春天皇杯は物の見事に外しましたがワタシハゲンキデス。
誤字、脱字のご指摘、感想ありがとうございます。 励みになります……
トレーナー室に案内され書類を記入し、担当契約が正式に結ばれたという事はこれからレースに向けて練習してゆくのだろう。
そう思っていたオグリキャップにとって、先ず最初にやる事が明日の放課後に目の前の二人と並走するという事は少し疑問があった。
「まあ、疑問に思う事もあるだろうが今日は選抜レースで疲れただろう。 明日に備えて早めに休みなさい」
「そ~そ~、疲れたまま走っても実力は出せないだろうしね」
顔に出ていたのだろうか、部屋に居た二人……身長の高い方がシンボリルドルフ、小柄な方がトウカイテイオーと言うらしい……シンボリルドルフ? 何処かで見た事があるような……思い出せない。
兎に角、明日この二人と走れる事は楽しみであった。 もっともっと色々なウマ娘達と走り競い合い、故郷の皆を喜ばせたい。 その為にも明日から頑張ろう……
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放課後の練習場、既に何人かのウマ娘達が準備体操をしたり、チーム同士で模擬レースの練習をしていたりと賑やかだ。 オグリキャップが迷わず来れるか心配であったが、どうやら友人に付いて来て貰ったみたいだ。
なんでやねん! という声が響いていたが……まあ、あまり気にしないであげた方が良いだろう。 オグリキャップも迷いたくて迷っている訳ではないのだろうから。
「さて、先ずは並走からだったかな」
「うん、とりあえずはどうやって走るのかや足運びをじっくりと見たいからね。 オグリキャップ、今の体調は万全かい?」
「ああ、体調は良いが……何故その様な事を?」
「さっき言った通り足の状態を見て覚える為だよ。 自分でも気付かない違和感って外からよーく見てると分かる時があるからさ」
「ふむ……まあ、トレーナーがそう言うのならそうなのだろうな」
録画用の機材を準備している間に着替えが終わったルドルフ、テイオーが集まる。 まずは準備運動をして貰いつつ走る準備を整える。
とりあえず今日の目標としてはオグリキャップの走り方の撮影、ルドルフ達と模擬レースをする事だ。 全力を出した走り方やレース中にどの様なコースを取りたがるかの癖を撮影する為には、やはりレースが一番だろうという判断と、ルドルフから一度オグリキャップと走ってみたいという要望からだ。
「トレーナー君、とりあえず軽く走ってくれば良いかな?」
「うん、とりあえず芝で軽く走って来て。 ペースはルドルフに任せるから先頭にルドルフ、オグリキャップ中央の最後尾テイオーで。 とりあえずそれで何回か走って来て休憩し、最後の締めで模擬レースをしようか」
「分かった、なら最初は少し緩めにしておくよ」
さて、それじゃあ私は撮影に入ろうとデジタルカメラをセットし走る彼女達を見守ろうか……
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ターフを駆けていく風は心地が良い。 それも快晴の中、暖かな日差しを受けながらというのなら最高だろう。 それに呼応してか足取りも軽く、序盤の走り込みは何てことなく付いて行くことが出来た。
少しペースを上げてみようか
振り返りながらそう問う彼女に頷き、徐々にスピードを上げる背中に一定の距離を保つように走り続ける……先頭の足取りはまだまだ軽い、もっともっと速く走れそうだしまだまだ余裕があると言った感じだ。
後方のトウカイテイオーも同じ様に付いてくる……身長も脚も私の方が長いのに、彼女は全く遅れずに本当にぴったりと私の背中を追いかけてくる。
身体に負荷がかかり、息が荒くなっていく私に対し前も後ろも呼吸が乱れてはいない。 心肺機能には多少の自信があったのだが……これが中央の第一線で駆けるウマ娘の実力なのだろうか?
「はあっ……はあっ……」
「すまない、どんなにペースを上げても食らいついてくるものだからつい熱が入ってしまったよ。 トレーナー君が止めてくれなければそのまま倒れていたかもしれないね……すまなかった」
「あははっ、でも流石だよね~。 ちゃ~んとペースに付いてきて粘り続けれるんだからさ」
肩で息をする私に対し、二人とも軽く汗は流しているものの息を乱したりはしていない。 むしろ穏やかに会話をしているくらいなのだから体力はまだまだ余っているのだろう。
「さてオグリキャップ。 気付いていると思うが私達はまだまだ余力を残している。 休憩を取った後に模擬レースだが……実力の差は分かっているだろう。 それでも走るかい?」
確かに、今軽く走ってきただけでも2人の実力は私より遥かに上であろう。 走った所で勝てる見込みは無いと断言出来る。
だがそれがどうした、私が走らないと言う理由にはならない。 勝ち目がない? そうかもしれないが……トレーナーは私の走りを見たいと言っていたのだ。 それならばどんな時、相手であろうと全力で走るだけだ。
「走るっ……さっ……今はっ、たどり着かない……っ、だろうが……トレーナーが、絶対……辿り着かせて……くれるからなっ……!!」
息も絶え絶えだがそう言い切る。 あのトレーナーがどういう腕を持って居るのか その証明が目の前の二人なのだから彼を信じて付いて行けば良い。
越えられるかどうかは分からない、しかし越えて見せるさ……
「……ははっ、良い気迫だ。 試す様な事を言ってすまない、君が本当にトレーナー君の事を見て決めたのか……それとも、ただ彼の名声に惹かれたのかが気になってな」
「……?」
「分からないのならばそれで良い、君は君の目と感覚を信じて彼を選んだのならば……」
何を言いたいのかは分からないが……そう言えば彼はどういったトレーナーなのか実はよく知らなかったな……ただ直感で、この人が良いと思ったからなのだが……
「オグリキャップ、大丈夫かい? 体力的に辛ければ今日はこれで終わりでも……」
「いや、大丈夫だ……既に汗も引いたし呼吸も落ち着いたからな。 走ろう」
「……分かった、なら君の走りを見せて。 私は最後までしっかり見ているから」
私を気遣ってか、トレーナーが傍に駆け寄って来て声を掛けてくれるが心配は無用だ。 力強く頷くと彼は自然と頭をポンポン と軽く叩いてかたまた録画機材のおいてある場所へと戻っていく。
触れられた部分に手を当ててみるとほのかに温かい気がした……ふっ と頬が緩む様な感触がある……ん、今私は笑ったのか?
「……オグリキャップ、走ろうじゃないか」
声を聞いただけでぞわり と背筋を撫でられるような感覚。 氷を背中に投げ入れられた様な……背筋が凍るとはこの事か。
声のする方向を見ると、笑顔のシンボリルドルフが居るのだが……笑顔とは本来攻撃的なものである と言われる通り、表面上は静かに笑顔を浮かべている様だが目が全く笑っていない。
背後から隠しきれない闘気と雷光が見える……あれは幻覚だろうか、いやバチバチと空気が爆ぜる音が聞こえてくる事から幻覚の類では無いだろう。
「ふふっ、何もそう怖がる事は無いよ……ただちょっと本気を出すだけだから。 さあ、ゲートに入ってくれ。 私の準備は万端だ」
「あははっ、ほらはやく走ろーよ? カイチョーもやる気満々みたいだしさ! ボクも……うん、今思いっきり走りたい気分だし?」
何故かトウカイテイオーもシンボリルドルフも意気軒高と言った感じでユラユラと気炎をたぎらせながらゲートへと向かっていく……私は何かしただろうか……?
模擬レースの結果は散々であった とだけ言っておこう。 トウカイテイオーは軽いステップでひょいひょいと前へと飛んで行き、私の横へぴったりと付け自由に走らせないようにする。 振り切ろうにもスピードを上げればしっかり付いて来るし、独特な軽い足取りで歩幅を自由に変えてくるので感覚がつかみにくい。
また自分のペースが乱れている事も原因だという事も分かっていた。 後ろから迫りくる気配がとても圧迫を感じるものだったからだ。
恐らく並大抵の度胸を持つかバ慣れしていなければあの圧力に耐えきれず少しでも離れたい と無理やりペースをあげてしまうのだろう。 そうしてペースを乱され冷静さを失った状態で無駄に体力を消耗した所を最終コーナーで一気に抜きにかかる……あの脚力も凄まじいものだ。 後で見せて貰った録画を見てみるとグングンと加速してゆきそれが最後まで衰えないのだ。
トウカイテイオーも同じく最終コーナーで勝負を仕掛けていた様であった。 トントンッ と加速してゆきその小さい体躯で歩幅の狭さをどう補っているのだろうか……恐らく足の回転速度を上げているのだろうが、それをして走り切れるスタミナがあるという事なのだろう……
まだまだ学ばなければいけない事は多そうだ。 だが最後にトレーナーはよく頑張った と褒めてくれた事は……こう、胸の辺りがポカポカと温かくなる。 故郷の人達が応援してくれた時と同じ様にまた頑張ろうと思えた。
また明日も頑張ろう。 そう言えばシンボリルドルフ……長いからルドルフで良いと言われたけど、明日話があると言っていた。 何でも大切なチームのルールを説明するという事らしい……一体何なのだろうか?
次回はトウカイテイオーとトレーナーの休日(閑話)の予定です。
追記 オグリキャップのタグを追加しました。