俺が今の会社に再就職するまでの話   作:筆先文十郎

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Y山(よこやま)光輝(みつてる)先生のS国志(さんごくし)に登場するB岱(ばたい)の一言で吹っ切れた主人公が再就職に向けて本格的に動き出す。


今になって思っても、よくこんなやつを雇おうと思ったよな

 不採用=無能の烙印と考えていた俺がとある漫画の台詞によって

 

 今さら恥のひとつやふたつ掻いたところで何を恥ずかしがることがある? 

 

 と開き直って二ヶ月近く。俺はハローワークと就職希望先の職種の情報を得るために図書館、面接までこぎ着けた会社へ行くため駅へ足繁く通っていた。(&情報収集という名の立ち読み)ボソッ

「……とりあえず俺には客商売は無理だな」

 大学在籍時の飲食店のアルバイトや駅員の経験から、俺は臨機応変を求められる仕事は向いていないことがわかった。逆にスーパーの荷物管理など、決められた作業を淡々とこなす仕事が向いていることがわかった。

 そこで俺は中途採用で家から通えるなどの条件で清掃や工場などの仕事を中心に探し、就職希望の会社に足を運んだ。

 だが俺には運転免許以外に有効な資格は持ち合わせていなかった。そして生活の糧を得たいという理由以外でその仕事に就きたいという気持ちはなかった。もちろん面接を希望する以上、その会社と職種の研究は怠らなかった。しかし詰めが甘いという部分はあったと思う。

 だからだろうか。面接をした後に来るのは決まって薄っぺらいお祈りメールという名前の不採用通知だった。

 これにはいくら「今さら恥のひとつやふたつ」と考えている俺でも心が折られた。だがここでも俺は逆転の発想に至った。

 

 そうだ。こうなったらとことん就職試験を受けて落ちてやろう! そんでもってそれをネタにしてやろう。100社就職試験に行って落ちたやつなんていないだろう。いたとしてもそんなの1%もいないだろう。

 

「よし! 目指せ、100社不採用!!」

 そんなアホらしい目標を掲げた俺は落ちたショックをごまかしながら就職活動に没頭した。

 そしてお祈りメール5通目から数日後。俺はとあるビルの前にいた。そこはエンジニアの人間を育成、派遣する人材派遣会社だった。

 大学はプログラミングとは無縁の文学部。そんな俺が目の前に立つ会社に就職するのは無謀とも言えた。しかし100社不採用という不名誉な目標を掲げた俺には、自分に向いていない職種を除く縁のない職種にも挑戦することは避けて通れない道だった。

 俺は入り口に置かれた電話で面接を希望した者という事を伝えると案内に従い会社へと歩を進めた。

 数分後。俺は人事の部長と名乗る男と応接室で面接することになった。

 席について対面すると担当者は事前に渡した履歴書を見ながら「まずお名前や経歴などを簡単に説明して下さい」という自己紹介、当社を志望した理由、長所と短所教えてください、会社(うち)に入ってどんなことがしたいかなどの質問をしていく。その質問に俺は立てかけた板に水を流すようにスラスラと答えていく。

(よし、今まで落ちたのは無駄ではなかったな!)

 担当者の笑顔に表情に俺は心の中で笑う。

 短い間に何社も面接をした結果、俺の中である種の余裕というものが出来ていた。無論、目の前の担当者は俺よりも遥かに経験豊富な社会人。それ故にオーラというものが放たれており、そのオーラに少なからず畏縮するところもあったが、その畏縮すらもいい意味で緊張感につながるほど俺の意識は研ぎ澄まされていた。

(もしかしたら採用するかもしれない……)

 そんな淡い期待から生じた僅かな心の乱れが、俺の黒歴史の1ページを埋めることになる。その事をこの時の俺は知らなかった。そしてその時が訪れる。

「えぇと。趣味に『小説執筆』と書かれていますが、実際どのような小説を書かれているんですか?」

「はい、官能小説です!」

「ッ!?」

 文字通り髪の毛が入らないほどの即答に、ピキッ! という効果音が聞こえてきそうなほど固まる担当者。凍りつく空気。気付いた時にはもうすでに遅かった。

(し、しまった……!!)

 俺は考える暇もなく即答してしまった自分に死ぬほど後悔した。

 この時。俺はとある平凡な会社員が催眠道具を駆使して女性を凌辱する小説を書いていた。故に馬鹿正直に「官能小説です!」と答えてしまった。

「……そ、そうですか」

 困惑する担当者。笑顔からどんな顔をすればいいかわからないといった表情に俺は

 

 ……終わった。何もかも……

 

 と他人事のように考えていた。それから他に色々聞かれたような気がしたが、頭が真っ白になってしまった俺は何を答えたか覚えていなかった。

 永遠とも思える面接時間は終わり、俺はビルを出た。

(あぁ、途中まではよかったのに……)

「……まあいい。次に行こう、次に……」

 俺は「100社不採用計画に一歩近づいた」と自分の心をごまかすように言い聞かせると、背中を丸くして希望先の会社を後にした。

 その数日後。7社目に向けて履歴書を作成中、今までの薄っぺらのお祈りメールよりも分厚い手紙が届いた。

 中身を開けるとそれは採用通知だった。

 俺は飛んで喜んだ。家族は自分の事のように喜んでくれた。同時にこの時の俺は思った。

 

 この会社、よくエロを書く(こんな)やつを雇おうと思ったよな

 

 と。

 その後俺は官能小説を書いていると臆面もなく言った俺を受け入れてくれた会社に入社。その後知り合った親友Hによってハーメルンという小説サイトを知り、オレンジ色の髪の高校生が死神代行になり数々の敵と戦う二次創作の作品を中心に様々な小説を投稿することになるのだが……それはまた別の話である。




私もこの主人公のように嫌なことがあっても前を向いて歩く勇気と行動力を常に持ちたいものです。
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