私は小悪魔。ここ、紅魔館で働いている一人の悪魔だ。私を召喚したのはパチュリー様で、私は彼女と契約を結んでいる。だから、私の主は彼女だ。
だけど、最近の私はその認識が崩れかかっている。別にパチュリー様が悪いわけじゃない。悪いのは私だ、だって、私が誘惑を跳ね除けられていたら……。
「あ、探したわよ小悪魔。図書館に居なかったから探したじゃない」
鈴の音のような綺麗な声。だけど、それを聞いた瞬間に私の体が大きく震えた。だけど、逃げるわけにはいかない。
「お……お嬢……様」
後ろを振り向くと、そこに居たのはこの館の主にしてパチュリー様のご友人、レミリア・スカーレット様が立っていた。
「パチェから許可は取ってるわ。耳かきの練習に付き合ってくれない?」
「わかり……ま……した」
元から私に拒否権はない。お嬢様の頼みに頷くだけだ。
「じゃ、こっちに来て頂戴」
お嬢様に手を取られ、そのまま歩いていく。吸血鬼なのに暖かい、小さいその手に握られるだけで心地よさを覚えながら、私は彼女の後を歩いていく。そして程なくして、お嬢様の寝室に到着した。
「さ、ベッドの上に座ってて頂戴。私は準備をしてくるわ」
そう言ってお嬢様は耳かきの道具を用意していく。それを見ながら私はこれから行われることを思い浮かべ、知らないうちに体が熱くなっていくのを自覚した。
(お嬢様の耳かき……また……あの快感が)
その気持ちよさを思い出し、顔もどんどん熱くなっていく。
「さ、準備できたわよ小悪魔。私の膝の上に頭を乗せて頂戴」
いつの間にかお嬢様がベッドの近くにテーブルを持ってきていてその上にはいろんな道具が置かれている。そして彼女自身は私の隣に座って、自分の膝をポンポンと叩いていた。
「し、しつれ……いします」
お嬢様の膝の上に頭を置き、耳を上に向ける。
「じゃ、さっそく始めるわね。まずは……耳の周りから綺麗にするわね」
不意にお嬢様の声質が変わった。先程までよりも色っぽく、艶があり、私の頭の中に染み込んでくる。
「ギュッ……ギュッ……」
そんな声に合わせてお嬢様の持つタオルが私の耳の周りを拭いていく。お湯で温められたタオルから伝わる熱は気持ちよく、思わず強張っていた体が解れてしまう。
「ふふ、気持ちよさそうねこあ。もっと気持ちよくしてあげるわね」
小悪魔でなく、愛称であるこあと呼ばれる。それだけで私の心臓がドクン……と跳ね上がった。
「あら、顔が赤いわねこあ。大丈夫よ、緊張なんてしないで……ね?」
お嬢様の手が私の頭を撫でる。柔らかいその手の感触に更に心臓が高鳴る。
「……もう、こあは天邪鬼ね。良いわ、耳かきで緊張を解してあげるから」
そんな言葉が聞こえたと思うと、耳かきが私の耳朶を走り始めていた。
「カリカリカリ、まずは耳の外側をこうしてお掃除してあげる」
カリカリカリ……ツーッ……ガサガサ……。
耳かきが動くと、タオルで温められ、汗をかいた耳から粉状だった耳垢が刈り取られていく。耳かきが耳朶を掻いていくたびに、くすぐったく、体がぴくぴくと動いてしまう。
「だめよ、こあ。動いたら危ないから、だーめ♪」
ぴくぴくと動く肩に手を置かれ、そのまま優しく撫でられる。ああ、服越しなのに……お嬢様の手の温もりが……。
「おとなしくなったわね、こあ。じゃぁ、また始めるわよ」
再び耳かきが動き、耳朶を掻いていく。だけど、それはすぐに終わってしまった。
「はい、外側は終わり。じゃぁ中をやるから、動いちゃだめよ」
「は……い……」
ついに耳かきが中に入ってくる。その快感への期待と、堕ちていく自分への不安が渦巻き、心臓の高鳴りが激しくなる。
「えーっと……ふふ、そんなに汚れはなさそうね。じゃぁ、ちょっとづつ、ゆっくりやっていこうかしら」
そんな声と共に耳かきが中に入ってきた。
「カリカリカリ……♪ コ~リコリ♪ ザリッザリッ♪」
お嬢様の楽し気に刻むリズムに合わせて耳かきが動く。耳かきが耳の中を掻くたびに、頭や背筋を走る快感の波に、目を瞑り、手を握って耐える。
「カ~リカリ♪ 可愛い可愛いこあのお耳をコリコリコリ♪ このまま耳垢を取っちゃうわね」
ついに耳かきが耳垢を捉えた。そのまま小刻みに、カリカリと取り出しにかかる。
カリカリ……ザリザリ……ペリッ
「ふふ、カリカリカリって搔いてたらちょっとずつ取れていってるわ。大人しくしててねこあ♪」
「は……い……」
口から吐息が漏れる。耳かきが動くたびに快感で頭が染まっていく。顔も、耳も、どんどん熱くなっていく。気持ちいいよぉ……。
「ふふ、気持ちよさそうねこあ。もうちょっとで取れるから、このまま大人しくしててね♪」
お嬢様の手が優しく頭を、顔を、喉を撫でていく。絹のような滑らかな肌触りの暖かい指が撫でると、いつまでも撫でてほしくなる。そんな指はやがてまた私の耳を抑え、耳かきの動きが再開される。
ペリ……ペリ……。
ついに耳垢が剥がれ始めた。痛みと痒みを混ぜたようなうまく言えない感覚に耐えながら、私は全部剥がされる時を今か今かと待ちわびる。
「そんなに大きくないからすぐに取れるわね。ほら、一気に行くわよ」
その声と共に、剥がれかけの耳垢と耳の間に深く耳かきが差し込まれる。そしてそのまま一気に力がかかり、耳垢を剥がした。
「ふぅ……んんッ!」
剥がされた瞬間、その気持ちよさに体が大きく揺れる。背筋に走るビリビリとした気持ちよさに必死に耐えるため、手を強く握り、歯を食いしばる。
「あらあら。そんなに気持ちよかったの? それじゃぁ、最後までちゃんと掃除してあげないとね」
楽しそうに笑いながら、お嬢様は再び耳かきを差し込んできて、さっきまで耳垢のあった場所を何回か掻き、次に梵天でコシュコシュと粉を取っていく。そして、最後にローションが塗られ、熱を帯びていた耳垢の剥がされた箇所に塗られ、熱を冷やしてくれる。
(はぅ……気持ちよかったぁ……)
ローションが塗られ、耳かきがひと段落した事に安心と残念を覚える。が、ともかく一息つくことができそ……。
「フゥゥゥ……」
「ひゃぅッ……!」
気が抜けた瞬間、お嬢様の域が耳に吹き込まれる。ローションの塗られた部分がひんやりとし、ただでさえ敏感になっている耳の中を撫でる息吹に気の抜けていた私は思い切り体を震わせてしまった。
「あらあら、駄目じゃないのこあ。息を吹きかけるまでが耳かきでしょ♪ さ、反対側が残ってるから、そっちをやるわよ」
お嬢様はそう言うと、片手で軽々と私を持ち上げると、そのままコロンと、反対側を向かせてきた。吸血鬼であるお嬢様にとっては私程度の体重なんて文字通り片手で持ち上げれる程度でしかないのだろう。
(ふぁ……お嬢様の匂い……♡)
お嬢様の体の方を向いたことで、鼻の中にさっきまで感じなかったお嬢様の匂いが漂ってくる。それを感じた途端、私は思わず鼻を動かし、自分から匂いを嗅いでしまう。
「もう、恥ずかしいわこあ。そんなに嗅がないで頂戴」
ちょっと困ったような、そんな声音に思わず横目でレミリア様を見上げるが、レミリア様は微笑を浮かべてこちらを見下ろすだけで止めることはなかった。だから、思わず何回も鼻を動かし、お嬢様の匂いを嗅いでしまう。
「もう、犬じゃないんだから。さ、こっちの耳かきを始めるわよ」
そう言って、お嬢様は耳かきを始める。最初にやりだした時と同じように、外側をお湯で濡らしたタオルで丹念に拭き、それから耳朶を掃除していく。
「……ねぇ、こあ。もっと声を出しても良いのよ? 貴女、さっきからずーっと、声を我慢してるじゃないの」
「い、いえ……それは……流石に……」
ふと、お嬢様の手が止まる。そして呟かれた声を、私は拒否する。恥ずかしいのはもちろんある。あるけど……それだけじゃない。
(もし声を上げてしまったら……堕ちてしまったら、駄目になってしまう。パチュリー様の使い魔なのに、裏切ってしまう)
その気持ちが、辛うじて私の心を支えている。本当に辛うじてだけど……。
「……ねぇ、こあ。なんで声を上げないのか、それぐらい教えてくれない?」
「それ……は……」
「お・し・え・て♡」
「ひゃう!?」
言い淀む私の耳元で不意にお嬢様の声が聞こえた。いつのまにか顔を近づけたお嬢様が囁いてきたのだ。思わぬ不意打ちに、変な声が出てしまう。
「ねぇこあ♡ 教えてちょうだい♡」
耳元で息を吹きかけながら、囁き続けるお嬢様。駄目、こんなの……耐えられない。
「パ、パチェリー様を……裏切りた……くないんで……す」
「あら、どう繋がるのかしら? 教えてくれる?」
「わ、私が声を上げたら……お嬢様に堕ちたら……パチュリー様を……裏切ることに……」
それだけをなんとか絞り出すと、お嬢様は耳元から離れ、しばらくの間何もしてこなかった。
「んー……、ねぇこあ、大丈夫よ。貴女はパッチェを裏切ってないもの」
お嬢様の手が頭と腰に差し込まれ、体が持ち上げられる。そして、正面から視線を合わせられた。
「だって、今はこあは私が借りてるもの。借りてる間は私のものなんだから……別に堕ちてもパッチェを裏切ってないわよ♡」
それは、悪魔の誘いだ。頭ではわかってる、わかってるのに……逆らえない。私を見つめるお嬢様の視線から逃れられない。私はお嬢様に見つめられるまま……気づけば、頷いていた。
「それじゃぁ、耳かきを再開するわね」
再び膝の上に頭が戻され、耳かきが始まる。
「カリカリカリ♡ カ~リカリ♡ ほら、声を出しなさいこあ♡」
「ひゃうッ ふ……んぁ……はぁ……ああ♡」
もう、我慢できなかった。お嬢様の声が聞こえるたび、耳かきが動くたびに体が跳ね、声が上がり、口が出しなく開かれる。今の私はもう、どんな顔をしてるのかわかりたくない。
「コリコリコリコリッコリッ♡ うん、粉もそんなにないし、小さい塊があるだけね。すぐに取っちゃうわよ」
お嬢様はそう言うと、本当にすぐに、耳垢を取りにかかった。コリコリと耳垢の下の部分から耳かきが剥がしにかかってくる。
「ふあ♡ あ、ハアッ! ヒッ……んあ、ああ!」
気持ちいい。もうずっと、耳かきをしてほしい。もう、我慢なんてできない。私はもう……堕ちてしまった。お嬢様に堕ちてしまったんだ。
「あはは、可愛らしい声よこあ。ほら、もう少しで取れるから、ちゃんと声を出しなさい」
楽しそうなお嬢様の声。そして、程なくしてベリリッと音を立てて剥がされた耳垢。その感触、痛み、痒み、快感。それら全てに頭が犯されていく。そして、だらしなく、はしたなく声を上げていく。
そうして私は、坂道を転げるように、堕ち続けていった。
「……レミィ、こあにあまり変な事をしないでしょうだい」
「あら、私はただ耳かきをしてるだけよ? それ以上の事はなにもしてないわ」
白々しい……。パチュリーはそう思わずにいられなかった。耳かきが終わった後の小悪魔は明らかに挙動不審で、尋ねてみても顔を真っ赤にしてしどろもどろになるばかりだ。これを見てレミリアが何もしてないとはパチュリーは思わない。
「……レミィ、こあは私の使い魔よ、勝手にとったりしたら……」
「そんな事しないわよ。もう、心配性ねぇ」
そう言って、レミリアはパチュリーの正面に移動すると、彼女を抱きしめた。
「友達の使い魔を取るほど、私は薄情じゃないわよ。それとも、私の言葉が信じられないの?」
「……じゃぁ、せめて何をしたのか事細かく説明しなさい。単なる耳かきにしては、こあの態度が不自然過ぎるのよ」
「仕方ないわね。それじゃぁ、今度小悪魔にした耳かきをパッチェにもしてあげるわ。それで納得してくれる?」
「ええ、取り合えずそれで判断させてもらうわ。でも……本当にこあに何かしてたら怒るからね」
「本当に耳かき以上の事はしてないのに」
可愛らしく、しかしどこか妖艶に笑うレミリアに、パチュリーはため息をつかずにはいられなかった。