「ウマナミナノネ~♪ あなたとっても~♪」
メイクデビューから開けて翌日。
前世の全盛期にはまだまだ至らないが、それでも先日のレースで確かな成長を実感できたマキバオーは上機嫌だ。
気分の高揚から自然と歌を口ずさんでしまう。
と、そんな歌を唄いながら学園の廊下を歩くマキバオーに声をかけるウマ娘が一人。
「ウマナミナノネ~♪ 私は虜ぉ~♪」
「やあ、ミドリマキバオー君。ちょっといいかな?」
「んあ? 会長さん一体どうしたのね?」
声をかけて来たのはトレセン学園生徒会生徒会長のシンボリルドルフだった。
「君に少し話があってね――っと、その前にデビュー戦初勝利おめでとう。私も昨日はレース場で君の走りを見ていたよ。圧倒的な走りと完璧なレース運び、まさに完全無欠の走りだった」
「いや~、三冠ウマ娘の会長さんにそう言ってもらえると何だか照れるのね。でも完全無欠の走りにはまだほど遠いのよ。これからももっと練習してもっともっと速くなるのね」
「脚下照顧、向上心旺盛なのはいいことだ。そうだ。これから生徒会室に来ないか? 話ついでに君の初勝利のお祝いをしよう」
「お祝い?」
「ああ。先日良いキャロットジュースとりんごジュースが手に入ってね。キャロットジュースは需要が高いから良いのだが、りんごジュースをいつ開けようかと悩んでいたんだ。君はりんごが好みだと聞いている。これは丁度いい巡り合わせだと思うのだが、どうだろうか?」
「りんごっ!? 是非ともお邪魔するのね!」
期待に眼を輝かせ元気に手を上げるマキバオーの無邪気な姿にルドルフは笑みを漏らす。
「では、案内しよう」
そうして案内された生徒会室。
足を踏み入れるルドルフとマキバオーを二人のウマ娘が出迎える。
「お疲れ様です。会長」
「帰ってきたか。んっ? 後ろにいるのは例の子か」
「ああ、生徒会室に招待させてもらった。マキバオー君、紹介しよう。生徒会役員のエアグルーヴとナリタブライアンだ」
切れ者の美人といった印象のエアグルーヴに、硬派で無表情なナリタブライアン。
初対面ではその美貌と無表情に気圧されるウマ娘が多い中、マキバオーは暢気に挨拶を返す。
「初めましてなのね。ミドリマキバオーなのね」
「君が会長の言っていた……。歓迎しよう、エアグルーヴだ」
「ナリタブライアンだ。昨日の走りは見事だったぞ」
どうやら子供の様に稚い見た目のマキバオーは二人の琴線に触れたようだった。
見た目で勘違いされがちだがエアグルーヴもナリタブライアンも面倒見のいい姉御肌なウマ娘なのだ。
「さて立ち話も何だ。掛けてくれたまえ。エアグルーヴ、グラスを人数分用意してくれるか?」
「わかりました」
そして用意されたグラスに件のりんごジュースが注がれる。
「では、ミドリマキバオー君の鮮烈な初勝利を祝して――乾杯!」
「「乾杯」」
「ありがとうなのね!」
ルドルフの乾杯の音頭にグラスを掲げ返したマキバオーは早速りんごジュースを口に含む。
口の中に広がるはすっきりとした甘みと上品な酸味。
それは有体に言って――。
「とってもおいしいのね~!」
「それはよかった」
花の咲いたようなマキバオーの笑顔に生徒会の面々も顔がほころぶ。
そうして二口三口と口をつけたところでルドルフは改めてマキバオーに向き直る。
「さて、マキバオー君。君にはもう一つ大事な話があってね。聞いてくれるかな?」
「んあ? 何なのね?」
「単刀直入に言うと君を生徒会に迎え入れたいんだ」
「なんだ、そんなことでいいのね。それならお安い御用……って、んあ!? ぼくを生徒会に!? これってもしかしなくてもスカウトなのね!?」
「ああ。是非とも君の力を生徒会に貸してほしい」
「でも何で? ぼくはそんなに書類仕事とかは得意じゃないのね。会長さんがぼくを欲しがる理由が分からないのよ」
当然ともいえるマキバオーの疑問にルドルフは自嘲気味に訳を話す。
「どうにも今の生徒会は他の生徒たちからしたら敷居が高いらしくてね。投書箱の設置や生徒たちへの声掛けも行ってきたが、どうにも遠慮があるのか生徒たちからなかなか本音を聞くことができないんだ」
何と言っても《皇帝》と《女帝》と《影をも恐れぬ怪物》だ。
畏敬の念の大きさからルドルフたちに迷惑をかけないようにと不満があっても声を上げにくい空気が今のトレセン学園には出来上がっていたのだ。
当然ルドルフたちはこの状況を良しとしていない。
生徒たちの学園生活をサポートする生徒会が結果として生徒を抑圧したのでは本末転倒もいいところだ。
「そこで君だ」
「んあ?」
「学業優秀、品行方正に加え、昨日のレースでは一騎当千の走りを魅せながらも皆に愛される君なら皆の本音を掬い上げてくれると思っている。もし受けてくれるなら君のために《生徒相談窓口担当・生徒会長補佐官》の役職を新たに用意しよう」
「生徒会長補佐官……っ! カッコいいのね! しかも、ぼくのために!?」
「ああ、そうだ。どうか君の力を私たちに貸してはくれないか?」
「でも生徒皆の本音を掬い上げるって、とっても難しそうなのね」
「難しく考えすぎだ。ルドルフはああ言ったが、適当に茶飲み話でもして何か悩みがあったらそれを聞いてやればいいってだけさ」
「そしてそんな話から学園のどんな所に不満を持っているのかや、何某かの希望の声があれば私たちに報告してほしい」
ナリタブライアンとエアグルーヴからの補足説明に二の足を踏んでいたマキバオーはきょとんとなる。
「んあ? そんなことでいいのね?」
「ああ、ブライアンやエアグルーヴの言う通りだ。君は皆から話を聞いて問題があれば私たちに話してくれるだけでいい」
「それならぼくにもできそうなのね。わかったのね! 《生徒相談窓口担当・生徒会長補佐官》、受けるのね!」
「君の決断に感謝する。今日はいい日だな。さあ、マキバオー君の生徒会入りを祝してもう一度乾杯と行こう」
こうして《生徒相談窓口担当・生徒会長補佐官》ミドリマキバオーの誕生と相成った。
今までは物静かだった生徒会室が、これからは賑やで活気に溢れたものに変わっていくことだろう。そんな予感がした。