白い奇跡が描く軌跡   作:崇藤仁齋

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メイクデビュー

 夏の気配が近づく六月最終週。

 東京レース場のパドックにミドリマキバオーの姿があった。

 体操服にクォーターパンツ、六番のゼッケンを身に着けたマキバオー。

 小さくも鍛えた身体を惜しげもなく披露する姿に観客から歓声が上がる。

 

「何あの子!? 小さい! 可愛い!」

「うわぁ、すごい綺麗な白毛の毛並み。私あの子を応援しようかなぁ」

「ミドリマキバオーだってよ。白毛のウマ娘とは珍しいな」

「でも白毛って走らないって話だろ。それにあの小ささもレースで不利じゃないか?」

「お前ら《月刊トゥインクル》読んでないのかよ。ミドリマキバオー、今年デビューの子たちの中で断トツの注目ウマ娘だぞ」

「マジかよ!?」

「記事の引用だが『そのウマ娘を見た者は三度驚く。まず毛色に驚き、次に背の小ささに驚き、最後に走りで驚く』ってな」

「宝塚記念やる阪神レース場とどっちに行こうか悩んだけど来年のクラシック前線大本命のメイクデビュー。見逃す訳にはいかないよな」

「だな。俺もミドリマキバオーのレースは生でずっと追うつもりだ」

「マキバオーちゃん、がんばってーっ! あっ! 手を振ってくれた!?」

「これは一生推せる……ッ!!」

 

 見た目だけでも個性の塊なのに、そこに話題性と本人の振りまく愛嬌も相まってミドリマキバオーはレース開始前から大人気だ。

 そうして老若男女問わずファンの支持を集めるマキバオーは、その群衆の中に見知った顔を見つけた。

 

「ライスシャワー! 応援に来てくれたのね!?」

「もちろん。マキバオーちゃんのメイクデビューだもの」

「んあ~! 嬉しいのね! これで百人力なのよ!」

 

 ミホノブルボンの三冠阻止、メジロマックイーンの天皇賞春三連覇阻止のライスシャワーに未だ厳しい視線は注がれるものの白毛と黒鹿毛の小さなウマ娘同士の触れ合いに会場の空気が和む。

 

「気合十分ですね。マキバオー」

「葵せんせぇ!」

 

 マキバオーの担当トレーナー、桐生院葵もレース前最後の激励に来たようだ。

 

「この三ヶ月の地道なトレーニングでフォームも体幹も完璧に仕上げた貴女なら絶対大丈夫です。気負わずに、けれど油断せず、勝利を飾って来てください」

「わかってるのね。じゃあ、葵せんせい、ライスシャワーも。行って来るのね!」

「いってらっしゃい。マキバオーちゃん」

「マキバオー。貴女の勝利を信じています」

 

 そうして遂にメイクデビューの幕が上がる。

 

『美しい青空広がる東京レース場。ターフも絶好の良バ場になりました!』

『十分に実力を出せるレースになりそうですね』

『各ウマ娘、ゲートに入っていきます。注目は六枠六番のミドリマキバオー。圧倒的な一番人気です!』

『私も期待しているウマ娘ですね。このメイクデビューを勝って彼女の伝説の幕開けとして欲しいところです』

『最後に大外十番、ゲートに入って態勢整いました。……今、スタートです!』

 

 東京レース場。芝1600m。天気晴れ。バ場良。

 ここに当世ウマ娘としてマキバオー初のレースの幕が切って落とされた。

 

『各ウマ娘揃って綺麗なスタートを切りました! 先頭争いをするのはダークネスエボルヴとライズバハムート! 逃げる二人を追ってテンペストゴッズとワンダードリームが続く! その後ろにピッタリと一番人気ミドリマキバオー、五番手の位置につけています!』

 

 先行にてレースを展開するマキバオー。その心は熱く燃えていた。

 

「(カスケードがデビューしたのと同じ東京レース場でのメイクデビュー。燃えてくるのね!)」

 

 しかしレース運びは冷静。

 小さな身体を生かして前のウマ娘の生じさせたスリップストリームに入る。

 

「(東京レース場は向正面から第三コーナーまでの間に下り上り下りの坂が続いて第四コーナー抜けた先にも上り坂があるのね。ここは体力を温存するのね! それに葵せんせいに教えてもらって身に着けたウマ娘としての走り方、とっても楽で速いのよ!)」

 

『さあ! レースは向正面から第三コーナーに差し掛かろうかというところで各ウマ娘の順位の変わらないまま! どうでしょうか、この展開?』

『前の二人は掛かっているかもしれません! 息を入れたいところですが、坂を上った後また下りの状態でコーナーに突入するため難しいかもしれないですね! しかしミドリマキバオーはいい位置についています! まるで東京レース場で重賞レースを走ったことがあるような堂々とした走りです!』

 

 高低差のあるコースに他のウマ娘たちがスタミナを削られる中、マキバオーは悠々と進む。

 

『第四コーナー、カーブ! 残り600m!』

 

「(さぁ! ラストスパート、いくのねッ!!)」

 

 第四コーナーから最後の直線に出るタイミングでマキバオーが仕掛けた。

 

『ああっと!? ここでミドリマキバオーが外へと出る! 先に仕掛けたのはミドリマキバオー! だがこの先には坂があるぞ!?』

『彼女は今まで脚を溜めていましたからね! 坂を上っても脚はまだ十分残るでしょう!』

『前の四人を一気にゴボウ抜き! そして上り坂に入ります! 速度は落ちない――いやむしろスピードを上げるミドリマキバオー! 対して他のウマ娘たちは上り坂で失速! 二番手との差は五バ身、六バ身、まだまだ広がる! これはスゴイ! 圧倒的な走りだッ!!』

 

 スパートを決めてハナに立ったマキバオーは上り坂をものともせず駆けあがると勢いそのままにゴール板を駆け抜けたのだった。

 

『ミドリマキバオー! 二番手以下に大差をつけ今一着でゴールッ! ここにミドリマキバオー伝説の幕が開けました!』

 

 圧倒的なマキバオーの勝利に東京レース場が大歓声につつまれる。

 実況解説もデビュー戦とは言えこのレース結果に興奮冷めやらぬようだ。

 

『いやぁ、本当にスゴイかったですね! レース展開はまるでGⅠレース経験者のような貫禄でしたし、軸のしっかりとした体幹と美しいフォームから来る走りは芸術性すらも感じました。特に最後のスパート。速すぎて彼女の走り去った後に白い軌跡が見えましたよ!』

『白い軌跡……、いいですね! 《白い軌跡》ミドリマキバオー! これから彼女が描いて行く勝利の軌跡に期待です!』

 

 こうしてマキバオーのメイクデビューは衝撃的な勝利で幕を閉じた。

 ちなみに勝利のウィニングライブだが昔取った杵柄――前世で毎週踊りを披露していた経験からデビューしたてとは思えない巧みなダンステクニックとギャップのある可愛らしい歌声でさらにファンの心を鷲掴みにしたのであった。

 

 

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