禪院直哉の趣味的な人生 【完結】   作:VISP

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第五話 原作開始~交流会編

 2018年になっても、直哉の仕事は終わらない。

 

 だってやる事が多過ぎるんだもん(白目)

 禪院家内部の監視に家同士の会合や定期的な集会、所属呪術師への指導。

 国外展開してから久しい資産運用や特殊素材の売買、海外産呪具の購入等。

 更に新素材の開発や国内即応体制のチェックや日々上がって来る情報の精査に自己鍛錬。

 公安への協力と漸く走り出した自衛隊内の対呪霊部隊への支援等、やるべき事は山積みだ。

 それでも縛りのお陰で睡眠時間と趣味の時間は確保できている辺り、あの時縛り設けておいて良かった…!と過去の自分の英断に感謝していた。

 

 「直哉さん、こちらの書類は私が確認しておくわね。」

 「ん、お願いね真衣ちゃん。」

 

 禪院真衣、直哉の婚約者の双子の姉妹の妹の方は高専に通う傍ら、直哉が国内にいる時は彼の仕事の手伝いをしている。

 その内容は冥冥に任せ辛い直哉の身の回りの世話が殆どだが、メインは別である。

 

 「すまんね真衣ちゃん。今日はもう疲れてるんちゃう?」

 「ジャパニウム鉱石の今日のノルマ分は終わったから、後はゆっくりするわ。」

 

 真衣の術式は「構築術式」。 

 己の呪力を元に物質を0から構築する。

 質量保存の法則に真っ向から喧嘩を売っている凄い術式なのだが、呪霊退治には直結しないが故に呪術界での評価は低い。

 しかし、真衣はこの術式を用いて「架空の物質」や「希少な物質」を構築する事に成功、それを用いて直哉の仕事、主に研究開発を手伝っていた。

 具体的には今彼女が発言したジャパニウム鉱石やそれから派生する超合金Z系素材、サイコフレームにルナチタニウム、オリハルコニウムにゾルオリハルコニウムの構築に成功している。

 現在はムートロン金属に挑戦中だ。

 加えて、少ない呪力と燃費の悪い構築術式もシュウ・シラカワ博士開発の電力↔呪力相互変換装置とそれに直結した大型発電機複数を用いて解決する事に成功している。

 将来的には真衣には開発途上の素材のみ構築してもらう予定だ。

 なお、彼女にはしっかりお給料が発生し、資産だけなら既に姉を超えていたりする。

 更に電力↔呪力相互変換装置を量産して日本中に設置、大気中の呪力を集めて電力に変換してエネルギー事情を改革するという大規模プロジェクトが進行中で、地方都市で密かに実験中だったりする。

 産油国と言うか世界中が腰抜かしそうな計画なので、呪術界・産業界双方にも厳重に秘匿されている。

 

 「直哉さんも、ね?そろそろ時間でしょ。」

 「あ~~…うん、そやね。今日はもう休むで。」

 

 絶妙な角度と距離でこちらを覗き込んでくる真衣の美貌と嫌味にならない程度の良い香りにクラッときつつ、直哉は書類を片付けながら頷いた。

 その様子を見ていた冥冥は本丸の陥落も近いね、と教え子の成長と通帳残高を思ってにっこりした。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 直哉としては、虎杖悠二に宿儺の指を呑ませる必要は無かった。

 即応体制によって速やかに対処し、適切に処理する。

 その程度の認識であり、またそれで大丈夫な筈だった。

 

 『札幌にて呪胎の発生を確認!他にも複数の一級呪霊を確認したとの事です!』

 『山形市内にて呪詛師集団の活動を確認!最寄りの即応部隊は直ぐに対処を!』

 『福島原発跡地にも受胎の発生を確認しました!周辺に呪詛師もいます!』

 

 即応体制とてその対処能力には限界がある。

 反応や情報収集こそ可能だったが、対処能力を大きく超える状態となってはどうしようもない。

 これが即応部隊を仙台市内に行かせないための陽動であり、こちらの対処能力の限界を図るための行動である事は直ぐに分かった。

 故に、直哉は決断した。

 

 「軌道上で待機中のエルトリウムからATX小隊を出撃させてな。」

 

 その日、仙台市上空に隕石の落下が報道された。

 隕石は大気圏内で殆ど燃え尽きたものの、一部が杉沢第三高校に落ちてガス爆発が発生、校舎が損壊した事で暫く休校になる事が決まった。

 現場で被害に会った虎杖悠二は高専東京校で保護されたものの、あくまで発見した五条悟によって「器として極めて高い適性を持つ」事を理由としたものだった。

 現場で呪霊被害に会った事で呪霊を目視可能となった彼は今後高専にて呪術師としての修業を受ける予定だ。

 呪力こそ一般人より多少ある程度だが、伏黒父や禪院真希の前例から呪具使いとして鍛える予定となっている。

 本来なら剥奪される筈だった彼の人権と尊厳は、確かに守られたのだった。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 禪院真希には夢がある。

 

 それは金持ちになるとか、特級呪術師になるとか、呪霊のいない世界とか、そんな御大層なものではない。

 好きな人と結婚して幸せになる事。

 それが真希の、そして妹の真衣の夢だ。

 そのためには日々仕事で忙殺されてる直哉を支え、自分達と一緒に過ごすための時間を作り出す必要があった。

 

 「どうすればいいと思う?」

 「じゃぁ真衣は直哉に付いててやってくれ。」

 「真希はどうするの?」

 「私は強くなって特級になる。なって、禪院家当主になって直哉の仕事を減らす。」

 

 要は分担である。

 直哉の才覚と広い視野、そして術式を活かし切るには今の様な家に縛られた状態は邪魔でしかない。

 当主夫人となって代理となる事も十分有りだが、それにしたって実力があった方が良い。

 況してや真希は呪力も術式も無いのだから、周囲を黙らせるためにもその位の実力や功績は必要だった。

 

 「分かった。でも、経理とか事務とかも出来るようにならないとダメよ?」

 「分かってるよ。そっちも直哉の傍だからって抜け駆けするなよ?」

 「んバッカじゃないの!?」

 

 顔真っ赤にする真衣を見て、よしまだ当分先だな、と確認した真希は内心でグッとガッツポーズをするのだった。

 

 「ま、私も当分先だな。」

 

 今年は東京校での開催となった姉妹校交流戦、その初日の団体戦の最中に起こった特級呪霊と呪詛師による襲撃。

 ちなみに監視には直哉出資の研究所で開発された呪霊も映る監視カメラで行っている。

 その最中、真希は真衣を軽くボコった後、特級呪霊「花御」へと対応した。

 とは言え、相手は特級の中でも高い耐久力を誇る花御である。

 特級呪具「遊雲」を天与呪縛による高い身体能力を活かしてブチ当てても、あっさりと再生されてしまう。

 更には余り頼りたくなかったヴァイエイトの専用ジェネレーターと接続されたビームキャノンの一撃を受けるも全身が浅く焼け爛れるだけで効果は薄い。

 駆け付けた真衣のメルクリウスがタンクを担い、幾度も打撃・斬撃・銃撃・砲撃を重ねるも削り切るには至らない。

 

 【そう言えば、貴女方のどちらかは捕らえよと言われていましたね。】

 「ぐぁ…ッ!?」

 「真希!?」

 

 剰え、恐らくは直哉対策のためか敵に捕らえられる始末。

 幸いにもその直後に虎杖と東堂の二人が来て救出されて選手交代となったが、真希にはこの敗戦は苦い記憶として刻まれる事となった。

 

 「真希ちゃーん、真衣ちゃーん!元気やったかーい!」

 

 翌々日、襲撃の報を聞いて海外から急いで帰国した直哉は何故か両校の生徒が野球してる時にやってきた。

 禪院家にいる時に来ている和服ではなくお高い特注のスーツ(上下合わせて数百万)のまま走ってきた姿に、直哉を知らない生徒達は何だ何だと怪訝な目を向けた。

 

 「お、直哉じゃーん。久々ー。」

 「五条君おひさー。はいこれ、アメリカ土産のちょっとアレな色合いのゼリーね。」

 「うわぁ極彩色ぅ。」

 

 海外特有の科学物質マシマシそうなゼリーの大袋に、一同はうわっとなった。

 スゲー真っ青なゼリーとか入ってるんだけどマジであれ食うの???

 外国の人達も日本人が真っ黒な海苔とか納豆食ってるのそういう風に見てるからお相子だゾ。

 

 「真希ちゃんと真衣ちゃんは大丈夫?お友達も怪我しとらん?」

 「怪我はしてるっすけどもう大丈夫です!」

 「お、君が虎杖君かい?災難やったねぇ。元気で何よりや。」

 

 はいこれ東京校と京都校の皆にお土産、と渡されたのは高級菓子店のビスケット詰め合わせだ。

 どうやらアレなチョイスは五条だけらしい。

 

 「楽巖寺学長もご健勝そうで何よりですわ。」

 「ふん、貴様は相変わらず騒々しいな直哉。」

 「はっはっは、貧乏暇なしですわ。」

 

 お前この国で上から数えた方が早い資産持ってるやろがい、と言う視線が幾人かから突き刺さるがどこ吹く風。

 禪院家産面の皮は厚いのが当たり前なのだ。

 

 「ま、元気そうで安心しましたわ。」

 「直哉さん、急に帰って来て良かったの?」

 「おおそやった。これから研究所で打ち合わせあるんやった。」

 「もう、少しは休まないとダメじゃない。」

 「分かってんで。打ち合わせ終わったら今日はもう終わりやし、そしたら明後日の飛行機で直ぐアメリカ行きやね。」

 

 真衣の優し気な表情に先日から散々煽られた野薔薇は誰だコイツとドン引きした顔で見ていた。

 

 「へー。じゃあ明日はフリーなのか?」

 「あー、そやね?」

 

 するりと野生動物の様にしなやかかつ自然な動きで直哉の傍らに寄り添った真希はそのまま腕を絡ませ、手は恋人繋ぎをしてがっしりホールドし、逃げられない様にする。

 直哉はそれをちょっと顔引き攣らせたものの決して振り払う事は無い。

 野薔薇はそれを見て、尊敬するカッコよくて綺麗な真希の普段からは想像つかない女性らしい所作に呆気に取られていた。

 

 「じゃぁ分かってるよな婚約者様?」

 「分かった分かった。ほな一緒に買い物でもしよか。」

 「よし、勿論直哉の奢りな。」

 「真希、明日位ゆっくりさせてあげたら?」

 「ええてえて。そん位の甲斐性あるから気にせーへんよ。」

 

 本人らにそんな自覚は無いのかもしれないが、ナチュラルにボディタッチしながら三十路近い男性と双子の姉妹が和気藹々としているのは周囲は何処となくいけないものを目にしている気分にさせられた。

 

 「おほん」

 「おっと失礼。ではこの辺で失礼させてもらいますわ。」

 

 こうして、禪院直哉は来た時と反対に静かに去っていった。

 

 「真希さん、色々教えてくれますよね???」

 「真衣、真衣も色々教えてくれるよね???」

 「拒否権ねぇって顔してんぞ野薔薇。…単に婚約者ってだけだぞ。」

 「分かったから落ち着いて霞。…後でね後で。」

 

 キラキラと、大好きな先輩の色恋話が聞けるとあって、野薔薇は大層興奮していた。

 勿論三輪霞も西宮桃もにこやかに逃がさねぇぞオメェと詰め寄っている。

 彼女達もまだまだ年若いとは言え女の子、幾つになっても色恋沙汰、特に他人のものは大好きなのだ。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 呪詛師・呪霊連合は研究していた。

 自分達の脅威となる存在、即ち特級呪術師について。

 

 現在、特級に分類される呪術師は5名であり、その内まともに活動しているのは4名だ。

 即ち「最強」五条悟、「呪霊ヒーロー」夏油傑、「ロボ軍団」禪院直哉、「純愛」乙骨憂太。

 ちょっと待てお前らと言いたくなる二つ名?みたいなものが付いてるが、大体合ってるのでここでは置いておく。

 この他にも「プータロ―」九十九由基とかがいるが、そいつと現在新婚旅行で海外に出かけてる乙骨憂太と里香夫婦は放っておく。

 問題なのはほぼ常に日本にいる五条と夏油、そして国内に式神を用いた索敵・哨戒・即時投入が可能な即応体制を常時展開してる直哉だった。

 五条は単体戦力にて最強の名を恣にし、夏油は常にとはいかないが直哉以上の物量を展開可能かつ取り込んだ呪霊の術式・呪力を抽出して使用可能となっている。

 どいつもこいつも特級呪霊が複数体でかかって漸く時間を稼げるという規格外共である。

 なので、こいつらに頭を抑えられてる呪詛師・呪霊は例え自分達が死んだとしてもこいつらをどうにかすると言う共通目的の下で連合を組んだ。

 なので、こいつらの術式に関しても当然ながら研究されている。

 即ち、無下限術式と呪霊操術、多種影法術である。

 前者二つは前例があり、過去の記録にもしっかり残っているし、呪霊と呪詛師の仲介役たる縫い目の男が詳細を知っていたために割とすんなり進んだ。

 しかし、十種影法術の亜種と思われる多種影法術に関しては殆ど情報が無い。

 辛うじて「アニメに出て来るロボットの類と同じ特徴を持った式神を使役する」と言う情報位だ。

 なので極一部のアニメ好きな呪詛師とかが法則性を調べた結果、とあるゲームに登場するロボットのみ使役している事が判明した。

 そのゲームの名を「スーパーロボット大戦」。

 1991年から始まって以来、累計シリーズタイトルは2018年において50近く、現在も続々と新作が制作され続けているとってもご長寿なゲームである。

 

 「え、これ全部やるの?正気?」

 「これも禪院直哉打倒のためだ。やれ。」

 「ウッス…。」

 

 そんな訳で、ある程度禪院直哉の術式の詳細を知る事は出来た。

 スーパーロボット大戦で味方として登場したユニットを操作・使役する。

 しかも、オリジナルである本来の十種影法術と同様に式神は高度な自律性を持った無人兵器に近い。

 そんなものが無数に、それこそ数える事も馬鹿らしくなる程の数を保有している。

 流石に夏油の様にそれらを一度に運用する事は出来ないようだが、それにしたって一体辺りの質に関しては特級呪霊でも上の上と言っても良い式神も数多い。

 とてもではないが正面から相手したくない相手だった。

 

 「ふぅむ……やはり彼も正面から戦わないようにするしかない。」

 

 五条と夏油と同時に相手するには余りにもこちら側のリソースが足りない。

 どう考えてもその結論に行き着く縫い目の男はそう告げた。

 先ずは予定通り五条悟の封印を優先すべきだろう。

 幸いにして、予定していた新しい身体は何とか確保できたし。

 

 「では具体的にはどうする?禪院直哉ならば自分は国外にいても日本国内に残した式神を運用できる。それはもう証明済みの筈だが?」

 「故に別の事でそのリソースを削る。」

 

 例え自律性が高くとも、ある程度術者からの指示を出す必要はある。

 なら、術者の方を攻め、式神の活動を阻害・停止させる。

 式神使い相手の王道とも言える戦術だった。

 

 「で、どう攻める?下手すれば返り討ちだぞ?」

 「我々は手出ししない。適当な相手に仕事をさせるだけだ。」

 「なぬ?」

 

 呪霊側の代表、漏湖は縫い目の男から詳しい話を聞いた。

 そして、その内容のチャチさと言うか、ショボさに疑問符を浮かべた。

 

 「それは…効くのか?」

 「少なくとも時間稼ぎには。」

 「婚約者の小娘二人を人質に使えんのか?」

 「それも考えた。が、彼女らの影から式神が出て来た事を考えると、先日の襲撃から更に強力な式神を配置していてもおかしくはない。」

 「本っっっ当にアイツラは人間か?我らよりも遥かに人外な気がしてきたぞ。」

 「私も以前から疑っているが、生物学的には本当に人間だとも。」

 

 特級呪霊を安定して祓えるから特級呪術師、ではない。

 その本質は既存の等級制度じゃ区分できねー規格外、それこそが特級呪術師なのだ。

 実力が凄まじい分、その人格の酷さも比例しちゃう問題児というのが彼らの本質だ。

 万年反抗期五条、外面良いけどクズ夏油、笑顔で腐った蜜柑地獄に落とす直哉、純愛が過ぎる乙骨、仕事しない九十九。

 そんなアブネー連中も使わないといけない位人手が足りないのがこの時代の日本呪術業界だった。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 10月31日ハロウィン当日 東京都渋谷区

 

 突如張られた未登録の帳によって、多数の民間人が閉じ込められた事件に対し、五条悟以下東京高専の主戦力が軒並み投入される事となった。

 この時、即応体制を成す直哉のユニットは一体何処にいたのか?

 答えは二つあった。

 

 一つ、昨夜から日本各所で異常発生した1・2級呪霊案件に忙殺されていたのだ。 

 その数、確認されているだけでも53件であり、呪詛師・呪霊連合がこの一件に乾坤一擲とばかりに力を入れているのがよく分かる数字だった。

 二つ、渋谷に張られた帳は二重構造となっており、内側は原作通り非呪術師を閉じ込めるが、外側はユニットのみ通さないようになっていたのだ。

 精神コマンド「直撃」を用いれば突破可能かもしれないが、それは奥の手の一つであり、高専や呪詛師・呪霊の目撃者多数の状況では現場判断で使用する事は躊躇われたため、帳の外で待機するしかなかった。

 また、その決定が可能な直哉が今滞在中のアメリカでも生物兵器を保有したテロリストによる空港の占拠や全米各地で起きた無差別の爆弾テロによって各所で治安が荒れているため、とてもではないが日本に来れそうにない。

 更にネットに犯行声明を出した者達の一人が禪院直哉のそっくりさんという事もあって、米国政府に身柄を拘束されているという真偽不明の情報すら入ってきている有様だった。

 五条も夏油と共にこの異常発生した呪霊案件に掛かっていたのだが、本命と思われる渋谷の帳へ到着したのは瞬間移動可能な五条だけだった。

 この一連の事件に蹴りをつけるべく、高専上層部は五条悟単独での出撃を決定した。

 

 「開門。」

 「おお五条、久しぶりじゃの!」

 

 そこにいたのは額に縫い目のある女性。

 嘗て五条と夏油、そして伏黒父の手によって海外へと逃された天内理子のより女性として成長した姿があった。

 

 「な」

 

 驚愕の余り、すぐ傍で獄門橿が開いた状態で五条は固まってしまった。

 星漿体たる天内理子とお付きの黒井美里はあの後公安の手によって海外へと逃されたものの、それでも不定期に連絡を取っていた。

 何だかんだあの楽しいバカンスを一緒にした彼女らは五条と夏油にとって大事な、守るべき存在だった。

 それがこんな地獄の様な場所に、恐らくは敵側としている。

 動揺するなと言う方が無理だった。

 同時に彼の脳内ではたった三日間、なれど彼にとっては初めて正面からボコボコにされて失敗してしまった任務の記憶が蘇る。

 それは獄門橿の条件をクリアさせるだけに十分な脳内時間だった。

 獄門橿は発動し、五条悟は拘束された。

 後は閉門と言うだけで、五条悟は完全に封印されるだろう。

 五条本人も身体に力が入らず、呪力も回せない状況に、自身の詰みを確信していた。

 

 「ははは、何じゃ五条。そんな間抜け面で。」

 「…テメェ誰だ?天内じゃないな?」

 「ん~?いやいや、妾は間違いなく天内じゃよ。」

 「確かに六眼にもしっかり天内として映ってる。だがな、それでも分かるもんはあるんだよ。」

 

 「キモい。何で分かったんじゃ?」

 

 がぱり、と額の縫い目から糸が引き抜かれる。

 すると頭を一周する縫い目を境に上側ががぱりと外れ、その中身が露わになる。

 本来ならば脳が収まるその場所には、脳によく似た外見の呪霊らしき存在が姿を現す。

 脳味噌に口が付いた様な外見のソイツはニヤニヤと五条の様を嘲笑っていた。

 

 「星漿体程重要な人材ならば、その後もしっかり監視を付ける位はしておくべきじゃったな。」

 「本来ならばこの状況と夏油傑の術式が最適じゃったのだがな。それは悉く禪院直哉に邪魔された。」

 「黒井さんはどうした?」

 「殺した。使い道も無かったし、情報漏れても面倒じゃったからな。」

 

 天内理子の顔で、唯一の家族を殺したと宣うその姿に、五条は改めて殺意が募った。

 

 「もうこちらに関わらない様にと気を遣った様じゃが、詰めが甘すぎるのう。」

 「ッチ、しくったな。この姿勢も楽じゃない。とっととやれよ。」

 「おお、すまんすまん。じゃぁ五条悟、新しい世界でまた会おうぞ。」

 

 

 

 ……………

 

 

 

 「んー典型的な時間稼ぎやね。」

 「だろうね。」

 

 五条悟敗北の一時間程前の事、禪院直哉はアメリカで冥冥と共に空港で起きたバイオテロ事件によってホテル内に足止めされていた。

 既に犯行声明の映像は世界中に流れ、犯人グループの一人として禪院直哉の顔は出てしまっている。

 偽物を逮捕するまでは如何に直哉が本物で無実だとしても、米国当局側は身柄を確保する必要がある。

 加えて、相手が普通のテロリスト+日本の呪詛師・呪霊との繋がりがあるとすると、事は国際問題にまで発展してしまう。

 早急に確保して事態を解決せねば、日米関係に致命的な亀裂が入る可能性すらあった。

 

 「本命は日本の渋谷、そして五条君や夏油君か…。」

 「こちら側の戦力を削るための呪詛師・呪霊連合の仕業かい?」

 「後は呪術総監部とか加茂家の非主流派とかかねぇ。」

 「あらま。そこまで分かってて何もしないのかい?」

 「まさか。プランDでお願いするわ冥冥はん。」

 「分かった。ボーナス期待しているよ。」

 

 プランD、即ちデコイ作戦であった。

 直哉本人は精神コマンド「隠れ身」で誰にも見つからない様にした後、そっと空港近くのホテルを後にした。

 

 「さて、私も仕事を始めようか。ねぇ憂憂。」

 「はい姉様、準備は万端です!」

 

 稼ぎ時の到来に際し、冥冥は一緒に来ていた憂憂ににっこりと微笑みかけた。

 で、肝心のプランDの全体の流れは以下の通り。

 

 1、大量の禪院直哉変装セットを用意します。

 2、困窮してそうな人達をお金で雇い、変装してもらいます。

 3、あちこちを目立つ様に歩いてもらってデコイにします。

 4、警察とテロリスト双方が混乱してる内に直哉から任されたユニット(フルメタ系)と共にテロリストにカチコミます。

 5、偽直哉とリーダー格の身柄を捕らえて当局に突き出します。

 6、戦闘終了後、直ぐに細菌兵器除くテロリスト側の値打ち物全てを分捕って逃げます。この際不可視モード実装型ECSや電子兵装を駆使して攪乱すれば楽にいけます。

 

 こんな感じで冥冥と憂憂は自らの仕事をこなしたのだが、その頃の直哉はと言うと…

 

 「ほな宇宙までよろしくー。」

 『ったく、正義の味方をタクシー代わりかよ!』

 「急ぎでお願いな早瀬君。」

 『ああもう!ラインバレル、オーバーライド!』

 

 姿を隠した所で、ラインバレルの長距離転移によってあっさりと米国を脱出した。

 禪院直哉の呪力は、既に一個人のものとしてはこの世界の呪術史上最多と言っても良い。

 その理由はシラカワ博士印の電力↔呪力相互変換装置である。

 この相互変換装置と多数の発電機(風力・火力・水力・波力・太陽光と各種複数ある)によって直哉とユニット達は常に潤沢な呪力を供給され、常に最大パフォーマンスを発揮可能となっている。

 故にこそ、直哉は地球上では運用し辛い一部の戦艦系ユニットを宇宙に配置して即応体制の一部としていた。

 何ならマクロス世界におけるゼントラーディ艦隊の様に軌道上からの直接砲撃を行う事すら可能であったが、精度の問題から禁止されている。

 

 「待っていましたよ、禪院直哉。」

 「おやシラカワ博士。って事は、手を貸してくださるん?」

 「えぇ、以前の約束を果たしに。」

 

 GGGオービットベース内部、そこには相変わらず白衣のような外套と紫のタートルネックを着たシュウ・シラカワの姿があった。

 

 「標的の拘束、困っているのでしょう?」

 「うわぁ、流石は天才。そないな事までお見通しとは。」

 「ふふ、最近の事件を見ていれば自然と分かる事ですよ。」

 

 直哉の悩み、それは「メロンパンを確実に滅するにはどうすれば良いか」だった。

 そして、直哉の持つ手数では命中すれば確実に滅殺可能な武装を持ったユニットは多数存在するが、その前段階である戦場の用意や目標の拘束、周辺の邪魔となる敵の排除を悠長にやっていては逃げられてしまうという問題があった。

 あのメロンパンを呪術最盛期たる平安時代から存在すると仮定した場合、今まで一度もその存在を気取られる事なく動いてきたとは考え辛い。

 その結果として戦闘に入った事は幾度もあるだろう。

 或いは新しい身体を得るために戦闘した事もあるだろう。

 だが、あのメロンパンはその全てに勝利し、今日まで生き延びてきた。

 あらゆる謀略を、邪知を、術式を、呪詛を、呪具を、人を使って生き延び、目的の術式を持つ身体を入手し、そうやって千年近く日本呪術界の深淵を生き延びてきたのだ。

 とてもではないが普通に戦っては逃げられてしまう事は簡単に予想できる。

 そんな相手を止めを刺すまで確実に拘束するにはどうすれば良いか?

 

 「答えは重力。光や時空間にすら干渉可能な超重力を使いこなす私とグランゾンならば可能です。」

 「お見事。」

 

 加えて言えば、シュウ・シラカワは科学者にして錬金術師、パイロットにして神祇無窮流の剣士。

 そして何より魔法・魔術等のオカルト系技術に精通しており、電力↔呪力相互変換装置を開発した様に既にこの世界の呪術理論に関しても一定以上の知見を有している。

 あの脳みそメロンパンを仕留めるための拘束担当としてはこれ以上ない人材だった。

 

 「すまんね、シラカワ博士。これ終わったらご家族共々何か奢らせてもらいますわ。」

 「構いませんよ。こちらも好きにさせてもらっていますしね。」

 

 こうして、これ以上ない程の最上級の援軍と共に、禪院直哉はこの日この時のために厳選されたユニット達と共に軌道上のGGGオービットベースから出撃した。

 目指すは東京渋谷区、今まさに五条悟と呪詛師・呪霊連合が戦っている戦場のど真中であった。

 

 

 

 

 

 

 




次回、渋谷にてダークプリズン!
次もしっかり見てくれよな!
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