――とても綺麗。
ミドリマキバオーの走りを見てハッピーミークは唯々そう想った。
他者を寄せ付けない圧倒的な走り。
それはまるで天を駆ける流れ星。
それはまるでレース場を支配する白の王。
美しい白毛の毛並みをなびかせて白い軌跡をレース場に描いて見せた様にハッピーミークは心奪われたのだった。
「(……同じ白毛のウマ娘。……ミドリマキバオー。……小さな子……可愛い子。……そして速くて綺麗な子。……私もいつか……あんな風に走れる様になりたいな)」
切なる憧憬を胸に秘めつつハッピーミークは今日もミドリマキバオーを視線で追う。
「おはようマキバオーちゃん。今日もいい天気でトレーニング日和ね」
「おはようなのね。お互い今日もがんばるのよ」
「マキバオーちゃんに薦めてもらったりんごのコンポートすっごく美味しかったよ!」
「んあ~、それはよかったのね。他にもりんごのソテーとかあって、それもとっても美味しくておススメなのよ。よかったら試してみるといいのね」
「ねぇねぇ、マキバオーちゃん。今度の課題で教えてほしい所があるの。函館ジュニアステークスなんだけど格付けと距離がわからなくって」
「函館ジュニアステークスだとGⅢで芝1200の右回りなのね」
「さすが優等生。頼りになるわ」
「それほどでもないのね~」
「でも不思議ね。先週から始まったメイクデビュー。マキバオーさんも出走するものとばかり思ってたんだけど」
「そうそう。マキバオーちゃんの実力なら先週デビューしてても何も可笑しくないのにね」
「そのことなんだけど、ぼくのメイクデビューはもう少し先になりそうなのね」
「そうなんだ。でも楽しみだなぁ。マキバオーちゃんのメイクデビュー」
「期待に応えられるようにがんばるのね」
そのミドリマキバオーはクラスメイトたちと和気あいあいと世間話に興じていた。
最初こそトライアルレースで見せた圧倒的な走りから遠巻きにされていたマキバオーだったが、稚い容姿から来るマスコット感と生来の素直な性格から今やクラス一の人気者になっていたのである。
と、そんなマキバオーに新たに声をかけるウマ娘が二人。
「暢気なものね優等生。いいえ、貴女のそれは余裕かしら」
「マキバっち速いもんね。今レースに出ても楽に勝てるんと違う?」
「葵せんせいからの指示なのよ。レースはフォームと体幹を完璧にしてからだって言われてるのね。あとタイプムーンもアウセンザイターもデビュー戦勝利おめでとうなのね」
光の当たり方では金色にも見える栗毛の毛並みを背に流した気位の高そうなウマ娘、タイプムーン。
捉えどころのない独特な雰囲気に似非関西弁を操る青鹿毛の毛色のウマ娘、アウセンザイター。
共に先週から始まったメイクデビューを早々に勝利した新進気鋭のウマ娘。
他のウマ娘やトレーナーからミドリマキバオーの同世代のライバル格と目される注目株のウマ娘だ。
そんな同世代三強の集結にマキバオーを取り巻いていた他の子たちはそっとその場を離れる。
「勝利は当然の結果よ。そんなことよりさっさとデビュー戦を勝利してきなさい。そうしたら私が貴女を負かして私が世代最強だということを証明してあげる」
「おっ! ムンっち積極的やん。でもまぁ、うちも興味あるんよ。ハマったうちとマキバっちどっちが速いか」
「あら。伸るか反るかの博奕のようなレースしかできない貴女に出る幕なんてあるのかしら?」
「だから面白いんよ。レースは勝負であると同時にエンターテインメント。ただ勝つだけでなくファンに鮮烈な印象を与えてこそ本物やん」
「へぇ。それはつまり私の強さが本物でないとでも?」
「ふっふふ。それはどうやろね」
「上等ッ! 次出るレースを教えなさい。完膚なきまでに叩き潰してあげる!」
いつの間にやらマキバオーを置き去りにして侃々諤々とやり合うタイプムーンとアウセンザイターだったが、そこに恐る恐るマキバオーが声を挟む。
「あの~、お二人さん……」
「ちょっと待っていなさいミドリマキバオー。貴女の前にコイツを先に殴ッ血KILLから」
「そうやね。売られた喧嘩は熨斗つけて返さないと無作法というものやもんね」
「いや、そんなことよりも本鈴が鳴ったから早く席に着いた方がいいのね。じゃないと――」
と、マキバオーがそこまで言ったところでマキバオーたちのクラス担任の教師が扉を開けて入ってきた。
「皆さんおはようございますっ……と、タイプムーン君、アウセンザイター君。また君たちですか」
トレセン学園に入学して早二ヶ月。
気位高く血気盛んなタイプムーンと気分屋で面白いものの為なら幾らでも身体を張るアウセンザイターは教師陣やトレーナー陣から問題児認定されていたのであった。
「メイクデビューで勝利できたことは喜ばしいのはわかりますが、だからと言って授業を疎かにしてはいけません。少しは文武両道、品行方正なミドリマキバオー君を見習いなさい」
対してミドリマキバオー。
デビューは未だだがトレーニングで見せる身体能力の高さに加え新入生とは思えないレースの知識量。教師やトレーナーの指示を疑いなくこなす素直さや、常に相手を慮る優しさ。
そういった諸事情から新入生きっての優等生と教師陣やトレーナー陣はもとよりクラスメイト始め他のウマ娘たちからも認定を受けているのである。
とまれ――。
「(……やっぱり……ミドリマキバオー……すごい子だな)」
教師から絶賛を受けるマキバオーにハッピーミークの憧憬はさらに深まったのだった。