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近くに飛んでいる慧音の方へ目を向けてみれば、茫然としてしまっているかのような表情が顔に浮かべられている。普段教えている学童があのようなおぞましい姿になったのだ、当然の反応だ。一方懐夢はというと、自分を守るために側に飛んで、刀を持って構えているが、その身体はよくみれば震えている。自分を守るためとはいえ、普段何気なく遊んでいる友人が敵となっているこの状況に戸惑っているのだろう。そして、<独占欲の<
そんな事を考えてる場合ではない。そう思って霊夢は首を横に振り、<独占欲の<
「魔符「ミルキーウェイ」!!」
魔理沙の宣言の直後、ミニ八卦炉から星屑のような形をした光弾が無数に発射され、夜空を埋め尽くす天の川のようになり、そして天から地へと降り注ぐ豪雨のように<独占欲の<
「魔理沙、何でぼく達を攻撃してくるの!?」
懐夢同様に焦りながら、魔理沙は光弾の発射をやめる。
「た、弾が制御出来ないくらいに滅茶苦茶に飛ぶんだよ!」
霊夢は辺りを見回して、気付いた。今、この辺りは<独占欲の<
ならばこの鱗粉の霧が広がっていない場所まで離れればいいではないかと思ったが、この鱗粉の霧がどこまで広がっているのかわからないし、この霧を脱したとしても、<独占欲の<
ならばどうするか。考えられる手段は<独占欲の<
しかし、<独占欲の<
(遠距離を封印し、接近した者は粉砕する……)
単純だが、強力で巧妙な布陣だ。逃げ出せるならば逃げ出したい気持ちだが、そんな事が出来る立場でも状況でもない。<独占欲の<
この場には一応接近戦に強い幽香と、歴代の巫女の中で最強と呼ばれる実力を誇る霊紗もいる。この二人に何とかあの腕を壊してもらって、鱗粉を封じたところでスペルカードをぶつければ……。
霊夢は頭の中に渦巻く考えを一つにまとめ上げると、皆に話しかけた。
「皆、聞いて! あいつの放った鱗粉のせいで、弾はうまく飛ばないし、弾幕には穴が開くわ! だから遠距離戦を仕掛けるのは無意味よ」
慧音が霊夢に問う。
「ではどうすればいいのだ。接近戦で挑めとでもいうのか」
霊夢は頷く。
「そうよ。でもきっとあいつの攻撃力は並大抵じゃない。一撃もらっただけでどうなるか、全く想像がつかないわ。だけど、接近戦を仕掛けなければあいつを倒す事は多分できないわ」
霊夢は少し遠くを飛んでいる幽香と霊紗に声をかける。
「幽香に霊紗! そこで接近戦に優れてるあんた達の出番ッ! あいつに接近して、鱗粉をばら撒くあの翼を破壊して頂戴! もし出来るなら、あいつの背中から生えてるあの腕を引きちぎるか、壊すかして無力化させて!」
幽香はふっと鼻で笑う。
「あいつに怪我させられた私に、あいつにもう一度挑めなんて、無茶を言うわね霊夢」
幽香は<独占欲の<
「でもいいわ。あいつにぼこぼこにされてから、どういうリベンジをしてやろうかと考えていたところだしね。その作戦、乗ったわ」
霊紗が霊夢に目を向ける。
「私の力をもってすれば、それくらいは容易いかもしれないが、如何せんあいつの強さがどれほどのものなのかわかっていない。もしかしたらその作戦は通じないかもしれないが、それでもいいのか」
「ごめん。それ以外の戦法が今のところ思いつかないんだわ。危険な賭けになるかもしれないけれど、どうにかして頂戴」
霊夢の回答に霊紗はふっと笑って、<独占欲の<
「努力しよう」
霊夢が頷いた後に、傍を飛んでいた懐夢が霊夢へ顔を向けた。
「接近戦ならぼくも出来る。だからぼくも、霊紗師匠と幽香さんと一緒に」
霊夢はバッと懐夢に近付いて、懐夢の肩を掴んだ。いきなり近付かれてきょとんとした懐夢の顔を見つめながら、霊夢は首を横に振った。
「それは駄目よ懐夢。貴方は私の傍で戦い続けて。チャンスが来たら一緒に攻撃して、リグルを取り込んでいるあの<
でも、と懐夢は言いかけたが、霊夢は首を横に振って、もう一度言った。
「言う事を聞いて頂戴、懐夢。貴方に守られる私からのお願いよ」
懐夢は少しの間霊夢の目を見つめた後に頷き、<独占欲の<
「霊夢、私達は何をすればいいのかしら。私達は遠距離攻撃しか出来ないわ」
霊夢はアリスに目を向けて、思考を巡らせた。確か、アリスのスペルカードの一つに槍や剣といった武器を持たせた人形を対象に突撃させるものがあったはず。それらを発動させて幽香や霊紗と共に攻撃させれば、効果はあるはずだ。アリスはそれで行ける。
一方で魔理沙だが、魔理沙の代名詞ともいえるマスタースパークはその超威力と出力故に鱗粉の霧の影響を受けずに、直進できる代物だ。即ち、この霧の中で唯一<独占欲の<
そして慧音。慧音は魔理沙のような超火力スペルカードも、アリスのような接近戦もこなせるスペルカードを使えるわけでもなく、ただ弾幕を張る事ができるくらいだ。<独占欲の<
最後に、懐夢。懐夢は自分を守る事を使命としているから、引き続き自分の傍で戦ってもらい、時が来たら自分と共に<独占欲の<
一通り頭の中で作戦を考えると、霊夢は素早くまとめて、まず最初にアリスに声をかけた。
「アリスは人形を突撃させるスペルカードを使って、幽香と霊紗を援護して頂戴。あんたのスペルカードの中にはこの霧の中でも動くものがあるはずだから」
続けて、魔理沙に指示を下す。
「魔理沙はマスタースパークやらブレイジングスターやら、幽香と霊紗の攻撃を見計らって撃ち込んで頂戴。あんたの火力はこの鱗粉の霧を貫通するから」
魔理沙は「任せておけ!」と自信満々に言い、<独占欲の<
続けて、霊夢は慧音に指示を下す。
「慧音は……あいつから離れて、攻撃できる機会やスペルカードを探って頂戴。でも、できるだけ攻撃しないでほしいかな」
慧音が驚いたような顔になる。
「な、なぜだ」
「あんたにとってリグルは大事な学童。そんな子を攻撃しなきゃいけないのは、教師のあんたは辛いでしょうに。だからあんたは出来るだけ攻撃しないで、チャンスが来た時にだけ攻撃を仕掛けて頂戴」
慧音は少しの間俯いた後に顔を上げて、「わかった」と言って頷き、魔理沙と同じように<独占欲の<
「ぼくは霊夢を守るよ」
「えぇ。そうしてもらうつもりだったわ。貴方は私を守りながら戦って、私のスペルカードと一緒に、スペルカードによる攻撃を仕掛けて」
懐夢は頷いた。
「わかった。霊夢もしっかり戦って。幽香さんと霊紗師匠だけじゃ難しい時もあるはずだから」
「わかっているわ。さぁ、作戦開始!」
霊夢の掛け声とともに、幽香と霊紗は一気に<独占欲の<
「か、固いじゃないの……!」
幽香は歯を食い縛って身を翻すと、異形の足より生えている、忌まわしい鱗粉をばら撒く翼に狙いを定めて、右手で拳を握った。そして、ほぼその直後に<独占欲の<
……まだだ。穴を開けたくらいでは鱗粉は止まない。引きちぎるか、全壊させるかして、完全に壊さなければ、あの鱗粉と霧は止まらないのだ。そう判断するや否、霊夢は幽香に更に指示を下す。
「幽香、まだ駄目! 翼を完全に破壊して頂戴!」
幽香はばら撒かれた高濃度の鱗粉に咳き込みながら、頷く。
「そのようね……ッ!」
そう言って、幽香が再度拳を握って穴の開いた翼を殴りつけようとした次の瞬間、<独占欲の<
「貴方のスペルカードなんて、ぼろきれも当然よッ!」
幽香の言葉の直後、<独占欲の<
[魔蟲「インセクトバン」!]
幽香の周囲に突如として黒い霧が集まり、一つの球を作り上げた。幽香が球体の出現に驚くと、球体は突如として破裂し、爆発四散。幽香は爆発に飲み込まれて、弾幕を形成する際に発射される光弾の如く吹っ飛ばされて、<独占欲の<
土煙が晴れると、過度の爆発と衝撃によって、博麗神社に倒れ込んできた時のようになった幽香の姿が見えてきて、一同は顔を蒼褪めさせた。ずたずたになった幽香の姿に懐夢は悲鳴を上げるように叫ぶ。
「幽香さんッ!!」
アリスがごくりと息を呑む。
「スペルカードを宣言なしで発動させた……どうなってるのよ一体……」
霊夢は思わずアリスの方を見つめて、驚いたような顔になった。<独占欲の<
そもそも、先程から妙だ。<独占欲の<
考えていると、霊紗が<独占欲の<
「よそ見をするな、<
<独占欲の<
「霊紗!」
霊夢が悲鳴を上げると、霊紗に<独占欲の<
「霊紗師匠!!」
その時、霊夢は<独占欲の<
まさか、幽香を数回の攻撃で叩きのめした異形の腕を片手だけで押さえ込んでいるとは思いもよらなくて、一同はほぼ同時に唖然としてしまった。
しかし、そのすぐ後に、<独占欲の<
霊紗の鋭い回し蹴りは<独占欲の<
咄嗟に、霊紗は顔を上げて霊夢達に指示を下す。
「皆の者、今だ! こいつの異形の腕を狙え! 異形の腕の根元は、脆い!」
霊夢はハッとし、急いでアリスに指示を下した。
「アリス! 人形を使ってあいつの異形の腕を切り落として!」
アリスは「了解!」と言って霊夢の支持を承り、スペルカードを発動させる。
「戦符「リトルレギオン」!!」
アリスの宣言の直後、アリスの周囲に剣を持った人形が六体出現し、一斉に<独占欲の<
その様を見るなり、魔理沙は歓声に等しき声を出す。
「よぉし! 異形の腕がもげ落ちたぞ!」
いや、まだだ。まだ一本残っている。霊紗が押さえ込んでいるとはいえ、二本とも落とさなければ意味がない。そう思うなり、霊夢はアリスに続けて指示を送る。
「アリス、続けてもう一本! 異形の腕をあいつからなくすのよ!」
アリスはもう一度頷き、人形を操る仕草を起こす。しかしその直後に<独占欲の<
「じゅ、術を破られた……!」
懐夢が刀を構えて、呟くように言う。
「ならぼくが代わります。ぼくがあの<
「駄目って言ってるでしょ! あいつの狙いは貴方なのよ! あの状態のあいつに近付いたら……!」
霊夢が焦りながら懐夢に言ったその時だった。
「そのとおりよ懐夢。ここは私に任せなさい」
聞こえてきた声は、非常に聞き覚えのあるものだった。しかも、どうやら上から聞こえてきたらしい。
一体何事かと思って上を見てみれば、そこには、何かが遥か上空から急降下してきている光景があった。その何かの姿がはっきりした時に、二人は驚いた。急降下してきているのは、ついさっき<独占欲の<
「ゆ、幽香!?」
二人の驚く顔を見た幽香はにぃっと笑って、<独占欲の<
「花符「幻想郷の開花」!!」
幽香の宣言の直後、地面より無数の植物の蔓が飛び出して伸び、<独占欲の<
幽香は<独占欲の<
「さてとリグル……随分とやってくれたものね。
幽香は底知れぬ怒りをはらんだ笑みを浮かべると、思い切り力を込めて、<独占欲の<
幽香は<独占欲の<
「さあ、こいつはもう死に体よ。さっさと止めを刺しちゃいましょう」
言われて、霊夢は気付いた。辺りを覆っていた鱗粉の霧が、すっかり消え去っている。発生源である翼を破壊した事と、衝撃波や暴風が辺りに吹き荒れたせいで、濃度が一気に薄くなったようだ。今ならば、光弾も熱弾も通常通りに飛ぶ。すなわち、<独占欲の<
「みんな、幽香の作ってくれたチャンスを生かすわよ! あいつに、止めを刺す!」
一同がおおっと霊夢に答え、それぞれのスペルカードを発動させようとした次の瞬間、懐夢が大きな声を出した。
「待ってください!」
一同はきょとんとして、懐夢を見つめた。
慧音が懐夢に恐る恐る声をかける。
「ど、どうしたのだ懐夢」
懐夢は振り向き、一同を見回した後に深呼吸をして、言った。
「<
一同は驚きの声を上げて、そのうちの魔理沙が懐夢に噛み付くように言う。
「な、なに言ってんだよ懐夢!」
アリスが続く。
「そうよ! 貴方の一人の力で足りるわけがないわ!」
懐夢は静かに答える。
「ぼくには霊夢と同じ博麗の力が宿っています。だから、あそこまで弱った<
懐夢は更に続ける。
「あの<
リグルは、ぼくの大切な人です。だから、せめてぼくの手で、あの<
懐夢の曇りのない藍色の瞳を見て、霊夢は息を呑んだ。懐夢は今、心の底からやらせてくれと訴えている。どのような考えがあるのかは、詳しくはわからないけれど、だいたいはわかる。懐夢は、リグルを心の底から助け出したいのだ。こういう時には、邪魔をしてはいけないと、今まで懐夢と共に過ごして学んできた。
「……わかったわ。懐夢、やりなさい」
霊夢の言葉に、幽香と霊紗と懐夢を除いた一同が驚き、慧音が霊夢に怒鳴る。
「お前まで何を言っているのだ、霊夢!」
魔理沙が続く。
「そうだよ! ここは私たち全員の力を合わせて、あいつに止めを刺すべきだろ!」
アリスが続ける。
「第一、懐夢が止めを刺しきれなかったらどうするのよ」
幽香が提案するように言う。
「その時は私達が急いで止めを刺せばいいわ。今は彼にやらせてみない?」
霊紗が続く。
「同感だ。懐夢は私が育てた<博麗の守り人>。あそこまで弱った<
二人の言葉に、霊夢に反論していた者達は黙り込んだ。直後、魔理沙が溜息を吐いた。
「……懐夢のお師匠且つ霊夢の祖母ちゃんに言われちゃ、仕方ないな」
アリスが同じように溜息を吐く。
「仕方ないわね。懐夢、やってみせなさい」
慧音が懐夢の近くまで飛び、その肩に手を乗せた。
「しくじるなよ。お前の大事な人だろう?」
懐夢は「はい」と頷き、やがて霊夢と顔を合わせた。「行ってきてもいいか?」という意思表示だ。
霊夢は懐夢の意思表示に頷き、微笑んだ。霊夢の微笑みを見るや否、懐夢はもう一度頷いて、霊夢達から離れて、虫の息のまま拘束されて動けないでいる<独占欲の<
そして、ゆっくりと深呼吸をした後に、一枚のスペルカードを懐から取り出して、光に変えた。目の前には、哀れな姿となった<独占欲の<
そのまま懐夢が刀を上に向けると、光の槍は刀の刃先に集まり、合体して巨大な光の槍となった。懐夢が一息置いて、刀の先端を<独占欲の<
「目を覚まして、リグル」
懐夢は静かに呟くと、続けてスペルカードの名を囁くように言った。
「神霊「夢想封槍」」
懐夢の宣言の直後、光の巨槍は<独占欲の<
霊夢が役目を終えた懐夢に声をかける。
「やったみたいね」
懐夢は何も言わずに頷く。
霊紗が懐夢の頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でる。
「よくやったぞ、懐夢。よくぞ使命を果たした」
懐夢はもう一度何も言わずに頷く。
直後、魔理沙が幽香に目を向ける。
「<
幽香はふふんと笑んだ。
「私は花の妖怪。花があれば時に分身を作る事も出来るし、花の力を使って傷を癒す事も出来る」
アリスが腕組みをする。
「なるほど、私達が目を離した隙に花のある場所に飛んで回復し、高速で戻ってきたって事ね」
幽香は「そういうところ」と言って、背伸びをする。
「やっと仕返しが出来たわ。あぁ、すっきりした」
慧音が心配そうな顔をして、地面に横たわる<独占欲の<
「ところで、<
霊夢はハッとした。そうだ、<
懐夢が恐る恐る、<独占欲の<
「リグル」
直後、全く動こうとしなかった<独占欲の<
一同はびっくりして、一斉にスペルカードを構えた。霊夢も同じようにスペルカードを発動させようとしたが、声が聞こえてきて、それをやめた。
[このこは、かえしてあげる。だいじょうぶ、このこのほんたいはきずついていないから。でも、これでおわりじゃないよ]
「なんですって」
一同の視線が霊夢へ向く。
<独占欲の<
[わたしたちは、こころからうまれる。わたしたちをたおすあなたは、きっとしんじつにたどりつく]
「真実……?」
[そう。それがいつになるかはあなたしだい。わたしはこれできえる。こんなかたちでおもいをつげちゃったこのこは、どうするんだろうね]
霊夢は<独占欲の<
リグルの出現に、懐夢は少し驚いてから、声をかけた。
「リグル」
懐夢の声に反応したように、リグルは叫んだ。
「来ないでッ!」
懐夢は驚いた。
リグルはその場に蹲った。
「私は化け物になった。化け物に飲み込まれた。そんな事になるくらいに、危ない事を考えてる奴なんだよ。だから、もう懐夢と会う権利だって、ない」
懐夢は静かに言った。
「……じゃあ、好きな人がいるっていうのは」
リグルは涙声になった。
「貴方だよ。私が好きになった人は、懐夢、貴方なんだ。
最初に会った時は何とも思わなかった。でも、貴方が勉強を教えてくれたり、慰めてくれたりして、一緒に過ごしていくうちに、どんどん貴方への思いが変わって行って……気付いたら貴方の事が誰よりも好きになってた」
リグルは自分の身体を抱きしめる。
「でも、それを貴方に打ち明ける事なんて出来なかった! そんな事をしたら、貴方を戸惑わせて、貴方に嫌われると思ったから! 貴方に嫌われるのが、何よりも怖かった。貴方と一緒に過ごす時間が、何よりも、どんな時よりも幸せだって思えたから……」
懐夢は目を見開く。
リグルの声は小さくなる。
「そしたら私の目の前に化け物が現れて、私を呑み込んで、貴方を襲った。あの時私が言ってたのは全部本当の事。貴方と一緒に大きくなって、貴方と一緒に過ごしていきたいって、思ってた……。
それを、全部、あんな形で、貴方に告げちゃった……」
リグルは自分の身体に爪を突き立てる。
「あんな姿になった後で……あんな化け物になった私に……懐夢の目の前に出ていい、懐夢に会っていい資格なんかないんだ!!」
やがてリグルは泣き出した。懐夢はしばらくリグルの事を見つめていたが、やがて静かに深呼吸をしてからリグルへと近付き、リグルの身体に手を伸ばして起こし、そのまま抱き締めた。リグルは突然の事にきょとんとして、泣くのをやめた。懐夢は囁くような声で言う。
「……ごめん。ごめんねリグル。ぼくの、ぼくのせいだよね」
リグルが目を丸くする。
懐夢は続ける。
「ぼくがリグルに気付けなかったから、リグルはずっと苦しんでて、<
懐夢はリグルの髪の毛に顔を埋めた。
「でもねリグル。ぼく、リグルの事大好きだよ」
リグルは「え?」と言う。
懐夢は更に続ける。
「ぼくは友達とか家族とか、全部失ってる。だから、あの時リグルがぼくを一番の友達だって言ってくれたのが、何よりも嬉しかった。ぼくの事を思ってくれてるのが、すごく嬉しかった。リグルがぼくの事好きだって言ってくれた時、あの時は怖かったけれど、今は、すごく嬉しい」
懐夢はリグルの身体を抱きしめる。
「だから、ぼくもリグルの思いに応えようと思える。一緒に過ごしていきたいって、思ってる」
「じゃ、じゃあ……」
懐夢は頷いて、リグルと目を合わせた。
「一緒に大きくなって、一緒に過ごしていこう、リグル」
懐夢が笑むと、リグルは目に大粒の涙を浮かべて、顔を懐夢の胸へと埋めた。
「ありがとう……ありがとう懐夢、ありがとう」
そして、これ以上にない大きな声で、リグルは泣き出した。懐夢はリグルの背中と頭を摩りながら、リグルの事をずっと見ていた。
やがてリグルが泣き止むと、懐夢は小さく言った。
「でもねリグル。今すぐはちょっと難しい。今は<
リグルは頷いた。
「大丈夫だよ。私、待ってられる」
「そう。ありがとうね、リグル」
懐夢はもう一度リグルの事を抱きしめてから、リグルの身体を離した。
「さてと……これからどうするの、みんな」
振り返って、懐夢は驚いた。いつの間にか、周りにいた一同が姿を消している。どこを見ても、霊夢や魔理沙達の姿が見当たらないのだ。
「あれ……みんな?」
さっきまでそこにいたのに、いつの間にいなくなったのだろう。そう思って辺りを見回していると、地面に一枚の紙が落ちているのを、懐夢は見つけた。なんだろうと思って拾い上げてみると、見慣れた文字で、「リグルとの話が終わったら博麗神社に帰ってきなさい。霊華が御馳走を作って待ってるわ。霊夢より」と書いてあった。どうやら霊夢がここを去る際に書き残していったものらしく、みんな既に帰っていたようだ。
「みんな……急に帰っちゃうなんて……」
懐夢は振り返って、リグルと目を合わせる。
「リグルはこれからどうする? 一緒に博麗神社に来る?」
リグルは頷いて立ち上がり、頷いた。
「一緒に行きたい。みんなに謝らないといけないし」
「わかった。一緒に博麗神社に行こう」
リグルは頷いて、笑んだ。打ち明けたい事をすべて打ち明けたような、澄んだ笑顔だった。