流星との出会い   作:zawadinosaur

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しゃけいくら明太子()


第五話 師と弟子と

 

 

 

〜現在〜

CCSRカルコッツパーク支部、通路にて。

 

「師を前にいきなり舌打ちとはな。 礼儀も作法も、まだまだ教え足りなかったらしい。」

 

「黙りなさい。」

 

普段通りのイズモの冷たい視線に、ヘレナは敵意を剥き出しにして応じる。

イズモは10年前身寄りがなくなったヘレナの教育係を務めていた男だ。

ヘレナの知識も、カセキバトルの戦い方も、全て彼から教わったもの。

彼がいなければ、今の自分はなかっただろう。

つまりは、人生の師というやつだ。

だが、ヘレナはそれに感謝はしていないし、彼のことを尊敬もしていない。

人生の師といえば聞こえはいいかも知れないが、彼の教育方法は人間向けではない。

一般的に教育は『アメとムチ』が有効と言われているが、彼の場合は『ナイフとムチ』と言った方が適切なほどだ。

言葉のナイフで心を抉り、その後言葉の鞭で発破をかける。

この10年間で、何度自分の無力さに打ちのめされ、涙で枕を濡らしたか思い出すのも馬鹿馬鹿しいくらいだ。

正直、顔を合わせるのも気が滅入る。

 

「それで一体何の用、イズモ? 貴方がわざわざ私に会いにくるなんて、ここ最近一度もなかったじゃない。」

 

「敬称もロクに付けられんのか…。 せめて『さん』を付けろ。 若しくは『研究部隊総隊長殿』だろう。」

 

「敬うべき相手には使うわよ。 特にエドワードさんとかにはね。」

 

エドもまた、稀にではあるがヘレナに教鞭を取ってくれていた。

彼の教え方はイズモとは違い、思いやりに溢れていた。

彼のことは未だに尊敬しているし、幼い頃は淡い想いを寄せていたこともあったほどだ。

流石に現在は、少女らしい幻想だったと自覚はしているが。

 

ヘレナの答えにイズモは呆れたように息を吐くと、

 

「まあいい……では、本題に入ろうか。」

 

その琥珀色の瞳でこちらを射抜く。

昔からの癖で、なんとなく身構えてしまう。

もうそんなことをする必要もないと分かっていながら。

 

「今回の調査任務、相当な強敵なようだがお前一人の手に負えるのか?」

 

「そんなこと貴方には関係ないでしょ?」

 

「いいやあるとも。 不肖の弟子とはいえ、教え子が任務を失敗したとなれば、育手である私の失態だ。 責任を負う必要がある。」

 

「〜っ。」

 

一瞬で正論を言い返され、ヘレナは思わず言葉に詰まる。

彼と会話をすると、何を言っても数瞬の間もなく鋭いカウンターを打ち返される。

しかも、全く変わらない表情のおまけ付きだ。

打てど響かず、動かざること山の如しだ。

だからイズモと話すのは苦手なのだ。

 

「レイシア君には待機を命じているようだな? 何故だ、理由を言え。」

 

「………貴方にだけは、言いたくない。」

 

何故自分はここまでメテオールに執心しているのか。

その理由は、自分の中でも言語化出来ていない。

ただ変な期待、或いは予感があるだけだ。

そんな感覚的なことをイズモに言った日には、完膚なきまでに説き伏せられ、嘲笑される。

それだけはもう懲り懲りだった。

ヘレナは足早にその場を去るために、会話を切り上げ、歩を進める。

 

 

 

 

「……まさか、あのノライバーに自分の姿を重ね合わせていた…などとは言うまいな?」

 

「ーーーーー。」

 

すれ違いざまのその言葉に、足が止まり、呼吸を忘れた。

言い返す言葉くらい、何か一つくらいあったはずなのに。

イズモの言葉が、自分の中の足りなかったものに嵌るような音がした。

10年前に復讐の道に生きると決めたあの時と、似たような感覚だ。

 

「沈黙は、肯定と受け取らせてもらうぞ。」

 

「……っ違…!」

 

何か言い返そうと振り返るが、やはり何も浮かんでこない。

喉と思考に枷を掛けられたような気分だ。

 

「何の意味も生産性もない感傷だな。 だからお前はいつまで経っても中途半端なんだ。 この調子ではお前の悲願が叶うのは遥か先になりそうだな。 いや、最早叶わんか。」

 

「ッッ………るさい…!」

 

イズモはヘレナの震え声を気にも止めずに言葉を続ける。

彼女の心の傷を抉るような言葉を次々と。

 

「そんな半人前のお前が危険ノライバーを一人で打ち負かすだと? そんな戯言を吐く暇があるのなら鍛錬に勤しめ。 自惚れるのも大概にしておけ、愚か者が。」

 

「うるさいッッッ!!!!」

 

ヘレナの怒号が、廊下に響き渡る。

短い沈黙の後に、職員たちが怪訝そうな顔をしてこちらを見ているのに気が付き、羞恥心が一気に込み上げてくる。

そんなヘレナを、イズモは冷たい目で見下ろしている。

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

 

考えるよりも早く、ヘレナは逃げるようにその場を走って去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にお前って奴は手心を知らないな、イズモ?」

 

「お前が甘すぎるだけだ、エドワード。」

 

ヘレナが走り去った後の廊下に、赤毛の男が姿を現す。

口ぶりからして、先程の2人のやり取りを見ていたのだろう。

イズモの指摘に苦笑いを浮かべると、壁にもたれかかる。

 

「お前の注文通り、ヘレナには発破をかけておいた。 少しはマシになっただろう。」

 

「…ああ、ありがとう。 やっぱり信用できる奴だよ、お前は。」

 

「礼には及ばん。 私もあのような惰弱な覚悟で戦いに臨ませるのは反対だったからな。」

 

「…そうか。」

 

イズモは一見冷徹だが、一つの業務に関しては完璧にこなしてくれる。

それに情がないわけではない。

先程の言葉は彼なりにヘレナを励ましていたのだろう。

表には出していないが、イズモはヘレナのことを気にかけているのだ。

 

(それに比べて僕は……。)

 

彼女に何をしてあげているだろうか。

何かを教えることもほとんどせず、ただ見守ってきただけの自分は、彼女に何を?

そんな思いから、エドワードは顔を伏せる。

 

「……筋書き通りにことが運べば良いな。」

 

そんなエドの心情を知ってか知らずか、イズモが声をかける。

筋書き通り、そうこの状況はエドの采配で作り上げたものだ。

ある一つの目的のために。

 

「ああ、そう願ってるよ。 彼女のためにも、ね。」

 

そう言ったエドの顔は、どこか暗く、そして優しかった。

だが、依然として気分は晴れなかった。

当然だ。

 

ーーー何故なら、このまま彼のシナリオ通りに運べば、ヘレナきっとここを去ることになるのだから。

 




あと2話くらいてお話動く予定です!(多分)
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