白い奇跡が描く軌跡   作:崇藤仁齋

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開幕の出会い

 ウマ娘。

 それは異世界の競走馬の名前と魂を受け継いで生まれてきた少女たち。

 このウマ娘と人間が共存する当世界において異世界の解釈にはいくつかの意味が存在する。

 まずは画面の向こうの君。そう君だ。

 君のいる世界で現実で活躍した名馬たちがいるだろう?

 スペシャルウィーク、サイレンススズカ、ゴールドシップ、ウォッカ、ダイワスカーレット、メジロマックイーン、トウカイテイオー、他にも綺羅星の如く数々の名馬がいるはずだ。

 そんな彼らの――そうだな、ここでは君たちの現実世界のことを正史と言おうか。正史で活躍した彼らの名前と魂を引き継いだウマ娘がいる一方で、正史とは違う世界で活躍した名馬たちから名前と魂を引き継いだウマ娘もいる。

 誰かが書いた漫画や小説で登場した空想上の競走馬や競走馬育成シミュレーションゲームで自分で新たな血統を作り上げたりして生まれた名馬――こちらを外史と呼ぼう。外史から名前と魂を引き継いだウマ娘もこの世界にはいるのだ。

 そしてこの物語の主役はそんな外史から名前と魂――のみならず外史での記憶をも引き継いだウマ娘。

 週刊少年ジャンプで連載されていた競馬漫画『みどりのマキバオー』。

 その作品の主人公にして《白い奇跡》と呼ばれた名馬のウマ娘としての物語となる。

 おっと、前置きが少し長くなってしまった。

 では視点を物語に移していこうか。

 時期は桜の花びら舞う春。場所は日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園から。

 Eclipse first,the rest nowhere.(唯一抜きん出て、並ぶ者なし)――。

 ミドリマキバオー。君がこのウマ娘の世界でそんな活躍を体現せんことを切に祈る。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

「迷っちゃったのね……」

 

 子供と見間違うほどの小さな背丈に美しい白毛の毛並み。

 肌も一点の染みのない新雪のような真白で小さな背丈に似合う可愛らしい容貌はまさに《白い奇跡》と形容していいウマ娘が所在なげに肩を落としていた。

 

「トレセン学園広すぎるのよ~!」

「君、困りごとかな?」

「んあ?」

 

 しかし捨てる神あれば拾う神あり。

 かけられた言葉に落としていた視線を上にあげるとそこには自分と同じトレセン学園の制服を着たウマ娘がいた。

 

「もしかしなくてもトレセン学園の生徒さん!? 助かったのねぇ~! 入学式の会場どっちにあるのか教えてほしいのね!」

「おや、見ない顔かと思えば新入生だったか。それなら私に任せたまえ。これでも生徒会長の職を拝命している身。入学式の会場まで案内しよう」

「おお! ありがとうなのね、会長さん! あっ、自己紹介まだだったのね。ぼくはミドリマキバオーっていうのね。よろしくなのよ」

「これは丁寧に痛み入る。私はシンボリルドルフ。先も言ったようにこのトレセン学園で生徒会長を拝命している。何か困ったことがあったら気兼ねなく生徒会室に相談に来るといい」

「んあ~、会長さんとってもいい人なのね」

「ふふっ、そういって貰えると嬉しいよ。誰もを導く頂点となり皆を導くウマ娘というのが私の目指す理想だからね」

「頂点となって導く……まるで王様なのね!」

「そうだな。これでも《皇帝》の二つ名を戴いている身でもある。その名に恥じぬよう切磋琢磨してきたし、これからも理想に向かって粉骨砕身していく所存だ」

「すごいのね! そんな会長さんならきっと皆が理想にするウマ娘になれるのよ!」

「ふふっ。そこまで面と向かって褒められると面映ゆいな。時にミドリマキバオー君」

「んあ?」

「きみには目指すべき理想はあるかな?」

「う~ん。理想って程ではないけどレースに賭ける想いはあるのね」

「それはどんな? 差し支えなければ教えてくれないか?」

 

 その問いかけにマキバオーはにこやかにしていた表情を一瞬にして引き締めると右耳に冠した黒い王冠に手を添える。

 ただそれだけのことなのに背の小さなマキバオーの存在感が大きく膨れ上がるのをシンボリルドルフは見た。と同時にマキバオーの存在感のあまりの大きさに気圧されかけるが無敗の三冠ウマ娘の矜持でもって踏みとどまる。

 

「絶対負けずに走り続けることよ」

「それは何のために?」

「コッチの皆はたぶん知らない。けどあったんだ。レース場に吹き荒れた黒い風の伝説が」

「…………」

「ぼくは絶対に負けずに走って、その黒い風の強さを皆に教え続ける。ぼくが負けずに走り続ける限り黒い風は吹いているんだってことをコッチの世界でも――ウマ娘とレースを愛する世界中のファンに見せつける。それがぼくのレースに賭ける想いなのね」

 

 見目に反した苛烈な想いの吐露に空気がひりつく。がしかし、その空気も次の瞬間には雲散霧消した。

 

「んあ! あの建物がそうだよね!?」

 

 視界に入ってきた建物を指さすマキバオーに先の苛烈な雰囲気はなく元の天真爛漫さが戻っていた。

 その落差の激しさにさすがのシンボリルドルフも僅かに動揺を見せるが気を取り直して笑みを浮かべた。

 

「っ、ああ。あの講堂が入学式の会場だ」

「はぁ~、何とか無事にたどり着けたのね。これも案内してくれた会長さんのおかげなのよ」

「礼には及ばない。さあ、式の開始ももうすぐだ。遅れない内に会場入りするといい」

「本当に助かったのよ。ありがとうなのね会長さん。じゃあ、いって来るのね~!」

 

 無邪気に手を振りお礼を言って講堂に向かっていくマキバオーを見送るシンボリルドルフに一人のウマ娘が声をかけてきた。

 

「会長」

「エアグルーヴか」

「入学式が始まりますのでそろそろ準備をと思ったのですが何かありましたか?」

「いや、なに。前途有望なウマ娘に出会ってね。これは私もうかうかしていられないと思っていたところだ」

「無敗の三冠ウマ娘の会長をしてそこまで言わしめますか」

「一目見ただけでは天真爛漫、純真無垢な子だが一皮むけば威風堂々。デビュー前にして既にダービーやグランプリを制して来た歴戦のウマ娘の貫禄があるように私には見えた」

「そこまでの逸材ですか」

「ああ。ミドリマキバオー、彼女なら無敗の三冠ウマ娘も夢物語ではないだろう。これは来年のクラシックが楽しみだ。そしてその先も……な」

 

 そう言ってマキバオーの向かった講堂を見据えるシンボリルドルフの眼には静かな闘志が灯っていた。

 

 

 

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