禪院直哉の趣味的な人生 【完結】   作:VISP

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何か無駄に長くなってしまった感…
やはり腕が落ちたなと思う今日この頃。
だってやりたい事と仕事が多過ぎるから!



第二話 呪術高専編1

 禪院真希と真依にとって、禪院直哉は人生の指針であり、全てであった。

 

 

 血縁上では従兄に当たる直哉は二人の共通の婚約者であり、育ての親であり、師匠であり、想い人だ。

 物心ついた時には既に自分達を庇護し、慈しみ、無償の愛を注ぎ、それでいて禪院という家で、呪術界で生き残れる様にと鍛錬を課し、指導し続けた。

 メンタル弱めの真依は厳しい指導に何度も泣いたが、直哉は決して鍛錬を止める事は無かった。

 どうしても止めたい、私が頑張るから妹は勘弁してやってくれと真希が訴えると、直哉はただただ沈痛な顔のまま、必要な事だと言って二人に鍛錬を課し続けた。

 

 「オレみたいな人非人なんか嫌うてくれて構わへん。でも、これだけは二人のために絶対に必要な事なんや。」

 

 今思えば、直哉は嫌われたがっていたのだと思う。

 まだ幼い真希と真依を自分に、禪院家の次期当主の婚約者として縛り付ける事の無い様に。

 最低限自分の身を守れる程度の強さを持たせた上で呪術界から離れて、何処かで素敵な人と出会って幸せになれるようにと。

 

 「クソが。ぜったいはなれてやんねー。」

 「なおやさま、かってすぎ。」

 

 二人の気持ちも知らないで、直哉は二人と距離を置く事を決めていた。

 それは二人の傍からあの暖かくて大きな、それでいて独りぼっちで優し過ぎる人がいなくなってしまう事を意味していた。

 よく出来たと、ニコニコ褒めてくれる優しい声も。

 頑張ったなぁと、頭を撫でてくれる暖かい手も。

 今日はご褒美やで、とショッピングに出かけて可愛い洋服を買ってもらい、一緒にファミレスに行く事も。

 二人は良い子のままでいてね、と悲しげな声も。

 二人共えらい好きやでー!、と喜色満面の声も。

 二人が直哉から貰った何もかも。

 それらをまた貰う事も、直哉に何かを返す事も出来なくなってしまう。

 それは嫌だ、とてもとても嫌だ。

 直哉のいない人生なんて考えられない位に、真希と真依にとって直哉の存在はあって当然のものだった。

 

 「真希、真衣。お前達には直哉と結婚し、子供を産んでもらう。」

 「より多く、より優れた子供を産め。」

 「もし優秀な子供が生まれれば、一生直哉と共にいさせてやろう。」

 

 だから、父親と思ってもいない男と当主からの言葉に、二人は柄にもなく喜んだ。

 正直、直哉はモテる。

 何時二人の傍からいなくなってしまうのか、別の誰かを選ぶのか、気が気でなかった。

 使用人や非術師にも優しく、優秀な者は取り立て、家に不利益を与える者は容赦なく罰する。

 優秀で人望も高く、容姿も優れて物腰柔らか、何よりも禪院の相伝の中でも特に強力な十種影法術の亜種を持った次期当主。

 禪院系列の人間のみならず、御三家以外の名家から日々山となる程の釣書が届く。

 しかし、何処か人嫌いの気があり、身内と認めた者しか一線を超えさせようとしない直哉。

 そんな彼の懐に入り、次代を継ぐ役目を自分達は与えられた。

 むかつく爺共から与えられた事は癪だが、これで周囲から邪魔されず、合法的に自分達は直哉と共にいる事が出来ると喜んだ。

 だと言うのに、こんな事は絶対に受け入れられない。 

 

 「やだ、なおやさま…。」

 「べっきょとかゆるさねーぞ。」

 

 ズボンの裾を掴み、涙目で上目遣いの縋る様な視線を向けてくる双子の婚約者(幼女)に直哉は引き攣った笑みを浮かべながら答えた。

 その際、目を合わせるためにしゃがみ込んで説得する当たり、嫌いになった訳ではない事が分かるが…。

 

 「いや、単に全寮制の学校に入るだけやさかい、そないなたいそに捕らえんといて。」

 「や」

 「なおやはもてるからわたしらいないとうわきするかも。」

 「扇叔父さーん!オタクの娘さん方がけったいな事覚えてもうたー!」

 

 なお、通りがかった直毘人は爆笑した。

 

 「世間一般の幼子よりも厳しく躾けたのに何故…?」

 「それ、禪院家では極上の扱いだからな。」

 

 そして通りがかった甚壱にそもそもの前提が問題だと教えられるのだった。

 直哉が多少風通しをよくした所で、千年単位の名家である禪院の頑固過ぎる汚れは未だ一掃できていない。

 見つけ次第血祭りか粛清か拷問かボロ雑巾の様に使い捨てるコースに遭わせているが、それでもまだ禪院内部でもゴミは多く、それらを相手に粛清・懐柔・扇動と手練手管を尽くして対処している最中だった。

 そのため、真希・真衣の二人に余計な苦労をかけており、その分一緒にいて厳しくも優しく穏やかな時間を過ごす様に気を付けていた。

 その結果がご覧の有様である。

 

 「しゃーない。護衛のロボ付けたるさかい、これで納得してや。」

 「やすみのひにかおだせ。」

 「んー…何も予定無い日で良い?」

 「しばりも。」

 「ええで。」

 

 こうして直哉は幼い二人の婚約者の影に護衛としてメリクリウスとヴァイエイトを潜ませ、高専へ向かうのだった。

 真希にヴァイエイト(青くて大砲持ち)、真依にメリクリウス(赤くて盾持ち)となっている。

 こうして、二人は取り敢えず納得した。

 だが注釈すると、二人は千年続く呪術師の家系たる御三家の禪院の宗家の生まれである。

 強力な術式や呪力こそ無いものの、そのイカレ具合は個人差こそあれどしっかりと継承されている。

 そして結婚・恋愛方面から考えた場合、大抵の呪術師というのは男はクズか事故物件、女性は多くは死んだ目をしてるか少数が屈強な呪術ゴリラであるため、幸せな結婚なんてどちらにせよ望めない。

 呪術師の結婚の8割は政略結婚か見合い婚なのも、優秀な子孫を残し、一族を確実に存続させるためだけが理由ではないのだ。

 そんな訳で、一般人や才能が無い者を相手に結婚したり愛人作ったりする事も多い。

 で、翻って真希と真依の二人は、一体どの様な恋愛・結婚観を持っているのかと言うと…

 

 「おんなって、けっこんできるとしは16だったな。」

 「うん。じゃあそれまでまとうね。」

 「おう。でもべんきょうにたんれんにびようとけんこうにきをつけようぜ。」

 

 彼女達もまた、しっかりとイカレている事をまだ直哉は知らなかった。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 直哉が入学したのは勿論ながら京都府立呪術高等専門学校である。

 禪院家中だけでもまだまだ掃除し切るには時間がかかるのに、下手に東京校に行ってはまた汚れてしまう可能性がある。

 当主である直毘人は余程酷い事になるまでは手出しせず静観の構えだが、コネを作る意味でも京都校への入学は歓迎であった。

 なお、同じ御三家で同年代である五条の坊こと五条悟は万年反抗期のままに改革派の中心である東京校へと入学している。

 そのため、禪院家ではあの五条の麒麟児と自分達の次期当主が交流会で戦うその時を、更に言えばあの気に食わねぇ五条の糞餓鬼が直哉の手でメタクソにやられる事を期待していた。

 まーそーなるよなーと直哉は思った。

 江戸時代に互いの家の相伝術式持ちの当主同士が御前試合で相打ちかまして以来、仲の悪い御三家の中でも禪院と五条は特に犬猿の仲なのだから。

 お前らそんな事してる暇あったら特級呪物の一つや二つでも破壊しておけよ…と直哉は思っているが、御先祖を悪し様に言うのは流石に外聞が悪かろうと黙っている事にした。

 さて、入学してから喧嘩売ってきた上級生を返り討ちにしてサクッと上下関係を刻んだ直哉だが、自分からは決して喧嘩を売る事なく、また補助監督や窓に対しても余程相手に問題が無い限りは物腰丁寧である事から周囲からの人気は高かった。

 穏やかで、理知的で、思慮深く、呪術業界の事情に明るい。

 それでいて敵対した者には呪霊だろうが呪詛師だろうが何だろうが酷薄に対応する。

 任務に積極的であり、時に後輩や先輩の任務を代わったり、手伝う事すらある。

 こんな感じなので、高専上層部からは禪院直哉は期待の新人にして意外と取っ付きやすい名家の坊ちゃんとして認識されている。

 無論、腹の中に一物あるのはお互い様なのでとやかく言う事は無い。

 この辺、誰であっても名家ならば噛み付く五条の坊ちゃんとは大違いであった。

 こんな感じに同じ御三家で尚且つ相伝術式(とその亜種)持ちなので、直哉と悟はよく比較対象にされていた。

 更に言えば、こうした話の締めは大体こんな風になる。

 

 「でも人格面は直哉様の圧勝だよな。」

 「どちらも優秀ではあるんだが…悟様は人格がな。」

 「何故天はあの人に何物も与えてるのに人格だけは与えてくれなんだ…。」

 

 同じ御三家、同じ相伝、同じ年齢。

 しかし、こと人格や素行に関しては直哉が圧倒的に上だった。

 そりゃまー普通の人生過ごした社会人としての記憶と人格があるのだから人付き合いの大切さは身に染みて分かっている事だろう。

 が、呪力と術式最優先で人格・人権何それ?の糞オブ糞な環境で育った五条悟君にはその辺の大切さなんて一切分からないのである。

 だがまぁ、そーゆー内容の話を仔細を変えてあちらこちらで言われ続けたら、当然ながら腹が立つ訳で…。

 

 「おい。禪院直哉ってのはどいつだ?」

 「こいつです。」

 「え!?ち、違います!」

 

 交流会当日、端からトバしてる五条・万年反抗期・悟はしょっちゅう自分と比較対象にされる禪院直哉君に殺意的な意味でご執心なのでした☆

 直哉に即座に指名された京都校の生徒は涙目になって首を左右に振るだけの機械となってしまったが、殆どサングラスで隠れた六眼で見破ったのか、直ぐに直哉へと視線を向ける。

 

 「嘘つけお前だろ。」

 「チガイマス。ワタシハタツヤデス。」

 「どうやって出してんのその声…?」

 「ヒトチガイデス。」

 「つか相伝に近いけど違うじゃん。何これ?」

 

 妙な裏声で目を反らしながら話す直哉に、周囲の人間が珍妙なナマモノを見る目を向ける。

 普段ならば持っている術式等で相手を人間か腐った蜜柑か雑魚かそれ以外かと判断する五条悟だが、自分の知識にはない術式に困惑を隠せない。

 

 「内容が辞書かって位に文字数多過ぎて読み切れないとかマジで何なのこれ?」

 「実際に見てみれば分かり易いさかい、試合まで待ってほしおすかなって。」

 

 そんな訳で交流会の開催である。

 その内容は初日は団体戦で、二日目は個人戦である。

 前者は指定された区画内に放たれた二級呪霊を先に祓ったチームが勝ちだが、区画内には三級以下の呪霊も複数放たれており、日没までに決着が着かなかった場合は討伐数の多いチームの勝ちとなる。

 それ以外のルールは一切無し。

 つまり、殺し以外なんでも有りなのである。

 加えて言えば、例年の治癒術者以外にもその筋では既に天才として名高い家入硝子もいるので、今年は即死以外は大体治せる状況だった。

 Q つまり?

 A 例年以上に荒れる可能性極大♡

 そんな事情をしっかりと理解していた直哉は他の生徒達を重傷者多数な未来から守るべく、策を弄した。

 

 「んじゃ、ちょいド肝抜いたろうか。」

 「具体的にはどうするんです?私達はあちらの主力二人を止められませんよ?」

 

 京都校側では直哉に意見する者や質問する者はいても、反対する者は滅多にいない。

 それは直哉の実力を知っているが故の信用であり、喧嘩売ってきた先輩の腐った蜜柑予備軍の末路が故の恐怖からでもある。

 無論、直哉の実績と人柄から無用な人死にを出す事は無いという信頼も含まれるが。

 それでも麒麟児たる五条悟とその親友の夏油傑の二人は別格であった。

 

 「あの手の怪物には対処さしたらあかん。初手で終わらせる。」

 「あの、それで自分達は何を…?」

 「オレが失敗した場合、想定通り動きなはれ。」

 「つまり時間稼ぎと索敵、呪霊狩り班に分かれて行動せよ、と。」

 「まぁ気楽に気楽に。大体はこちらでなおすさかい、ね?」

 

 その後、試合開始と同時に両校の生徒達は空を見上げた。

 巨大な、余りにも巨大な鋼鉄の塊が、宇宙戦艦らしき物体が校庭上空に浮かんでいたのだ。

 その大きさたるや、全長120mは優にあるだろう。

 実はこれで本来のサイズの10分の1であると、この威容を見て一体誰が信じるだろうか。

 

 「SDF-1マクロス…!」

 

 一般出かつアニメもそこそこ見る傑は、一目見てソレが何なのか理解したのか、呆然と宇宙戦艦を見上げて呟いた。

 その声色には隠し切れない興奮が滲み出ており、その瞳はキラキラとトランペットを見る子供の様な煌めきがあった。

 なお、カラーリングは初代アニメ版ではなく、愛おぼえていますか仕様である。

 

 「まく…?傑、アレ何か分かんの?」

 「え、悟はマクロス知らないの!?」

 

 信じられねぇと言わんばかりの夏油に、五条がちょっとムッとする。

 何せ彼は箱入りの坊ちゃんなので、世間一般の子供らの見る様なアニメには余り触れた事が無いのだ。

 況や彼の生まれる前に上映された作品ともなれば、シリーズが長くても知らないのは無理もない。

 しかし、親友大好きな五条はそれで相手を殴ったり怒ったりせず、傑の問いにちゃんと「知らない」と答えた。

 この辺り、ゆっくりとだが情緒が育ってきている証だった。

 

 「とある有名なアニメに出て来る宇宙戦艦だよ。中に街や工場があって、変形したりビーム撃ったり、戦闘機を発艦したりする。」

 「へー。」

 

 よくわかりません、って感じで相槌を打つ五条に夏油は(後で絶対布教しよ)と硬く誓うのであった。

 

 『これよりトランスフォーメーションを開始する!』

 『トランスフォーメーション、実行!』

 

 夏油の言葉を証明する様に、変形が始まった。

 船首と船尾が左右に割れ、左右に配置されていた空母部分が左右に突き出る。

 ブリッジ含む中央ブロックが折れながら胴体になり、それに合わせてその他の部分もそれぞれが人型の四肢に相応する部分へと移動していく。

 出来上がったのは、両肩から上に突き出す一組の開放型バレルが特徴的な、全長120mもの巨大な人型ロボットだ。

 

 『デルタ1より各員へ。これよりマクロスは主砲を発射する!』

 

 両肩の開放型バレルが機体正面を向き、膨大な呪力がスパークしながら充填される。

 それが自分達に向けられていない事に安堵しつつ、東京校のメンバーは次に何が起こるのか大凡予想できた。

 しかし、呪術師からしても余りに非現実的な光景に、彼らはその行動を阻止する事も忘れて魅入られていた。

 

 『撃てェーーい!』

 

 京都校内の交流戦会場として指定された区域。

 二級を含む呪霊の殆どがいる、しかし東京校の生徒達を巻き込まない絶妙かつ広大な範囲。

 独特な発射音と共に放たれた凄まじい閃光と共に、全てが薙ぎ払われた。

 

 『だ、団体戦終了!お疲れ様でしたー!』

 「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 次いで、呪霊の殆どが祓われた事を知った運営側からのアナウンスにより、東京校は訳が分からないままに敗北を突き付けられた。

 五条悟にとって、これが高専時代における初の敗北であった。

 

 「今日は負けてやらねぇぞ禪院ッ!」

 「おー怖!五条君ったらやる気満々やん。」

 

 翌日、先輩方を怯えさせ、夏油に宥められて漸く落ち着きを気休め程度に取り戻した五条は、その長い中指を綺麗におっ立てながら吼えた。

 

 「そやけど堪忍な。昨日設備を壊し過ぎたさかいって、今日の個人戦は出場停止で謹慎になったんや。」

 「は?????」

 

 直哉の手には「私は設備をたくさん壊しました。反省してます。」と書かれた色紙があり、彼の言う通りならば五条は初日の苛立ちを直哉にぶつける事は出来ないと言う事だった。

 

 「ふっっっざけんな!勝ち逃げなんて許さねぇぞッ!!」

 「せやかて工藤。」

 「誰だよ工藤って!?」

 

 五条はほけほけ笑う直哉の両肩を掴んでガクガク揺さぶるが、そのやり取りを聞いた周囲はブホッ!と吹き出したのだった。

 その後の個人戦は苛立つ五条の相手を京都校側がくじ引きで決定し、押し付けられた3年の先輩は泣きながら戦いを挑み、当然の様に五条に吹っ飛ばされ重傷を負った。

 腐った蜜柑予備軍ならば五条悟のヤバさは十二分に聞き及んでいる。

 故に彼は気絶から目覚めた後に命があっただけ幸運だと喜ぶのだった。 

 

 「てめー来年は逃げるんじゃねーぞ!」

 「あ、五条君。オレらこれからレクリエーションの野外炊飯とBBQやけど、君達も参加しいひん?」

 「…え、何それ初耳。」

 「オレの提案で今年からやる事になったんやで。沢山用意してるさかい、良かったら君らも一緒に参加しいひん?」

 

 箱入りの五条、一般出だがBBQする様な場所は呪霊が多いのでまともに参加した事のない夏油と家入。

 一応名家の庵と出身が中華系?と言われる冥もサバイバルなら兎も角、レクリエーションとしてのBBQ等は初体験だった。

 そんな訳で東京校側も全員が参加し、レクリエーションは大いに盛り上がった。

 皆で野外炊飯でカレーを作り、炭火で肉・野菜・マシュマロ等を焼き、舌鼓を打った。

 そして粗方洗い物を片付け終わった最後には盛大にキャンプファイヤーを燃やし、直哉が持ち込んだ季節外れの各種花火で大騒ぎという、極一般的な学生らしい時間を過ごしたのだった。

 翌朝、また来年もやろーぜ!と約束してはしゃぎ疲れた東京校の面々を見送るのだった。

 

 「ほな冥さん、今後ともよろしゅうおたのもうします。」

 「分かっているとも。君とは今後も良い商談をしたいものだね。」

 

 その影で、こっそりと商談を成立させた二人がいた。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 学生時代の直哉の生活は、はっきり言うと忙しい。

 既にして1級術師の資格を持っており、呪霊や呪詛師の相手に学業、更に定期的に禪院家に戻って次期当主としての仕事と勉強、そして一族や使用人らがやらかしてないかの確認(普段は式神達が見張り)、そして自身の鍛錬である。

 それら諸々が無い時間のみ、直哉は自分のために使える時間を持つ事が出来る。

 具体的には双子との触れ合いとか、新作ロボゲーやロボアニメの視聴とか、スパロボのプレイである。

 斯様に忙しい直哉だが、実は睡眠だけは一日最低6時間をキープしている。

 これは縛りの一環であり、一日に付き6時間しっかり睡眠を取れば、その後の一日の呪力量が増加するという内容だ。

 これは高専側にも報告が行っており、直哉のスケジュール調整に配慮されている。

 他にも「新作スパロボの初回購入とプレイ」「スパロボ参戦作品の原作のプレイ及び視聴」等の縛りを課している。

 これら全て呪力量増加のための縛りである。

 

 何故そこまで縛りを課すのか?

 それは偏に呪力が全っ然足りてないからである!

 

 双子の護衛、禪院家(分家も)の監視を常に遠隔で行いながら、任務でも運用する。

 普通の一般的な呪術師ではどう足掻いても呪力欠乏で木乃伊に成りかねない事を常日頃から行っている。

 とは言え、呪力不足の解決策も存在する。

 原作に置いて、玉犬が呪霊を捕食する場面がある。

 これは呪霊同士の共食い=呪霊食いと同じく手っ取り早く呪力を補給するための手段である。

 が、呪霊操術の様な術式や式神、宿儺の器の様な対毒・呪詛耐性を持っていないと毒を食う事とイコールであり、最悪死んでしまう。

 しかし、多種影法術は十種影法術の亜種、即ち玉犬がやった様に呪霊を捕食する事も十分可能なのだ、理論上は。

 直哉はこの点に目を付けた。

 

 「ほな幸運と努力かけて、後は強運やら社長やらのスキル持ちで呪霊撃破したらどないなるんやろう?」

 

 結果、努力系は各式神のパイロットレベルが急上昇し、幸運系は撃破時に多量の残穢が発生した。

 式神=ユニットについて、機体がハードでパイロットがソフトとなる。

 パイロットレベルが上昇すれば練度が上昇し、より的確な判断や高い技量、新たな精神コマンドやスキルを獲得・使用可能になる。

 多量の残穢は直哉の影に入れると純粋な呪力として吸収可能であり、それを資源として用いて式神の強化やアイテムへと変換できる。

 そのため、直哉はスカル小隊やガンダムチーム等を複数編制し、各地に放って呪霊狩りを行わせている。

 これらの努力によって、直哉の呪力リソースは辛うじて黒字だが、あまり余裕があるとは言えない自転車操業状態が続いていた。

 

 「ま、十年後目指してボチボチ頑張ろかね。」

 

 日々強化されていく式神達。

 特に特機の中でも指折りの強力な式神達に呪力を注ぎながら、直哉は凄惨な笑みを浮かべた。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 日々任務と修行と次期当主業務で忙殺される二年生の時、直哉はある任務が五条と夏油に割り振られた事を知った。

 

 「星漿体の護衛ぃ?」

 『そう。天元様からの御指名だそうだ。』

 

 情報元は冥冥。

 昨年の交流会から高額で情報収集を依頼した彼女は、時折こうして連絡を入れて来る。

 

 「うわー露骨。どう考えても囮と嫌がらせやな。」

 『だろうね。片や一般出、片や天才とは言え万年反抗期。上の連中が囮にしてもちっとも心痛まない。』

 「で、本命は?」

 『それは私も知らない。』

 

 つまり、本命は高専地下辺りで厳重に警護されているのだろう、上層部に忠実な熟練の一級術師達によって。

 

 「おおきに。今後もよろしゅう。」

 『こちらこそ。君は良い雇用主だからね。』

 

 ふむ、と一つ考えてから違う番号をプッシュする。

 なお、高専や禪院家用のものではない私用の携帯電話にはもしもを考えて番号を登録はしていない。

 

 『おぅ、どうした直哉?』

 「甚爾君、ちょい盤星教について聞いて良い?」

 『あぁ?あー公安でも今追ってる案件だな。』

 「お、そなの?」

 『そりゃ一般人狙って殺人依頼出すカルトだからな。』

 

 日本におけるカルト宗教とは「真っ当ではない(反社会的な行動をとる)自己利益追求の宗教集団」と言うのが一般的なイメージだ。

 現在では有名所(オウム系列等)は所在を抑えられ、定期的に立ち入り検査が行われてもいるが、本気で秘密にされたカルト宗教団体はその信仰的結束によって極めて発見し辛い。

 そのため兵器類の作成・無断所持・人口密集地での使用等の明確なテロ行動が行われるまで警察側が後手に回ってしまう事も多い。

 加えて、天元様を信仰する盤星教はその性質上滅多にテロ行為はしない(集金行為とかはするが)。

 しかし、今回は久方ぶりの例外だ。

 更に盤星教は壊滅させた所で次の同化まで名を変えて存続するだけとなれば、公安が容赦する理由は無い。

 

 『盤星教は一線を超えたからな。今回は動く事になる。』

 「甚爾君なら安心やな。」

 

 甚爾を始め一般や名家からの訳あり達は公安内部の更に一部部署として活動している。

 業務内容は主に窓の様な呪霊や呪詛師の発見報告、そして3・4級程度の呪霊を祓う事。

 時折、危険度の高い任務等は甚爾を筆頭にした腕の立つメンバーが担当し、現在着実に実績を上げ始めている。

 警察という日本全国津々浦々に配置され、日々治安のために活動している組織の一部であるが故に、入って来る情報は普通の一般職を兼務している窓よりも遥かに多い。

 勿論、高専所属の窓もいるが、彼らは基本的にこちらと協力関係にあるため、妨害し合う事は殆ど無い。

 だって、高専上層部の連中がたかが窓を助けてくれるとか有り得ないから。

 もっと呪いを視認だけは出来る人間が多かった頃には囮や生餌役にされてたのだから、連中の窓への扱いなんてお察しである。

 うっかり余計なものを見て報告を上げちゃった日には、寧ろ粛清のために呪詛師が送られてくるまである。

 なので、そうした窓達は生き残るために公安側に協力的なのだ。

 因みに、最近では自衛隊内の窓や呪力持ちとも連絡を取り合っているのだとか。

 

 「星漿体への対応はどないなっとんの?」

 『本命が別にいる事だし、死亡を偽装して海外に逃がす予定だ。』

 「なら安心やね。ほなその辺は甚爾君達にお任せするなぁ。他になんか必要なものある?」

 『あー…今は何も無いな。このヤマ終われば休暇取るから、うちの嫁とガキ共にお前も会いに来いよ。』

 

 星漿体に関しては直哉は知り合いでもなんでもない。

 必要悪として割り切る事もあるが、必要が無いのならば何処までも優しく甘くなるし、手助けするつもりだった。

 が、警察官として割と真っ当な職業倫理で動いている今の伏黒甚爾ならば自分が手を出す必要は無いと判断した。

 

 「恵君も津美紀ちゃんも今が可愛い盛りやし、今度土産持って行っていくなぁ。」

 『おう。んじゃな。』

 

 でも警察になって直ぐに妻である伏黒さんと出会ってスピード婚し、あっと言う間に子供まで作ったのだからやはり原作同様人の懐にするりと入るプロのヒモとしての技能に優れてるな、と結婚報告を聞いた直哉は当時思ったのだった(なお、津美紀は仕事で保護した呪霊被害者の生き残りを養子にしたそうな)。

 後日、星漿体の護衛任務は失敗、天内理子とそのメイドの黒井美里は死亡したそうだ…表向きは。

 実際は事前に準備してた公安と最強コンビがタッグを組んで、本命の星漿体への同化が行われたのを確認した後に別人の戸籍と共に海外へ逃げ延びたらしい。

 らしいって言うのは、直哉に教えてくれた甚爾が盤星教に偽呪詛師として潜入しており、結果的に最強コンビと交戦、ボコボコにしたと思ったら五条が反転術式に目覚めて危うく死にかけたために必死に逃げててそれ所ではなかったからだそうな。

 そんな話を伏黒家で夕飯を御馳走になる寸前に話され、同情した直哉は甚爾の手にそっと何かを握らせた。

 

 「ん?何だこれ?」

 「宝くじ。多分当たる。」

 「…外れたら殴るからな。」

 「えーよ。」

 

 更に後日、この時の宝くじが二等に当たり、潜入捜査のボーナスと合わせて伏黒一家は家族旅行に行ったそうな。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 高専二年次の交流会。

 団体戦は前回の焼き直しだと出撃したマクロスは空に浮いた時点で五条悟の虚式「茈」によって大破して顕現を解かれた。

 が、それは囮であり、試合会場全体に即座に散ったマクロス系VFシリーズらによって全ての呪霊は撃破された。

 そりゃーシリーズ初期で旧式に分類されるVF-1バルキリーですら大気圏内の最高速度(上空1万m程)でマッハ2.81を記録するのだ。

 況やその後に開発されたVF-17、VF-19、VF-22、VF-25、VF-27に大抵の呪術師や呪霊が追い付けるかというとそんな事は無理である。

 よって、団体戦は去年に引き続き京都校側の速攻で幕を閉じた。

 

 「納得いかねー!!」

 「はっはっは、まだ言うてんで。」

 

 折角反転術式覚えたのに!と地面に転がって幼児の様に駄々をこねる五条に、直哉は指差してけらけら笑っている。

 

 「去年の交流会のせいであのデカブツに意識行き過ぎてて他見逃したー!」

 「見逃してなくても追えたん?」

 「早過ぎてまだ無理!」

 「悟、そろそろ見苦しいから止めなよ。」

 

 見た目は大人びているのに、内面は相変わらず小学生レベルの五条に、親友兼教育係の夏油が呆れた様に苦言を告げた。

 

 「くっそー!明日は絶対出ろよ直哉!去年みたく勝ち逃げとか許さねーかんな!?」

 「今年は出んで。当主にもさぼるなって言われたし。」

 「よっしゃ!今年は絶対勝ってやるからな!」

 「ほな賭け事でもしいひん?」

 

 明日に向けて闘志を燃やす五条に、直哉がニタリと粘着質な笑みを浮かべながら提案した。

 

 「あぁ?」

 「明日、負けた方は勝った方の言う事を聞く。但し、将来に響きそうな内容は無し。」

 「乗った。」

 「ちょっと悟…。」

 「言い出したのコイツだし良いじゃん。」

 「ほなOKって事で。」

 「ハ!明日吠え面かくなよ。」

 「あ、明日の個人戦終わったらまたBBQとかやるから奮って参加してやー。」

 「オッケー、楽しみにしてるわ。」

 「うーん、この温度差。」

 

 と言う訳で翌日の個人戦である。

 

 「なーなー五条君。」

 「んあ?」

 「これ、個人戦って言う割に内容は剣道とかの団体戦な気が…。」

 「姉妹校交流戦だから仕方ないんじゃねーのー?」

 

 お互い個人戦の最後になっている五条と直哉は、順番が来るまで他の生徒らの試合をぬぼーっと見ていた。

 

 「夏油君ったら流石やん。」

 「だろ?凄いんだぜ傑は。」

 「でも、噂に聞く呪霊操術ってもっと奥があるみたいなんやで。」

 「へえ…?」

 「あ、続きは個人戦終わってからで。」

 「ここで引くとかマジ???」

 

 お前もうマジ分かんねー!と五条は頭を抱えた。

 

 『次は最終試合、五条悟 対 禪院直哉 です。準備をお願いします。』

 

 「お、呼ばれた。」

 「ほな行こか。」

 

 こうして、個人戦最終試合が始まった。

 

 「術式反転『赫』!」

 「おっと、マジンガー援護防御!ジェガンとジムカス小隊は弾幕を形成!」

 

 なお、この二人の試合が最後に回されたのは、去年の交流戦での破壊ぶりを見た高専教師陣により「試合続行できなくなるから、あいつらは最後な」と言う意見によるものであったりする。

 

 「おいおい直哉くぅん?サンドバックにでもなりたいのかなぁ?」

 

 大方の予想ではこの試合の結果は五条7:直哉2:引き分け1程度だと思われていた。

 それ程までに五条悟は、反転術式に目覚めて真の最強となる寸前の無下限術式と六眼の併せ持ちは恐れられていた。

 

 「あれ?無下限術式って言うても十分防げるものなんやな。これじゃ期待した程ちゃうね!」

 「は、言ってろ。」

 

 とは言ったものの、五条は先程から妙な術式が直哉や呼び出された式神に施されているのが六眼で分かっており、内心で舌打ちをしていた。

 

 (『不屈』に『ひらめき』?一度だけとは言え攻撃のダメージが極小化か完全回避って、んなのチートじゃねぇか!)

 

 精神コマンド。

 スパロボユーザーならば誰もがお世話になるパイロットの能力を図る上でかなり重要な指標である。

 パイロットごとに設定されている特殊コマンドであり、マップ中で任意に選択して精神ポイントを消費して使用する事で効果を発揮する。

 今回はマジンガーZを直哉を守るメインタンク兼アタッカー、ジェガンとジム・カスタムそれぞれ一個小隊を援護に回している。

 そう、援護である。

 五条悟が反転術式を覚えて以降、無下限術式による防御は自動化されている。

 加えて、最大の問題だった脳髄への消耗も反転術式によってかなり軽減され、呪力さえあれば幾らでも継戦可能となっている。

 

 では、そんな最強の五条悟に勝つにはどうすれば良いのか?

 

 後の原作軸における28歳の五条悟を最盛期とした場合、以下の点で劣ると思われる。

 先ず、現在の五条悟は未だ領域展開を習得していない。

 次に戦闘経験、特に苦戦とか殆ど無いが故にまだまだ足りていない。

 未だ子供っぽい性格がさっぱり抜けず、戦闘以外の細かい判断とかを親友の夏油傑に頼り切り。

 

 (じゃぁ倒せるかって言うと、普通に難しいんだよなぁ。)

 

 一応策はあるがこの世界のルールとスパロボのルールがどう競合してしまうのかが分からない点が不安だと直哉は悩む。

 

 (ま、なる様にしかならないか。)

 

 が、あっさりと悩みを放り出した。

 ただベストを尽くそうと、ジェガンとジム・カスタムに更なる攻撃を命じる。

 攻撃が届かないのは端から理解している。

 しかし無下限、絶対無敵とも言えるバリア越しとは言え、命中しているのは確認している。

 

 (なら、これは通るよなぁ?)

 

 特殊効果、と言われるものがある。

 スパロボシリーズから何時からか採用されるようになった、武器の命中時に特殊なデバフ効果を発生するシステム。

 バリアや盾で防がれようとも、命中しているのならばその効果は現れる。

 そして、今ジェガンやジム・カスタムに撃たせているバルカン砲の効果は…

 

 「っ、何だ…?」

 

 1ターン限定の運動性・命中率の低下(重ね掛け可能)である。

 五条悟をスパロボで分類するならば、強力なMAP兵器とバリア持ちのリアル系だ。

 素の装甲、HPはまだ人間の領域を出ていない(某天与呪縛ゴリラは出てるが)。

 そして、最も厄介なバリアを攻略する方法は二つ。

 五条悟の呪力が尽きるまで戦う消耗戦か、バリアを貫通する攻撃を放つか。

 が、ここで一つ問題がある。

 

 (下手に圧勝したりすると、メロンパンが狙ってくる可能性がなー。)

 

 加茂さん家の悪い憲倫君がこっちをロックオンしてくるやも知れないのだ。

 だから、直哉は自分に従ってくれている式神達、かつての彼が愛したゲームの愛機達にまだるっこしい命令を下した。

 

 「削れ。」

 

 既にバルカン砲の斉射を幾度も受けている五条悟の攻撃は、こちらには命中しない。

 加えて、何故態々性能が高いとは言えないジム・カスタムを出したのか?

 コストが低いから?バルカン砲を持ってるから?パイロットらが優秀だから?

 

 「何だ…?さっきから、力が抜ける…!」

 

 フル改造時の特典、カスタムボーナスの効果が強力無比だからだ。

 『攻撃が命中した相手の気力を10下げる』と言う極めて強力なこの効果は、しっかりと五条悟の身を蝕んでいた。

 

 「こ、のぉ!」

 

 術式順転「蒼」。

 それがやたら滅多らに放たれ、試合会場を広範囲に渡って破壊する。

 しかし、命中しない。

 しても効果が極めて低い。

 五条悟にとって、自身の術式と呪力に絶対の自信を持つ彼をして、自身の術式が何の役にも立たない状況と言うのは初めての事だった。

 

 「そのまま削れ。」

 

 有効打が無いのなら、このまま削り切る。

 だが、相手は未だ成長途中と言えども最強の呪術師である。

 

 「お、らぁ!」

 

 無下限術式は、応用すれば瞬間移動も空中浮遊も可能にする。

 短距離での高速移動ともなれば、習熟しきっていなくとも可能。

 瞬時に直哉の眼前へと踏み込んでみせた五条は、呪力で強化された身体能力と体術を完全に合わせ、その拳を叩き付ける。

 

 「残念♡」

 『こんなもん効くかよ!』

 

 一瞬で踏み込んで来た五条に対し、甘い声色で直哉は呟いた。

 援護防御が発動した事により、その拳はマジンガーZに呆気なく受け止められる。

 

 「んなもん予想済みだっての!」

 

 五条はその総身に強引に呪力を巡らせ、自らの身体に掛かるデバフを無理矢理洗い流す。

 常人なら血流を無理矢理倍速にするが如き愚行であり、血管に重大な負担を掛ける行為だ。

 実際、耐え切れなかったのか、五条の六眼や口、各所に出来た傷からは血が噴き出し、その全身を真っ赤に染め上げる。

 しかし、身体に掛かる邪魔な重さや目の霞みが消えた今、目の前の敵を倒すには不足は無く、その手に赫とした呪力が集い、振り下ろされる。

 

 「ほなさいなら。」

 

 ドゴン!と直哉がいた場所に小型のクレーターが出来上がる。

 が、既にそこに直哉の姿は無い。

 刹那の間に距離を放されていた。

 精神コマンド「加速」による高速移動だ。

 

 「はぁ!?おま、どんだけ隠し種があるんだよ!?」

 「オレ、五条君程強くないからいっぱいあるで♡」

 

 そして、再び弾幕が形成される。

 五条の身体には再び特殊効果によるデバフが積み重なり、思う様に動けなくなっていく。

 

 (んー、そろそろかな?)

 

 素気無くあしらわれた上に二度も同じ展開になった事で、五条の人より遥かに短い堪忍袋の緒は呆気なく切れるだろう。

 事実、分かり易くキレていた五条の顔から、スンと表情が抜け落ちた。

 

 「あーもー…糞が。優しくしてたら付け上がりやがって。」

 

 そして、膨大な呪力が五条を中心に収束していく。

 その呪力量から言って間違いなく大技だ。

 相手が早く、面倒な小技を多く持っているのならばどうしようもない程の力技をぶつける。

 合理的だが、やられる方としては溜まったもんじゃない。

 一応試合なので多分「赫」の方だろうが、この呪力量ならばスパロボ的な分類で言えばMAP兵器乃至ALL兵器であり、どちらにせよ援護防御は出来ない。

 だが先程見せた通り、直哉にはまだ手札があった。

 

 (自分自身をユニットと仮定し、精神コマンドの対象とする。)

 

 習得するのはキツかった。

 生得領域の中で、只管にエースパイロット達を相手に鍛錬漬けの日々。

 ガチの軍人や傭兵以上に、ガンダムファイターとか国際警察機構の人達から受ける訓練の地獄ぶりたるや筆舌に尽くし難かった。

 だが、それをするだけの価値があった。

 今後もこの呪われた世界で、「鋼の英雄達に恥じない様に生きる」ために。

 本来ならば有り得ない、命令をする術者自身を式神と同列に扱う事で恩恵を得る。

 それ即ち、多種影法術の術式反転である。

 

 「一応言うとく。そら交流会の主旨に反する行為や。直ぐに止めた方がええ。」

 「今更遅ぇよ!」

 

 直哉が影の中に手を入れるのと同時に、それは放たれた。

 術式反転「赫」。

 巨大なビームと見紛う真っ赤な衝撃波が直哉とマジンガーZ目掛け放たれ、試合会場全体を閃光と共に蹂躙した。

 直後、

 

 「警告したで。」

 

 撃ち出された筈の衝撃は無へ帰した。

 それを成した直哉の手には、影の中から取り出した禪院家所有の呪具が握られていた。

 ナイフ程度の大きさの其れには厚手の布が巻かれていた様だが、赫の影響か、布は焼き切れて切れ端だけが引っ掛かっていた。

 

 「特級呪具『天逆鉾』…!」

 「お、やっぱ知っとったんや。」

 「そりゃな…!」

 

 特級呪具ともなれば、その値段は天井知らず。

 御三家であってもおいそれとは手に入れられないソレは、永い歴史の中で時折御三家同士の取引等でも使用される。

 

 「は、そんなチンケな刃物一つでオレに勝てるとでも?」

 

 好戦的な笑みを浮かべ、嘲りを口にする五条。

 事実、天逆鉾だけでは勝利にはまだ足りないだろう。

 では、一体どんなものを出してくるのか?

 まるでビックリ箱の様な禪院直哉という人間に、五条悟は次は何が出て来るのかとワクワクしていた。

 

 「審判!五条悟の今の攻撃は交流会の主旨に反したものだと思われます!即時失格とすべきだと思いまーす!」

 「は?」

 

 余りの予想外の事態に、五条の頭が一瞬真っ白になった。

 

 「は?」

 「悟、どう考えてもやり過ぎだ!」

 

 観客席から夏油の声が聞こえる。

 確かに、今の一撃は誰がどう見てもやり過ぎだった。

 それは分かる、分かっているが…折角楽しくなってきた所だったのに、この猛烈な虚脱感は何だ?

 沸々と、まるで灼熱のマグマの様な激情が五条の中に満ちていく。

 思えば、去年の交流会から直哉の行動には何か違和感があった。

 今の審判への声で、漸く理解した。

 

 禪院直哉は、最初から五条悟とまともに戦おうとは思っていないのだ。

 

 よく考えれば分かる事だった。

 お互いに御三家の次期当主、ここで真面目にやり合って白黒つけようものなら、勝っても負けても面倒な事態が待っている。

 だからこそ去年、直哉は敢えて交流会を棄権する様に動いたのだ。

 恐らく、事前に京都校側とは話を付けた上で。

 そこまで察したと同時、今度こそ五条は激怒した。

 

 「虚式…!」

 

 順転と反転の呪力を衝突させる事で発生する仮想質量を撃ち出す。

 その威力・規模共に「蒼」や「赫」の比ではない。

 

 「ま、予想通り言うたらそうやな。」

 「『茈』!」

 

 放たれたるは紫色のビームにも似た呪力の奔流。

 予想通り、これはマジンガーの援護防御では防げないだろう。

 だが、それだけだった。

 

 「ほなお願いね。」

 『仕掛ける!』

 

 招喚されたるは見た目僅か50cm程度の虫を思わせる式神。

 スパロボ界隈屈指の運動性・機動性の高さを誇るビルバインだ。

 それにオーラソードの代わりに天逆鉾を装備させ、精神コマンド「ひらめき」「集中」「加速」を発動させ、突貫する。

 突貫の最中、「茈」が直撃した筈だが、ひらめきによる一度限りの絶対回避によってすり抜けていく。

 その後方で精神コマンド「不屈」と「ひらめき」を発動させたマジンガーZと直哉が「茈」の閃光へと飲み込まれていく。

 同時、ビルバインの持つ天逆鉾による峰打ちが五条の顎先を揺らした。

 

 「ぐ、ぉ…!?」

 『俺は人は殺さない! その怨念を殺す!』

 

 顎先を揺らされた影響で、脳をシェイクされた五条は僅かな間まともに動けない。

 加えて、天逆鉾によって術式を強制解除されている。

 好機、である。

 

 「が?!」

 『よし、ビンゴ!』

 『こっちもジャックポッド!』

 

 六眼の知覚範囲外、五条の全くの意識外からの銃撃にその両膝が後ろから撃ち抜かれた。

 VF-25GメサイアとM9ガーンズバック(クルツ機)による狙撃である。

 交流戦の個人戦に関する規約では「選手は試合会場内で戦闘不能になるかギブアップするまで試合を続行する」ものであり、「選手の殺害を禁じる」以外はガバガバも良い所だった。

 なので、事前に式神を試合会場の外へ配置し、援護させる事は十分に有りだった。

 

 「そこまでだ!救護班!急ぎ選手の治療を始めろ!」

 

 流石にこれ以上はアカンと教師陣から声が掛かった。

 五条は反転術式があるとは言え、十二分に重傷だ。

 直哉に至っては傍から見れば「茈」によって抉られた地面から判断するに、生存が絶望視される状況だった。

 

 「げほげほ!あーキツ!二度と喰らいたくないわこんなん!」

 

 だが、あっさりと直哉は粉塵の中から現れた。

 少々土煙で汚れてはいるようだがその挙動には何の違和感もなく、特にこれと言った怪我を負っている様子も無かった。

 

 「結果は決まったな。勝者は禪院直哉、お主だ。」

 

 血塗れで倒れ伏す五条と特に大きな怪我無く立つ直哉に対し、楽巖寺学長は厳かに告げた。

 会場内の誰もが、その言葉に異義を唱えなかった。

 

 「畜生…。」

 

 ただ一人、五条悟だけは悔し気に胸の内を吐き捨てた。

 

 

 

 この1か月後、禪院直哉は特級呪術師へと昇格し、卒業後には禪院家当主の座を継ぐ事が内定した。

 

 

 

 

 

 




スパロボ要素が少ないー!
もっとメカ書きたいー!
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