてきたら怖いよね……私は日本ウマ娘トレーニングセンター学園に所属する者だよ。 何か迷っている様だったから手伝える事があるかな と思って声を掛けたんだ」

 

 

 スーツの胸元に付けた記章は確かに通称トレセン学園の所属を示すもので、差し出してきた名刺も正規の物の様に見える……多分。

 

 まあ、何かあろうとしてもウマ娘である私の方が力も走る速度だって上なので下手なことにはならないだろう。

 

 

「すまない、気を使わせてしまったな……その、学園に行きたいのだが何処から行けば良いだろうか?」

 

「なら私も学園に行くから一緒に行こうか。 とりあえず大通りまで出てから案内するね」

 

 

 こっちだよ~ とバスガイドの様に手を挙げて先導する彼に付いて行く。 途中歩き方がぎこちなかったのか、私が人込みを歩く事が苦手な事に気が付いたのか、流れにそって歩くようにしてくれていたのは幸いであった。 この歩き辛さも、その内慣れる様になる日が来るのだろうか……

 

 動かない目印として、交番や大きなビル等を目印に彼はトレセン学園までの道案内をしてくれた。 都会に慣れていない事を悟ってか、なるべく大きな道を歩き交差点の幾つ目で曲がるという事を意識してくれていたのは分かりやすくてありがたかった。

 

 桜並木を進んで行くとトレセン学園の門が見え、守衛らしき制服を着た人が立って居た。 どうやら顔見知りらしく、彼が声を掛けると警備の人も朗らかに挨拶を返し、一言二言で私の事を引き継いでくれたようだった。

 

 警備の人から、新入生か転入生の娘なら書類を持っていますか? と聞かれ、鞄から渡すようにと言われていた書類を提出する。 さっ と簡単に目を走らせると、案内を呼ぶので少し待っていて欲しい と言い、私がうなずくのを確認すると肩に付いた無線機で何処かに連絡をし始めた。

 

 ふと そういえばここまで案内し、スムーズに引継ぎまでして貰った彼にまだお礼を言ってすらいない事に気が付いた。 隣を見てみると彼はこれで大丈夫そうだね とこちらを見ながら微笑んでいる所であった。

 

 

「ああ、道案内から何まで世話になった。 ありがとう」

 

「いやいや、力になれたなら幸いだよ。 これから会えるかどうかは分からないけど頑張ってね」

 

 

 ひらひらと手を振り、頑張れ と声を掛ける彼。 そうだ、ここからがスタートラインであってゴールではない。 故郷の期待を背負って私は走らなければならない……見送ってくれたみんなの為にも、応援してくれる人の為にも!

 

 ……そういえば、彼はどんな仕事をしていたのだろうか……迂闊であった、名前くらい聞いておけば……名前? そういえば名刺を貰っていたな。 後でちゃんと見ておこう。

 

 

□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 それから数日が経ち、多少私はトレセン学園に馴染んで来た頃になる。 文武両道を目標としている学園の授業は油断して居ると置いて行かれそうになるが、私は何とか付いて行けるように努力していた。

 

 選抜レースが開催される と聞いたのもそんな日々を過ごしていた一日での出来事であった。 各ウマ娘達がどれくらい走れるのか、又はどの様な素質があるのかを示す場でもあり、またトレーナー達はそのレースを見て自分が担当したいというウマ娘達に声を掛ける場でもある。

 

 一人のウマ娘を専属として支えていくもよし、またチームを組んで複数人のウマ娘達を育て上げるもよしであり、ウマ娘としても二人三脚で進んで行くのか、はてまたライバル達と切磋琢磨していく道を進むのか……それはその娘達個人の考え方でもあり、実力を示せればより自分の希望を通せる事でもあった。

 

 事実、トレセン学園といえどもトレーナーの数、チームの編成人数には限りがある。 一番人気のチームなど選抜レースで勝ち抜いたウマ娘達ですら入る事が難しいと言われる程厳しい世界があったりもする。 また授業の成績が悪い場合や結果を出せないウマ娘達が学園を去り地元へ帰る事もよくある事だと言われている。

 

 輝かしい舞台へと歩みだせる者はこの中でもほんの一握りという事であろう。 それを理解している為周囲のやる気や緊張感は空気を張り詰めさせる程であった。 そしてその空気はレースを見学するトレーナー達にも伝達する程だ。

 

 あの人は居るだろうか そう思い客席を眺めてみると……居た、中段辺りで広いレース場を一望できる場所で座り、周囲に同じ様に座る人達と何やら会話をしている様に見える。 声は……残念ながら雑音が多すぎて聞き取れそうにない。 が、しばらく眺めていると目が合ったような気がした。

 

 それは彼も同じ様で少し呆気にとられたようであったが、直ぐに笑みを浮かべ手を大きく振ってくれ一言「頑張れー!」という声が聞こえたように感じた。

 

 いや、実際にそうだったのだろう。 彼の口が動いていた事は見えたのだから……ならその声援に応えよう、私というウマ娘がどんな走り方をするのかよく見ていて欲しい。

 

 

□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

「なんだ、突然手を振ったと思ったら何時もの頑張れ~って、今日は担当の娘が走る訳でも無いだろうに」

 

「いや、少し顔見知りの娘が居てさ。 こっちを見ていた気がしたから挨拶しておいたんだ」

 

 

 ほお~……と興味なさげに呟き、そのまま正面のレース場へと目線を向けなおす同僚。 何時もの と言うのはレース前には必ず担当しているウマ娘に声かけをする事が知られていたからだ。

 

 彼とはそのくらい仲が良いので、聞いてきたのもとりあえず面白い返事があるかどうか という程度なのだろう。 視線をターフの上に立つウマ娘達に向けると誰もかれもこれから始まるレースに真剣なまなざしだ。 希望に満ち溢れている……良いなあ、青春だねえ……

 

 さて、何回かレースを見ているうちにあの娘の番になりゲートへと入っていく。 葦毛のあの娘は何処に居るか良く分かりやすくて目で追いかけやすい。 出走の準備が整いゲートが……今開いた。

 

 逃げの作戦で前方へと駆け出し加速していく娘の中にあの娘は居らず、後ろから数えたほうが早い位置に付けている。 出遅れた訳ではない、様子を窺っているという方が正しいのだろうか? しかし作戦としてはそれで正しいのだろうか、この距離は1,600mでマイルだ。 後ろの方に居ては順位を上げるには相当なパワーが必要なはずだが……

 

 最終コーナーに差し掛かる辺りには後ろから徐々に順位を上げていくがやはりあと一歩及ばないのではないか? そう思っていた瞬間にあの娘が飛んだ。

 

 いや、正確に言うなら最高速度な筈の場面でもう一段階加速したのだ。 前を走っていた筈の娘達を一気に抜き去る彼女に他の娘達が信じられないモノを見たような表情を浮かべる。

 

 既に限界な脚から力を振り絞ろうとするがもう距離が無い。 前方の彼女はドンドンと距離を開けゴール板を駆けていく……真横から見ていてあの圧倒的な末脚だ。 最後の最後であの加速を見てしまった後ろの娘達も、突如として目の前に現れた背中を見た逃げの娘達も驚愕以外無いだろう。

 

 

「すげえ……化け物かあの脚力」

 

「最終コーナーを回る際にドンドンギアを上げていった感じだけど、まさかラストでもう一段階上げて抜いて行くなんてね。 差しで今回は出たっぽいけど先行でも十分に戦えるなあ……それにあれだけパワーが出せるのならダートだって走れそうだし、距離も中距離は余裕そうかな」

 

 

 同僚が驚くのも無理はない、自分だってあの脚を見るまではやはり後ろに付きすぎたんじゃないかとも思っていたのだから。 だがそれをあの娘は覆し見ている人々の度肝を抜いた。 強烈なアピールになっただろうし数多のチームから勧誘合戦が始まるのでは無いだろうか?

 

 更に今年は原石が多い様に思えた。 のびのびと走り最初から最後まで大逃げで走る娘やマイペースに常に前へと出て行く娘……

 

 

「よっし、レースも今ので最後だったから声かけてくるかなっ!」

 

「行ってらっしゃい、私はもうしばらく色々と見ているよ」

 

 

 レースが始まる前、レース中、レースが終わった後。 それぞれのウマ娘達や会場を見ている事は好きであった。 勝った者、負けた者、全力を出した結果を受け止める者……幾多ものウマ娘達を見て、負けたが瞳に輝きを失わない娘は強くなれるし、勝ったことで慢心してしまう娘はここまでだ。

 

 地方でいくら強くても世界にはもっともっと……それこそ先程の娘みたいな強者は幾らでも存在する。 勝ったと喜ぶのは良いが、それに満足してしまっては自ら成長を止めてしまう事になってしまう。

 

 そういえばあの葦毛の娘の名前は? ふと周囲を大勢の人に囲まれた娘のゼッケンを確認してみる。 選抜レースはまだ名前が知れていない事が多い為、双方とも分かりやすい様にとゼッケンに名前を付けているからだ。

 

 

「オグリキャップか……」

 

 

 独り言とも言える様な声量で口から洩れるように出た言葉。 オグリキャップの名を呟いた時、呟かれた本人がこちらを振り向いた。

 

 耳をピンッ と立て、こちらを真っすぐと見つめる瞳と目が合ったと思うと、周囲の人垣を不器用に掻き分けこちらへと向かってくる……ん? こっちに向かって来る??

 

 

「すまない、少し話がしたいのだが良いだろうか?」

 

「えっと……私?」

 

 

 自分で自分を指差し、オグリキャップに聞いてみると彼女はコクン と頷いた。 それはもう大きく頷くものだから間違い様が無いし、真っすぐにこちらを見ている事から嘘や冗談では無いのだろう。 そもそも目の前の娘は冗談を言いそうにない。

 

 

「……迷惑だっただろうか」

 

「いやいや! ごめんごめん。 ちょっと驚いていただけだから……うん、私で良ければ」

 

「そうか……良かった。 前に会った時も迷惑をかけていたから嫌だと思われたかと」

 

「迷惑だとは思ってなかったよ。 それに声を掛けたのも、前は私だったからね……あれから少しは慣れたかい?」

 

「……都会は狭くて分かり辛い、学園も同じような建物ばかりで迷ってしまう……ああ、そうじゃなかった。 どうも貴方は話し易くて雑談に反れてしまうが……今のレースは見ていてくれたか?」

 

「うん、見ていたよ。 最後の最後に追い抜いていく姿は凄かったね」

 

「っ……そうか、ありがとう」

 

 

 何かを抑える様に言葉を紡ぐオグリキャップだが、耳はパタパタ尻尾もユラユラと揺れている……どうやら嬉しいようだ。

 

 

「一つ、頼みを聞いて貰えないだろうか?」

 

「ああ、まあ私に出来る事なら。 だけど」

 

「いや、キミにしか出来ない事なんだ……私のトレーナーになって欲しい。 キミの言葉は温かさを感じるんだ。 優しい気配と言うか……何て言うのだろうかとても……安心できるんだ。 だから傍に居て欲しい、私を安心して力いっぱい走らせてくれるのは、恐らくキミだけだと思うから」

 

 

 真剣な瞳で私を見つめてくるオグリキャップ……その大きい蒼空を彷彿させる瞳には期待と少しの不安……それでも真っ直ぐに私を信じて答えを待っているオグリキャップに断る事なんてできはしなかった。

 

 

「私で良ければ喜んで……うん、一緒に頑張ろうか」

 

 

 右手を差し出すと、ぱあっ と花が咲いた様な笑みを浮かべ、私の右手を自分の両手で包み込む。

 

 

「ありがとう! 必ず……必ず、皆の期待に応えて見せる! 宜しく頼むぞ、トレーナー!」

 

 




 次回予告

 じゃあとりあえず並走してみようか と差しのシンボリルドルフと先行のトウカイテイオーがオグリキャップの力量や如何にと走り出す。

 走り出す前に助言としてオグリキャップが言われた事は決して無理して走る事だけはしてはいけない と言う事であった。
 涼しい顔をして走り続けるルドルフ達に、オグリキャップは食らいついていくが……

4月後半「彼はまず最初によく見て観察する」


 リアル皐月賞でも勝てたので次も一週間くらいの予定です
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