俺が今の会社に再就職するまでの話   作:筆先文十郎

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男、とある漫画の台詞で立ち上がる

 ……俺はこれからどうすればいいんだ? 

 

 俺は本やゴミなどが散乱した部屋にいた。

 数ヶ月前まで俺はとある駅で働く駅員だった。しかしお客様が来る度に今やっている仕事を中断して対応しなければならない臨機応変さ。覚えないといけない制度。人間関係……。

『出発間際に切符を求めてくるなど困ったお客様は来ないだろうか?』、『電車が運行できないトラブルは発生していないだろうか』など仕事中はもちろん、休日も『誤った切符を販売したなど何かやらかしていないだろうか』と常に不安と恐怖が付きまとった。

 ミスへの恐怖、引き起こしてしまったトラブルによるパニック、運行停止などの突然のトラブルへの対応。上司や先輩には呆れられ、後輩にはなめられお荷物扱い……俺の心は完全に疲弊していた。

 

 どうやったら楽に、そして迷惑をかけずに死ぬことが出来るか。

 

 そればかり考えるようになっていた。

 とある野球選手のおかげで『自分の方がまだマシ』と考えられるようになったおかげで死ぬことだけは思い留まった。そして無事退職するまで仕事を勤めることができた。

 だがそれはゴールではない。むしろスタートだ。なぜなら生きるために必要なお金を得るという手段を失ったのだから。

 その生きるための手段を得るため就活をしなければならない。しかし俺はすぐに動くことが出来なかった。

 大学4年の頃を思い出す。

 当時の日本はリーマンショックの真っ只中だった。俺も何十枚も履歴書を書き、何十社も面接に行った。しかし俺を採用してくれる会社は一つもなかった。

 

 日本は大卒新卒でも就職は厳しい。

 

 そう言われる状態でも採用される周囲の人間は次々内定をもらっていく。その状況に俺は焦りと『俺はダメなやつなんだ』と劣等感ばかり募らせていった。そんな人間を雇おうと思う会社などあるわけがなく、正社員になれなかった俺はフリーターとなりスーパーで商品管理をすることになった。

 俺は色々な資格に挑戦した。だがそれは就活を優位にするための武器を得るためではない。就活をしないための逃げだった。

 内定を得られない。それは『お前には人間的価値はない』と言われているのと同じ意味だった。

 就職した今では

 

『ただ単に相性が合わなかっただけ』、『他に自分に合うところはある』、『内定出来なかったといって俺の人間性が0と決めつけられたわけではない』

 

 と思えるのだが当時の俺にはそんな発想に至る余裕も思考も人生経験もなかった。

 駅員を辞めた俺は『やっぱり俺はダメな人間なんだ……』と生きているのか死んでいるのかわからない、腐った人生を送っていた。

 そんなある日。俺は形だけのハローワーク通いの帰りに古本屋に足を運んだ。そこでとある一冊を手にした。それは 黄巾党(こうきんとう)の乱から(しょく)滅亡までを描いた三国志を舞台にした漫画だった。

 ある男の台詞が俺の目に留まる。それはBという男が、所属する国の(がん)となっていた猛将Gを敵将ごと殺す罠を軍師の命令通り作ったことだ。

 Bは命令通り遂行するも雨により失敗。九死に一生を得たGは軍師に「敵将と一緒に自分を殺すつもりだったのか!?」と抗議した。Gに反逆、敵国に走らされるのを恐れた軍師は「全てはBのせいだ」と全責任を押し付けBの軍職を剥奪し体罰を与えた。

 その後の軍師の使者から真相を知った後日。Gが軍師に「一兵卒になったBを部下にしたい」と軍師から直接聞いた時の台詞だ。

 

 それがしが耐えることが蜀のためになるならばもう一つ耐えることも苦痛ではございませぬ

 

 この時、俺の中で電流のような何かが駆け抜けた。

 確かに就活を再開させれば無能の烙印(らくいん)を押される苦しみが待っている。しかしこのままズルズル親のすねをかじってもジリ貧になるのは明らか。第一親のすねをかじり、その上社会に何一つ貢献していないという罪悪感が俺の心を(むしば)み続けていた。

「そうだ。俺はもう何度も『無能の烙印』を押されまくっているんだ。今さら恥のひとつやふたつ掻いたところで何を恥ずかしがることがある。『無能の烙印』という勲章が一つ増えるだけ。話のネタになる!」

 この時、俺は笑っていた。自嘲ではない。やってやろうという決意の笑みだった。

 

 翌日。俺はハローワークへと向かった。形だけではない。本当に仕事を見つけるために。




三国志の産みの親である横山光輝先生も、まさか馬岱の何気ない台詞で人生を大きく変えることになるとは思ってもいないでしょうね。
次回『今の会社、よくこんな奴を雇おうと思ったよな(仮)』投稿予定。
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