白い奇跡が描く軌跡   作:崇藤仁齋

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勝負を終えて

 

「ゴールインッ!」

 

 ゴール地点で二人を待ち構えていたヒシアマゾンの前を白い影が横切ったことでチェッカーフラッグが振られる。

 勝ったのは勿論――。

 

「……はぁ、はぁ。……負けた」

「ナイスレースだったのね! 今のぼくにできる最高の走りをしたつもりだったけど、離されずにピッタリとくっついてくるなんてミークも本当に速くなったのね!」

「……うん。……がんばった」

 

 下バ評通りマキバオーの勝利。

 とは言えミークも負けはしたが、その差は三バ身。それも現時点のマキバオーの全力を相手にしてだ。僅差とは言い難いが、それでも今後の成長次第では十分に勝利を期待できる差だった。

 健闘を讃え合う二人にそれぞれのトレーナーがタオルとドリンクを手に労いに来る。

 

「お疲れ、ミーク。負けはしたが今までと比べ物にならないくらい良いレースだったぞ」

「……はい」

「マキバオーもお疲れさまでした。また一段と走りが良くなりましたね。その証拠に今のレース、芝2000mの自己ベスト更新ですよ」

「んあ~! やったのね!」

「でもまだまだ貴女は速くなれるはずです。この夏合宿では筋力アップを中心に励んできましたが今後は長距離レースを見据えてスタミナもつけていきましょう!」

「わかったのね!」

 

 このレースを踏まえ今後どのようなトレーニングメニューをこなすかを話しながら離れていくマキバオー陣営を見送りながらミークのトレーナーは彼女に問いかける。

 

「で、どうだった? 同世代最強を相手に走った感想は?」

 

 この問いの答えによりミークの今後が決まる。

 これから先、ミドリマキバオーという圧倒的強者と相対していく茨の道に進むか否かが。

 トレーナーからの問いかけにミークは先のレースを思い出すかのように眼をつむると訥々とレース中に感じたことを言葉にしていく。

 

「……やっぱり、あの子はすごいです。……必死に走ったのに差は全然縮まらない。……懸命に追いかけも追いつけない。……そんなあの子の走りは今まで見てきた中で一番綺麗で、……私の前を走る背中はすごくキラキラしていました」

 

 今までよりも一層瞳に憧憬を込めてマキバオーを語るミークにトレーナーは「これはダメか」と思った。

 心が折られた様子はないが憧憬を深めた結果、憧れが崇拝に昇華されマキバオーと敵対することを避けてしまうのではないかと思ったからだ。

 

「(これはもはや三冠路線回避はもとよりジュニアでのGⅠレース挑戦回避も止む無しか)」

 

 そう思った時だった――。

 

「……でも」

「うん?」

「……でも、だからこそ私はこれからもあの子と走りたいです」

 

 思ってもみなかったミークの言葉。

 なぜその結論に至ったのか。瞳に憧憬を灯したままミークは語る。

 

「……入学式の日に見たあの子の走り。……強くて、速くて、そしてとても綺麗な、白い軌跡を描く走り。……私もいつか、あんな風に私も走れるようになりたいって思ってました。……そして今日、あの子と一緒に走ってみてわかったんです。……私が目指す憧れの走りはあの子の先にある。……あの子に並んで、そして追い越した先に、あのキラキラした輝きがあるんです。……だから――」

 

 これは決意の表明だ。

 望まれたからではない。自身がそう在りたいと願うが故の宣誓だ。

 

「……私はこれからもあの子と走りたいです。……あの子が待ち受けるレースで」

 

 これまでにないミークの意気込みに彼女のトレーナーは息をのむ。

 今までのミークはどこか覇気にかけるきらいがあった。

 指示には的確に従う素直な子だし、才能だって同世代最強格たちと遜色ないものを持っている。それでもどこか地に足のついていない不安定さがあったが今はどうだ。

 物静かさは変わらない。

 だが、その身に纏う空気は今までの彼女のそれとは明らかに違っていた。

 想像以上のミークの成長にトレーナーは緩みそうになる頬を引き締める。

 

「そうか。ミドリマキバオーに勝つ。それは並大抵のことじゃないぞ」

「……大丈夫です。……不可能だって可能にして見せます。……何と言っても私は奇跡のウマ娘ですから」

 

 余りにも頼もしいミークの言葉にトレーナーの引き締めていた表情筋は限界を迎えた。

 担当ウマ娘がここまで言ったのだ。

 ならばそれに全力を以って応えるのが担当トレーナーの使命だ。

 

「ははっ! そうだ、そうだったな。――よし! 今後はジュニア王者を決めるGⅠレース――朝日杯フューチュリティステークスかホープフルステークスを目標にメニューを組むぞ。そこでお前は証明するんだ。ここにも《白い奇跡》が存在するんだってことをな!」

「……はい!」

 

 こうしてミークがマキバオーと相対する道を選んだ一方で、マキバオーもまた大きな転換点を迎えようとしていた。

 その呼び水となったのはルドルフから出された一つの提案だった。

 

「ちょっといいかな? マキバオー君に桐生院トレーナーも」

「んあ?」

「はい、何でしょうか?」

「先の走り、実に見事だった。正に万邦無比と評するに値する走りだったよ。今の君ならシニアのウマ娘を相手にしても十分勝負になる」

「いや~、そんなに褒められると照れちゃうのね」

「そこでどうだろう? 私とも模擬レースをしてみないか?」

「ええぇぇッ!? 会長さんと模擬レース!?」

「ああ。ここでGⅠウマ娘と勝負しておくことはきっと君の今後のためになると思うのだが、どうだろうか?」

「葵せんせぇ……」

 

 ルドルフからの提案にマキバオーは葵を見る。

 この勝負受けたいと言うマキバオーの強い意思が読み取れる視線に葵は頷く。

 

「わかりました。確かに今のマキバオーが模擬レースから何かを得ようと思えば対戦相手は格上である必要があります。その相手が七冠戴く《皇帝》であるなら願ってもないことです。こちらからも是非お願いします」

「よし。じゃあ早速始めてもいいのだがミーク君とのレース直後だ。小休止を挟むかい?」

「大丈夫なのね! 模擬レースでも会長さんとレースできるかと思うとワクワクして足が勝手に走りだいちゃいそうなのね!」

「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるね。なら始めるとしようか。距離はさっきと同じ芝2000mでいいかな?」

「大丈夫。いけるのね!」

「それでは――」

 

 始めようかと言おうとしたその時。

 

「その勝負、ちょぉっと待ったぁぁぁあああっ!」

 

 闖入者の声がこだました。

 

 




 闖入者。ヤツはいったいドコノナニテイオーなんだ?

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