巨竜の一挙で地面が割れる。
翼の一薙ぎで、空が裂ける。
轟音、地響き、咆哮。
平穏であった発掘場はさながら戦場のように成り果てていた。
『ヘレナ!突撃来るよ!!』
「ッハダル回避!!!」
ハダルがヘレナの指示を実行するよりも先に、巨竜の土手っ腹に赤い流星の突進が突き刺さる。
ダメージをものともせず、ハダルがその壁のような体躯でタックルをする。
だが、その一撃は虚空を切っただけだ。メテオールはハダルの足元を刹那の間に潜り抜け空へと再び急上昇し、瞬く間に岩場の陰に消える。
『ダメージは………400!?サポートもなしで何って威力だふざけてる!!』
「ッ規格外にも程があるわね……。」
属性相性こそあれど、サポートもなしでこれだけの攻撃力を持つとは想定外だ。
ハダルはキセキの化石をチャージしてあるため、全リバイバーの中でもトップクラスの耐久性を持つ。だが、そんなハダルでもこのままではあと数発で撃破されてしまうだろう。
加えて、あの機動性能。
鈍重な大型リバイバーの攻撃は、余程のことがない限り避けられてしまう。
このままではジリ貧だ。
「リーラ、敵の位置は分かる?」
『ああ、北西の岩陰にいる。さらに追撃する気はないみたいだね。』
「…何でかしら…?あのまま短期決戦で決めにくると思ってたんだけど…。」
あの攻撃力ならば、連続で攻撃を仕掛ければハダルを仕留めることは容易だったはず。それなのに、あえて距離を取って時間を稼ぐということは…。
「…リーラ、メテオールに何か変化はある?」
『…ちょっと待ってて。調べてみるよ。』
「出来るだけ急いで。あまり時間はないみたい。」
ヘレナがそう言い終わると同時に北西の岩陰から、赤いシルエットが上昇したのが視認できた。メテオールはゆっくりと高度を上げると、再びこちらに狙いを定めて旋回を始める。
「…ハダル、かなりキツいと思うけど、激突の瞬間に『タワーブレイド』でカウンターよ。」
ヘレナの指示にハダルは『任せろ』と言いたげに猛牛のように鼻を鳴らす。
無論ハダルの受けるダメージは増加するだろうが、あれだけのスピードの突進だ。
向こうもタダでは済まない筈だ。上手くいけば、この攻撃で仕留められる。
「ッ来たわよ!!」
先程のは比べ物にならない程の速度での突撃。
瞬きする間もなく、メテオールはハダルの目と鼻の先まで距離を詰める。
「ハダル!!『タワーブレイド』!!」
ハダルの鉄柱のような首の一薙ぎがメテオールに直撃し、岩壁に叩きつける───────はずだった。
「なっ!?」
たが、ハダルへの突進が決まる直前で、メテオールは急停止するとその場でぐるんと一回転する。
突然の攻撃の中断に対応できず、ハダルの『タワーブレイド』はそのまま何もいない空を裂く。
意表を突かれた上に渾身の一撃を躱されたハダルは思わずガクンと体勢を崩した。
──メテオールが、その機を逃すはずもない。
先の回転の勢いを殺さず、ぐるんと大きく一回転を行うと、そのままサマーソルトをハダルの頭部に叩きつけた。
ズドンという鈍い破壊音と共に、ハダルの身体が大きく弾かれ、地面に倒れ込む。
「ッッッ!!!」
30メートルを超える巨体の転倒に、強烈な地響きと共に土煙が舞い上がる。
メテオールは今度は姿を隠さずに、そのまま遥か高高度へ舞い上がると、金切声のような咆哮を空に響かせた。
間違いなく、次の一撃で確実に仕留めに来る気だ。
『お待たせヘレナ!!解析終わったよ!』
「待ってたわよリーラ…ッ!どうだったの!?」
リーラの通信に、思わず声が弾む。
この圧倒的不利な現状を打破できるかは彼女の報告にかかっている。
『ああ、メテオールはあの突進をする度に反動でLPが2割削れてる!それにあの技は一度出すとしばらくインターバルが必要みたいだ。
どうやらあの個体、先天的に身体が脆いんだ。LPが通常個体よりだいぶ低い。』
「…成る程ね。」
つまり、先のサマーソルトは始めから突撃攻撃をする気がなかったということか。
次の一撃で決めに来る以上、奴の残りLPは6割といったところか。
あと一撃何か攻撃を当てれば、恐らくハダルの『アースクラッシュ』で仕留められる。
しかしどうやってあの速度で動く的に攻撃を当てる?
こちらがカウンターを狙っていたことは、先の一撃で読まれた。
では、どうやって。
「……………。」
………手がないわけではない。
だが、これは成功率が低い賭けだ。
それに良心の呵責もある。彼女個人の本音としては、この手はあまり取りたくない。
……しかし今は手段を選んでいる場合ではない。
これ以上の被害を食い止めるためにも、今はCCSRの隊長として非情な決断しなくてはならない。
『……ヘレナ、一つだけ手があるんだけど。』
「多分、今同じことを考えてるわ。」
「さあ、立ってハダル。あともう一踏ん張りよ。」
ヘレナの言葉に、ハダルはふらつきながらも立ち上がる。
彼の目は、心は、まだ折れてはいない。
その瞳には未だ闘志が燃え上がっている。
「……来なさいよ。」
ヘレナの挑発が聞こえていたのか、メテオールはハダルにトドメを刺すべく、急降下して速度を増していく。
加速しきったその速度は、もはや視認出来ないほどのものだ。
まさに、一条の流星。
そこから放たれる一撃は、途方もない威力を持つだろう。
「その速度に攻撃力、冷静な判断能力。貴方は危険ノライバーの中でも屈指の強さを持っているわ。並のリバイバーじゃ、貴方に手も足も出ないでしょうね。」
反動があるとはいえ、大抵のリバイバーはあの突撃には対処出来ないだろう。敵ながら天晴れだ、賞賛に値する。
だが、
「まあ、
「!?」
ハダルの眼前まで迫っていたメテオールの軌道が、大きく外れて弾かれる。
状況が理解出来ないまま、メテオールは地面に激突する。
必殺の一撃が防がれたのは彼にとって初めての経験だった。
ブレる視界の中、敵に目を遣ると彼女の視線の先に橙色の小型リバイバーが力なく横たわっている。
あれは確か、会敵した際に呼び出されていたリバイバー。
巨龍との攻防で姿を見せないと思っていたが、まさかこれを狙っていたというのか。
意表を突き、必殺の一撃を防ぐために。
「っごめん…レグルス……!!」
ヘレナの言葉と共に、レグルスと呼ばれたリバイバーはメダルの姿へと戻る。
当然だ。あれだけ威力を増した渾身の突撃に横から突っ込んだのだ。
人間が全速で走るトラックに横から突っ込むようなものだ。
小型恐竜のLPで耐えられるはずもない。
「ッ!」
落下の衝撃が未だ身体に響くが、メテオールは立ち上がる。
突撃が防がれたところで、まだまだ手はある。
敵の巨龍は虫の息。
あちらの攻撃が鈍い以上、攻撃が自身に届くことはない。
今度こそ仕留める。
「っ!?」
だがその時、異変に気が付いた。
───立ち、上がれない?
足を地につき、力を込めるが何故かブレて転倒してしまう。
ならば飛行すればいいと、歪な翼を羽ばたかせるが、それも上手くいかなかった。
視界が歪む。
平衡感覚が失われていく。
何故。一体、どうして?
「……レグルスの『シノサーロキック』は、相手を確実に混乱させる。 もう自由には動けないわ。」
ヘレナのその言葉に、焦燥感がメテオールの胸を焼く。
何故なら、
「〜ッ!!」
巨龍が、こちらへ地響きと共に歩を進めているからだ。
───まずい。
二度の突撃攻撃による反動、先の『シノサーロキック』、そして先天性の耐久力の低さ。
今の状態であんな体躯の怪物の攻撃を受ければ、確実に倒される。
この状況を打破しようと、この場から離脱しようとメテオールは必死に翼を羽ばたかせる。
だが、それも無為な足掻きだった。
既に自分は、巨龍の間合いに入ってしまった。
───ふざけるな、こんなところで
「トドメよハダル。『アースクラッシュ』。」
メテオールの心情など気にも留めず、ヘレナは冷酷に指示を下す。
ハダルの咆哮と共に、衝撃波が辺り一帯の全てを呑み込んだ。
「…まだ耐えてるのね。」
土煙の中、メテオールは未だメダルの姿には戻っていなかった。
ただの属性相性?
それとも、彼の譲れない何かだろうか。
───メテオールは、恐ろしく強かった。
多分、これまで交戦したノライバーの中でもトップクラスに。
正直、彼に勝利できたのも運の要素が強い。
(そういえば結局、何も分からなかったわね…。)
この戦いには、ヘレナが望んでいたような答えはなかった。
落胆の気持ちは強かったが、不思議とどこか納得していたところもあった。所詮、こんなものだと。
「…まあいいわ。 ハダル、トドメを──」
だがその刹那、気が付いた。
「──────。」
こちらを睨みつけるメテオールの目に。
怒り、嘆き、憎悪。
世界から自身に与えられた呪いにも似た理不尽への怒りが、煌々と燃え盛っていた。
───自分と、同じだった。
『殺してやる。』
『絶対に許さない。』
と言わんばかりの双眸。
かつての自分と全く同じだ。
でも、それだけではない。
怒りの奥にある本心が、見えてしまった。
だって、自分と同じだから。
見ないようにしていた自分の心を見ているようだった。
彼はきっと、孤独を恐れているんだ。
10年前から幾度となく、孤独に震えた自分と同じで。
───ああそうか、だから。
自分がメテオールの討伐に執着していた理由が、やっと分かった。
復讐者である自分と、彼の姿を無意識のうちに重ねてしまっていたのだ。
共に在りたいと、願っていた。
放って、置けなかったんだ。
『ヘレナ、どうしたの?早くトドメを…。」
トドメを目前に動きを止めたヘレナを訝しんだリーラの声に、ハッと我に帰る。
「……ねえ、リーラ。」
『ん? どした?」
「至急、レイシアに連絡して。こっちに来て欲しいって。」
ステラァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!