ホシノ先輩が2年前の雰囲気に戻った時の話 作:John.Doe
「いやぁ、結局あれから1週間もかかるなんて思わなかったねぇ」
「何か……最後は普通に楽しんじゃいましたね~」
いつもの眠たげな表情で机に頬を置いたホシノが、気の抜けきった声で想いを馳せていた。角を挟んで隣に座っていたノノミが同調するように答え、周りにいた他の面々もどこか複雑な苦笑いを浮かべていた。
「別に、死んだわけじゃない。私が元に戻っただけ」
唯一、少し渋い顔をしていたシロコ。確かに彼女からすれば、自身を半分勝手に殺されたような雰囲気にも感じられるだろう。そういう意図ではない事は彼女もよく理解しているが。
「まあ、でも。自分が2人いるっていうのは便利だった。現金輸送車のルートと警備員の配置を同時に……」
「シロコ先輩?」
自らの"趣味"の話になった途端、アヤネが眼鏡越しに視線を尖らせて、シロコは押し黙った。いつものそのやりとりに、セリカは呆れたように肩をすくめ、ノノミは苦笑いを浮かべ、ホシノが温かく見守っていた。
結果として、2人いたシロコは黒いシロコが消滅したことで、こうしていつも通りの日常が戻ってきていた。それが「今のシロコ」にとって自然な状態だから、と黒いシロコは特に後悔や未練も無く、気づけばいなくなっていた。
それまでの過程は、なんともアビドスらしいと言うべきか暢気なものだった。いつが最後か分からないから、と毎日のように手を変え品を変えお別れ会が開催された。お菓子とジュースを並べて乾杯したり、シロコの趣味であるライディングに他の4人が必死について行ったり、紫関ラーメンで舌鼓を打ったり、と。
特にノノミの力の入れっぷりは相当なもので、この時ばかりはと眩いカードをホシノの制止を振り切ってフル稼働させていた。
シロコが1人消えた、というわけではなく、2人が1人に戻ったという状況だったからなのか。あるいは黒いシロコがアビドスの面々にとって予想以上に「よく知っているシロコ」だったからなのか、悲壮感と呼べるものは一切なかった。
どころか、分離していた間は制服を着ていたシロコが比較的おとなしかった分、御しやすかったまである、とはアヤネの弁である。
そんな賑やかな日々が過ぎ去って、いつも通りの日常に戻ってきたアビドス高等学校。まだカイザーコーポレーションとの借金周りの問題や、そもそもその原因となった砂漠化が解決したわけではない。
それでも。その中で逞しくも賑やかに過ごす彼女達と共にいる限り、2面性を持った彼女が暗がりの道へ背中を押されることはきっと無いのだろう。
今日も対策委員会の部室に、ホシノの大きな欠伸が木霊した。