間も無く完結の予定ですので、皆様もう少しお待ちください。
夏油傑にとって、禪院直哉は一言では言い表し難い感情を向けている人物だ。
「夏油君の呪霊操術って、多分かなり奥深いと思うで。」
高専2年の頃の交流会の後、両校の生徒らによるレクリエーション(BBQに野外炊飯、今年はピザ焼きも追加だった)の最中にそんな事を言われた。
「ちょいこの飴はんねぶってみて。」
「これは?普通の飴みたいだけど…。」
「ちょいオレの呪力で覆うたーる。毒や思たらえずき出して。」
「ふむ…。」
ぱくり、と口に含む。
すると、飴本来の味であろう苺味の他にも味があった。
これが直哉の呪力の味なのだろうか?
「御手洗団子味…。」
「えぇ…オレの呪力そないな味なの…?」
思わず漏れ出た言葉に、直哉が呆気にとられる。
「でもま、これで分かったわ。夏油君、君、呪力を味覚で感知しとんで。」
「へ?それ、普通じゃないの?」
「ちゃうちゃう。」
呪霊とは一般の人々から漏れ出た呪いの集合体。
即ち本質は非実体の精神エネルギーであり、だからこそ祓うには呪力が必要となる。
で、普通呪霊の体液等が舌に触れれば、それらは基本毒となって身体を蝕む。
だがしかし、夏油は術式の一環とは言え大量の呪霊を呑み込んでいるのにクッッッソ不味いだけで実害らしいものは無い。
味はもしかして感じるかもしれないが、それ以前に毒喰らってたら味わうとかそういう問題じゃない。
そもそも、呪術師の体表・体内は基本常に呪力が循環しているので、味があるのなら常に感じる事になる。
なのに、普通の呪術師は呪力の味なんて感じた事はない。
となると、夏油の呪霊玉ゲロ不味問題は一般の呪術師にない別の原因があると考えられる。
「オレが自分の呪力で包んだもん舐めたりしても何も感じひん。でも夏油君は感じた。」
「成程…で?それは何か凄い発見なのかい?」
「その証明のためにも、今例の呪霊玉って持ってる?」
「蠅頭のならあるけど。」
それは先日の団体戦で辛うじて一体だけ確保できた呪霊だった。
東京校側に最も近い場所にいたそれは術式の関係で夏油が確保していたのだ。
「ちょい借ってええ?」
「何するんだい?」
「さっきの飴みたくオレの呪力で包むんやで。」
「まさか…。」
「ほいっと。食べてみて。」
まさか、そんな馬鹿な、あり得るのか?
夏油はいつも吐瀉物処理した雑巾味の呪霊玉を術式のために呑み込んでいた。
それも一つや二つではなく、見つけ次第片っ端からだ。
しかし、最近は呪術師は非術師を守るためと正論を語っていた夏油にしてもそれが揺らぐ程にキツイ数の呪霊玉を連日呑み込んでいる。
こんなもん、名も顔も知らぬ誰かのために今後も呑み込み続けるの…?
今後も先の見えない途方もない道をずっと味覚破壊なブツと共に歩み続けなきゃいけないの…?
既に千近い数を呑み込んだ夏油であっても未だに慣れる事の無い凄まじい不味さを持つ呪霊玉が、まさか、美味しく呑み込める…?
夏油は疑い3:不安5:期待2でクソ不味い呪霊玉を呑み込んだ。
「御手洗、団子…!」
「よし、成功や。おめでとう夏油君。」
感動の余り、天を見上げながら涙する夏油に対し、直哉はぱちぱちと控えめに拍手した。
「他の人達もおるんやし、此処は一つ協力してもらおか。」
「と言うと?」
「誰がどんな味するとか、試してみたくならん?」
「なる。」
その後、唐突に開催されたチキチキ☆呪力食べ比べ大会~呪霊玉の代わりに飴玉使います~においては、最も美味しかったのが担任である夜蛾先生だったのは意外も意外だった。
なお、お味は真っ赤に熟れた高級苺味だった事をここに記す。
悟?ただ只管に甘く、サッカリンか羅漢果かと思った。
硝子は…食べ物じゃなく煙草味だった。
七海はパンで、灰原はオレンジな辺り、本人の性格や趣味嗜好とか諸々が関係しているのかもしれない。
この事件以降、夏油はちょいちょい直哉と連絡を取り、術式の解釈や呪霊の運用、呪術業界のアレなお話なんかを積極的に直哉と交わすのだった。
後にこれが大騒ぎに繋がる事を、二人はまだ知らない。
……………
さて、3年度である。
この年は災害の影響で凄まじく呪霊被害の多い年として知られている。
だが、直哉には既に秘策があった。
「術式反転覚えて戦艦と小隊あちこちに派遣できるようになったでー。」
以前から幾つかの小隊を派遣して呪霊狩りをさせていたが、術式反転に成功した事で以前のそれとは段違いレベルでの運用が可能になったのだ。
先ず、各地に戦艦ユニットを派遣する。
一地方に一隻から数隻程で、そこに格納可能な機体で小隊を2~3個編成し、運用する。
とは言え、呪霊の数や実力も分からない状態で突撃させる訳にはいかないので、精神コマンド「偵察」持ちや移動能力に長けたサポートユニット(RVF-25やブルーガー、ドラグナー3型、メタス、コスモクラッシャー等)が各地の上空を哨戒して呪霊や呪詛師を発見して報告している。
報告を受けたら該当地方の戦艦ユニットが小隊を派遣又は戦艦ユニットと共に小隊が出撃する。
その中には必ず幸運・努力・祝福・応援持ちがおり、時折修行・伝授持ちもいる。
こいつらが四六時中日本列島を監視して即応態勢を保っているのだ。
これにより、以前よりも遥かに呪力リソースの確保が楽になっており、強化も捗っている。
なお、直哉はこうした無数のユニットの操作を一括して操作…していない。
そもそも、禪院家の十種影法術は式神の自律性が他よりもかなり高く、ある程度の指示だけで動いてくれる。
その亜種とも言える多種影法術もまた、式神ならぬ各ユニットの自律性がとても高い。
簡単な指示や方針さえ提示すれば、割と勝手に動いてくれる程度には。
故にこそ、東京・京都校の生徒らがヒーヒー言ってる間も縛りの関係で肉体は6時間睡眠とっている直哉は彼らの何倍も問題なく任務をこなしていた。
一応、夏油も直哉を見習って呪霊の遠隔操作等に挑戦しているが、まだ操作性に難があるらしい。
さて、直哉が彼らユニットに出している指示だが、実は簡単なものだったりする。
それ以外は各戦艦ユニットの艦長や小隊長職にある者達に任せられている。
曰く「一般への被害や損害を抑えつつ、より多くの呪霊を倒し、呪力・経験値等を確保する事」。
即応態勢の確立は直哉自身の修行の他、彼らユニットの声や現役の自衛隊に警察官らから来る情報や要望を纏めて出来たものであり、ゲームにおける彼らの行動を平時向けに改めたものだ。
では、人と変わらぬ人格を持っている彼らの娯楽とか生活とかはどうしているのか?
機体の改造やパイロットの強化やスキルの追加、強化パーツの購入は何処で行っているのか?
また、直哉はどうやって精神コマンドを獲得したのか?
答えは一つ、直哉の生得領域である。
ユニット達の日々の報告を聞き、機体の改造やパイロットの強化を行うのが寝ている間の直哉の生得領域での日常だ。
直哉の生得領域、その一部は一見として普通の街並みだ。
ビルや商業設備があり、自然があり、人の営みがある。
が、そこが実は戦艦の中である事を初見の者は気付けないだろう。
そう、此処は生得領域内に存在するとある戦艦ユニットの中の一部。
マクロス系のアイランド1やシティ7、GGG宇宙基地にエクセリオンやエルトリウム等の広大な居住空間を有したユニットの内部なのだ。
それら多数の戦艦やユニットが無理なく存在可能な広大な宇宙空間。
スパロボ最終面によく採用されるこの空間こそが直哉の生得領域だった。
「オレ、何で寝てる筈やのに書類仕事してるんやろう?」
「起きてる時は起きてる時で働いてるからじゃないか?」
その一角にある執務室にて、げっそりとした顔で書類(デジタルが殆ど)を捌きつつ愚痴を溢す直哉に対し、今日の秘書を務めているルルーシュがそう返した。
この生得領域にはスパロボの歴代自軍ユニットとネームドキャラの全てが揃っている。
そのため、彼らの知恵や経験、技能等を借りる事も出来る。
「しかし、予想通りと言えば予想通りだったな。」
「流石はメロンパンが千年かけてコツコツ溜め込んどっただけはあるな。」
日本全体をカバーする即応態勢を整えた結果、直哉は日本全国に分布する呪物や呪霊を、高専の未発見のものも含めてかなり正確に把握する事に成功していた。
先日の東京校の二年生二人が等級違いの任務で危なかった時に即応できた事を始め、既に各地で成果は上がっていた。
しかし、これら膨大な数ですら未だ氷山の一角でしかない事は頭脳労働担当のスパロボキャラ達の満場一致の見解だった。
「禪院家内部の掌握はほぼ完了し、内部工作の心配は消えた途端にこれか…。」
「流石は呪術全盛期の平安時代から生きる化け物やな。単独での勝ち筋が全然見えてこん。」
呪術廻戦世界における全ての黒幕、通称メロンパン。
こいつの討伐による日本の呪術的治安の回復こそが、直哉の今生の目標だった。
「奴が生きてると枕を高して寝れへんからなぁ。」
「そのために既に十年、こちらは準備していた。必ず勝つさ。」
取り敢えず直近の目標としては、夏油傑の呪詛師堕ち回避を始めとした有力な人材の保護・育成だ。
京都校に関しては今はほぼ完全に実力主義(+コネ)となっている上、殆どの先輩後輩らとも連携が取れている。
高専内部からも上層部、特にメロンパンの手引きと思われる有力呪術師に対する妨害工作の裏取りも進めている。
しかし、僅かな痕跡こそ見つけられるものの、未だ奴の尻尾を完全に掴めてはいない。
「奴が動く時、それは五条悟と夏油傑、そしてお前を確実に排除する目処が着いた事とイコールだ。」
「だろね。特に夏油君とオレは個としての能力はそこまでちゃうし。五条君の動揺誘うために使われるやろね。」
「だからこそ、その思考を逆手に取る。」
ルルーシュはそれはもう悪そうな笑みを浮かべた。
「代えの死体か、或いは本人のコピーか、無ければ夏油傑本人の死体か。」
「それを敢えて与えて原作通りの動きに誘導し、新宿で使用させる。」
「そして、獄門彊が閉じられる瞬間を狙う。」
前段階で既に余りにも非道であるが、千年間日本の呪術界を裏から操ってきた化け物を倒すにはこれ位しないと引き摺り出す事は出来ないだろう。
「今は夏油君の死体を用意する手筈を整えてるけど…。」
「今現在まで、その手の術式を持った呪術師は見つかっていない。」
「ま、そんなご都合術式あったらメロンパンが速攻手を出してる筈やしね。」
直哉としては気が進まない所の話ではないのだが、夏油一人の犠牲で何万(下手すると累計で億)の被害を出している化け物を討つためとなれば必要な犠牲とも言える。
「はぁ…やっぱり手が足らへんね。」
「おい、これ以上縛りを増やすなよ。」
「分かってんで。」
直哉は既に幾つもの縛りをして呪力量を底上げしている。
その上で呪霊や呪物を狩り、それらを影に取り込む形で呪力リソースとして還元、ユニットの強化や運用のためのエネルギー等として使用している。
しかし、全てのユニットとパイロットを強化するには全然足りない。
今年は災害の影響で呪霊が各地で多発し、「狩りの時間やぁッ!!」とハッスルしたが、それでも決して余裕がある訳ではない。
「天与呪縛、もっとキツクするんは有り?」
「無しだ。それ以上は生存に影響が出るぞ。」
直哉の天与呪縛、それは「視界全てがアニメの様に映る事」である。
これが地味に辛い。
前世は三次元の人だったのに、精密なセル画とは言え常にアニメ調となった視界は直哉に「ここは前世とは異なる世界だ」と強く訴えかけ続ける。
それによって直哉は常に強い孤独感・違和感・非現実感、そして自分自身に対する異物感を感じている。
精神的なものであり、これを取り除く事は出来ない。
常人なら発狂しそうなものだが、直哉の術式によって歴代スパロボパイロット達とこうして生得領域で触れ合える事がメンタルケアになっており、SAN値Zeroには未だなっていない。
それでも予断を許さぬ状態なのだと、この生得領域内の誰もが周知していた。
更に言えば、直哉の縛りは高専にも報告している「一日6時間睡眠」「新作スパロボの初回購入とプレイ」「スパロボ参戦作品の原作のプレイ及び視聴」の他にもう一つある。
それは「スパロボ参戦キャラ達に恥じる行いはしない」というもの。
直哉の課した縛りの中で、最も重いのがこれだ。
これがあるからこそ、スパロボキャラ達は直哉に対して調伏の儀を行われずとも基本的に従っているのだ。
しかもこれ、直哉本人が無意識の内に何時の間にか結んでいた縛りであるため、本人ですら解き方が分からないのだ。
流石にこれ以上はアカンとルルーシュを含むスパロボ首脳陣が決定したのも無理の無い事だった。
「ま、ギリギリまで探せば良い。所で、そろそろ訓練の時間じゃないか?」
「ギクッ」
直哉の生得領域での仕事は他にもある。
それが精神コマンドやスキル獲得のための地道な鍛錬である。
幸いな事にこの生得領域には各分野のスペシャリストが勢揃いしており、教師に事欠く事は決してない。
ミスリルやWチーム、SMSに連邦軍人からの軍事教練に諜報活動のノウハウ、戦術・戦略研究。
科学者・研究者らの電子戦や情報解析に強化パーツや装備、量産可能な機体の追加作成。
そして、戦闘技能を培うための訓練である。
「スザクか?直哉を先生方の所へ連れてってやれ。」
『分かったよルルーシュ。そう言えば、今日は東方先生達の番だったっけ?』
「あぁ。もう道場にいる筈だから、そのまま連行してくれ。」
「ルルーシュ君とスザク君のイケずぅ!偶にはのんびりさせなはれ!」
「ほう?ではたっぷりと可愛がってやろうではないか。」
ルルーシュと直哉だけがいる筈の執務室に、老齢ながらも底知れぬ力強さを感じさせる声が響いた。
「と、東方先生?何時からいらしたんどす?」
「先程からな。しかし直哉、儂はお前を少々甘やかしてしまったらしいな?」
「ヒョェ」
威圧感たっぷりに笑うのは誰あろう流派東方不敗が開祖にして伝説的な武闘家マスターアジア。
生身でMSを軽々と撃破する「MFに乗ってるのがてかげん」呼ばわりされる漢の覇気に、無意識に直哉の喉から空気が漏れ出た。
「ではじっくりと鍛えてやろう。何、のんびりは後からでも出来る。」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”……っ!!」
こうして、今日も直哉は寝てようが起きてようが心休まる事なく扱かれるのであった。
……………
「は?」
その日、任務続きで久々に高専に帰ってきた夏油は、ふと直哉から以前聞いた「御三家関係者必須スキル」の一つである毒耐性・毒の見分け方の話(体験談付き)を活かして自室の水(日本産天然水)を金魚の入った水槽に入れてみた。
結果、金魚はジタバタ苦しみもがいた後に腹を上にして浮かんできた。
「は???」
何か最近やけに身体がしんどいなとか、非術師見てるとアホ過ぎて猿に見えて来るとか、児童虐待してたアホ共警察に突き出してやって少しはスッキリしたなーとか、保護した双子どうすべとか、色々あり続けた末の思い付きでの行動だった。
しかし、これはちょっと所じゃなく洒落にならない。
「な、直哉!直哉--ッ!!」
ここで親友ではなく直哉を選んだ辺り、日頃の信用度が透けて見える夏油であった。
「うわ、こらまた酷いなぁ。」
電話で絶対に部屋に誰も入れるなと厳命した後、急遽京都から30分でやってきた直哉は、夏油の部屋を見て言った。
監視カメラに盗聴器、毒物薬物反応のオンパレードであり、残穢や指紋の一切残さぬやり口は間違いなくプロのそれだった。
クリアリングするのに暫くかかったのは言うまでもない。
「高専のセキュリティとか考えると、やったのは間違いなく内部の人間やね。この分じゃ他の生徒もやられてると見て間違いあらへん。」
「やっぱりか…。」
「学生寮全部見回るのは当然として、五条君と夜蛾先生とも相談して対策練るべきやね。」
「しかし、それだと抜本的な対策にはならないんじゃないかい?」
夏油の言う事は百理あった。
何せ信頼すべき後方からの後ろ弾である。
夏油が一般出でありながら特級呪術師として昇格間近であり、それをよく思わない名家出の者はとても多い。
加えて、裏に潜むメロンパンにより夏油には離間工作が仕掛けられてもいた。
もし直哉の手回しと五条の敗北(二人共未だ最強に非ずで置いてかれてない事)によりメンタルの削られ度合が原作よりも低くなっていなかったら、間違いなく原作通りに呪詛師堕ちしていた事だろう。
「んー……一旦高専離れてフリーの呪術師になるんも手やね。」
「フリー?」
「冥さんも将来そうなるつもりらしいで?フリーなら休みも取り易いし。」
「考えてみるよ。」
「あ、もしなったら連絡入れてな?依頼したい事あるんよ。」
「分かった。今回はお世話になったし、その時は改めて連絡を入れるよ。」
任務で遅れてやってきた五条が「頼ってくれなかった…」と拗ねる一時間前の出来事だった。
直哉には五条から「傑はオレの親友だかんな!」と言う嫉妬混じりのクレームが入り、そこから第n次クズコンビ戦争が勃発して男子寮が全壊、夜蛾先生による拳骨&説教タイムが開催される事となった。
この事件以降、東京校の建て直された学生寮のセキュリティは都内最高級マンション以上になるのだった。
京都校の方は既に直哉が入学して直ぐに行っていたので、特に変わりは無かった。
……………
さて、残暑厳しい三年の9月頃、遂に直哉が参加する最後の交流戦が開催される事となった。
「まー今回は負けると思うけどな。」
「え、何でですか先輩?」
「あのコンビが負けっぱなしで終わると思う?十中八九対策練ってオレの事潰しにかかるで?」
「あ、あー…。」
基本的に交流戦は二・三年生のための行事であり、人数不足の時を除いて一年生と上級生らが出る事は無い。
つまり、彼らが交流戦で直哉にリベンジするにはこれが最後の機会なのだ。
「で、確実に五条君がオレに決め撃ち仕掛けて来るから、皆は頑張って夏油君+αより早う呪霊狩ってや。その分五条君はしっかり引き付けておいたげるから。」
特級呪術師+αよりも早く狩れってそれなんて無理ゲー?
直哉も直哉で(確実にインファイト狙ってくるやろなぁ…)とゲンナリしていた。
式神使いの弱点は基本的に本人である。
直哉は自身が気絶したり睡眠中もユニットをひっこめる事が無い様に訓練しているが、それとて綺麗かつ完全に気絶させられれば辛い。
この日本の呪術史上最強の男とインファイトでタイマンとか余りにもきつ過ぎた。
かと言って、それを避けようと思って距離を取れば、そのまま逃げて他の京都校の生徒が狙われるだろう。
前々回や前回の様な範囲攻撃&物量での速攻?
茈撃たれて素早さ特化の呪霊の大群出されたら運ゲーになるし、そんな隙あの最強が見逃す訳も無い。
結論、相手側に対策を取られた時点で比肩する実力者のいない京都校側の負け。
「ま、先生方に恥じないように気張るしかないか。」
そして、交流会初日の団体戦が始まった。
「な・お・や・く~~~んッ!!」
「散開!」
予想通り直哉が第一陣のユニットを出す前に、瞬間移動で五条が現れた。
そして順転「蒼」を用いて直哉との距離を無理矢理に詰め、格闘戦に入っていく。
「オラ、今日こそはテメェに黒星付けてやんよッ!!」
「はは、オレみたいなん気にしてくださっておおきに!」
精神コマンド「直感」「不屈」を発動し、ユニットを出す隙を与えてくれない五条相手にタイマンでのインファイトを展開する。
直哉自身のパイロット能力は、基本的にサポート・防御系よりで組まれている。
攻撃は射撃よりも格闘よりで、それよりも技量・防御に秀でる。
これはユニットの司令塔である事から徹頭徹尾「死なない事」を目的に組まれた能力値やスキル・精神コマンド構成をしているからだ。
スキルに関しては明鏡止水こそ無いものの「底力」「ガード」「カウンター」「精神耐性」「見切り」「SP回復」「SPUP」「ラーニング」「強運」「指揮官」を持っている。
精神コマンドに関しては「不屈」「直感」「加速」「応援」「祝福」「隠れ身」となっている。
どー見ても指揮・支援ユニットと言うか戦艦と言うか、そんな感じだ。
で、そんな直哉が無敵バリア&瞬間移動&MAP兵器持ちで遠近隙無しの最終面でもガンガン前衛出来る五条・クソチート・悟とやり合えるか?と言われると…
「お、らぁ!」
「がッ!?」
否である。
「は、やっぱり術式の種はスパロボ仕様かよ。」
「あー流石にバレてまうか。」
「傑が教えてくれたんだ、よ!」
言うと同時、無下限を解いた状態の五条が素早く三連撃を叩き込む。
常時使用している「直感」と「不屈」の効果によって一撃目は回避、二撃目は極小となり、しかし三撃目は命中する。
それを「見切り」「カウンター」を活かして辛うじて往なすものの、呪力量から来る身体強化の差は大きい。
精神コマンドとスキルの恩恵があれど、その差を覆されて未だ喰らい付いているのは、やはりあのフィジカルキングコングと流派東方不敗等の優れた師匠達との鍛錬によるものだった。
「っあ、やっぱキツイなぁ!」
「だろうな!」
呪術界最強、五条悟。
その名に恥じず、彼は近接戦闘も超一流の域に何れは立つ。
原作では特級呪霊×2を相手に無下限を解いた状態でなお圧倒する程だ。
今はまだ即倒されない程度の技量差だが、何れは直哉では完全に置いていかれる事だろう。
原作における夏油が焦るのも納得の才覚である。
(こっちの気力上がってないのにこれはキツイ…!)
直哉とて格闘戦における技量は同年代の中では上位に入る自信があった。
しかし、こうも圧倒的に差があると、そんなものは所詮団栗の背比べに過ぎなかったのだと改めて理解する。
「ま、諦める気はあらへんけどなぁ!」
「そー来なくっちゃなぁ!」
五条悟相手にタイマンを張る。
言いかえれば、それは五条悟を拘束している事と同義だ。
なら、直哉がすべき事はこの場に五条を拘束し、味方が勝利する確率を少しでも上げる事。
「じゃ、強化パーツ使うなぁ。『ハロ』『セイクリッド・アーマー』!」
「はぁ!?き、汚ぇッ!」
「はっはっは、御意見無用ぉ!」
結局、五条と直哉は全ての呪霊が祓われ、東京校が勝利する30分後までインファイトを続ける事になるのだった。
「っしゃぁ!ナイスだ傑!」
「悟もお疲れ。まさか直哉が近接でもここまで凄いとはね。」
「そりゃーもー師匠さん方が良かったんよ。」
「あ、直哉君。夏油君凄かったですよ。何か仮面ライダーみたく変身しましたし。」
「え、何それ聞いとらん。夏油君見せて♡」
「キッショ!明日の個人戦終わるまで見せませーん。」
「そんな~。」
両校の生徒は和気藹々と、しかし何処かギラギラした目をしながらその日の夜を過ごした。
翌日、例年通り個人戦において、やはり最後は五条と直哉だった。
「昨日見せたから、今日は最初から行くよ!変身!」
バババ、とポーズ(掌印)を結んだ夏油の全身から、呪霊の一部のみをまるで外骨格の様に展開される。
元より体内に呪霊を格納する関係で、夏油はその全身と周囲から呪霊を出現させる事が出来る。
今回の場合、複数の呪霊達から一部(装甲や虫の複眼に触覚、爪や突起等)のみを自分の身体を覆う様に展開、まるで仮面ライダーの様な昆虫をモチーフとした姿へと変身したのだ。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?!」」」
その浪漫溢れる姿に、昨日その姿を見なかった京都校の男子達(直哉含む)は拍手しながら歓声を上げた。
きゃっきゃとはしゃぐ姿に呆れの視線が刺さるが、それも仕方ない。
だって彼らは男の子、変身ヒーローは幾つになっても憧れる生き物なのだ。
その後、呪霊から呪力や術式のみを抽出して自在に行使する夏油は相手の善戦を物ともせずに勝利を捥ぎ取っていった。
「素晴らしい…!ビューティフォー…!」
「クソ!負けたのに全然悔しさが感じられない…!」
「見ろよアイツ。負けたのにスゲー笑顔で握手キメてるぞ。」
自分達も後で変身状態で握手してもらおう、と彼らは決心した。
『次、東京校三年 五条悟 対 京都校三年 禪院直哉。』
「おし、これで最後やね。」
「手抜きとかすんじゃねーぞ。」
「せんせん。一年の頃なら兎も角、今はもう真面目にやっても危ないさかい。」
こうして、五条悟と禪院直哉の最後の交流戦が始まった。
そして結果だけを言うと、二人は相打ちになった。
互いに今出せる総力を決した呪術合戦は試合会場となったグラウンドを容易く破壊し尽くし、会場となった京都校の校舎の一部や20近い忌庫のダミー入り口や各種設備を消滅させた。
最終的に互いの領域展開まで戦闘は発展、その内部で起こった事は外部から観測出来なかった。
急いで試合中止と二人の救出のために動こうとした教師陣の目の前で領域は消失、最後には呪力切れでぶっ倒れた二人の姿だけ。
まさかの相打ちであった。
「てめー直哉!イデオンとかガンバスターとか核弾頭とかサテライトキャノンとかドカドカ撃ちまくるな!マジで死ぬかと思ったぞ!」
「五条君こそ何あのスペースキャット空間!危うくこっちの精神がやられる所やったわ!」
ギャーノギャーノと五条と直哉は大騒ぎ。
試合での負傷も何のそので、彼ら二人はしっかりと恒例となったレクリエーションに参加していた。
「ほれ、マシュマロ焼けたで。」
「お、あんがと。」
「焼もろこしも美味いでー。」
わいのわいのと火を囲み、BBQをしつつカレーや焼きおにぎりを頬張る生徒達の姿は正しく青春の一ページだった。
「おーい、持ってきたぞー!」
「よし、来たで来たで!」
「お、打ち上げ花火じゃん!」
「皆ーちょっと時期外れだけど花火やろー!」
結果、皆して楽しんだのは良いものの、五条が複数の打ち上げ花火を一気に着火させた上でうっかり横に倒してしまい、四方八方に花火が発射される地獄絵図となった。
勿論の事、火事にならない様に後始末した後、いつも通りの夜蛾先生の拳骨&お説教が始まるのだった。
「サッセーン。」
「お前はどうしてそう大人しく出来ないんだ!?」
「だって直哉が『一気に着けたらおもろいで』って言うから…。」
「横倒しにした上で火の着いた花火を向けた馬鹿が何か言ったか?」
「サッセーン。」
こうして、五条悟に夏油傑、家入硝子に禪院直哉他数名の黄金世代と言われた彼らの最後の交流戦は終わりを告げるのだった。
これが彼らの青春の最も輝かしき頃、大変だが楽しかった学生時代の思い出だ。
2018年、東京都にて
「戦争の前に、3つ条件を満たせば勝てるよ。」
「一つ、呪術師最強と言われる五条悟を戦闘不能にする事。」
「二つ、禪院家当主禪院直哉を殺害する事。」
「三つ、両面宿儺・虎杖悠二を仲間に引き込む事。」
「これら三つの条件を達成すれば、君達呪霊は戦わずして勝利する事が出来る。」
そう特級呪霊らに告げる男の頭には、頭をぐるりと一周する程に大きな縫い目があった。